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二章・影遊び(1)

 スズランの攻撃を受け砕け散った二体の影は、即座に再生を始める。

 しかし遅い。さっきまでのような瞬間的な回復が出来ていない。こちらの攻撃に一定の効果がある証。

 確信を深めたスズランは、すかさず追撃をかけようとする。

 ところが強制的に止められた。空気が固まったかのように空中に固定されて。

(これは!?)

 少年の影がこちらに向かって手を伸ばしていた。その手の平が緑色に輝く。ウィンゲイトの記憶に照らし合わせて思い出した。あの少年の力と名は──


「き……≪均衡≫の……ユウ……」


 これが女神の記憶にも無い≪均衡≫を用いた戦闘法。スズランの推進力と空気の抵抗力。さらに重力による影響までも見切ってバランスを操り、動きを封じ込める。

 さらに別の中肉中背の影が砕け散った仲間に向けて手をかざすと、橙色の光が放射され二体の再生を加速させた。


(≪生命≫神リュウト!!)


「させるか!!」

 クルクマの操る虫達が二体の影を飲み込む。その瞬間スズランを固定していた力が消え、自由を取り戻せた。そして彼女は気付く。

「目だわ! クルクマ、ユウの影をそのまま閉じ込めておいて! 多分、見えない相手は止められない!」

「了解!」

 ユウの影の周囲にさらに虫を集めて隔壁を作り出すクルクマ。

 しかし間髪入れず再生半ばのカイの影が走り出す。クチナシに匹敵する瞬発力で一瞬の内に彼女の前へ。

 顔を狙って突き込まれた手刀を、今度はモモハルの剣が弾いて逸らす。

「──僕だって!」

『!』

「鍛えて来た!」

 ミツマタやスイレン以上の“確信”が乗った反撃を避けるカイ。今のを受けていたら彼でも確実にやられていた。

 この二年間、モモハルはノコンやミツマタと稽古を重ね己を磨いて来た。さらに加護による身体能力向上とスズランの護符の二重強化。今の彼はこの状態でなら歴戦の戦士以上の鋭さを発揮できる。

 一撃必殺の力を持つ≪破壊≫神カイ。

 モモハルは事前の打ち合わせ通り、彼の相手を引き受ける。

「さあ来い!!」

『……』

 そして二人は切り結んだ。嵐のように舞踊のように。

「モモハル、気を付けなさい! さっきも言ったけど、その影の力は≪破壊≫!!」

「わかった、壊されないよう注意する!!」

 言った途端、拳を赤く輝かせ繰り出すカイ。この一撃を受けることは不可能。未来予知によりそれを知ったモモハルは防御せず回避に徹する。

 前髪を掠めた攻撃が空を切った直後、死角から回し蹴りが飛んで来た。軸足を狙ってのその攻撃も、やはり最小限の動きでかわしきる。彼の眼は常人より視野が広い。そもそも死角など存在しない。

「──ふう」

 乱れかけた息を整え、精神を集中するモモハル。超視力と未来予知。この組み合わせは強力だが、意識的に使おうとすると疲れるのだ。

 一方、彼の子供らしからぬ動きを見たカイの影も、実力を認めた証か半身を開いて構えを取った。

『……強い』

 あの組み合わせは相性が良い。向こうはなんとかなりそう。不安はあるもののこのまま任せようと決めるスズラン。そこへクルクマが駆け寄って来た。

「大丈夫!?」

「ええ、大丈夫。おかげで助かりましたわ」

 クルクマと背中合わせになり、カイ・ユウ以外の四体と対峙するスズラン。敵は彼女達を包囲してゆっくり輪を狭めて来る。

 圧倒的に不利なことは否めない。敵は始原七柱のうち六柱の影。今までの攻防で彼等の能力の一部を使えることもわかった。油断ならない相手である。

(それに、あの穴──)

 敵の動きを警戒しつつ、スズランは宙に空いた巨大な穴にも気を配る。今のところさらなる“呪い”が流入してくる気配は無い。しかし数多の界球器を滅ぼした敵がここにいるだけで全てということも無いだろう。

(ここの分を倒す前にまずはあれを塞がないと……無限に増援を呼ばれたりしたら流石にどうにもなりませんわ)

 方針は決まった。彼女は素早く呪文を唱え、空中に向けて右手をかざす。


「眩く輝き天を満たせ」「小さき星々!!」


 放出された無数の星屑が空中で“B”の字を形作った。つまりプランB。打ち合わせておいた作戦の発動を各砦の友軍へ伝える。

「スズラン様から指示が出たぞ!!」

「魔道士隊、ホウキに騎乗!!」

「全門に特殊砲弾装填! 発射用ォ意!!」

「騎馬隊、我に続けっ!!」

 キョウト王ストレプトが自らホウキに跨り、イマリから来た将軍は壁上に等間隔で整列した砲兵隊へ指示を出す。ミヤギ王ユリも愛馬を駆って飛び出した。ペルシアとウェルも彼女と並んで氷原を走る。

 ここからは総力戦。スズランの言う通り出し惜しみする必要は無い。


 まずは空の大穴!


「クルクマ、モモハル、足止めお願い!」

「任せて!!」

「気を付けてねスズ!!」

 お互いに声をかけ合い散開する三人。クルクマは虫の群れを使って出来る限り多くの影を引き付け、モモハルは破壊神カイの影とさらに打ち合う。そしてスズランは魔力障壁で全身を包み、空中の穴を目指した。

「とりあえず、これで!!」

 彼女はもう一つ障壁を展開し、巨大なそれで穴を塞ぐ。そしてすぐさまこの場にいない味方へ呼びかけた。

「アルトライン、今のうちに界壁の修復を!!」

 返答は脳に直接届く。

【ああ、君を通じてその空間に干渉する。魔素の影響でしばし時間を要するが、どうにか耐えてくれ】

「どのくらい!?」

【五分ほどで終わるはずだ】

「長いっ!」

【だからアイビーも連れて行くべきだと言った】

「しかたないでしょう! 社長とナスベリさんには別の役割があるの!!」

【わかっている。出来る限り急ごう】

「お願いね!! くっ!?」


 突然目の前で爆発が起こる。魔力障壁越しでもガツンと殴られたような衝撃が伝わって来た。少女の影が再生を終え、こちらを見上げている。


「ミナ……!!」

 やはりあれは≪創造≫神ミナ。ウィンゲイトの記憶がそう訴えている。その記憶が葛藤を生み出し、反撃に転じようとする彼女の意識を阻害した。


 戦いたくない、戦いたくない、戦いたくない!


「なんなん……ですの!? く、ううううううううううううううううっ!!」

 躊躇っている間にまた凄まじい数と威力の魔力弾が連続して放たれた。空の穴を覆った魔力障壁と自分を覆った魔力障壁の二つを維持しつつ連射に耐える。まるで駄々っ子が拳を打ち付けて来るような感情剥き出しの執拗で激しい攻撃。


 ──戦いたくない!


「邪魔しないで、ウィンゲイト!」

 あれは敵。そして自分は子孫であって彼女本人ではない。あくまでココノ村のスズラン。かつて最悪の魔女と呼ばれた者だと自身に強く言い聞かせる。

(他人の記憶に引っ張られるな! 私は私よ!!)

 ミナの攻撃はさらに激しさを増していく。クルクマとモモハルはそれぞれ能力を活かし今も全力で足止めを行ってくれているが、それでも二人で六体全員の動きを封じることはできない。

 そしてスズランを覆う魔力障壁についに亀裂が走り始めた、その時──ようやく待望の増援が到着した。


「キョウト魔道士隊、複合障壁展開!!」

「ストレプトさんっ!!」


 ホウキで飛んで来たキョウトの魔道士三百人超がスズランの前方に集結して陣形を組む。全員が護符の力で金色に輝き、本来の実力以上の力を発揮している。

「複合障壁維持! 絶対にスズラン様に当てさせるな!!」

「はい!!」

 王であるストレプトの指示に従い、紡錘形の障壁を展開して魔力弾を受け流す魔道士達。複数人の力を合わせ一つの結界と成すだけでも高等技術。それを複層で行い維持し続けている。生半可な訓練で出来ることではない。

 それでも力の差は圧倒的。時には障壁の一部が砕け、貫通して来た力により命を散らす彼等。

 それでもストレプトは慌てず、欠員の数に合わせ都度陣形を組みかえ、スズランを守る盾の役割を果たし続けた。

 だが自分の為に死んでいく者達の姿は、彼女をさらに動揺させる。

「無茶しないで下さい!!」

「お断りします!! 我々は御身を守るために訓練して来たのですよ! だから貴女も障壁を維持し続けて下さい!! それは貴女にしかできないことだ!」

 そう答えた彼の顔は早くも散って行った仲間達の血で赤く染まっていた。二年前初めて会った時の気弱で卑屈な姿からは想像も出来ない。この二年で彼も王として確実に成長し、覚悟を決めてこの場に現れたのだろう。

 なら、その覚悟に水を差すべきではない。スズランも唇を固く引き結び空中の魔力障壁を維持することに専念した。もう記憶に惑わされてなるものか。

 ──直後、障壁が向こう側から激しく叩かれ始める。敵もついに増援を呼ぼうと決めたようだ。

「絶対に破らせません!」

「その意気じゃ!!」

 スズランの気迫に呼応し気勢を上げる男の声。驚いて目を見開くと、視線の先で戦狂いが再び暴れていた。

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