第二十二話「飛空挺」
魔王城の片隅。本当に隅っこのほうにそのラボ(研究所)はある。
掘っ立て小屋を改良してつくられたラボから、トントンカンカン小気味いい音が聞こえてくる。どうやらちゃんと生きているようだ。前は3日3晩飲まず食わずで作業していて倒れていただけに一安心する。
「ハカセー、邪魔するぞー」
「邪魔するなら帰ってー」
「あいよー……って何で帰すんだよ!」
「…んー、イマイチやなあ魔王さん。その返しは前にやったやろ? もっとひねらなアカンで?」
「いやいいから、返しとかいいから。それよりハカセ、ちゃんと食べてるか?」
「食うてる食うてる。3日に1度はちゃんと食うてるで」
「もっとちゃんと食えよ…、あと風呂入れよ…」
汗と油で汚れた浅黒い肌に小柄な身体。もう50歳になるというのに子供みたいな見た目のドワーフの少女、ハカセに俺は苦言を呈す。
「どうせ汚れるんやから風呂入っても一緒やん? そんなら入っても入らへんでも一緒やん?」
関西弁でへりくつを言うハカセは週休二日制も労働基準法も守らないワーカーホーリックだ。
趣味と仕事が一緒になっている部分があり、「これは趣味や!」と言い張られるとこちらも強く言いにくい部分がある。
「クリスティーナ」
「かしこまりました。ほらハカセ、お風呂入りますよ」
「ちょっ!? おったんかいなクリスティーナの嬢ちゃん! やめてえな! 今ええとこやのに! やーめーろーやー! 誰かー! 誰か助けてー! 人攫いやー!」
両脇を抱えられたハカセがジタバタ暴れるが、クリスティーナはビクとも動じない。
そのまま大浴場へとハカセを連行していった。
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「…クスン、ウチ、汚されてしもた。もうお嫁に行かれへん…」
「汚されたんじゃなくてキレイになったんだろ。ホラ、アホな事言ってないでちゃんと食べろ」
「へーい」
風呂から上がってサンドイッチをもしゃもしゃ食べるハカセを見ながらため息を吐く。ドワーフが身体が丈夫とはいえ、食事と睡眠はちゃんと取って欲しい。
「食べながらでいいから聞いてくれハカセ。実はハカセに頼みがあるんだ」
「何や?」
「空飛ぶ船を作って欲しいんだ」
「空飛ぶ船?」
「そう。この前ガーさんと一緒に作ってくれた船みたいに魔力で動く空飛ぶ船だ」
「何で空飛ぶ船作りたいんや?」
「そこにロマンがあるからだ」
「ロマンか」
夢とかロマンとかの言葉に弱いハカセが、口の端をニヤリとゆがませる。
「ええやろ。作ったろやないか空飛ぶ船。1ヶ月でええ?」
「余裕を持って3ヶ月だ。また飲まず食わず眠らずで仕事されちゃたまらないからな。それで空飛ぶ船なんだが……こんな感じで頼む」
「ほう? ……4人乗りで動力は魔力、プロペラで前に進むタイプ、側面には大砲つきか……腕が鳴るな」
俺が作ってきた設計図……というより絵を見ながら、ハカセが目を輝かせる。
「この大砲は何と戦うためにつけるんや?」
「戦う気はないけど……かっこいいからつけたいんだ」
「かっこええからか」
かっこいいとかロマンとかの言葉に弱いハカセが、口の端をニヤリとゆがませる。
「ええやろ、作ったろやないか大砲つきの空飛ぶ船。1ヶ月でええ?」
「話聞いてたのか。3ヶ月だ」
「へいへい。ミノさんとかティル爺とか作業に必要やさかいたまに貸してや」
「分かった。でもくれぐれも働き過ぎないようにな。俺やクリスティーナがちょいちょい監視につくからな」
「え~…」
「え~…じゃない。返事は『はい』だ」
「…へ~い」
…そんなこんなで始まった空飛ぶ船の開発。
寝る間も惜しんで作ろうとするハカセを、時にクリスティーナが無理矢理風呂に連れて行ったり、時に俺が魔法で眠らせたりしスケジュールと体調管理して3ヶ月かけて完成したのが…
「完成したで! これぞ魔王国特製空飛ぶ船! タイ○ニック号や!」
「その名前はヤバイって! ていうか何この大きさ!? 4人乗りって言ったよね!」
「でっかい方がかっこええからや!」
「何この大砲! 宇宙戦争でもするの!? 前じゃなくて横に普通のをつけてって言ったよね!」
「かっこええからや!」
俺やクリスティーナに『完成までのお楽しみや!』と作ってる物を見せず、ミノさんを騙し、ティルと共謀して宇宙戦艦みたいな空飛ぶ船を作ったハカセが高笑いを浮かべる。
魔王軍幹部、ドワーフのハカセ。魔王ロボも作った発明家。
やたらと大きい物を作るのが好きな、人の言うことを聞かない困った少女である。




