第五十六話「ある少年の話」
その少年は暗い部屋でディスプレイを眺めていた。
床を足で踏み鳴らし、パソコンデスクを拳で叩きながら。
どこにも行けない人生の唯一の逃げ場所であり楽しみだったネットゲームが終了する。その現実を受け入れられずに。
舌打ちを何度も鳴らし、もう1年以上散髪に行っていないボサボサに伸びきった髪を掻きむしる。
学校にはもう3年行っていない。同級生は今日卒業を迎えた。
自分だけ。
自分だけが取り残されてどこにも行けない。
親達からは説教されたり、子供扱いされたり、腫れ物を扱うように扱われたり、舐められた態度を取られたり、面倒だという態度を取られたりして誰とも会いたくなくなった。
少年はパソコンから目を逸らす。現実から目を背けるように。
その視界に妖しく光る鏡が目に入った。
祖父の家から形見としてもらった曰く付きの鏡らしいが、特に思い入れもなかったのでただ飾ってるだけの鏡だ。
その鏡を覗き込むと、異世界が広がっていた。
試しに触れてみると、異世界へと行く事ができた。
異世界に行く時は鏡も一緒で、少年が鏡に触れると元の世界に戻る事ができた。
異世界召喚系のアイテムだ。
そういう作品にアニメやラノベで触れていた少年は鏡を手に興奮した。
現実世界では上手くいかなくても、この異世界でなら上手くいくかもしれない。
けれども少年は上手くいかなかった。
強力な破壊の力を持っているが、誰とも話す事もできず、誰も仲間にする事ができずにただ異世界を放浪するだけだった。
少年は、
自らに都合のいい世界を作るため鏡の世界から世界を支配することにした。
異世界に来ても、彼の性根は変わる事はなかった。
最初に力を与えたあるオーガだった。
「人を喰いたい」という歪んだ願望を抱くオーガに力を与え、自分の理想の世界を作らせようとした。
けれども頭の足りないオーガは自分の言う事を聞かず、欲望のまま1000人の人間を食い殺し、最後はものすごい美人の女騎士に首を斬り飛ばされた。
少年は地団駄を踏んだ。
アイツが言う事を聞いてくれれば、あの女騎士を俺の物にする事だってできたかもしれないのに!
少年は次の力を与える相手を探した。
人里を荒らしているオークは残忍で良さそうだったが、オーガ同様頭が足りなさそうだったのでやめた。
同じ轍を踏まないためにも今度は賢そうな奴がいい。
そうだ、魔法使いの人間なんてどうだろうか。
少年は鏡を見ながらめぼしい人間を探していると、ちょうどいい相手を見つけた。
「試練」とやらに失敗し、闇の中に囚われ今にも死にかけている魔法使いだった。
少年は、魔法使いに力を与え魔王にし世界征服するよう命じた。




