第五十四話「クリスティーナVSクラーケン」
クリスティーナ・レイフォードには、弱点がある。
1日に戦える時間が10分しかないという事だ。
クリスティーナの聖剣は、鞘を抜いた瞬間から持ち主の力を吸い取り何でも斬る事ができる切れ味に変える。
東の国の伝説の刀鍛冶が伝説の金属を叩いて作ったその剣は、聖剣であると同時に魔剣だった。
並の人間であれば1秒も保たないその剣を10分扱えるクリスティーナは十分に超人であるが、それでも10分しか保たない。
更に今日は、クリスティーナの身にある異変が生じていた。
「(股が、痛い…!)」
昨日魔王と念願を叶えた時、妙に手慣れた様子だった魔王は優しかったがそれでも痛かった。
その痛みが今この瞬間も続いていた。
事前にヒールでもかけてもらえばよかったのだが、恥ずかしくて言い出せなかった。
かくしてクリスティーナは聖剣の問題と身体の問題、二つの問題を抱きながら戦いに挑んでいた。
そしてクリスティーナが相対する相手は、
クリスティーナにとって一番最悪な相性の相手だった。
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「ふっ!」
一度の薙ぎ払いで、私はクラーケンの右腕(足?)を3本叩き斬る。
「しっ!」
返す剣で、クラーケンの左腕をこちらも3本叩き斬る。
多少堅いが、問題ない。
聖剣の切れ味なら斬れる相手だ。
私は距離を詰め一気に…
「クリスティーナ!」
「っ!?」
魔王様の呼びかけと同時に、私の左肩を何かが強打する。
横薙ぎに吹っ飛ばされる私は、その正体を確認し驚いた。
「バカな…! 再生したというのか!?」
クラーケンの右腕が、すべて再生していたのだ。
右腕だけでもない。左腕も全部再生している。
「マズいな…」
私の戦える時間の限界は10分。
斬っても斬っても再生されてはジリ貧になってしまう。
そしてこのクラーケンは、おそらく一撃で倒すのは難しい。
どうするか考える暇もなく、クラーケンの攻撃が襲ってくる。
「チッ!」
私は舌打ちし、クラーケンの攻撃を躱し、いなし、斬る。
クラーケンの攻撃は長い足をブン回し叩きつけてくるだけだが、なんせこんな相手した事がないので勝手が分からない。
上から来る1本を躱しても、横からナナメから来る足が次々と私の身体を叩く。
股が痛いのが気になっていつもより動けない…! 何で昨日告白したんだ魔王様! もっと早くしてくれりゃよかったのに!
「…っ!」
しかし魔王様のせいにはしたくない。魔王様を受け入れたのは私の意思なんだからその事に後悔はない。
私はクラーケンの足を3本まとめて叩っ斬り、そのまま本体へと…
「…しまった!」
勇み足になってしまった私は、背後から回り込んできたクラーケンの足に巻き付かれてしまった。
そのまま身体をギリギリと締め上げられ…
「私に触れていいのは、魔王様だけだ!」
私は剣を足で挟み、クラーケンの目に突き立てた。
『―――!!!』
クラーケンが声にならない声を上げ、私を放す。
「………フーッ」
ここまでかなりの時間を使ってしまった。
一度剣を鞘に収めインターバルを取る。
時間だけじゃない、ダメージも地味に蓄積している。
しかしクラーケンは待ってくれない。
『―――!!!』
怒りを露わにした様子で私に向かって突っ込み、足を振り回して襲いかかってくる。
「チッ!」
私は剣を鞘に入れたまま、『見切り』に専念する。
『時間切れ』を防ぐために私が編み出した技の一つ。
攻撃を躱す事に専念して相手を観察する。時に鞘に入れたままの剣で攻撃を弾き、クラーケンの攻撃パターンを読み取る。
どんな相手にだって癖はある! こいつだって攻撃パターンがあるはずだ。
しばらく攻撃を見切っている内に、私はある事に気づいた。
聖剣を刺した右目の傷が治っていない。
それを見て私はピンときた。
「どうやら体の方は再生できないようだな!」
『―――!』
私の指摘が図星であるかのように、クラーケンが吠える。
そして触手を叩きつけるようにして襲いかかってきた。
「フッ! フッ! フッ!!!」
私はそれを躱しながら、遂に抜いた聖剣で斬り落とす。
それでもまたすぐに再生されると思ったが、クラーケンの足は中々再生しない。
足の再生が遅くなっている。体のダメージが影響しているのか? いずれにせよチャンスだ。
「『剣斬乱舞』!!!」
私が編み出した唯一の必殺技。
踊るように剣技を続ける奥義を私は繰り出す。
流れるように右の3本の触手を斬り、続けざまに体に一撃、更に左の触手を2本斬り落とす。
残り時間と体力を考えても、これが最後になってしまう大技…!
ここで決めきらないと…!
踊りながら攻撃を躱し、躱しざまにクラーケンの腕を、身体を斬りつける。
体のダメージが蓄積しているからか、触手が再生しない。
私は攻撃を続けながら触手をすべて斬り落としていく。
1本、薙ぎ払いで斬り飛ばす。
2本、振り下ろしで斬り落とす。
3本、斬り上げて斬り飛ばす。
4本、斬り返しで斬り飛ばす。
残るは最後の1本。
「――――っ」
振り下ろす最中に感じた痛みに、私の剣がわずかに鈍る。
結果、最後の1本を斬り損ねてしまった。
その1本が私に襲いかかり…
「『ライトニング』!!!」
襲いかかろうとした所を、雷の魔法が貫いた。
誰が放ったのかは振り返らない。
確認するまでもない。声で分かる。
私の一番愛しい御方の声を、間違えるはずない。
振り返らないのが、一番の信頼だ。
「決めろ! クリスティーナ!」
私は聖剣を、思いっきりクラーケンに突き立てる。
『―――っ!!!』
クラーケンが身体を、悶絶するように震わせる。
そして、音を立てて倒れ存在を消滅させた。
「…誇るがよい。この私を10分戦わせた相手は貴様が初めてだ」
聖剣を鞘に収め、私はクラーケンを称える。
「勝ちましたよ、魔王様」
私が拳を掲げると、魔王様もうれしそうに拳を掲げた。
私の名前はクリスティーナ・レイフォード。
『鬼斬りクリスティーナ』の異名を誇る女騎士。
今は魔王様を愛し、その寵愛を受ける1人の女だ。




