第五十話「魔王軍幹部会議」
「俺が試練に失敗して魔王になったという話は以前にしたな?」
俺の言葉に、クリスティーナが頷く。
「試練に失敗した時に、俺は闇の中に飲み込まれたんだ。そこを闇の魔王に助けられ、力を与えられ魔王になったんだ。俺の能力が人より高いのと、魔力がほぼ無限にあるのはその与えられた力のおかげだよ」
「…」
「命を助けられ力を与えられる代わりに、闇の魔王に命じられたんだ。『魔王となり世界征服しろ』ってな」
「世界征服…」
「…まあ世界征服なんてどうやっていいか分からなかったから、とりあえず魔王といえば城だろうと思ってこの城をリフォームして、仲間を集めて国を作った訳なんだが…」
その後、行き場をなくしていたモンスターやアンデッド達を集め、生活させていくために商売を始め仕事に追われてもうすぐ8年。
「闇の魔王が痺れを切らしたんだ。いつになったら世界征服するんだ。お前ホントにやる気あんのか。期日までに世界征服をしろ。でないと世界を滅ぼす、と」
「その期日とやらはいつまで何ですか?」
「…明日の正午」
「明日の正午!? もう1日切ってるじゃないですか!」
「言われたのは1月末だったから1ヶ月半あったけどな…。でも、無理だろ?」
「無茶すぎますよ! いくら私やミノさんやマキシムやティル爺がいるとはいえ、ひと月半で世界征服なんてできませんって!」
「…ナチュラルに俺が入れられてないのはともかく、無理がありすぎる。だからどうしようか悩んでたんだ」
「…」
「闇の魔王はとんでもない力を持ってるし、強い眷属が3体いる。俺1人じゃとても敵わないけど、どうにかできないかと…」
「アホですかあなたは」
「あ、アホ???」
「あなた1人でなんとかできる訳ないでしょ。私達を頼ってくださいよ。闇の魔王だか何だか知らないけど、私達は皆魔王様の味方ですよ」
「…死ぬかもしれないんだぞ」
「上等ですよ。その覚悟がないのに魔王の秘書なんてやってませんよ。これまでだって一緒に危ない橋を渡ってきたじゃないですか」
「ああうん……俺はお前のせいで三途の川を渡りかけた事があったけどな」
ラブラブアタック(物理)で壁に頭をぶつけ、走馬灯を見たのが俺が魔王になって最も命が危ない瞬間だった。他にも何度も貞操の危機があった。クリスティーナコイツロクな事してねえな…
「でも闇の魔王も、闇の魔王の眷属もすさまじく強いぞ。RPGの裏面のボスくらい強いぞ」
「あーるぴーじーがなにか知りませんが、上等ですよ。返り討ちにしてくれます。たとえダメだったとしても、魔王様と一緒に死ぬなら本望です」
「…覚悟はあるんだな」
「はい。それはきっと、ミノさん達も一緒だと思います。会議室に幹部全員を集めてありますから、魔王様の口から説明してください」
「…そうか、なら行こう」
ベッドから起き上がる俺に向けて、クリスティーナが頭を下げる。
「魔王様」
「何だ?」
「申し訳ございません。1つウソを吐いておりました」
「ウソ?」
「魔王様が何に悩まれているのかベス姐さんに聞いたという話です。ベス姐さんは魔王様との約束を守り何も話しませんでした」
「なっ…」
「入れ知恵はしていただきましたがね。ベス姐さんから聞いたと言えば、全部話してくれると」
「エリザベスの奴…」
自分が信頼されている事を逆手に取ったって訳か。確かにペラペラ話しちまった…
「…まあいい。急ごう。闇の魔王の期日までもう1日切ってるからな」
「はい」
俺とクリスティーナは、会議室へと急いだ。
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「…と、言う訳でその闇の魔王との約束の期日が明日の正午なんだ」
「「「「「…」」」」」
俺の話に、幹部全員が黙ってこっちを見てくる。
「闇の魔王は眷属達と世界を滅ぼそうとしてくるだろう。でも俺はこの世界を守りたい。俺は戦うから、皆は避難を…」
「見損なってもらっては困りますな、魔王様」
ぶっとい腕を組んで上座に座っているミノさんが、俺の言葉を途中で遮る。
「闇の魔王だかその眷属だか何だか知りませぬが、好き勝手などさせませぬ。我も戦いましょう」
「私も同じです。共に戦います。な、マキシム?」
「…チッ、仕方ねえな。明日は大物狙いで海に出るつもりだったんだが、明後日にするか」
ミノさん、クリスティーナに続き、マキシムも独特の表現で戦いに参戦する事を表明する。
そして魔王国一番の古参のリッチーが、いつもの高笑いを上げた。
「ヒャッヒャッヒャ! 素直じゃないのう。まあワシはこんな事になるだろうと思って準備しておったが」
「え?」
「魔王よ、ワシと初めて会った時にお前さん言っておったじゃろう。『世界征服を目指してる』と。アレがど~も引っかかっておったんじゃ。お前さんはどう見てもそんな野心を抱くタイプではない。誰かに命ぜられて仕方なしにやろうとしておったとピンと来たわい。そんでもっていつかこんな風になるともな」
「それがイリシアの里で言っていた『ワシの力が必要になる事』か…」
「ああそうじゃ。それじゃよ」
「やれやれ、ティルさんには敵わないな…」
「あの~… 盛り上がってる所悪いのですが、吾輩達非戦闘員はどうすればいいのでしょうか?」
ガーさんが、申し訳なさそうに手を上げる。
「皆には魔王国の非戦闘員や子供達と一緒に避難してもらいたい。こんな事になった時のために学校の下に地下壕を用意しておいた。気休め程度にしかならないかもしれないが…」
「分かったわ、そっちは任せておいてちょうだい」
エリザベスの言葉に、俺は頷く。
「ウチは戦うで!」
「ハカセ…」
「闇の魔王かなんか知らんけど、勝手な事言われたら困るわ! ウチの魔王ロボでいてもうたる!」
「え? でもあれ、ハカセじゃ操縦できないんじゃ…」
「こんな事もあろうかと、リモコン作っておいたんや!」
「さっすがハカセ! 頼んでないのにロボット物のお約束が分かってる!!!」
どうせ言っても聞かないだろうし、ハカセの説得は諦める。
ホントに… ウチに集まったのは言う事を聞かない困った連中ばかりだ。
「しかし魔王様、何故もっと早く我らに相談してくれなかったのですか?」
「俺1人でなんとかしなきゃって思ってたのもあるけど……厄介な奴がいたからだ」
「厄介な奴?」
「ああ、そいつがいるせいで皆に話す事ができなかった」
「一体誰が…」
「小生である」
魔王の幹部の1人、クロカゲが俺の影から姿を現す。
「クロカゲ……そういえばお主を忘れておったのう」
ティルが、久しぶりに見たクロカゲを驚きもしない顔で見る。
しかしミノさんは怒り心頭といった様子でクロカゲに詰め寄った。
「貴様幹部の1人でありながら今まで何をしていた!」
「待つんだミノさん。クロカゲは俺達の味方じゃない」
そんなミノさんを、俺は手で押しとどめる。
「どういう事なんだ?」
マキシムが、ない首を傾げた。
「汝哀れなる童貞デュラハンよ、小生は貴様らと真逆の立場にあるという訳だよ」
「ど、どどど童貞ちゃうわ!」
「童貞はともかく、どういう事なの?」
うろたえるマキシムの代わりに、エリザベスがクロカゲに問いかける。
クロカゲは、芝居がかった仕草で皆に挨拶をした。
「小生はドッペルゲンガーのクロカゲ。表向きは魔王の幹部の1人のドッペルゲンガー。しかしてその正体は…」
クロカゲの顔の、白い口がニヤっと三日月を作った。
「魔王の監視を命ぜられた闇の魔王の眷属であるのだよ。魔王の愉快な幹部達よ」




