第三話 高校デビュー失敗。そして異世界へ。
俺こと山田守人は高校生デビューを果たした15歳。
赤に髪を染め、人生を謳歌しようと模索する人妻好きの男。
奥さんや未亡人を口説き続けて早15年。周りからはキチガイ、マザコンと揶揄されている。
別に寝取りたいとかそんな願望があるわけではない。
誰かを想い、結ばれた女性というのは。
得てして美しいものだ。美しいものに惹かれるのは男の性というものだろう。
友人の阿形には「今のうちに正気に戻った方がいい」
などと、皮肉たっぷりに罵倒された。許せねえ。
「何が悪いってンだよ。俺だって趣味嗜好の自由はあるってモンだ」
と、ひとりごちてブレザーを正してネクタイを締める。
身嗜みをきちんと行えば貞淑な奥さんには好感度プラスに働くのは間違いないだろう。
いや、そもそも貞淑な奥さんが俺に靡くかと言われればNOと言うだろう。
複雑なのだ、その辺りは。靡いて欲しいとは願うが、靡いていくような女性であって欲しくもないというそんな…その…なんだ。言葉に出来ないものなんだ。分かってくれ。
そして、登校途中の道がてら周りを見渡す。共学だけあって可愛いどころの女子高生をちらほら見かける。
確かに、そういった可愛さはアリだなと感じるが。
ダメだな。若過ぎる。俺には子供の1人2人はいる人の方が魅力を感じるってモンだ。
こんなこと言ってたら多分クラスメイトにまた距離を置かれるので心に留めておこう。
「守人くん!おはよう!」
ふと、後ろから声をかけられる。黒髪にセミロングの整った顔立ち。俺の幼馴染の夢川有希である。
普段から何かと世話を焼いてくれる俺の数少ない友人だ。
「あァ、おはよう。そういえば、有希。夢を見た話なンだが」
「ここ最近見てたっていう夢の話?物騒だったからあんまり聞きたくないなぁ」
うぇ〜といった感じに耳を塞ぐ有希。
「まぁ聞いてくれよ。あまりに鮮明な夢でなァ」
勇者の顛末を聞かせる。大切な人を失い、無力を嘆いた男の1つの物語。
「うーん、正夢っていうには時代が違い過ぎるし。前世とかにそういうのあったりするのかなぁ?」
「真面目に聞いてくれンのお前くらいだぜホント。痛みも…怒りも鮮明で。なンとも奇妙な体験だった」
「というか、守人くんのその変な喋り方。まーだ直らないんだねえ」
有希は呆れたように口にする。この変に気取った話し方は別にわざとやってるわけではなくて。
気が付いたらこの口調だった。いつからかは覚えていない。いや、違うか。夢で勇者になるようになってから。それかもしれない。
ただ勇者が死んだ、正しくは殺されてしまってからはその夢を見ていない。
奇妙なものだ、俺が夢の中で勇者だったかのようで。
「ま、その話は置いといて。学校早目に行こうぜ。遅刻はしたくねぇ」
「言動とか趣味はアレだけど真面目だよねえ守人くん」
「うっせえ」
学校まで続く坂道を少しずつ上がっていく。これから起こる事を知らぬまま。無知のまま、ただ進んでいく。
きっと、後悔がないように進める事を。ただ祈って。
異変に気がついたのは隣にいた有希が居なくなってからだった。
「有希?…なンだ。こりゃあ…。周りに誰もいやしねえ」
坂を登る道の住宅地には人影を1人として見かけなかった。通学路であるこの道は学生や散歩をする奥さんなどで賑わう。それ故に美人な奥さんを眺める事が出来る貴重な道だった。
【ようやく逢えたね。アル】
頭の中に声が響く。何処かで聞いた懐かしい声。
【運命を見たんだね】
動悸が激しくなる。覚えていない。知らないはずの声が、懐かしく響く。
【どうか、お願いだ。勇者】
【滅びゆく運命に、希望を】
【アルモート。未来を、紡いでくれ】
知らねえよ。
何も守れなかった俺が、今更何を成すってンだ。
【もう一度、もう一度やり直そう】
【僕たちの、楽しかった日々を】
少しずつ薄れゆく景色の中で、守人は。
アルモートとしての道を『再び』歩み出した。