第十四話「秘書の一日」
魔王の秘書、クリスティーナの朝は早い。
平日でも休日でも変わらず、いつも決まった時間に目が覚める。
目が覚めたらランニングとトレーニングを1時間、シャワーで汗を流し大食堂で朝食。
朝食後はコーヒーを飲みながら新聞を読んで世界の情勢を確認。
身支度を調え仕事に行く準備をする。
一度気合いを入れてメイクをしていった所、『TPOをわきまえなさい』と謎の説教を食らったのでナチュラルメイクで済ませている。
午前8時半に魔王の仕事部屋に入り、魔王軍幹部達と朝礼。真面目なミノさんやガーさんは毎回ちゃんと来るが、ベス姐さんやティルやマキシムはめったに来ない。
それから仕事を黙々とこなす。
以前仕事中に求婚した所、『TPOをわきまえなさい』と謎の説教を食らったので仕事中のラブラブアタックは控えている。
午前中は事務処理。昼食休憩を挟んで午後は魔王国内を視察するか外の国に出かけるのだが常に魔王様と一緒だ。
午後5時。魔王軍はここで終業なのだが今日は金曜日。
魔王軍の各部署から届いた一週間の報告書と要求を、魔王様と一緒に必死で目を通し捌いていく。
「クリスティーナ! ガーさんが新作スイーツ開発に100万ペトラ要求してるけどどうする!」
「ダメです! そんな予算ありません! 10万ペトラで何とかしろと伝えてください!」
「ミノさんが屋根の修理に足場を組みたいと言ってるけど資材と人員はどうする!」
「ゴブリン達が暇してるから手伝わせましょう! 足場の資材は前に使った奴が倉庫にあるです!」
金曜日が特に忙しい魔王室は、いつも残業になる。
午後7時。怒濤の早さで仕事を終えた私は大食堂で夕食を取りそのまま大浴場へ向かう。
「ああ~…」
魔王城の中で魔王様とベス姐さんと私だけは自室に風呂を持っている。
けれども大浴場の広い風呂が好きで私も魔王様もこの大浴場を使っている。ベス姐さんだけは、自分の部屋で風呂に入ってるけれど……何かあるのか?
風呂上がりには牛乳を飲んで、スキンケアに魔王軍製の化粧水と保湿クリームを念入りに塗り込む。ラミアで女医のヘレナも開発に参加した化粧水と保湿クリームは中々品質がいい。いや、魔王軍の物はどれも品質がいい。
「どうすればもっと売れるようになるかな…」
つい仕事の事が頭をよぎり、私はふるふると頭を振る。
イカンイカン。今の私には、仕事よりもっとどうにかしないといけない事がある。
更衣室の鏡に下着姿の自分を映しながら、私はウンと頷く。
「今週こそ…いや、今日こそ魔王様を落としてみせる!」
自分で言うのもなんだが私はかなりの美人でスタイルもいい。
故郷の国ではモテ……なかったが、魔王国に来てから外遊先で口説かれたり「愛人にならないか」と王族に誘われた事もあった。全てお断りしたがな。
『アレのどこがいいんだ?』とデュラハンのマキシムから言われたが、私は魔王様がいい。
サラサラの茶色い髪、幼くて中性的な顔立ち、私より低い背丈。…ショタコンの私にはたまらないのだ!!!
それに私の幼い頃からの夢は魔王に手籠めにされる事。この夢を諦めるつもりはない!
自分の部屋に戻り、扇情的なネグリジェを身に纏い媚薬を隠し持った私は魔王様の部屋の前に立ち…
「あれ…? またか…?」
回しても開かないドアノブに、私は鍵がかけられてる事を察する。
以前力ずくで開けた所、ちょうどドアの前にいた魔王様に今までにない剣幕でものすごい怒られたのと、大工のミノさんにも「せっかく作ったのに壊すでない!」と怒られてしまったためドアを開けるのは諦める。
「仕方ない……寝るか」
毎週という訳ではないが、金曜日になると魔王様は自分の部屋に鍵をかけて籠もる習慣がある。
おかげで『ラブラブアタック』をかけようにもかけられない。
魔王様にも何やらお楽しみがあるのかもしれないが、私のこの持て余した感情はどうすればよいのだ?
仕方がないので私は自室に戻り、1人チーズをつまみながらワインを飲む。酒を飲まなきゃやってられない。まったくもう! こないだは年下の従弟が結婚したというのに…
「は~あ、いつになったらもらってくれるんだろう。魔王様」
持て余した感情と身体を抱えながら、私はベッドに横になる。
そして、眠りに落ちるまで一人遊びに興じるのだった。
こんな感じで私の一日は終わる。日によって仕事内容は違うが、最後の一人遊びはいつも同じである。




