第四十五話「仕事始め」
年が明けて仕事始めの日が来た。
なのに…
なのに…!
「なぜ魔王様がおられぬのだ!!!」
もぬけの殻の魔王様のお部屋を見て、私は叫ぶ。
これは一大事だ。
いつも死んだ目で仕事しておられる魔王様とはいえ、仕事を投げ出すほど無責任な男ではない。となれば行方不明か何か事件に巻き込まれたか!?
「大変だ…」
皆の者には言えない。
これは魔王の秘書である私が何とかせねば!
「魔王様ー!!!」
かくして私の魔王様大捜索が始まった。
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「魔王様ー!」
「何事であるかクリスティーナ。見ての通り我は学校の耐震工事中…」
「スマナイミノさん邪魔したな! 引き続きお仕事頑張ってくれ!」
………
……
…
「魔王様ー!」
「…クリスティーナさん、ランチは12時からだぞ」
「飯ではない! 邪魔したなオリバー!」
………
……
…
「魔王様ー!」
「なあにクリスティーナ? 今日は本当に魔王様いらっしゃらないわよ」
「邪魔したなベス姐さん! …うん? 『今日は本当に』?」
「な、ななななーんでもないわよ」
………
……
…
「魔王様ー!」
「うわっ!? なんだクリスティーナ! こっちは男湯だぞ!」
「チッ! 童貞デュラハンだけか!」
「ど、どどど童貞ちゃうわ!」
………
……
…
「魔王様ー!」
「何やねんなクリスティーナの嬢ちゃん。今日はウチ休みやで?」
「それはとてもよい事だ! 邪魔したなハカセ!」
………
……
…
「魔王様ー!」
「あ、クリスティーナ殿。試作品食べます?」
「うんおいひい! 邪魔したなガーさん!」
………
……
…
「魔王様ー!」
「ヒャッヒャッヒャ! クリスティーナの嬢ちゃん、その鍋の中に魔王は入らんじゃろ」
………
……
…
「い、一体どこにおられるのだ…」
あちこち探し回ってボロボロの私が魔王様の部屋に戻り、魔王様のベッドに腰掛ける。
あー……魔王様の匂いがする。
「…」
私は魔王様のベッドに入り、布団をクンカクンカする。
魔王様の匂いだ。ちょっと独特な匂いだ。嫌いじゃない。むしろ好き。
別に私は匂いフェチでもないのだが、魔王様の匂いは好きだ。
これは……1人遊びがはかどりそうだ!
「…何してるんだ? クリスティーナ」
突然聞こえてきた声に、私はバッと起き上がる。
「魔王様!」
「俺のベッドで横になって、何してるんだクリスティーナ?」
「ちちち違うんです! これは決して邪な気持ちからではなくそう! 一日魔王様を捜し回って疲れてしまいつい…」
「一日俺を捜し回った? 何でだ?」
「だって今日仕事始めの日じゃないですか!」
「いや、仕事始めは明日だろ?」
「…ハイ?」
「おととい魔道具で連絡しただろ。イリシアから帰る途中でキャンピングカーで一泊して帰るから休みを一日延ばすって」
「…確認してませんでした」
「オイ…」
どうやら連絡の齟齬だったようだ。ポケットの魔道具を確認してみると、確かに魔王様からのメッセージが届いている。
「まあ何事もなくて何よりです。それじゃあ私はこれで…」
「ちょっと待てクリスティーナ」
「な、何でせう?」
魔王様のベッドで1人遊びしようとしていた事で怒られる、と思った私だが魔王様はそんな私に何かを差し出してきた。
「ほれ、お土産。大した物じゃないけどな」
「魔王様…」
開けてみると、可愛らしい髪飾りが入っていた。
ショートカットにしてからあまりそういうのをつける事がなくなっていただけにうれしい。それにこの人のセンスは結構いい。
「魔王様…ありがとうございます」
「いいって事よ、それじゃ明日からよろしくな」
「ハイ! 魔王様! 結婚してください!」
「話がつながってねえ!?」
私は魔王様に部屋を追い出された。
「♪~」
もらった髪飾りを両手で大事に持って、廊下をぴょんぴょんしながら私は自分の部屋へ戻る。
途中ですれ違ったマキシムがギョッと驚いていたが気にならないもんね!
やはり魔王様が至高、魔王様こそ究極だ。
私は決意を固くする。
今年こそ、魔王様を落としてみせる!と。




