表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3話 方針

「…リディア。リディア・フローレン。それが私の名前です、エルさん」

 私がそう言うと、エルさんは柔らかく笑った。

「そうか。いい名前じゃないか」

 いきなり美人さんに微笑まれて、ついドキリとしてしまう。

 うう、破壊力が凄い。

 そんな風に鳴る心臓の音を感じながら、そういえば一つ聞きたい事があったなぁと思い出し、言葉をかける。

「ところでなんですけど、エルさんはどうしてここに来たんですか?元騎士なんでしたよね?」

 この世界における騎士がどんな存在なのかは知らないが、少なくとも今のエルさんの装いは騎士には到底見えず、いかにも旅人といった格好だった。

「ん、ああ。…そうだな。まぁ色々と理由はあるが、簡潔に言ってしまえば今私は国を追われている。指名手配でもされてるんじゃないか」

 そんなかなりの爆弾発言をしたエルさんは、しかし冗談を言っているようには見えず、その表情は真剣そのものだ。

 マジかこの人。絶対背景に面倒くさい事件が絡んでる。

「まあここまで逃げてこれたのは、愛馬のレリルのお陰だ。この子がいなかったら、疾うに捕まっているだろうさ」

「…なるほど、細かいことは流石にわかりませんが、色々大変そうですねぇ」

「ああ、そうだな。君に迷惑はかけられないし、レリルの体力が回復次第、私はここを発つさ」

 きっと、このまま彼女と別れたら、私はそんな面倒くさい事件と離れて暮らすことが出来るだろう。

 だが、彼女は私の命の恩人であり、この世界で悪魔の私を受け入れてくれる数少ない存在だ。

 そんな選択肢は、選べないよなぁ。

「ここはアルテシアの北の端だから、そのまま北東に進んでリンドルの方に行こうと思ってる」

 そう私に話す彼女に、私は言った。

「それ、私も連れて行って貰えませんか?」

「…え?」

 私は、彼女にそう提案した。

「ですから、私もその旅に連れて行ってほしいんです。どうせ行く当てもありませんし、折角ならこの世界を見て回りたいのです」

「だ、だが途中で追手が来ることもあるだろうし、危険じゃ―――」

「それに」

 彼女の言葉を遮って、私は続ける。

「あなたは私の恩人で、私はあなたに多大な恩があります。恩を借りっぱなしなんて絶対に嫌です。ですから、」

 そこで一度言葉を区切り、

「恩を返すまでは、何が何でも付いていきます。地獄の果てだろうが付いていきます。危険であろうと関係ありません。曲げる気もありません」

 そう言い切った私に、エルさんは少し唖然とする。これは紛れもない私自身の本心で、心の底からの主張だ。

 おまけに何が何でも付いていくと明言したため、例え断られようが付いていく口実にもなる。

「なにより、あなたはこの世界で初めてできた私の友達です。友達を一人で危険な目に晒すほど、私は鬼ではありません」

 私が主張をひとしきり言い終えると、エルさんはしばし唖然としていたが、しばらくすると笑い始めた。

「はは、ははははは!」

 え、ええと、そんなに笑われちゃうと、少し自分で恥ずかしくなってくるんですけど。

「いや、うん、いいさ。君が付いていきたいというのなら、私はそれを尊重しよう」

 おお、てことは。

「これから改めてよろしく、リディア」

「よろしくお願いします、エルさん」

 お互いに改めて挨拶を交わし、私たちの今後の方針が決定したのだった。

 きっと、長い旅になるだろう。

「よし、そうと決まれば早速行動だ、時間が惜しい」

「ですね、テキパキやっちゃいましょう」

 エルさんにはあまり時間がなさそうだし、さっさと行動するに越したことは無いでしょう。

「この後の行先は北東のリンドル王国だ、ただそっちもすぐに手が回るだろう。だから―――」

「もっと先へ、ということですか?」

「そういうことだ。リンドルについた後はそのまま東のフォルサバナ共和国へ抜ける」

 つまりとりあえずの目標はフォルサバナ共和国への到達か。

 話しながらも、エルさんは荷物をまとめて愛馬のレリルちゃんに乗せていっている。

 ただ、妙にその荷物が少ないような、そんな気がした。

「よし、それじゃあリディアも乗ってくれ」

 疑問を口に出す暇もなく、エルさんは片づけを終え馬の背に跨っている。

 乗ってくれ、ということは二人乗りになるのだが、馬が重くはないのだろうか?

「二人で乗っちゃったら、レリルちゃんが重たくないです?」

「こいつは力持ちだから大丈夫さ。伊達に長年鎧を着て乗ってない」

 なるほど、たしかにそれなら納得だ。

 エルさんがやったようにエルさんの後ろに跨ろうとしたら、ひょいとエルさんの前に抱き込まれる形で乗せられた。

「よし、行こうか」

 エルさんが手綱を引くと、馬がそれに合わせて歩みだし、次第に加速していく。

 こうして、わたしとエルさんとの旅が始まったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ