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二章・影遊び(2)

 ミツマタが“凶刃”を手に再度戦場を駆ける。スズランへの攻撃に集中していたミナの影に斬りつけ、返す刀で背後から襲いかかって来たリュウトの影を両断した。二体はすぐに再生を始める。だがわずかに再生速度が落ちていた。一度カイの影を追い詰めたことで彼の“確信”も強化されたらしい。

「ハッハア!! 待たせたのうおまんら! おい達も混ぜてくれや!!」

「ミツマタさん!!」

「先生、我々も!」

「ええ!!」

 スイレンもまた師の力により復活を果たす。さらに彼女達の周囲には数人のカゴシマ兵。イマリの師弟が力を合わせ、救えるだけの命を救ったのだ。

 命知らずの精兵達は死にかけたばかりの身でなおも闘志を燃え上がらせる。

「大将だけに戦わせるな!」

「そうじゃあ! 手柄の独り占めはいかん!」

「カカッ! ならば、おいより先に討ち取って見せよ!」

「やらいでか! キエエエエエエエエエッ!」

 彼等の攻撃もまた、ほんの少し、浅く、だが確実に六柱の影にダメージを刻んだ。矮小な存在と侮っていた者達の予想外の力に足止めされる二体の影。


 さらに、


「我等も推して参る!!」

「ユリ様!!」

 ミヤギの女王ユリ率いる騎馬隊もやって来た。戦場を素早く駆け抜けながら六体の影に一撃を加えて離脱し、すぐにまた別方向から突っ込んで来る。スズランの護符が放つ金色の光、その輝きで美しい軌跡を描きながら。

「ガウッ!!」

「グルゥ!!」

 ペルシアとウェルの二頭も共に攻撃に加わる。時にはモモハルを、時にはミツマタ達を、戦場を縦横無尽に駆け回りながら味方の援護を繰り返す。

「お待たせですスズラン様! 我等も戦います!!」

「心強いです!!」

 彼女達の攻撃でも大したダメージは入っていない。それでも間断無く続けていれば再生を繰り返させ時間を奪うことはできる。


 直後、彼方からの砲声を聴き取ったミツマタが叫ぶ。


「全員退避! 砲撃が来っどぉ!!」

「おっと!!」

 その言葉を聞いて素早く離脱するユリ以下騎馬隊。他の面々もそれぞれが素早く六柱の影との距離を取った。慌てて転びかけたモモハルをクルクマが支える。

「気を付けてよ!!」

「ごめん!!」

「スイレン、皆さんの前に障壁展開!!」

「はいっ!!」

 一ヵ所に集まった友軍の前に障壁を張るロウバイとスイレン。直後、敵に対し砲弾の雨が降り注ぐ。全てオクノキア弾頭を用いた宝石弾。着弾と同時に蓄積した魔力を解放して大爆発を起こす。

 繰り返される砲撃。飽和攻撃により影達はその場に釘付けにされた。わざと着弾に時間差を設けてあるため、そう簡単に砲撃が途切れることは無い。


 そして、その間についに──空中の大穴が閉じた。


「よっし!」

 アルトラインら下位神による界壁修復が終わった。これで敵の増援は入って来られない。すかさずスズランは攻勢に転じる。

「皆さん、あれを使います!」

「!!」

 その一言で全員が彼女の意図を察する。遠き深淵に身を置く敵に対し致命的なダメージを与えられる唯一無二の攻撃手段。


 ソルク・ラサ(女神の鉄槌)


(敵は狭い範囲に固まっている! 力の差を考えると長引けば長引くほど不利! だからここで速攻をかけます!)

 早速詠唱を始めるスズラン。歌のようなそれが終わるまでにかかる時間は二分。その間に自分達が何をすべきかも、やはり全員が知っていた。

「逃がすな!! ここで決めっど!!」

 砲撃が止んだ瞬間、ミツマタが凶刃を担いで走り、再生中のカイの影を切り裂く。他の影にも歩兵達と騎馬が次々に斬撃や刺突を見舞う。すべきことは足止め。あの詠唱が完了する瞬間まで敵をこの場に釘付け出来れば自分達の勝ち。

 だが敵影の一つ、紫光を帯びた影にスイレンが攻撃しようとした瞬間、フッと相手の姿が消えた。

「なっ!?」

 幻術だった。本物の影はすでに空中へ浮かび上がり、詠唱中のスズランを守るキョウト魔道士隊に肉薄している。

「いつの間に!?」

 突然至近距離まで迫られ焦る魔道士隊。長身の女の影が光を帯びた手で彼等の複合魔力障壁に触れると、あっさりそれが消滅した。術式を解析されてしまったのだ。

(まずい!?)

 戦慄するスズラン。よりにもよって最悪の敵。ソルク・ラサの詠唱中、彼女は無防備になる。今は仲間に任せるしかない。

「ひギャッ!?」

「グげ」

 圧倒的な腕力で叩き潰され、次々落下する魔道士達。障壁を無力化された状態では盾にすらなれない。敵の攻撃はスズランの護符の効果をも易々と貫通する。

「くっ!!」

 ストレプト達は一転、ホウキを使った機動戦を選んだ。スズランに迫る影の周囲を高速で旋回して様々な術を叩き込む。だが攻撃魔法も拘束魔法も全て相手に触れる直前、解析されて霧散してしまう。やはり魔法は通じない。

 いや、それどころか敵は自分に向けて放たれた術を全て倍化し撃ち返した。

「ぐあっ!?」

 雷撃を受け墜落するストレプト。仲間もことごとく地に落ち、百人以上残っていた魔道士隊が一瞬で壊滅した。

 そうして障害を排除した影は、悠々とスズランに襲いかかる。

『ウィンゲイト!』

「んぐっ!?」

 首を掴まれ強制的に詠唱を中断される。素早く切り替えたスズランは魔力弾で相手の腕を吹き飛ばし、一旦地上へ逃れた。

「げほっ! ごほっ!!」

 世界最高の強度を誇る自分の魔力障壁までいとも容易く無力化された。咳き込みながらショックを受ける彼女の前に、追って来た影がゆっくりと降り立つ。呼びかける名は常に同じ。


『ウィンゲイト』


 何度も何度も、そればかりを繰り返す。

 まるで呪詛だ。


「あ、貴女だって……ウィンゲイトでしょう……」


 ──この敵は≪情報≫神の影。名はユカリ・ウィンゲイト。スズランの祖先マリアの姉。全く同じ姿で生まれた一卵性の双生児。

 だが影は結局ただの影。本物の六柱の絶望を再現しただけのそれはスズランの言葉など聞かず、再び腕を伸ばして来る。

「くっ!」

 魔力障壁で全身を包み、飛んで距離を取ろうとするスズラン。ところがそのタイミングで再び空間に固定された。均衡神ユウの影がこちらをじっと見つめている。

「ま……たっ!?」

 情報と均衡。魔道士殺しの最悪のコンビ。

「おのれっ!!」

 させじと駆け付けたユリ率いる騎馬隊がペルシア・ウェルと共に攻撃を加えた。しかし焦りのせいで深度が足りない。そんな攻撃では身じろぎ一つさせられない。

「スズちゃん!!」

 クルクマもまた敵と味方の間をすり抜け、救援に駆け付けようとする。ところが、その前進を生命神リュウトの影が立ちはだかって阻む。

「邪魔じゃ!!」

 ミツマタが斬りかかって援護するも、今度は彼の背後からミナの影の魔力弾。

「危ない!」

 すんでのところでスイレンとロウバイの複層障壁が受け流し空中で爆発させた。命拾いしたものの、爆風で体勢を崩した彼等に六柱の影はすかさず追撃を仕掛ける。それぞれが攻撃を凌ぐのに手一杯になり、助けに来る余裕を失ってしまった。

 足止めをするはずが、逆にその場に釘付けにされる。

 いや、一人だけ──あらゆる障害を無視してスズランとユカリの間に割り込んで来る者がいた。

「スズっ!」

 モモハルだ。願望実現能力を使った空間転移。普通なら追いつける者はいない。

 ところがやはり相手はさらに上位の神々の影。スズランの前に出現した彼の腹を、ほとんど同時に転移してきた別の影が蹴り上げる。

「ぅぶッ!?」


 転移先を見抜き、一瞬早く先回りして来たそれは≪時空≫神カナメの影だった。


「モモハル!?」

「う……っあ……」

 力無く倒れ伏す彼。ダメージは見るからに深刻。口から大量の血を吐き出す。至急ロウバイかスイレンに治療してもらわなければ命に関わる重傷。

 だが、スズランも彼の心配をしている場合ではない。

『ウィンゲイト』

「あぐっ!?」

 モモハルの安否に気を取られた瞬間、またしてもユカリの影に捕まってしまった。首を掴まれ、そのまま高く持ち上げられる。手加減しているのか瞬時に絞め殺されるほどの力ではない。それでも呼吸は阻害される。次第に視界が暗くなっていく。

 直後、ユカリの影の頭部に魔力弾が命中した。

「神子様を……はな、せ……」

 まだ息のあったキョウトの魔道士が伏したまま腕を伸ばしていた。ユカリの影はそんな彼を一瞥すると無詠唱で術を放ち、彼とその周囲で倒れていた者達をまとめて焼き払ってしまう。

 カッと、スズランの中でも怒りが燃えた。

「こ……のっ!!」

 放出された高圧の魔力がユカリの影の手を砕く。すかさず、そのまま反撃に転じようとする彼女。ところが今度はカナメの影の手が伸びて来て顔を鷲掴みにされた。

『ウィンゲイト!』

「がっ!?」

 そのまま力づくで組み伏せられる。さらに、またしても均衡神ユウの力によって全身を固定された。今度は指先一つ動かせない。


(誰か援護を!)


 動かせない目の代わりに魔力探査で周囲の状況を探る。けれど仲間達もすでに満身創痍。助けには来られそうにない。

 砦に援護射撃を頼む? 無駄だ──仮にこの状況で砲撃を行ったとて、痛手を被るのは味方だけ。完全に詰んでいる。

 なのに、それでもスズランは諦めない。まだある。必ず逆転の一手が残っている。体を動かせず思考しかできない状況の中、必死にそれを模索する。

 そんな彼女の願いに応え、誰かの声が囁いた。


 ──使って──


 あれにもう詠唱は必要無い。頭の中でそう言っている。最初に使った夜の時点ですでに“入力”は終わっていたのだ。

 信じていいのかわからない。何度も邪魔をされた。でも、この状況では信じるしかない。溺れる者は藁をも掴む。


『ッ!?』


 影達が一斉に振り返る。スズランの体内から青い輝きが溢れ出して来た。その光が彼女の動きを封じていた≪均衡≫の力を押し返す。自由を取り戻した少女は、すぐさま右腕を天に向かって突き出した。自分を見下ろすユカリとカナメの影に向かって。

 いや、もっとだ。味方が頑張ってくれたおかげで六体の影は今も全員射程内。この距離ならば、まとめて消せる!


「ソルク・ラサ!!」


 詠唱を経ずして放たれる青い光。それはかつてと同じく天を貫く巨大な柱となり最前線にいた者全てを飲み込んで六柱の影だけを消滅させた。

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