最終話 戦闘ラブベリー~恋の果実は闇属性~
今回最終話です!
俺は炎魔法を放ち次々とラブベリーの枝葉を燃やした!
ほかの生徒や先生たちも集まって、巨大化する木と闘いはじめる。
「輝く光の微精霊たちよ! 暴走する木を叩きのめせ! シャイニングスター!」
「数多の氷の微精霊たちよ! 暴れ狂う枝を切り刻め! コールドスラッシュ!」
――ドガガガガーーン!――
――パリンパリンパリン!――
次々に激しい攻撃魔法が繰り出されている!
そんななか、シンソニーが俺の血を見て駆け寄ってきた。
「オルフェ、大丈夫!?」
「あー。枝ささって穴空いちった」
「空いちったって……。もっと気をつけてよ」
ミラナの前では強がりたい俺。シンソニーは呆れ顔で俺の傷に手をかざした。
「清らかなる風の微精霊たちよ! 親愛なる友に癒しの息吹を! ヒール!」
緑の風がキラキラと光り輝き、ケガがみるみる治っていく。
「助かったぜ! シンソニー!」
「うん。でもオルフェ、これはいったい……」
うねりながら巨大化していくラブベリーの木を見あげて、シンソニーが青ざめた。
魔法生物部の部員たちも騒然としている。あれが大切に育てていたラブベリーの木だなんて、とても信じられないようだ。
それでもルーク先輩が声をかけると、みんな気を取りなおして戦いはじめた。
「僕たちが育てたラブベリーをこれ以上暴れさせるわけにはいかない! 手伝ってくれ!」
「「「はい!」」」
「観念しろ、ジェイク!」
「重たいお仕置きが待ってるんだからね!」
生徒会捜査班の先輩たちも戦いはじめた!
みんなでジェイクを捕まえようとするも、伸びてくる枝に阻まれている!
「ひぁーっはははは! いけいけ! 役立たずのラブベリーよ! せめてあの忌々しい赤毛野郎を駆逐しろ!」
ジェイクは狂ったように顔を歪め俺を指差している。破滅の光を宿した狂気の瞳が俺を見据えた!
多くの枝が絡まりあい、太くなった枝の塊がうねっている。勢いよく伸びて迫ってくる!
「炎の微精霊たちよ! 俺の魔力に集い猛然たる炎で燃やし尽くせ! インフェルノアポカリプス!」
俺はファイアーブレイズの上位魔法を放った! 空気が揺れるほどの轟音がなり、真っ赤な炎が枝を燃えあがらせる!
その凄まじい火力に周りの生徒たちからどよめきが起きた。
だけど、枝の伸びる勢いがすごすぎだ。枝は燃えながら、止まることなく迫ってくる!
――やばい! 燃やしきれねー!
――こうなったらミラナだけでも……!
俺はミラナを腕の中に庇い、迫り来る枝に背中を向けた。
「好きだ、ミラナ。この愛の炎だけは死んでも消えねー。ミラナが俺を見てくれる日を来世で待ってる……!」
「ちょっと、オルフェル!?」
俺が死を覚悟したとき、ミラナが俺の腕のなかで呪文を唱えた。
「静かなる闇の微精霊たちよ! 黒き炎で邪悪な心に裁きを下せ! シャドウ・バーン!」
ミラナの呪文は俺が放った炎を黒く染めあげていく。
それは悪霊のように形を変え、暴れ狂う枝に絡みついた。逆巻くように進み、ジェイクの身体を黒く燃えあがらせる。
「ぎゃぁぁぁーー!」
ジェイクの叫び声が響きわたる。
彼は頭を抱えてのけぞったかと思うと、後頭部を地面に打ちつけて倒れた。
蠢いていたラブベリーも、しばらくして動きを止める。
見あげると息が詰まりそうなほどの巨木だ。それはまるで、一本の森のように天高く聳え立っていた。
ピンクのハート形の果実が、そこら中に実っている。
俺はミラナとしっかり抱きあったまま、呆然としてそれを見あげていた。
――やばい、俺ちょっと、恥ずかしいこと言いすぎたな!
△
そのあとの数日はたいへんだった。ぐちゃぐちゃに破壊された校舎や中庭、壊れた備品なんかのせいで、生徒会相談窓口には毎日行列ができていたのだ。
幸い治らないほどの怪我人は出ていない。だけど、恐ろしい目に遭ったせいで夜眠れないとか、怖い木の夢を見る、なんて相談が多数あった。
皆の不安を解消するため、俺たちは魔法生物部の部室に出向いた。
ミラナが真面目な顔でルーク先輩に質問をしている。
「人の心を操る魔力。ラブベリーは闇属性の魔力を持っていたんですね?」
「そうだね、ミラナちゃん。きみの推測は正しいよ。ラブベリーは闇属性だ」
ルーク先輩の答えを聞いて、一年生たちが「ほほう」と頷きながらメモを取っている。ミラナもささっとメモを取りまた質問をした。
「心を操る魔法の果実を食べるのは、危険性が高いと思うのですが、その点については研究されてますか?」
人の心や感覚を操る魔法は、闇属性魔導師の得意とするところだ。ミラナは闇属性だから、闇魔法の危険性にも敏感だ。
ミラナの真面目顔にたじろぐルーク先輩。ほかの部員たちも、少し面食らっている。
彼女の真剣さや厳しさは、ときに人を圧倒してしまうのだ。だけどルーク先輩は、すぐににっこり微笑んで言った。
「もちろん、危険性についてはしっかりと研究されているよ。そもそもラブベリーの持つ魔法は、心を操るというよりは、心を開かせる魔法なんだ」
「心を開かせる、ですか。具体的には魅了魔法とどういった違いがありますか?」
「ラブベリーは、自分の本当の気持ちを気付かせるんだ。だから、恋に落ちるというよりは、恋に気付くという感じだね」
「なるほど、呪文や魔法陣で発動できる魔法としては、確立されていない効果ですね。これは、本当に珍しいです!」
先輩の説明に納得した様子で、ミラナは瞳を輝かせ、またささっとメモをとった。
「そうだよ。それに、ラブベリーを食べて気付く本当の気持ちは、恋ばかりじゃないんだ。自分の夢や目標に気付いたりすることもあるよ。ラブベリーは人生を豊かにしてくれる果実なんだ」
ルーク先輩の解説に、部員たちは「ステキ!」と口々に声を上げた。
「なるほど、では収穫した果実の管理や使用に関する決まりはありますか?」
「ラブベリーは十二年に一度実をつけると言われていてね。それも十個ほどだったから、部員たちで楽しみに食べようという話になってたんだよ。魔法生物部の伝統としてね」
「そんなに珍しかったんですね」
「そうだよ。だけど、今年はみんなで食べても食べきれないくらい実がなったから、食べたい人が食べればいいんじゃないかな? ただし、お腹を壊さない程度にね!」
△
俺たちは相談窓口を通じて、不安を抱えた生徒たちにその情報を伝えた。すると三日目には、みんなラブベリーの実を自由にもいで食べるようになった。
十日目の今日は、なんだか校内にカップルが増えている。
「本当に人騒がせな事件だったな」
ようやく落ち着いてきた相談ブースで、俺はぽそりと呟いた。
「そうだね。でも、ジェイク君ももう元気になったみたい。毎日お見舞いにきた人が口にラブベリーを詰め込んでいくんだって項垂れてたよ」
「え? ミラナ、見舞いに行ったの?」
ミラナの言葉に俺は思わずかたまった。あんな目に遭ったというのに、わざわざあいつに会いに病室まで行くとは……。
「うん。私の魔法で倒れたから、心配だったし」
「えー……。俺ミラナのほうが心配だぜ」
「生徒会捜査班の先輩たちと一緒に行ったから大丈夫だよ」
――まぁ、俺が行くと騒ぎになるかもしんねーしな……。
そう思いながらも少し不満な俺。
ミラナがジェイクに放った魔法は、怒りや劣情を鎮める強烈な沈静化魔法だった。
俺の炎に乗せて発動した、連携魔法だったようだ。
魔導書で読んで知ってはいたけど、俺はそんな経験ははじめてだった。
この魔法とラブベリーの影響で、ジェイクはすっかり大人しくなったようだ。
――ミラナも連携魔法使ったのはじめてだって。俺、ミラナのはじめて奪っちゃったな!
俺がそんなくだらないことを考えていると、コンコンとブースの扉がノックされた。
「どうぞ」と声をかけると、入ってきたのはサラだった。
あのあと、サラにもらった手紙を読んで思い出したけど、サラは確かに相談に来ていた。
だけどそのときは、彼女はずっと下を向いていたし、雰囲気もまるで違ったのだ。
自分に自信がないという相談をしに来た彼女は、俺には十分魅力的な女の子に見えた。
俺はそれを伝えたけど、自信を持つことができるかどうかは、それとは別の問題らしい。
俺はサラと、自分磨きについて語りあった。アドバイスをしたというよりは、自分のしたい話をしただけだ。
だけど、その日から彼女は自分磨きをはじめ、少し自信を手に入れたらしい。
彼女にもらった手紙には、俺への感謝の気持ちが綴られていた。
そして、彼女も新しい部活に挑戦したくなったようだ。俺はサラに『魔法筋肉部』を案内した。
続いてアリサがブースに入ってくる。彼女はピンクのリボンがかかった、紙でできた箱を抱えていた。
「オルフェル君、ミラナちゃん! ラブベリーを使ってケーキを作ったから、ぜひ二人に食べてみてほしくて!」
「おぉ! ありがとう」
「わ、嬉しい!」
アリサがくれたケーキは、ハート型のスポンジにラブベリージャムを挟み、ラブベリークリームをたっぷり塗った、見た目にもオシャレなケーキだった。
「二人で仲よく食べてね! 私はほかにも配るところがあるからもういくね!」
ミラナが瞳を輝かせたのを見ると、アリサはそう言って、ブースを出ていってしまった。
「美味しそう!」
「そういえばミラナって、ラブベリー食べたことあんの?」
「ううん。バタバタしてたし、まだ食べてないよ」
「俺もだ……」
ケーキを前にしばらくかたまる俺たち。ここでミラナが俺への気持ちに気付いてくれれば、万事ハッピーエンドなんだけど。
「オルフェル、早く食べてみて?」
「ミラナこそ。俺はもう自分の気持ちには気付いてるから、食べてもなにも変わんねーよ?」
「私だって、自分の気持ちくらいはわかってるつもりだよ?」
「ほんとに?」
「うん。じゃぁ、セーノで食べよっか。はい、オルフェル、あーん!」
ミラナが自分の口をあーんと開けながら、俺の口元にフォークでケーキを運んでくる。
――えっ!? 食べさせあいっこ?
焦りながらも口を開くと、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
ミラナが口を開けたまま、俺がケーキを口に運ぶのを待っている。
この小さな口のなかに、俺がケーキを押し込んでいいのだろうか?
うるうる艶々の唇にクリームをつけないよう、俺は慎重にケーキを運ぶ。だけど緊張で指が震えて、口から少しはみ出てしまった。
彼女の舌がペロッとそれを舐めとるのを、俺は生唾を飲みながらじっと眺めた。
――ミラナ、たまにこういうとこあるからな……! ほんとに俺、何年たっても諦めらんねー!
「はい、もう一口! オルフェル、あーん!」
ドキドキしている俺の口に、ミラナはまたラブベリーケーキを運ぶのだった。
==FIN==