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 結局、改札は全滅でした。どうなってんの? これ。何をどうしたらここから出られるんだろう? 

 それにしても、いつもなら怖さでパニック状態になってるはずなのに、今日に限って冷静なのは、何で?

 首を傾げていると、再び手の中のスマホに着信が。あああああ、またしても勝手に通話になってる!

『おかけになった電話番号は、現在、使われておりません』

 いや、かけてないから! 私はかけてないからね!? そっちが勝手にかけてきてるんだよ!!

 なのに、スピーカー状態のスマホから流れてくるのは、同じメッセージ。いい加減、切りたいー!!

 スマホを投げようにも、手から放せないし。自分の手なのに、まるで自由に動かない。指ががっちりスマホを掴んでて、痛いくらいだよ。

 なのに、そのスマホからは相変わらずメッセージがループで流れる。

『おかけになった電話番号は――』

「やっかましー!! かけてねーわ!!」

 人は、恐怖が極まると時に鈍感になる。多分。怖さもあるんだけど、何よりもこの状況にいらついていたんだと思うんだ。

 こっちが怒鳴ったら、何故かメッセージが止まり、通話も解除された。え? 怒鳴るのって、効果あるの?

 思わずスマホの画面、見つめちゃったよ。いけない。今はそんな事をしている暇はない。

 何とか、ここから出なきゃ。


 それにしても、人のいない東京駅って、怖い。そして普段より楽に通れるのもあってか、いつもより広く感じる。

 いつきても、人が多いのがこの駅だからね。そんな、今考えるべき事じゃない事ばかり考えるも、現実逃避の一種です。

 ただいま、物陰にて休憩中。でも、こうして隠れていても、何も進展しないんだけどねー。

 でも、どうしてこんな事になったんだろう? 確か、叔母さんの家から帰る途中、電車で寝てた事から始まってるんだよね?

 でも、いつの間に寝たんだろう? 電車で意識が完全に落ちる程寝た事なんて、今までなかったのに。

 考えていたら、またしてもスマホが鳴る。画面には、和美ちゃんの文字!

「え? 和美ちゃん!?」

 慌てて通話ボタンを押してスピーカー状態にする。

「和美ちゃん!?」

『やっほー、美羽ちゃん。元気してるー?』

「うわーん! 和美ちゃーん!!」

 私はスマホに泣きついた。和美ちゃんだ、和美ちゃんと繋がった。これでもう大丈夫だ。彼女が助けてくれる。

「あのね、和美ちゃん、今ね」

 そうして、現状を口早に説明した。スマホの和美ちゃんは、何も言わずに聞いてくれてる。

 叔母さんの家に行った事、そこからの帰りの電車でうっかり寝た事、終点の東京駅に着いたら、様子がおかしかった事、改札はシャッターが降りていて外に出られない事。

「しかも駅に誰もいないし!」

『確かに変だね。……あ、そうだ、ホームは? 上がってみた?』

「え? いや、行ってない……」

『じゃあさ、行ってみなよ。もしかしたら、線路沿いに逃げられるかもよ?』

「線路沿い……」

『そう! ホームから飛び降りちゃえば、線路伝いに歩けるじゃない! ね? それなら帰ってこられるよ!』

 そう……かな……。でも、線路を歩くって、怖いよね。それに、人はいないけど電車まで止まってるかどうかはわからないのに。

 あれ? 電車止まってたら、そもそも私、東京駅まで辿り着けてなくね?

「ダメだよ、和美ちゃん。電車は動いてる可能性がある」

『もー、美羽ちゃんってば心配性だなあ。大丈夫だって!』

 ……何だろう? 違和感。でも、何にが原因でそう思うのかがわからない。

 あー、こんな時いちま様がいてくれたらなあ。あ、そうだ。

「和美ちゃん! お願い! 私の部屋から、いちま様連れてきて!!」

『いちま様?』

「うん! 緊急時にって、合鍵渡したよね!? それで――」

『いちま様って、誰?』

 一気に、背中に冷や水を浴びせられた気がした。和美ちゃんがいちま様を知らないはずがない。過去二回とも、いちま様に助けられた事を知ってるのに!

 それに、今更ながら、さっきの違和感に思い至った。呼び方だ。和美ちゃんは、私の事を「美羽ちゃん」ではなく「みいちゃん」と呼ぶ。

 じゃあ、この通話相手は、誰?

『美羽ちゃん? おーい、どうしたのー?』

「……あんた、誰?」

 思わず呟くと、通話の相手はくすくすと笑った。

『えー? 何言ってるのー? 美羽ちゃんの従姉妹の和美ちゃんじゃなーい。だからさあ』

 ここで、いきなり声が変わる。低く、地の底から響くような声。

『はやく線路に落ちろよ』

 そこで、ブツッと通話が終わる。……ねえ、言っていい?

 もう本当! いい加減にしやがれ!!

 何なのこれ!? どうして私がこんな目に遭うのよ!! どうして日中の東京駅なのに人っ子一人いないの! どうしてスマホが手から離れないのよ!!

 いい加減にしやがれバカヤロー!!

 でも、声に出して叫ぶ勇気なし。だって、声で「何か」に気づかれたら怖いもん。

 スマホ握ったままの手で頭抱えて、うずくまる。さっきの通話からして、ホームに出たら多分アウト。

 このまま駅から出られなくても、アウト。もう本当に、どうしろと?

「どうすればいいのよ、もう……」

 さすがに泣けてくる。こんなに怖い目に遭うなんて。どうしよう、どうしたらいいの?

 えぐえぐべそをかいていたら、またしても着信。ちょっとやさぐれつつ、今度は何だよと画面を見る。

 そこにあった名前は、登録していないものだった。でも、聞いた事はある。母方のひいばあちゃんの名前だ。

「何で?」

 これも勝手に通話になるのかと思ったけど、着信音が響くだけ。震える指で通話ボタンをタップすると、聞き覚えのない声が響いてきた。

『いちま様を呼びなさい』

 それだけ言うと、通話がぶつっと切れる。いちま様を、呼べ? そういえば、和美ちゃんと通話で、いちま様を連れてきてって頼んだっけ。

 いや、あの通話相手は結局和美ちゃんじゃなかったけど。

 でも、いちま様を呼べって、どうすればいいの? 一人暮らしの部屋には家電は引いてないし。スマホは今私の手元にあるし。

 ここから和美ちゃんに電話しても、多分本物には繋がらないだろう。呼べって、どうすればいいのよひいばあちゃん!

 焦る私の耳に、何か音が聞こえてくる。カツン、カツンという靴音だ。待って、駅でこんな足音になる靴って、あったっけ? ヒールならかろうじて出るかな……

 その足音は、確実にこっちに近づいてきている。どうする? どうすればいい!?

 焦る間にも、足音が近づいてきてる。やだやだやだやだ!

 頭を抱えて縮こまっていたら、またしてもスマホに着信。画面には、非通知の文字。

 これまで同様、勝手に通話になって、勝手にスピーカー状態になって声が聞こえてきた。

『美羽ちゃん!! いちま様助けてって言うんだ!!』

 え……? 実兄ちゃん? この声、確かに実兄ちゃんの声だし、話し方だ。通話はそれだけで切れてしまっている。足音はもうそこまで来ていた。

 何でそう思ったのかわからない。でも、私はスマホに向かって叫んでた。

「助けていちま様ー!!」

 叫んだ途端、私の意識は遠のいていく。その中で、小さなゲップが聞こえた気がした。

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