第三十一話「まじっく・ふぉー・ゆー」
魔王城に来て1年が経った。
カーテンと窓を開け、朝陽のまぶしさと海風に私は目を細める。春の嵐だろうか、今日は少し風が強い。
日の当たらない人生から私を連れ出してくれた魔王様は、まだベッドの中で夢の中にいる。
昨夜頑張っていただいたというのもあるけど、この人朝弱いのよね…
サラサラの髪がひと月の内に伸びている。起きたらまたカットしてあげよう。
「フフっ」
寝顔のきれいな肌を見て私は先日の事を思い出す。
おヒゲが生え始めた魔王様に「似合わないわね」と言ったら『ムダ毛を永久脱毛する魔法』とかでヒゲを脱毛してきた。「剃るのは面倒だからな」とか言っていたけど、私に気に入られたいというその姿勢は好ましい。私も顔と全身やってもらった。とても助かっている。
毎月の『契約』も大分慣れてきたようで、今では随分積極的だ。
最近毎月持ってきてくれるお花も私の楽しみのひとつだ。魔王様自ら育ててくれた花はキレイだし、何より……気持ちがこもっている気がする。
これまで満たされなかった人生を満たしてくれたこの人には感謝してもしたりない。
私はモーニングコーヒーを淹れている間に身だしなみを整え軽く化粧をする。
さて、そろそろ魔王様を起こして…
ガッシャーン!!
「え?」
派手な音が聞こえた方を振り返ると、風にあおられたカーテンと、それに倒されたのか昨日もらった花を飾った花瓶が倒れていた。…粉々に割れて。
私は、声にならない悲鳴を上げた。
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「…なるほど、花瓶が割れちゃったって訳か」
「ええ、ごめんなさい…」
「謝らなくていいよ。こういう事もあるさ」
私の悲鳴で目を覚まし、寝起きでボーッとしていたけど服を着てコーヒーを飲み顔を洗い歯を磨いてようやくシャッキリした魔王様が私の頭を優しく撫でる。
「…ハア、風が強いんだから気をつければよかったわ。この花瓶、お気に入りだったのに…」
誕生日プレゼントに魔王様から頂いた花瓶は、絵が得意な彼らしくセンスのいい物でとても気に入っていたので残念だ。
あれにお花を入れて、愛でるのが楽しみだったのに…
「…フーム。ちょっと待ってろ」
そんな私と、花瓶を見ていた魔王様が空中に何やら書き始める。
光でできた文字? 数式? 魔法陣?の数々。私にはさっぱり分からないけどまた何か魔法を作ってるらしい。一体何の魔法を…
「よし、できた」
魔王様がその文字や数式を左手に取り込むと、手のひらが不思議な光に包まれ割れた花瓶へと近づき……元通りに直った。
「ええっ!? 一体何したの!?」
「『壊れた物を元通りにする魔法』を作ったんだよ。またティルさんに『妙な魔法を作りおって』と言われそうだがな…」
「~~~!!!」
いつものように、
私が困った時に何とかしてくれるこの人の事が愛おしくなり抱きついてキスをする。
サービスで舌も入れてやる。魔王様は最初は戸惑っていたようだが、おずおずと私を受け入れ舌を絡ませてくる。
「んっ、ちゅっ、んんっ、ふうっ、れろっ、ふっ…」
「…っ」
まあ主導権は私が頂くんだけどね。まだまだお姉さんの方が上手だって事にしときたい。
どれくらいそうしていただろうか。
「ありがとう、魔王様」
「……いや、別に…大した事はしてないから」
魔王様から離れ礼を言うと、名残惜しそうな魔王様が私から目を逸らしながらそんな事を言う。
本当はベッドまで連れていきたかったんだけど、精気を吸いすぎると魔王様が使い物にならなくなるので我慢する。…前回はやりすぎたと反省している。
私は元通りになった花瓶に花を入れ、今度はカーテンの届かない所に置く。
「魔王様、髪カットしてあげるわ。こっちに来て」
「あ、ああ…」
いつものように手を取って、営業前の『サロン・ド・エリザベス』で魔王様の髪を切る。
心を込めて、丁寧にカットする。
サラサラの茶色い髪を愛おしみながら。
日の当たらなかった人生を、満たされなかった人生を彩ってくれるこの人の事が私は好きだ。
これからもずっと、こうしてこの人と過ごしていけますように。
私は心の中で、そっと願った。




