第二話「魔王VS秘書」
「税金を払えという督促状がモコモ国から届いています」
「払いませんと返事しておきなさい」
「近くの村にはぐれデュラハンが出ていると苦情が来ています」
「デュラハン隊にスカウトに行かせなさい」
「倉庫番のゴブリンたちがストライキをしています」
「賃上げには応じられませんと伝えなさい」
「勇者のパーティーを名乗る一行が近くの町まで来てるそうです」
「適当に追い返しなさい」
クリスティーナが俺の言葉に頷き、魔道具であちこちに指示を飛ばす。
異世界転生したら魔王だった。
いや、はじめから魔王という訳ではなく元は普通の人間だったのだが、色々あって魔王をすることになった。
魔王って何するの? と思っていたが、やってる事は資金の管理や隣の国との交渉や人材のやり繰りである。中小企業の経営者みたいだ。もっと悠々自適な魔王ライフしたいんだけど…
「魔王様、こちらにハンコをお願いします」
現実を突きつけるようにクリスティーナが俺の目の前に書類の束をドスンと置く。
中身は魔王軍の申請書や、周辺国家との取引の書類で、一日200件から300件ほど来る。俺はその全てに目を通し、ハンコを押さないといけない。
「・・・はーい」
ハンコを押すだけなら誰でもできると思っていた時期が俺にもありましたが、ちゃんと目を通さないとこちらが不利になったり損をする契約が混じってたり、判断を間違えると大変な事になったりしたので慎重にひとつひとつちゃんと目を通しておく。
でないと・・・
「クリスティーナ」
「はい、何でしょう」
「この書類は何かな?」
「魔王様と私が特別な間柄になるという趣旨の契約書類です」
後は俺がハンコを押すだけとなっている婚姻届を前に、クリスティーナがニッコリと笑う。
…こんな風にロクでもない書類が紛れ込んでいるからだ。
「ぬあああああ!」
「ああああああっ!?」
俺は力いっぱい、婚姻届を破り捨てた。
「何するんですか!?」
「お前こそ何してんの!? 言ったよね!? お前と結婚する気はないって!?」
「じゃあ誰が私を貰ってくれるんですか!?」
「知るか!」
ハア、ハアと荒い息を吐く俺達。
もうこのやり取りをかれこれ2年以上続けている。いい加減諦めてもらいたい。
「私もう24ですよ! こないだも友達の結婚式の招待状が来て、参加したらもう子供もいる子もいっぱいいて、行き遅れてるのは私だけで「クリスティーナ、大丈夫(笑)?」って言われたんですよ!? どうしてくれるんですか!」
「俺の知ってる国では晩婚化が進んでいて24で結婚してない人なんていっぱいいる。だから大丈夫だ」
「バンコンカが何か分かりませんし、全然大丈夫なんかじゃありません! お父さんとお母さんにも「いい加減いい人捕まえてくれ」って泣きつかれたんです! 魔王様! 責任取って下さい!」
「知るか! そもそもお前が勝手に魔王城に住みついたんだろ!」
クリスティーナがいかにしてこの魔王軍の秘書に収まったのかは次の次の次の話で説明するとして、問題はこのじゃじゃ馬娘である。
「『テレポート』!!!」
「っ!? …いや何度も言ってるじゃないですか。私にテレポートは効きませんよ」
「ちっ、ダメか…。国に送り返そうと思ったのに…」
「私が国に帰るのは、両親に魔王様との結婚を報告に行く時です」
「あきらめてください」
「あきらめません」
「お金なら払います」
「いりません」
「代わりにいい人…はこの城にはいないか。ドッペルゲンガー…は性別がないし、デュラハン…はアンデッドだし、モンスターで誰か…」
「何とくっつけようとしているのですか。私は魔王様一択です」
「『テレポート』」
「フン、何度も言っているではないですか。私にテレポートは効かないと……って、魔王様? 人と話している最中にどこに行ったのですか! まだハンコを頂いてませんよ! …あっ、そうだ私がハンコを押せば………ってハンコをテレポートで持って行ってる!? 魔王様! どこに行ったのですか! 魔王様―!!!」
まおうは にげだした!