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召喚されたのに非戦闘職は不要と放り出されました。理不尽!  作者: 笠谷 柳斗
第一章 リンドウ家ファミリー牧場計画(仮)
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01 プロローグ

*ルビ修正です。内容自体の変更はありません。

 みな様コンニチハ。

 おれは〈輪堂(りんどう)鈴乃助(すずのすけ)〉です。今は諸事情から〈スズノ・リンドール〉と名乗ってます。十六歳です。

 日本の公立高校のもうすぐ二年になる寸前で、異世界にある〈ギェントイール王国〉に連れて来られました。

 もうすぐ新学期始まるけど、出席日数足りる内に日本に帰れるのかなぁ……?


 って心配は、取りあえず置いといて。


 家族は、母の〈鈴代すずよ〉と女子大生の姉〈鈴夏すずな〉、それに父親の〈夏喜なつき〉です。

 四人家族ですが、父親は――おれが小二の時だから――八年前に急に居なくなって、それきり連絡がありません。

 母と姉は死んでないと思ってたようで、七年経つと出来る〈死亡宣告〉を完全にスルーしてました。

 おれは――連絡出来ない理由が何なのか解らないので、『よく解らない』としか思ってませんでした。


 ついこないだまでは。


 今はよく解ります。解ってしまいました。

 父も〈()()〉に連れて来られたんです。

 現代日本とほど遠い――と言うか次元も違うっぽい――このギェントイール王国に。


 ……そりゃ連絡のしようが無いよね。



 何で言い切れるのかと言うと、この国の〈騎士団長さん〉が実際に会ってたからです。


 証拠は、母の手に握らされた布。

 この世界の普通のハンカチでしたが、ソコに刺繍されてました。

 日本語で〈シンライ〉〈デキル〉〈人〉――って。


 母(いわ)く『絶対に父の字』だそうです。

 父は一度王城で保護されて、その時に団長さんと会って仲良くなった模様。


 そして、おれたちも保護されました。

 案の定〈人道的な意味〉じゃ無く、〈スキル的な意味〉だったけどね。


 母は〈レアの治癒スキル〉と〈診断〉、姉は〈レアの戦士スキル〉と〈見切り〉を持ってるので、本気で即戦力。だけど〈下位のスキルに鑑定偽装〉して、団長さん以外には隠し通してる。

 一方おれは、〈レアだけど一般スキル〉の〈清々(すがすが)しい目覚め〉だけで、ステータスも一般人並み。戦闘力は皆無。


 召喚されたのは〈母と姉とおれ〉の三人なのに、お城のエライ人に会ったら保護するのは〈母と姉〉二人だけって言われたよ。

 理由を聞いたら、『非戦闘員は要らない』――だってさ。

 非戦闘員だからこそ、勝手にんだ責任取って、生命と生活を保護するのがマトモな人間じゃね?と思うけど。


 色々アレな王サマって、実在するんだね。

 物語上必要な役で、虚構フィクションだと思ってた。


 結局、おれだけ騎士団長さん個人にしばらく保護されて、城から出て生活する道を探すコトになりました。

 母と姉は下位スキルでも〈聖女〉と〈勇者〉に認定されて、強制的に〈魔王討伐〉させられるそうです。


 まぁ、おれは戦うの好きじゃ無いし。ホントに〈姉の為の目覚まし要員〉だと泣けるし。いいんだけどね。

 何となくモヤモヤするけど。

 団長さん自体はいい人だし。護衛付きで〈多分父親〉のトコに送ってくれるコトになったし。いいんだけどね!



 そんなこんなで。

 おれは今、護衛してくれてる〈冒険者さん〉と一緒に旅の空です。

 ギェントイール王国の〈王都〉から離れるコト十日。徒歩と馬車とで大分来た気はするんだけど、まだ〈王家の領地〉を出てないんだってさ。

 割とインドア派のおれは体力無いし、歩くのも遅いもんなぁ……。


 護衛の〈レインさん〉は、金髪交じりの赤い髪にあおい瞳の〈獣人じゅうじんさん〉。濃い赤の犬系三角耳とフサフサ尻尾が無敵にステキでいつか思いっ切りモフモフさせて欲しい――じゃ無くて!

 強制スキンシップのおかげか、割とすぐ仲良くなれました。

 敵の気配を察知すると、おれを担いで即行ソッコー移動してくれるからね。獣人さんだからかスゴい速さで、結構な距離を。


 ホントは一人で〈身体強化〉使って、こんな風にしたかったけど。実際目の当たりにしたら、おれには〈無理ゲー〉だと理解しました。

 魔力以外が〈ほぼヒトケタ〉のステータスは、たとえ倍にしても大差無いのです。あっと言う間に敵に追い付かれて〈人生終了ジ・エンド〉。

 そりゃあ満場一致で却下されるワケだよな……。


 おかげで時々、ジェットコースター乗ってる気分になれます。森の中は特に上下移動するからソレっぽい。

 野営で作ってくれるご飯は美味しいし、町や村で泊まる宿もご飯が美味しいトコばっかだし、寝付けない時はいつの間にかフサフサ尻尾で包んで寝かし付けてくれてるし。

 感謝以外ありません。文句の付けようが無いとはこのコトか。


 あ。

 でも、名前の呼び捨てだけは難しいです。

 されるのはいいけど、〈目上の人を呼び捨てる〉とかホントにムリ。

 せめて渾名あだなとして、〈レインのオッサン〉でご勘弁願いたいです。無礼なのは重々承知で。

 もっと親しくなれたら、呼び捨てに移行出来るかも。なので今はご容赦下さい――と心の中で謝罪しつつ、頑張って呼んでます。



 そして今は、〈乗り合い馬車〉で移動中。


 昨日の内に予約してた馬車はナゼかダメになったので、途中までルートが重なる別の馬車に乗ってます。

 同乗者は全員男で、御者さんと商人さん以外は獣人さん。ロップイヤーの兎さん親子と、馬車の護衛で猫科二人と熊さんの冒険者パーティー。

 次の町まで四日だけど、おれたちは三日目の途中で降ろしてもらう予定。後は歩く。


 どうやら〈個人所有の馬車〉は〈マイカー〉、〈辻馬車〉は大きな街にしか無い〈タクシー〉、〈乗り合い〉は町を繋ぐ〈長距離バス〉ってカンジ。

 ただし長距離の単位は〈目的地まで何日〉で、道中は野営が当たり前。

 電車とか無い所為か、目的地までの乗り降りは割と自由が利くみたい。停留所が無い場所に用なら、近くの街道で乗り降りするのが普通なんだって。


 全部の道が整備されてるワケじゃ無いし、木製車輪で衝撃吸収の工夫も無い。スピード出さなくても、荷台はガタガタ揺れまくる。

 高級馬車なら〈金属製〉や〈宿泊設備付き〉もるらしいけど、〈ゴムのタイヤ付き〉は見たコトも無いらしい。

 日本の車の乗り心地は、〈思い出したら負け案件〉デス。


 そんな話を聞きながら、一日目は野営地まで特に問題も無く、同乗者の人たちとも平穏に過ごせました。

 このまま何も起こらず、無事に目的地に着けるといいなー。



**********



「あ~、やっと揺れなくなった……」


 思わず呟くと後ろ斜め上でクッと音がして、振り向く前に頭をポンポンと優しく叩かれた。


「お疲れさん。慣れない乗り合い馬車で、今日一日よく頑張ったな」


 笑いとねぎらいを含んだ優しい低音は、顔を見なくても誰の声か判る。おれの護衛で、当面の保護者でもある〈B(ランク)冒険者〉の〈レインのオッサン〉だ。


「とは言え。野営地に着いただけだから、あんまり気を抜くんじゃ無ぇぞ。結界は張るが、不測の事態はいつでも起きるんだからな?」

「ん……解ってるよ」


 少し唇を尖らせて自分の荷物を奪い取り、フテクサレて見せる。反抗期っぽく見えるといいな。


 おれは、〈王都から領地に連れ戻される途中の問題児貴族〉の役なのだ。故に、護衛の呼び方を間違うコトは許されない。

 呼び捨てはまだムリなので、なるべく口を利かないか、〈オッサン呼び〉で誤魔化すつもり。

 ソレ以外は普段通りでもオッサンがフォローしてくれるらしいけど、だからって迷惑ばっか掛けてるワケにもいかないよな。

 『自分のコトは自分でする』、ソレがウチの家訓。


 ……何だかんだでいっつも姉ちゃんにお小言喰らってたおれは、出来たためしが無い気もするけどさ。

 でも今は姉ちゃん居ないし、自分で全部やんなきゃ。

 頑張るぞ!


 馬車の陰で気合い入れようとしたら、背骨から脳天に鋭い痛みが突き抜けて、ギクッてなった。


 一昨日おとといの夜打った尾てい骨と同じ位置で、同じ痛み。

 昨日は何とも無かったから、もう治ったと思ったんだけど。馬車の揺れで再発したっつか、治り掛けを連打されて悪化したっつか……。

 マント丸めてクッション代わりにしてたけど、あんまり効かなかったなぁ。昼休憩の時よりヒドくなった気がする。



「スズノ――お前、ソレっ――!?」


 声の方振り向いたら、レインのオッサンが居た。


 何でまだ居るの? 荷物持って先に行ったと思ってたのに。

 まさか、無意識に腰さすってたの見られてた? ギリ誤魔化せるかな?


「えっと――ずっと座りっぱで揺れてて、ちょっと腰が痛くなっただけ。ダイジョブ、大したコト無いから。ね?」


 オッサンはおれの声なんか耳に入ってないカンジ。真っ青な顔で呆然として何か呟いてて、持ってた荷物も落っこち掛けてる。


 ヤバっ――コレ絶対、誤魔化せて無いよね!?


「やらかしちまった……ナッキーに申し訳無ぇ……オレは殺されても仕方が無ぇ……」


 その呟き、超不穏なんデスケド!?


「ち――違うよ、おれが勝手に転んで尾てい骨打ったの! 靴ヒモちゃんと結ばなかったから自分で踏んじゃって、それで転んだの! オッサンの所為じゃ無いから、そんな表情カオしないでよ!」


 今にも死にそうな顔してる胸元掴んでガクガク揺らすと、碧い隻眼がようやくおれに焦点を合わせた。


「昨日の、朝……の所為じゃ、無ぇ、か……?」


 ん? 昨日の朝?

 むしろ、一昨日の深夜って方が近いと思うけど?


 それより、オッサンの声が思いっ切り掠れて震えてる。耳も尻尾もペタンとしてて、怯え方が尋常じゃ無い。

 黒いモヤモヤで目が淀んでた時よりヒドいんだけど!?


 ウチの父親ってそんなに恐い?

 もしかして、八年会わない間に〈怪物親モンスターペアレント〉になっちゃったのか?

 ちょっと――いや、大分ありそうでヤだなぁ……。


 とにかく。

 オッサンを起こしたからでは無く自分ですっ転んだ所為だから、オッサンの所為では無いのだ!


「一昨日だから、オッサンは悪くないよ! 昨日は平気だったから、もう治ったと思って言わなかっただけ!」

「そ、か……?」

「そーです!」


 レインのオッサンは言い合ってもムダだと思ったのか、一つ溜め息をつくと、腰に付けてたベルトポーチから筒を一本取り出した。

 コルク栓がしてある透明な試験管っぽい筒には綺麗な青い液体が入ってて、普通に薬っぽい。


「痛み止めだ。飲んどけ。よっぽどじゃ無きゃ、すぐに治まる」

「ありがとう、オッサン」


 おれは素直に受け取って、ありがたく飲みました。

 痛いからって言うより、急にギクッてなるのがイヤだったんだよ。ずっと痛いなら我慢出来るもん。


「どうだ? まだ痛いか?」

「ううん。体の中がふわふわ~ってしたら、一瞬で痛いのが無くなっちゃった。スゴいね、この青くて甘い水」

「ああ……よく効く痛み止めだからな」


 筒も中身も材質は不明だったけど。

 痛み止めより〈回復薬〉とか〈治癒薬〉みたいな物じゃないのかな、魔力的に?

 別にいいけどね。


 オッサンを安心させる為に、割り当てられたテント設置場所へ小走りで向かったら。

 いやいや、スゴい効き目の薬だったよ。疲れも消えてた。

 テント設置を張り切って手伝ったら、オッサンにメッチャ苦笑いされた。



*********



 ご飯は乗り合い馬車の料金に含まれるって聞いてた通り、真ん中に簡易カマド設置して御者のおじさんが作ってくれてた。明日の朝も足して食べるから、大鍋一杯。

 野菜もキノコもお肉もたっぷり。全部干したヤツだから、出汁が尋常じゃなく出てる。


 作ってる時から絶対美味しいって思ってたけど、案の定美味しかった!


 一個ずつ渡された〈ナン〉みたいに平たくて固いパンにかじり付いて、ふと思い出した。

 そう言えば姉ちゃんが『怪我したらすぐ治せ。誤魔化すな』とか言ってたな――と。


 もしかして、〈ケイル団長〉から〈父親の怪物親(モンペ)化〉を聞いてたのか?

 だから、おれのケガ自体を証拠隠滅ショウコインメツしろってか。

 母も、ケガするなって言ったのはそーゆー意味でか。

 ナ~ルホド~。


 うん。じゃあ、ケガする前に避けるのも〈アリ〉だよね!


「オッサン、このパン固過ぎて食べ方が判んない……」

「ああ……まぁ、慣れねぇとそうだろうな。スープに浸しても駄目なら食べてやる。無理すんな」

「うん」


 結局、パンは半分以上オッサンに食べてもらって、スープだけお代わりさせてもらっちゃった。

 冒険者さん三人とロップイヤーのおじさんと商人のおじさんの視線が、ちょ~っと生温かい気がしないでもないけど。

 ロップイヤーのちびっ子は楽しそうにお代わり仲間になってくれたし、作った御者さんは嬉しそうだったし、オッサンも気にして無さそうだから、大丈夫だよね?



********



 翌日は日の出頃に起床で、朝ご飯食べたらすぐ出発。

 でもおれ、そんなに早く起きたコト無いんだよな……。


「ちゃんと起こしてやるから、安心して寝てろ」


 短時間だけ夜の見張りに組み込まれたレインのオッサンが、笑いながら頭ポンポンしてくれた。

 ソレで思い出したよ。おれには〈清々しい目覚め〉があるじゃん。


(明日の日の出頃、ココに居るみんなが清々しく起きれますように!)


 ちゃんとした発動の仕方とか判んないから、取りあえず心の中で念じておいた。


 後はオッサンが傍に居てくれる間に寝ちゃわないと、心配で眠れなくなるよね。

 なので、おやすみなさい……。


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