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第二話 崩壊と再生

違和感に気が付いたのは村に置いた結界が解けた時だった。


「なンだァ?魔獣はさっき倒したばっかのはずだが」

「最近司祭様が結界石を置いていってくださったから余程な事が無いと壊れないはずだけど」


タリアはそう言って不安げに空を見上げる。

村には結界石が各場所に配置してあり魔獣の侵入を知らせ、防ぐためのアーティファクトである。クレリックだけが作れるものであり、とても貴重な物だ。


「…まだ取り逃がしがいたのかもしれねぇな。タリア、村長に伝えてきてくれ」

「分かったわ。アルモートはどうするの?」

「ジンに代わりの剣借りていっちょ狩ってくる」

「気をつけてね」

「一応勇者だからなァ、任せとけ」


スキル【加速】を使用する。低ランクの強化スキルで身体能力を少しだけ向上できる。そうして鍛冶屋へと急行し、ジンに話しかける。


「ジン、代わりの剣頼む。事情は知ってるか?」

「もう用意出来てる。結界石が壊れちまったんだろ?随分と早えな」

「そうだな…。何があるか分からねえ。村の柵を補修しておいてくれ」

「分かった。テメェも気をつけろよ」

「おう」


再びスキルを使用し町を少し離れたところの丘へと向かう。壊れた結界石は恐らくこの辺りのはずだ。


「結界石が破壊されたのは久しぶりだなァ…。これまでは交換だけで済ンでたはずだが…」


多分、異変に気がついた騎士もそこに向かっているはずだ。合流して事情を聞くとしよう。



しばらく走って結界石のところまで着いて周りを見渡す。騎士は見当たらない。

職務怠慢か何かは知らないが先に確認しておくことにしよう。


「…真っ二つに割れてやがる。これまではヒビが入る程度だったはずだが…」


結界石は袈裟斬りされる形で真っ二つになっていた。斬り口を触ってみたが元々その形であったかのような綺麗な表面だ。


「ともかく、これは報告モンだなァ…騎士は何してやがんだ?ひとまず帰って…」


そうして確認を終え振り向くと



 

そこには





漆黒



漆黒がそこにあった




いや、大きすぎて気が付かなかったが。

漆黒の…龍。

2つの翠の瞳がアルモートを見据えていた。


【ありえた未来を、絶望を。希望に】


龍は何かを呟く。理解出来ないが

言葉の意味は理解した。


そうして意識が吸い取られるように

アルモートは目を少しずつ閉じていった。

















ふと気がついて目を開いた。

いつまで意識を失っていた?あの龍はどこへいった?

いや、そんなことはどうだっていい。

村へ戻らないといけない。魔獣から守れるのは俺と騎士だけだ。

早く、早く戻らないと。


【加速】そう叫んで走り続ける。村に上がる煙は異常を知らせていた。間に合え、と心臓を打ち鳴らして走る。


そうして、辿り着いた場所には。



死体

 


死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体



多くの死体が積み重なっていた。

死体は腕が千切れ頭は潰れ足はひしゃげて顔が残ったものには総じて恐怖が刻まれていた。

悲鳴が聞こえる。肉が焼ける音が聞こえる。


「何故…なンでこうなンだよ!!村長!ジン!カダン!……………ッ!タリア!!!」


親しかった者の名を叫ぶ。まだ救えるものと信じて。


「ッ!!!ぐぁっ!!!!」


背中に大きな痛みが走り、耐え切れずに膝をつく。

後ろを振り向くと身に合わない大剣をもった仮面の子供がいた。歳の頃は14ほどだろうか。


「まだ居たの?これで最後かな?」


いつの間にか隣にいた仮面の大男に抑揚の無い声で問いかける。声からして子供の方は女のようだ。


「あ〜ら、やだ。良い男じゃない。何で先にやっちゃうのよグレモリー。勿体ないわね」

「どうせ殺すのに残す意味無いでしょ?」


グレモリーと呼ばれた少女は呆れて首を振る。


「死ぬ前に味見しときたかったじゃないのよ〜」

「ダンタリオン、遊びに来たわけじゃないでしょ。仕事終わったんだから次行くよ。」

「リアンって呼んで。その名前嫌いなのよ〜可愛くなくない?」


ダンタリオンと呼ばれた男は見慣れない婉曲した片刃の剣を取り出してアルモートに向ける。


「ごめんね〜これも仕事なのよ。これ、良いでしょ。東の王国滅ぼしたときに貰ったのよ。カタナって言うらしいわね」

「………テメェらは」

「生意気」


アルモートが話しかけた瞬間グレモリーは見えない速度で大剣を振るい、彼の左腕は吹き飛ばす。


「がッ…!!!アァあああアアアアアア!!!!!!」


「ちょっと話出来ないじゃない!グレモリーやめなさい!ステイ!」

「ダンタリオン、遊びに来たわけじゃないの分かってるでしょ」


そう言って2人は口論を始める。


「何なンだ…テメェらは…何でこンな事しやがる…。何が、目的だ」


「あら、腕斬られて喋れるの。もっと好きになっちゃいそう。そうね、どうせ死ぬだろうし教えてあげるわ」

「ダンタリオン」


グレモリーが殺気を放ち始める。ダンタリオンはそれを軽くいなす様にしてアルモートに言った。


「私達は魔王軍よ。それも幹部、72柱の2人」

「…随分と大所帯じゃねぇか…大家族でいいこった」


グレモリーが右腕を吹き飛ばす。


「ァが…ッ!!ああああああ!!!!!」


「もう、サディストなんだからグレモリーは。辺境の村だから侮ってたけど、勇者がいたから警戒してたのよね。だけどせいぜいレベル20程度って言うじゃない。ハズレの村引いちゃったから早々に滅ぼして次行こうってわけ」

「サディストなんかじゃないわよ。アンタの方がよっぽどでしょうが」


グレモリーは木にもたれかかって気怠そうにしている。早く終わらせたいという気持ちが前に出ているかの様だ。


「はは…もうこンな辺境に来るくらい。勇者は負けてンのか」

「もう分かってたでしょ。質の低い勇者しかいないんだもの。命を賭けるような子も少なかったし弱過ぎよ。楽しくないわぁ…。…それに」

「もう良いでしょ、お喋りは終わった?さっさと頭刎ねるわよ」

「あ〜ら優しい。まだ足残ってるわよ?」

「うるさい、サディストじゃないって言ったわよね」


流れる血が止まらない。身体が少しずつ冷えていく。最早生き残ることは不可能だろう。その前に


「………最後に、聞きたいことがある…」

「あら、良い男の頼みは断れないわね〜。良いわよ、最後の質問聞いてあげる」


ダンタリオンは大喜びでその言葉に頷く。


「…言いなさい。勇者。聞き届けてあげます」


グレモリーは木にもたれかかったまま、次の言葉を待っている。


「…タリアは。金髪の女は生きているか」

「?あぁ、あの子。1人だけ目立っている子がいたわね」

「………お前が知る必要は」


グレモリーは少し止まった後、遮る様にダンタリオンの言葉を切ろうとする。


「あら、やっぱり優しいのねグレモリー。い〜い?タリアって子はね」

「ダンタリオン!」


グレモリーは木から離れてダンタリオンに掴みかかる。



「いいえ、聞きなさい。聞いてくれなくちゃ」


どこかで信じていた。


「あの子はね。最後まであなたの名前を呼んでいたわ」


まだ生きている者はいると。


「健気だったわ。足を潰しても腕を引きちぎってもやめないんだもの」


勇者として誰かを救えると。


「少し、いいえ。凄く不快だったわ。許しも乞わない、命も乞わない」


俺は誰も救えない。何にもなれない。


「でも悲鳴は心地良かったわ。1番長く続いて…」


声にならない叫びを上げた。

彼女に良く似た死体の隣にある

燃えてしまった手袋を思い出して。


最後の力を振り絞って【超加速】を使う。

レベルの高い勇者でないと使った瞬間に足が自壊してしまう上位強化術。


ここで死んでしまってもいい。

この男だけは、この男だけでも殺す。

左足は既にひしゃげて潰れた。右の足にさっき落としておいた短剣を仕込んで勢いのままに突き刺す。

【超加速】の勢いで刺せば俺の足も吹き飛ぶだろうがこいつを殺すことはできるだろう。


首元を狙って蹴った渾身の一撃は、もう1人の大剣に遮られた。


ガァン!!という音を立てて短剣は飛んでいった。


「グレモリー、助かったわ。まさかこんな力を残してるなんて」

「危なかったわね、ダンタリオン。油断するなと言ったはずよ」

「下手したら死んでたわぁ…油断はダメね。仮にも勇者だったわ」


ダンタリオンは止めを刺そうとアルモートに向き直る。


「もう死んでるわよそいつ」

「…そうみたいねグレモリー。惜しいわね」




「久しぶりの死への恐怖だったわ…」
















これは何も成し得ず

何もかもを己の無力を嘆いて散っていった。

そんな男の物語。

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