第十二話「魔王と愉快な幹部達」
「ああ~」
風呂。それは一日の疲れを癒やす場所。
魔王城には1階に大浴場があり、モンスターからアンデッドから魔王まで皆で入っていい場所になっている。男湯と女湯はもちろん別だ。
「魔王様! お背中お流しいたしましょうか!」
魔王軍幹部の1人、ミノタウロスのミノさんが、そのぶっとい身体と同じぶっとい声で俺に呼びかけてくる。
「いいっていいって、ここでは魔王もモンスターもない裸の付き合い。気を遣わなくていいし敬語もいらないよ」
「ハッ! 失礼いたしました!」
魔王軍最強のミノさんは無骨な武人なのだが、仕事は大工だ。
魔王城のリフォームからリノベーション、家の建設から学校や工場の建設までミノタウロス集団をまとめてやってくれている。俺の事を慕ってくれており魔王軍の中では一番忠誠心が高い。
「ケッ、風呂場でも暑苦しい奴だ」
「何だマキシム! 我を侮辱する気か!」
「してねえよ。暑苦しいから寄らないでもらえます~?」
首を左脇に抱え、風呂にのんびり浸かっている魔王軍で2番目に強いデュラハンのマキシムがいつも通りの皮肉を言う。
昔ある事があって人間不信に陥っており、魔王軍の中で一番忠誠心が低い。普段は漁師をしている。首を海岸に置いて素潜りで魚や貝や海藻を採る姿は中々シュールだ。
「グヌヌ…! オイマキシム! 貴様海小屋の掃除を怠っておるな! せっかく建ててやったのに何をしておるのだ!」
「毎日海に潜って疲れてんだよ。そんなに言うならお前さんが掃除すりゃいいだろ」
「マキシム。大工は大工の仕事、掃除は使ってる奴の仕事だ。ちゃんとしなさい」
「へいへい」
「貴様魔王様に向けて何という返事だ!」
「まあまあミノさん、ここは裸の付き合いだから」
放っておくといつもケンカする2人の間に入りながら、俺はいつも苦労する。
「何じゃ何じゃ、騒がしいのう…」
そんなこんなで揉めてると、魔王軍最古参、リッチーのティルがミイラになった身体にかけ湯をしてから浴槽に入ってきた。
「ティル殿。お先に失礼しております」
「あいかわらず堅苦しいのうミノさんは。ちいとはそこのデュラハンを見習ったらどうじゃ」
「お言葉ですがこの男に見習う所などないかと思われます」
「いい意味でいい加減に生きろという意味じゃ。毎日頑張って生きるのは疲れるからのう」
顔を湯で洗いながら、ティルが言う。
「頑張って生きるも何も、死んでるじゃねえか俺たち」
「ヒャッヒャッヒャ! そうじゃったのう!」
アンデッド同士何か通じるものがあるのか仲が悪くないティルとマキシムが、隣同士で湯に浸かる。
魔王軍は基本モンスターはモンスター同士、アンデッドはアンデッド同士の派閥みたいなのがあり、お互い仲があまりよくない。悪い意味で同じ集団で固まる傾向がある。
そんなモンスターとアンデッドの交流を図ろうと、この大浴場を作ったわけだが…
「アレ? 魔王様にミノさんにティル爺にマキシムさんじゃないですか? 幹部勢揃いですね」
ガーゴイルのガーさんが、身体と翼にかけ湯をしながら湯船に入りミノさんの隣に座る。
こんな風に大浴場でもモンスターはモンスター同士、アンデッドはアンデッド同士で固まるから困ったものだ。『モンスターは身体が汚い』『アンデッドが入ると湯がぬるくなる』とケンカも絶えないし…
多様性とか外国人人材登用とかに悩む経営者もこんな感じなのかなーと遠い目になる。
「幹部勢揃いではないだろう。クリスティーナとエリザベスがおらぬではないか」
「男湯と女湯は別だろう、この脳筋ミノタウロス」
「ヒャッヒャッヒャ! クロカゲとハカセも忘れられておるのう!」
「そういや最近姿を見ませんね」
「クロカゲはともかくハカセはまた研究に没頭して風呂に入り忘れてるんだろ」
放っておくと食事も睡眠も風呂も忘れちゃうハカセの事を思いだし、頭が痛くなる。
週休二日制も残業規制も無視して働くワーカーホーリックのハカセは魔王軍の中でも困りものだ。今度様子を見に行かないと…
「魔王さんよ、なんで男湯と女湯を別にしたんだよ」
「え? だって…目のやり場に困るだろ…」
「そんな粗末なもん誰も見ねえから気にすんなよ」
「誰が粗末だ!」
アンデッドの割にスケベで煩悩まみれなマキシムに言い返す。
ちゃ、ちゃんと大人の奴になってるもん!
「…ったく、クリスティーナはこんなののどこがいいんだか」
ふてくされたように言うマキシム。ちなみにマキシムは一度クリスティーナに言い寄ってコテンパンにフラれており、以後手を出さなくなっている。
「童貞だからな」
「誰が童貞だ? ああん?」
「お前だよ…」
「ど、どどど童貞ちゃうわ! ちゃ、ちゃんと生きてる頃にちゃんと大人なお店で卒業したわ!」
「そういうのも童貞に入るんだよ…」
哀れな童貞マキシムに残酷な真実を口にする。童貞のままアンデッドになったって…くう。
「そういう魔王さんよ。てめえはどうなんだよ? てめえだって童貞だろ? ああん?」
「…」
「…え? 何? 何かあるのか?」
「ヒャッヒャッヒャ、魔王には『契約』があるからのう」
「ティルさん、その話は皆にはナイショで…」
「魔王様、ティル殿。何の話ですかな?」
「「いやいや何でも」」
「何か気になるな…」
左脇にかかえた頭の、小首を傾げる童貞デュラハンを無視して俺は顔をお湯で洗った。
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風呂上がりに、魔王と魔王の幹部横並びでコーヒー牛乳を飲む。
ミノタウロスのミノさんが牛乳飲んでるのもシュールだけど、アンデッドのマキシムとティルが飲んでるのもシュールだ。マキシムの首と身体はつながってないのに、どうなってんの?
「おい魔王、マージャンやろうぜマージャン」
「お、いいねえ。ミノさんもやろうよ」
「申し訳ございませぬ。妻と息子と遊ぶ約束をしておりまして…」
「じゃあティルとガーさんはどう?」
「ワシはおっけーじゃよ」
「吾輩もおっけーです。ところで魔王様、こちらのフルーツ牛乳も味見してもらいたいのですが…」
「あ、ゴメン。俺フルーツ牛乳はダメなんだ」
騒がしく身体を拭きながら、俺たちは他愛のない話をして、その後マージャンや卓球や酒を楽しむ。
魔王城大浴場。そこは癒やしの場。
一日の疲れを癒やす、貴重な場所である。




