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06 勃発、保護者面談? in緑の試練

*読み難かったので文章を少し整えました。

「ふぅ~……この程度で済んで良かったぜ」


 若葉色の壁と赤茶色の天井や床、サーモンオレンジ色の椅子の背にも飛び散っている〈立体的な白い模様〉をざっと見渡し、リュージンは煙管(キセル)雁首(がんくび)からギラギラ光る煙を大量に吐き出した。


「……『悪夢見て獣化(じゅうか)』ならまだしも、『寝ぼけて殲滅(せんめつ)魔法の展開』なんてされた日にゃぁ、流石に魔力消すの間に合わなかったもんなぁ」

「ちょっとリューさん! ソレは()()深酒しちゃった時の話でしょ。僕だって、そうそうやらかしたりしませんよ。失敬な」


 吸い口に歯形が付いていない事を確認しつつ、思わずこぼしたボヤきは小声で反論された。

 珍しい事に『ナッキーが魔導人形(ゴーレム)たちに()()()』らしい。温和(おとな)しく〈ヘの字口〉で佇む姿を見て、リュージンは煙管を胸ポケットに差しながら片眉を上げる。


「コレ、お前の魔力だろ。立派にやらかしてんじゃねぇか」


 全室〈温度及び状態保存〉の魔法陣が組み込まれている筈の室内で、ぶるりと身を震わせ、下から順に上着のボタンを留めて行く。


「え~? この程度で済ませたのに~?」


 ベッドに近付く程足下でジャリジャリと音がするのに顔をしかめたリュージンに向けて、不服そうな甲高い声が上がった。



夏喜(ナツキ)……マジで何した? 怒らないから、言ってみろ?」


 半眼でジットリ見つめる青灰色の瞳から琥珀色の瞳を逸らしたナッキーは、渋々といった様子で右手に持った鈍器――頭に付いた魔石から手元まで複雑な紋様を繋げて彫り込んである金属の棒――を見せる。


「コレで、ちょっと殴り掛かっただけ。勿論、〈レイくんなら防げる程度〉だよ」

「〈スズを庇った状態で〉か?」

「ちゃんと〈無傷〉でしょ。魔力漏れまでは止めなかったから、飛び散った分が凍っちゃってるけどさー」

「はぁ~……。寝付いたとこに五月蠅(うるさ)くしやがって。俺も徹夜は厳しい歳になってんだぞ? 解ってんのか?」


 大きな溜め息と共に周囲を眺め、詳細な検分を始めたリュージンは本当に疲労が隠せていない。


「ソレは悪かったと思ってますよ~?」


 とても反省してるようには見えないナッキーに、リュージンはもう一度大きな溜め息を吐き出した。



**********



「ちょっと待て――おいコレ、どういう事だ!?」


 突然の鋭い声に、スズノ以外全員が一斉に顔を向けた。

 視線の先のリュージンは、スズノが『冷え過ぎ』と称したシーツに触れて非常に険しい顔を見せている。


「こんな所に何で〈スズが大量に魔力ブチ撒けてる〉んだよ。お前ら、どんだけスズをビビらせた!?」


 (とどろ)く大迫力にベッドの上の毛布の塊がポンと跳ね、レインが慌てて抱き留める。

 ほぼ同時、琥珀色の瞳を鋭く光らせたナッキーが赤褐色の癖毛をなびかせてリュージンに並び、魔導人形たちは心配そうにレインの方へと集まって行く。


「……ホントだ、〈スズくんの魔力〉だ。最初から鑑定しとけば良かったよ。僕としたコトが迂闊だった!」

「え――〈涎〉じゃ無ぇのか?」

「え――〈オネショ〉じゃ無いの?」


 同じタイミングで、レインとスズノが驚いた声を上げた。


「いや、オネショは違うだろ」

「ヨダレって、前のもこんなカンジだったの?」


 お互いに顔を見合わせ、小首を傾げる。


「――レイン!」


 有無を言わせない鋭い声音に、レインが弾かれたように動いた。

 毛布の塊を抱え込んだままリュージンへ駆け寄り、流れるように軽く膝を曲げて頭を差し出す。

 ゴツゴツと筋張った両手がレインのこめかみ辺りに伸び、しっかり掴む。


 『ゴツンッ』と額同士がぶつかる鈍い音が室内に響いた。


 ビクッと跳ね、プルプル震えたのはレインの腕の中の毛布だけ。

 目を合わせている二人も傍観者たちも、動じている気配は無い。


「一応聞くぞ。何でズボン履いてねぇんだ?」

「あー……モフモフする代わりにスズノがオレの膝を枕にしてたんだよ。気が付いたら太腿が濡れたみたいに冷たくて、着替えようとしたらスズノが泣き出して。慌てて宥めてる所へナッキーがすっ飛んで来て、問答無用で攻撃された。捌く音が五月蠅いって、スズノが起きちまうまでだ」


 震え続ける毛布を撫でながら、レインは器用に肩を竦めた。

 眉間に普段より深い(シワ)を刻んで半眼になっている青灰色の瞳を、じっと見つめ返す。


「さっきの叫び声は、スズが起きた時のか」

「起きて、ベッドが冷たいのに気付いた時だ。その後は毛布に閉じこもっちまった」

「じゃあ、魔力の心当たりは?」

「スズノを寝かせた時は、絶対に無かった。そこからズボンが冷たいのに気付くまで、オレ自身記憶が無ぇ」

「ふむ。スズの寝付きは? 良かったか?」

「階段の途中でほぼ眠り掛けてた。それでも『モフモフする』って言い張るからベッドに入れて、オレの尻尾掴ませたら即寝たな」

「んじゃ、お前らが部屋に引き上げた辺りからか。〈鑑定する(みる)〉ぞ」

「ああ」


 頷いたレインが目を閉じ、金色混じりの赤い光を強く放ったリュージンの瞳も瞼の向こう側へ隠れた。



*********



 しばらくすると、リュージンが額を離して目を開けた。


「申告通りだな。もう良いから、スズ降ろしてやれ」

「あ――悪かったな、スズノ」

「うぅん、ダイジョブ。おれの方こそ、お手数掛けてごめんなさいデス」


 レインが慌てて毛布をベッドに降ろすと、スズノものそのそ這い出して来た。

 それだけで何故か魔導人形たちに称賛された上、ぺこりと下げた頭をレインにくしゃくしゃに掻き乱されている。


 青灰色の瞳に戻ったリュージンは、軽く頭を振ってから今日一番の深くて重い溜め息をついた。

 最大級に呆れた目が向かったのは、無言なのに『悔しいです!』と叫んでプルプルしているナッキーの顔。


「夏喜ぃ~……お前、温和しく様子見するって約束したよなぁ~?」

「だって! スズくんが『ヤダ、ヤダ!』って〈泣いて拒絶する声〉が聞こえたんだもん! それで慌てて来てみたら、レイくんがあんな格好の上、ぐったりしたスズくん抱えてて――そりゃ思わず手が出ちゃうよね!」


 不満げなナッキーと物問いたげなリュージンの視線を受け、レインが赤い髪と獣耳をはっきり左右に振った。


「オレは泣き出した時の『お姉ちゃん』しか聞いて無ぇ。魔力が少し漏れてたから、一応魔力回復薬を飲ませた。その時、多分夢の所為だと思うがしがみ付かれて、そのままだ。以前(まえ)の時は魔力漏れに気付かなくて、ずっと涎だと思ってた」


 気まずそうに「スマン」と呟いたレインを見返し、スズノがプルプル首を振る。

 リュージンはしばらく顎ヒゲを撫でて考え込んでいたが、まだぶう垂れているナッキーをチラリと見てからスズノに近寄って来た。


「スズ、その腕輪は? いつから着けてる?」

「腕輪? あ――コレ?」

「昨日の出発直前だな。タツさんが急に『着けろ』って言ったんだ」

「リューノが?」


 スズノとレインが同時に頷き、リュージンの眉間の皺が深くなった。


「じゃあ着けた後でイライラしたり、気持ち悪くなったりはしてねぇか?」

「え――特別変わったカンジは無いと思う」


 気遣わしげなリュージンを見上げ、スズノはコテリと首を傾げる。


「あ――でも、レインさんが急に居なくなったりしたから。おれ自体が平常運転では無かったかも?」



 しばらくスズノを見つめていたリュージンは、大きく一つ頷いた。


「解った。取り敢えず、スズは〈レインと一緒に〉風呂に入って来い」

「「は――!?」」

「え――お風呂!? おれ、一人で行けるよ!?」


 驚愕の顔を向ける三人にヒラヒラと手を振る。


「ソレじゃ意味が無ぇ。同性の護衛の利点は『風呂も便所も一緒に行ける』事だ。もし『レインが駄目』なら、こっちも考えなきゃいけねぇだろ?」

「いや――大丈夫。オレは〈スズノの護衛〉だ。オレが自分で『スズノを護る為に何でもする』って決めたんだ。オレの都合で放り出したりはしねぇ」


 (おごそ)かに宣言するレインを魔導人形たちが拍手で(たた)え、複雑そうな顔になったナッキーを横目で見るリュージンとスズノの目がかち合う。


「スズはどうだ? 何なら夏喜にしとくか?」

「レインさんがいい! 恥ずかしいだけでダイジョブだから! レインさんでお願いします!」

「そうか。お互いに慣れてくれりゃ一番だぜ。よし、気が変わらない内に行って来い。お前らも、もう平常業務に戻って良いぞ」


 言いながらリュージンはスズノを持ち上げてレインの胸に押し付け、持ち場へ戻る魔導人形たちと一緒に風呂へと向かわせた。



********



 一体だけ残った客室担当魔導人形に室内の状況を確認させながら、リュージンは目の前のシーツに片手をかざした。

 浸透していた魔力を吸い上げ、ベッドを常態へ戻して行く。


「夏喜、後で〈スズの記憶〉を()さして貰う。拒否権は無ぇが、何か有ったら多少は教えてやるよ」


 周囲に残った氷を見て太い眉をグッと寄せつつ、パンパンと軽く手をはたいてベッドから離れる。


「え――何で――?」

「お前に聞かされてた〈息子〉の印象と大分違う。召喚される前も、ざっと鑑とく」

「……プライバシーは?」

「全部知るのは俺だけだ。墓場まで持ってく。だが一応、保護者が知っとくべき事は共有しといた方が良いだろ。簡単に解消出来るモンなら〈トラウマ〉じゃ無ぇ。詳しい状況を知らねぇと、今後の生活のサポートもやり(づれ)ぇからな?」


 少し考えてから頷いたナッキーは、ウエストポーチを開けて〈キラキラ光る黄色い液体〉が詰まった小瓶を取り出し、リュージンに手渡した。


「コレ、迷惑料にどうぞ。こないだ〈アンジー〉からせしめたばっかの〈疲労回復剤〉だけど、よく効くヨ。完徹二日から復活して、更に二日バリバリだったもん」

「お前なぁ……そんな生活続けてたら、家族に心配掛けんぞ?」

「ダイジョーブ。リンリンはきっと解ってくれるから」

「娘と息子はどうなんだよ?」

「…………うん。あはははは~」


 笑って誤魔化すナッキーを、呆れた顔で見るリュージン。


「解った。さっさと部屋の後始末を済ませろ。それから、レインに八つ当たりすんな。スズに嫌われても知らねぇぞ?」

「でもさ~。涙の跡が付いてるスズくんをレイくんがあんな格好で抱き締めてたら、不埒(ふらち)なコトして脅えさせたかと思うじゃない。レイくんだって、一応〈獣人(じゅうじん)(おとこ)〉なんだよ?」


 不満そうな呻き声をこぼしながらもリュージンの指示に従い、凍り付いた椅子の背に棒の魔石を当てるナッキー。


「確かに獣人は〈性別より性格重視〉だし、〈本能に忠実〉なんだけどな。人間と違って『未成年(ガキ)はとことん守る』んだよ。後二年は心配要らんだろ」

「そうかなぁ~?」


 蒼く光った魔石は、氷を〈キラキラ光る霧〉に変えて吸い込んだ。

 綺麗になった椅子の背を見て軽く頷いたリュージンは、ナッキーの補佐に魔導人形を付けて他の場所も修復させて行く。



「もし本当に『レインが恋愛感情を持てた』んなら……俺は寧ろ〈相手が誰でも〉褒めてやるんだがなぁ?」


 ナッキーには届かないように呟いて複雑そうな表情で嘆息したリュージンは、小瓶の中身を一息に飲み干し、予想外の甘辛さに思わず呻いて眉間を揉み(ほぐ)した。


GWでも休めない方々、お疲れ様です。小さな幸せを見付けられますように。

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