第十六話「飲むヨーグルト」
「飲むヨーグルトが飲みたいんだよ、ガーさん」
「飲むヨーグルト、ですか?」
「そう、飲むヨーグルト」
また魔王様が妙な事を言い始めた。
魔王様は唐突に聞いたことない物の名前を挙げて、飲みたい・食べたい・乗りたい・使いたい・作ってと命じてくる事があり吾輩は困らされている。
吾輩は「飲むヨーグルト」なるものがさっぱり分からず首を捻る。
ヨーグルトは食べ物でしょ? 飲むって何? あんなドロドロしたものが飲めるの?
「ガーさん、飲むヨーグルトはドロドロしてないんだ。サラサラなんだよ、牛乳みたいに」
「牛乳と何が違うのですか?」
「牛乳じゃなくて飲むヨーグルトなんだよ! 甘くておいしい飲み物なんだ!」
「ほう?」
『甘くておいしい』と聞いて、吾輩に興味が芽生える。
「ヨーグルトなんだけど酸っぱくなくて、甘くて飲みやすいんだよ!」
「ほう!」
「すっきりとした飲み応え、でも甘くておいしい。それが飲むヨーグルトなんだよ!」
「ほほう!」
「牛乳が飲めない人でも飲みやすくて、お腹にもやさしいんだよ!」
「ほほうほう!」
そう聞かされると、飲むヨーグルトとやらに興味が湧いてくる。
「分かりました! 作りましょう! 飲むヨーグルト!」
「さっすがガーさん!」
がっちりと固い握手を交わす吾輩と魔王様。
それが、地獄のはじまりだった。
………
……
…
「違う! これじゃ牛乳で薄めたヨーグルトじゃん! 飲むヨーグルトはこんなんじゃない! もっとサラサラしてて! 甘くて飲みやすいんだよ!」
「む、難しいですな!」
………
……
…
「違う! これじゃ水で薄めた甘いヨーグルトじゃん! 少し近づいたけど飲むヨーグルトはこんなんじゃない! もっと濃厚で、けれどもサラッとしてて、飲みやすい飲み物なんだよ!」
「サラサラしてるのかサラッとしてるのかどっちなんですか?」
………
……
…
「ん~!!! 大分近づいた! 大分近づいたけどまだ違う! 飲むヨーグルトはこんなんじゃない! もっと味が濃くて、けれどもゴクゴク飲みやすい飲み物なんだよ!」
「サラサラとサラッとはどこへ行ったのですか!?」
………
……
…
「遠ざかった! 遠ざかったよガーさん! これじゃカル○スだよ!」
「カル○スとは何なのですか!?」
………
……
…
「…」
「…魔王様?」
「…」
「あのー、魔王様ー?」
「…」
「ま…」
「今日からこれを、『飲むヨーグルト』と名付けよう」
15回の試作を得て、ようやく魔王様がウンと頷く。
や、やっとOKが出た…
吾輩は飲むヨーグルト一口飲む。
「こ、これは…!?」
吾輩はカッと目を見開く。
サラサラとした飲み口、サラッとしてるけど濃厚なヨーグルトの風味とほどよい甘味、そしてお腹にやさしそうな感じ!
これが、飲むヨーグルト…!
「…何ガーさん、また味見してなかったの?」
「は、はあ…」
「してよ味見! 毎回言ってるでしょ! 自分で味見してから俺に出してよ!」
「そうはおっしゃられても得体の知れない物は怖いんですよ!」
「得体の知れない物じゃなくて飲むヨーグルトだよ!」
「それが何か分からなかったから得体の知れない物なんですよ!」
喧々囂々と言い争う吾輩と魔王様。けれどもすぐに飲むヨーグルトで乾杯して仲直りする。
それから『飲むヨーグルト』の増産計画、商品化の打ち合わせをクリスティーナ殿と行い工場での製造に入る。
吾輩はガーゴイルのガーさん。魔王軍幹部にして工場長を務める者。
魔王様の無茶ぶりに振り回される一介の甘い物好きである。




