第十三話「リッチーのティル」
自分がどうしてリッチーになろうと思ったのか。
リッチーになる前は何をしていたのか。
ワシはさっぱり忘れてしまっていた。
気がつけばどこかの洞窟の前に立っていて、魔法でダンジョンを作り始めていた。
名付けて「ティルの不思議なダンジョン」。
洞窟を掘って地下13階のダンジョンを作った。
何か思い出すまでの仮の住処くらいに思っていたが、リッチーのワシの魔力に引かれてか、アンデッドモンスター達が勝手に住み着き、勝手に宝箱を持ち寄り、勝手に有名なダンジョンになった。
しかし最奥のワシの部屋までたどり着く冒険者は1人もいなかった。
後にも先にも、最奥のワシの部屋にたどり着いたのはただ1人。
「はじめまして! リッチーのティルさん、魔王国に来てもらえませんか?」
サラサラの茶髪の自らを魔王と名乗る魔法使いの少年だった。
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「イヤじゃ」
「ええー…」
「ええー…とは何じゃええー…とは、大体魔王国て何じゃ。どんな国なんじゃ。他に何人おるんじゃ」
「一応世界征服?を目指していて……今は魔王の俺だけです」
「ヒャッヒャッヒャ! そりゃすごいのう! …帰れ」
「そこをなんとか! ティルさんが来てくれるならアンデッドが集まってくるでしょうし、もう城はあるんです!」
「何? 城じゃと?」
「モコモ国の隣にあった国に放置されてる廃城です。あそこをリフォームして住めるようにしようかと…」
「帰れ」
「そこをなんとか!」
「なーんでこの快適なダンジョンを出てそんな所で暮らさにゃならんのじゃ。他を当たれ、他を」
「そこをなんとか!」
断っても断っても食いついてくる魔王とやらに辟易していると、ワシは気になるものを見つけた。
「お前さん……これは何じゃ?」
「これですか? 魔力を増強する指輪ですよ?」
「ううむ… どっかで見た気がするのう…。どこじゃったかのう…?」
「どこも何も、魔法の里イリシアで作られてるものですよ。里の外には出ない非売品ですけどね」
「魔法の里イリシア…」
聞き覚えのある名前に、ワシの脳が刺激される。
あれ? 何か思い出せそうな気が……しそうでしない! 何なんじゃ!
「あの……ティルさん?」
「何じゃ!」
「俺、ティルさんにどっかで会った事があるような気がするんですが…」
「何!? どこでじゃ!?」
「多分、イリシアで…」
魔王の言葉に、ワシはグワッと椅子から立ち上がる。
「そうか… ワシはそのイリシアと何か関係あるんじゃな! 小僧! よく教えてくれた! ワシはイリシアに行くぞ!」
「ええっ!? やめといた方がいいですよ! イリシアはアンデッドの天敵の魔法使いが住んでる里ですから! 特に魔法使いからアンデッドになったリッチーなんてものすごく嫌われてるし滅ぼされますよ!」
「はっ?」
魔王に、懇々と事情を説明される。
曰く、アンデッドは炎魔法や聖魔法に弱く高位のリッチーだろうと魔法使いや聖職者に簡単に滅ぼされてしまう事。
曰く、魔法の里イリシアの住人は全員魔法使いである事。
曰く、魔法の里イリシアは魔法使いがアンデッドになったリッチーを「魔法使いの風上にも置けぬ」とひどく嫌っておりリッチーを見つけたら里の人間総出で滅ぼす事。
「やけに詳しいのう……お前さん、魔法の里イリシアの人間か?」
「…それはともかく、そんなこんなでイリシアに行くのはおすすめしません。ティルさんがすごい魔法使いだって事は分かりますが多勢に無勢ですし…」
「…そんなに強いのか、イリシアの魔法使いは」
「はい…」
魔王とやらの言葉に、ワシはがっくり肩を落とす。せっかく何か生きてる頃の手がかりが手に入ると思ったのに…
「そこでティルさん、魔王国に来ませんか?」
「なんでじゃ」
「モンスターの中には魔法が効かないモンスターもいます。そいつらを仲間にしてイリシアに行けば……ティルさんの目的も果たせるかもしれませんよ?」
「…」
交渉ともいえないつたない交渉。
正直話にならん話じゃが他に頼る当てもない。
「よかろう。このリッチーのティル、貴様の仲間になってやろうではないか」
「ありがとうございます!」
ま、ダメだったら他を当たればいいしな。
そんなこんなで魔王国最初の一員となったワシはボロっちい魔王城に住み着き、魔法で何やかんやリフォームやらリノベーションやら手伝わされ、ついでに仲間捜しも手伝わされ、ある程度仲間も増え城のリフォームが終わってグータラしてたら「仕事してくださいよ」と言われ工場に配属になり、薬の開発や魔法の開発をさせられている。
結局魔法の里イリシアに行く話はうやむやにされ、毎日忙しいがダンジョンにいた時は暇で退屈だったので、まあよしとする事にしよう。
ちなみに生きてた頃の事とか、なんでリッチーになったのかとかはまったく思い出せていない。




