第三話「魔王VS冒険者」(冒険者視点)
「いいか皆、いよいよ魔王との最終決戦だ」
俺は皆の顔を見回す。
「ああ、いよいよだな」
頼りになる格闘家、モンクのジャハンが自分の拳を打ち鳴らす。
「ここまで不気味なほど戦闘がなかったけど…」
ミステリアスな雰囲気の黒魔法使い、フィーネが杖で自分の肩をトントン叩く。
「廊下の掃除とかしてたもんね、モンスター達」
幼馴染の白魔法使い、ミアが道中を思い出して小首を傾げる。
「…まあ、でもおかげでHPも道具も消費せずに済んだけど」
普通モンスターは人間を見たら襲ってくるのに、魔王の領土にいるモンスター達は全然こちらに襲い掛かってこない。
魔王城に入ってからも誰も俺達と戦おうとしないどころか、戦おうとしたら『仕事の邪魔だ! さっさと魔王様の所に行け!』と魔王の間への近道を教えてくれる始末だ。それに従って昇降機に乗ったらあっけなくここまで着いた。
「…ともあれ魔王の間っぽいところに来たわけだ。皆、準備はいいな?」
「ええ!」「おう!」「…う、うん」
皆の返事を聞き、俺は無駄に大きな扉を押し開ける。
ゴゴゴゴゴゴ…
重々しい音を立てて扉が開く。そこに待っていたのは…
『ハーッハッハ! よく来たな勇者たちよ! ここが貴様らの墓場だ!』
「デ、デカい…!?」
「なんて大きさなの!?」
「これが魔王…!」
頭に兜、体にマントを羽織った魔王は見上げないと顔が見えないほどの巨体だった。
いや、見上げても顔が見えない。全身黒い影に覆われていて赤い目だけが輝いている。
ギイイイイ、バタン!
「扉が!?」
「閉められたぞ!」
「私達もう、逃げられないって訳ね…!」
『いや、床が傾いてるせいで勝手に閉まるんだ。重いし』
「「「…」」」
「皆、戦闘だ!」
俺のかけ声に、魔王の言葉に気が抜けかけていた皆がハッとした表情になる。
「ミア、エンチャントを!」
「トータル・エンチャント!」
ミアの全能力向上のエンチャントで俺達の体が緑の光に包まれる。
「食らえ! 百裂獣王拳!!!」
ジャハンが飛び上がり魔王の胴体に必殺の拳を打ち込む。
「『インフェルノ!!!』」
フィーネ渾身のインフェルノが魔王を直撃する!
「これで・・・決める! うおおおおおおおっ!!!」
俺の剣が魔王を切り裂く!
『ぐおおおおおおおっ!!?』
「…やったか!」
手応え十分の感触と魔王の断末魔に俺は勝利を確信する・・・はずだった。
『…フフフ、ハーハッハ! かゆいのう。蚊に刺された程度だわ!』
「そんな…!?」
「全然効いてないのか!?」
「ていうかカって何?」
「さ、さあ…?」
『今度はこっちから行くぞ!』
女性陣2人の疑問を無視し、魔王が攻撃に入る。
『魔王チョーップ!!!』
「「「「ギャーーーーーー!!!?」」」」
魔王の腕が水平に薙ぎ払われ、後ろの閉まった扉のせいで逃げ場のない俺達は大ダメージを食らう。
『ブラックサンダー!!!』
「「「「ぐわああああああ!!!?」」」」
雷の下級魔法で俺達は大ダメージを食らう。
『魔王ビーム!!!』
魔王の赤い目からビームが発射される。
「「「「うわああああああっ!!?」」」」
ビームに吹っ飛ばされる俺達。
そこで俺の意識は失われた。
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「レオン、起きて、レオン」
「…う、うーん」
誰かの呼ぶ声と、肩を揺さぶる手に俺の意識が覚醒する。
「…ミア?」
「よかった、レオン。気が付いて」
目を開けると、俺の顔を心配そうにのぞき込んでいるミアと緑と日の光が飛び込んでくる。
「…あれ? ここは? 俺達、魔王の城にいたはず…」
「どうしてここにいるのかは分からないけど…ここはジミノ村よ」
「え? ジミノ村?」
ミアに言われて辺りを見回す。確かにここは俺達の故郷ジミノ村だ。
そして俺は自分の身の異変に気付く。
「け、剣も鎧もアイテムもない! 全部奪われてる!?」
「皆の装備とアイテムも奪われてたわ…。私の杖はどういう訳か奪われてなかったけど…」
「ぼ、冒険者カードは!? ・・・レベル1になってる!?」
「レベルドレインでレベルを吸われたのね……多分」
「お、俺達の冒険が…」
打ちひしがれる俺の背中をミアがやさしく擦る。俺は彼女にここにいない2人の事を聞く。
「…ジャハンとフィーネは?」
「2人共国に帰るって。ジャハンは実家の靴屋を継ぐ、フィーネは占い師に戻るそうよ」
「そうか…」
空を見上げる。久しぶりに見た故郷の空はキレイだ…
「どうするの? また1から冒険の旅に出る?」
「…いや、もうやめておく。ここで真面目に働こうと思う」
「そう、よかった…」
「え?」
「あのねレオン。私のお腹に実は・・・あなたの子供がいるの」
「ええっ!?」
「今まで言い出せなくて…。ごめんなさい。昔からの夢を追うあなたの邪魔になりたくなかったの…」
「邪魔だなんて…とんでもない。俺は身の丈に合わない夢を見すぎてたんだよ」
魔王との決戦を思い出し、俺は頭を振る。
勇者になるなんて、無謀すぎる夢だったんだ。
「決めたよ、俺真面目に働く。そしてミア、お前とここでずっと暮らすよ」
「本当にいいの?」
「ああ、夢よりも現実を見る時が来たんだよ」
俺はミアに向き直った。
「結婚しよう、ミア。2人で幸せに暮らそう」
「うん…!」
ミアを抱き締め、俺はこの子と一生生きていく決意を固くする。
そして村に戻った俺達は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。