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05 小動物と異世界 その二

*誤字修正しました。内容に変更はありません。

 今度は城に来た後、王様との謁見待ちの時らしいデス。

 石造りの頑丈な闘技場みたいな建造物で、足下だけ平らな土になってるホールみたいな空間。

 騎士団の訓練場って案内されたトコだな、多分。


「あっははは、た~のしぃ~っ! 団長、団長、こぉんな楽しい戦闘バトル、初めてだよっ!」

「ハハハッ、俺もだ! やるなぁ、リンカ様。最初からこんなにデキる客人は、流石に初めて見たぞ!」


 ……おれと母が端っこで魔力と身体能力のチェックされてる間、姉ちゃんは軽騎士の装備一式借りて、ケイル団長とフツぅ~に模擬戦してたんだっけ。

 闘えば判る――なんてドコの戦闘民族の話かと思ったら、身近過ぎるトコに居やがったもんデスヨ。


「あの人たち、何であんなに楽しそうなんだろ。ケガしたら痛いじゃん。自分も、相手も……」

「……ナッちゃんが格闘技のたぐい、好きだったのよねェ」


 つまり、団長は父親の類友ルイトモで、姉ちゃんは遺伝デスカ。


 おれは争いとか戦いとか、全然好きじゃないのにね。

 何かトラウマあるんじゃないかってぐらい、ダメなのになぁ?


「スズちゃん、無理して見てなくても良いわよ。でも、此処に居てね? 耳も塞いでて良いから」

「……うん」


 うわ~、耳を塞いでも剣戟音やら衝撃音やら普通に聞こえるんですけど。

 それから、悪魔みたいな笑い声。しかも男女二人分。


「あ~、団長ズルいっ! アタシも魔法使いたい~っ!」

「〈魔法〉じゃなくて〈魔力操作〉だけどな。後で、詳しく教えてやる」

「絶対ね!」

「ああ、約束だ」


 金属の鎧着て槍振り回しながら、息も切らさず普通に会話してるし。

 ソレ見てドン引きなのは、おれだけ?

 姉ちゃんは脳筋族のうきんぞく確定だけど、団長さんまで意外に脳筋族そっち系でビックリだよ。


 でも、騎士なんて多かれ少なかれ脳筋族なのかもな。そうでなきゃ、心が折れるのかも知れないや。

 だって、身体強化とか補助魔法とか入れてスッゲー楽しそうにり合ってるの、おれは見てるだけで怖いもん。

 今は夢だから、実際に見てない部分は何だか判らなくなっててマシだけどさ。


 それにしても。いつ終わるんだろ、この模擬戦……。



 う~……さっきから振り向いてるのに、場面転換シーンジャンプしてくれないよ。

 目を瞑ってもダメか。

 切り替えの基準は何だ、このヤロウ!


 現実では確か、おれの胸がキューッとなって気が遠くなり掛けて、気付いた母に〈治癒〉スキル使われたトコで終了したんだっけ。

 主に精神ダメージだったらしくて、あんまり回復しなかったみたいだけど。


 そうそう。「男の癖に情け無い」とか言われるかと思ったけど、ケイル団長は普通に心配してくれたんだよなー。

 ただ、ナゼか姉ちゃんまで謝ってくれたのが薄気味悪くて追加ダメージ――げふんげふん!

 何でも無いデス。デキゴコロなのデス。墓場まで持ってくレベルの内緒デストモ。


 ソレはともかく。


「姉ちゃん、フツーにおかしくない?」

「そうねェ……」


 魔物退治が標準デフォルト業務の国の騎士団長様といきなり対等に闘える女子大生って、どーなのよ?

 しかも使い慣れてる薙刀なぎなたが無いから、代わりに西洋風の槍を使ってるハズなのに。


 溜め息ついた母が遠い目をしちゃった。

 アレが自分の娘だと思うと、流石にそうなるよね。

 流石は〈対人最終兵器〉なんだけどさぁ……。


「ねェ、スズちゃん……今朝、リンカちゃんにいつもと違う事は無かった?」

「普通にスキルで起こしたし、起きたらいつも通りだったよ?」

「そう。もしかしたら、スズちゃんのスキルで目が覚め過ぎてるのかなと思ったんだけど――」

「あ、そう言えば。姉ちゃんにしては珍しく、起こす前に目が覚めてたかも。団長との模擬戦楽しみで眠れなくて、ナチュラル・ハイになってんじゃない?」

「……そうね。一応念の為、お母さんにもスキル使ってみてくれる? 今すぐ」

「いいけど。何も起こらないと思うよ?」


 おれは差し出された母の掌に自分の手を乗せ、〈清々(すがすが)しい目覚め〉って念じた。


 しばらく待っても何も変わらない。

 正直、光が出るとか音が鳴るとか、何らかのエフェクトがあってもいいと思うんだよ。

 ちゃんと発動したかどうか判らないって、スキルとしてどーなのさ?


「ホント手応え無いんだよなぁ……。母、何か変わった?」


 じーっと手を見てた母が小さく「〈ステータス〉オープン」と呟き、出現した半透明の藍色の板に目を走らせる。

 おれは終わるのを温和(おとな)しく待つ。


 読んでもどうせ、〈異世界名コッチネーム〉とレベルぐらいしか意味が無いんだもん。

 ケイル団長にステータスやスキルの隠蔽(いんぺい)を教えてもらってから、母と姉は見せていい部分以外を〈鑑定擬装〉してるんだよ。つまり偽情報ね。

 何か〈診断〉とか〈見切り〉とかのスキルを応用して、〈鑑定〉でも上位のスキルじゃ無い限り見抜けないようにしたそうな。少なくとも、この国には居ないらしいから。


 おれはそんなの出来ないから、シンプルに名前とレベルのみ表示で後は非表示。

 でも鑑定されたらマルッと見えちゃう。

 どうせ隠すほどのチート性能なんて無いけどさ。

 大丈夫、本名は異世界名決めた時に自動で完全隠蔽されてました。ソコは地味に便利だよな~。


「スズちゃん、大変。お母さん、しばらく眠れなくなっちゃいそう」

「えっ!?」


 いきなり何っ?


「スズちゃんのスキル、起きてる人に使うと面倒な事しか起こらないわ。リンカちゃんも、多分この所為ね」

「えっ――ええっ!? アレ、おれの所為だったのっ?」

「約束して、スズちゃん。起きてる人には、絶対にスキル使わないって。()()よ!」

「っ――はいっ、使いませんっ!」


 何だかよく解らないまま頷いたけど。


 眠れなくなるってコトは、カフェインみたいな眠気覚まし効果でもあったのかな?

 姉ちゃんは、テンション上がっちゃってあんなになってるってコト?

 え……マジ?

 目が覚めてる時使うと、人によってはあんなテンションになっちゃうの?

 アレって何て言うか――旧型のペンキを思いっ切り嗅いじゃった時、みたいじゃね?


 ……うん。ちゃんと起きたら、スキルも完全隠蔽しとこうかな。

 いや、むしろ封印レベルか?

 おれの、唯一のスキルなんだけどなぁ……。


 って言うか、待て待て。

 今は夢の中だよ。

 ココで〈目覚め〉スキル使ってんのにおれの目が覚めないってコトは、そもそも発動してないよね?

 ……おれの所為とは、限らないんじゃん?


「あら――?」

「あ――姉ちゃんが止まってる」


 いつの間にかビラビラしてる服を着た男たちが現れて、団長さんに声を掛けてた。


 主に話をしてるのは、一番前に居る全体的に薄いカンジの茶髪かな。

 ローブの黒髪と薄い金髪の細身に挟まれてる中心の金髪が、服装から見て一番偉いっぽい。自分の代わりに茶髪に喋らせてるカンジ。

 後ろにゴッツいムキムキマンも数人居るけど、会話の順番待ち?


 何か、姿も声も、微妙~に緩いモザイク掛かってるみたいな処理されてるんだよなー。

 夢なのに、『メンドクセー』って言葉しか浮かばない雰囲気にビックリ。

 現実のおれは壁際でぐったりしてて、ちゃんと見てなかった所為かな?

 それとも、よっぽど記憶に残したく無かったとか?

 後で会った覚えも無いし、あの人たち何なんだろ?


 ――って。

 わー、姉ちゃんがメッチャ睨んでる!

 ケイル団長より明らかに年下に見えるのに、やたらエラっそーな茶髪が腹立つんだろうなぁ。

 でも団長さんが困るだけだから、ヤメたげてー!


「あらあら。リンカちゃんがお転婆しない内に話を聞かないと」


 うん、今の母は平常運転だ。さっきの遺跡の時の母じゃ無くて良かったー。

 破壊神と化した姉ちゃんを見て『お転婆なんだから』って微笑むのがウチの母だよ。

 いつも誰も姉ちゃんを止めてくれないから、おれが半泣きで止めるしか無いんだよ。


 ん――?

 おれが争いとかダメなのって、半分以上その所為だったりしない?



******



 ……結論。

 中心の金髪はこの国の王様でした。後ろのゴツいのは全員護衛だってさ。多過ぎじゃね?

 黒髪ローブは大司教、薄い金髪は宰相だって。

 茶髪は――〈召喚儀式含め魔法関連担当の長〉らしい。ナントカ大臣とかはこの国には無いみたいで、役職がよく解んない。取りあえずの認識としては――『ツラの皮が相当分厚くて〈鑑定持ち〉のお貴族サマ』だな。


 要するに。

 コイツらがおれたちをび出した元凶ってワケだ。あ、護衛の人は除いてね。

 正規の謁見だと手続きに時間掛かるから、視察ついでに異世界人(おれたち)のスキルを鑑定しに来たらしい。

 色んな意味で、お呼びじゃ無いんだけどな。


『ご令嬢は先程から騎士団長と打ち合っておいでのようでしたが、大した腕前ですな。凛々しいお姿でしたぞ』

『そちらのご婦人は〈治癒〉をお持ちとか。是非とも、我が教会にお力をお貸し頂きたいものですなぁ』

『うむ、今回は中々の〈勇者〉と〈聖女〉が召喚に応じてくれたようだ。大変に喜ばしい事だな』

『はい。五年(ごと)の召喚儀式を一度取り止め、今回に十年分の魔力を注ぎ込んだ甲斐が御座いました』

『これまでは、結局大した力を持たない勇者ばかりでしたからな』

『しかも半数は、戦う力すら持たぬ有り様。信仰心を試されているのかと思いましたぞ』

『うむ。癒しの力を持つ麗しい聖女も殆ど居なかったからな。実に嘆かわしい』

『しかし今回こそは〈魔王〉を倒し、我がギェントイール王国に繁栄を取り戻す事が出来ましょう』

『『『心よりお祝い申し上げます』』』

『うむ』


 一瞬ステータスの擬装がバレたのかと思ったけど、単純に『戦士系なら勇者』『治癒系は聖女』って呼んでるだけみたい。何ソレ。

 しかも、基本的に四人で勝手に喋って、勝手に喜んでる。

 問答無用で連れて来られた異世界人の反応リアクション一切気にして無いって、スゲー神経……。


 もしかして神経が無い?

 〈(ゼロ)神経(メンタル)〉な人たち?


『勇者一行には、すぐにでも魔王の元に向かって貰いたいが――』

『直ぐにでも出立の用意を整えさせます、陛下』

『勇者殿と聖女様におかれましては、支度が整うまで城内でお過ごし頂きましょう』


 案の定、ナチュラルに無茶振りくれたよ。

 断られるなんて、当然、ミジンコほども思ってないよね?


 ケイル団長はガッツリ渋い顔してる。何かもう『言葉も無い』ってカンジ。

 正直、こんな王サマによく仕えてるなーと思う。面倒見、良過ぎない?

 あ、王サマじゃなくて国民の為に頑張ってるのか?


 母はともかく、いつ姉ちゃんがキレるか心配だったけど、団長の顔立てて温和しくしてくれてるみたい。

 ……この先は判んないけど。


「あの――息子の事をどう扱うおつもりか、伺っても宜しいでしょうか?」


 いつも冷静な母の声がいつもより数~倍冷たい響きを伴って聞こえるのは、おれの気の所為?


 ん?

 茶髪がおれの方見て――鼻で笑った気がする。


『戦闘に使えるスキルは無いようですな。多少魔力が多いようですが、それだけです』

『魔力が有るなら、そこそこの魔法を使えるようになるのではないか?』

『魔法スキルが有れば、ですな。魔法を使えるのも生まれ持った才能で御座います、陛下』

『後天的にスキルを得るとなれば、実力のある師匠の下で何年も修練を積まねばなりませんからなぁ』

『どうやら薬草や罠の知識も無い様子。〈目覚まし屋〉以外では、冒険者ギルドへの登録も難しいかと』

『目覚まし屋か。ハズレにも程があるな』

『ギルド職員になるにも、知識とコネは必須ですからな。目覚まし屋では、まず採用されますまい』

『いっそ前例通り報償金を渡して、後は自由に各種ギルドや店を訪ねて頂くと言うのはどうですかな?』


 一言も無しで、勝手にステータス鑑定したワケ?

 しかも目覚まし屋の連呼、要らなくない?

 何かカチーンと来たんだけど。


『まあどうしてもとおっしゃるならば、冒険者ギルドに口利きするのはやぶさかではありませんが?』

『うむ。その時は王家の名を出しても構わんぞ』

「いえ、全然要りません」


 口利かれて冒険者ギルド入って、どーしろってんだ。

 実際に働くの、おれだぞ? 解ってんのか?


『折角の陛下のお申し出ですぞ、目覚まし屋殿!』

『それに王家の後ろ盾があれば、確実に冒険者ギルドに所属出来ますぞ!』

「……おれは戦うコト自体好きじゃないし、見るのも苦手だから。ホントに全く要りません」


 何で驚いてんの、この人たち?

 つーか、誰が冒険者ギルドに入りたいっつったよ。勝手に〈目覚まし屋〉って呼ぶな!


 どうせなら八年間家事担当だった経験を活かして、どっかで家政夫の下働きとかに雇って欲しいけどさ。

 でもコイツらに口利き頼むのは絶対にイヤだ。

 母と姉も頷いてる。


「――て言うかさ。『役に立たないおれを元の世界に帰らせる』とか、そういう選択肢は無いの?」


 ソボク過ぎる疑問なんだけどね。誰も言わないから、つい。

 不敬だ何だって言われるかもと思ったけど、おれの夢だし。

 ま、ダイジョブでしょ。


『うむ……魔王討伐も叶わぬ内にそれは、出来ぬ相談だな』


 王サマが重々しい口調で答えてくれたけど。

 他の三人は黙って頷いて、王サマに丸投げっぽいけど。


 ソレって、完全に〈王サマの都合〉だよね?

 別の世界から勝手に召喚しといて、『期待通りの結果出すまで帰さん』って言ってるよね?

 しかも、召喚された側が喜んで引き受けるとでも思ってるのかな? 頼む態度ですら無いよね?


 何でソレが許される気で居るんだろ。

 ホント不思議。

 何で?


「一応、確認させて貰うケド。魔王を倒したら、『()()()()()()()()()()くれる』んだよネ?」


 可愛く小首傾げてますけど、姉ちゃんのコレはヤバいです。怒りが溜まり過ぎてる時に出ます。

 据わってる目がバレないように、メッチャ笑顔になるのがマジで恐いヤツですよ。


『魔王を倒し、我が悲願を成就してくれれば――だがな。その時は当然、自由にしてくれて構わないとも。この国で爵位を得て生きようと。元の世界に帰ろうと。我が王家は一切不要な干渉を行わない、と約束しよう』

「……ふぅ~ん」


 姉ちゃんの橙色の目が、一瞬鋭く光った気がする。

 王サマたちは――あの目に気付いてないんだ。余裕の顔してるよ。

 うわー……くわばらくわばら。


 おれたちの様子を見て、ケイル団長が一歩前へ出た。


「恐れながら。今まで同様、戦いに不向きな方はしばらく騎士団長預かりにして頂きたい。生業なりわいの方針が決まり次第、私が個人的に護衛を雇ってでも相応しい場所にお連れ致します。許可を頂けますか?」


 王サマに向かって、胸に片手を当てて軽く礼をしたケイル団長。

 バッチリ決まってて、カッコイイ!


『また出しゃばるおつもりですかな、ヴェラクリスト騎士団長?』

「閣下が何と仰ろうとも。騎士団は国の防衛の要、他国の要人を警護するのもまた騎士団の重要任務――そう、理解しております」

『騎士団長殿は、異世界の客人も他国の要人と変わらぬとのご認識かな?』

「いえ、猊下げいか。寧ろ、現在の周辺国の要人よりも重要な方々かと。ですので、戦いに向かぬ方は騎士団の長たる私が警護させて頂きたい、と申し上げております」


 納得してないのか、無表情な王サマ以外は渋い顔してる。


 でもさぁ。ケイル団長が言ってるのは、スゴ~く当たり前のコトだと思うんだけど?

 魔王と張り合える戦力だよ。ワザワザ機嫌損ねてどうするんだろ。

 それとも、異世界人が反抗出来ないような何か――〈召喚の陣に奴隷ドレイする細工でもしてある〉とか?


「ワタシとしては、この騎士団長さんにお任せする方が安心出来ますわね。一応未成年なので、保護者無しで放り出す訳にも行きませんし」

「ねぇ、いっそ魔王討伐断る? アタシたちなら冒険者になれるし、三人でパーティー組んじゃえば何の問題も無いっしょ。一人ぐらい足手まといでも、充分生活出来るって」

「それもそうねェ」


 母の援護射撃はともかく、姉ちゃんのは援護か?

 ついでに、おれの背中も撃ちに来てない?

 確かに、おれたちとケイル団長以外は一瞬緊張したけどさぁ……。


『……解った。その件は、ヴェラクリスト騎士団長に任せる』

「はっ。誠心誠意尽くす事をお約束致します」


 最終的には王サマの鶴の一声で、おれはケイル団長預かりってコトに決定したっぽい。


 つーかね。

 こんな連中がトップで、この国、何かイロイロと大丈夫なのかなぁ?

 おれの脳内補正でこうなってるなら、まだマシなんだけどねぇ?



*****



 次こそは!と勢い込んで訓練場の出口開けたら、直通で食堂って……。

 どうなってんの、おれの夢。

 おれは、そんなに腹ぺこキャラなの?


「あら~、まだ仕込みの最中なんだけど。お腹空いたのかい、坊や?」


 そりゃまあ食堂のおいちゃんやおばちゃんには、短い間ながらも非常にお世話になりましたけども。


 特に今目の前に居る、可愛らしいフリル付きのエプロンを着けているおばちゃん――通称〈メシウマ夫人(マダム)〉には、足を向けて眠れませんよ?

 お粥やらこっそりオヤツやら、とても助かりました。ありがとう!


 胸元にハンカチと似た字で〈メシウマ〉〈マダム〉って読める刺繍があるこのエプロンは、十年ぐらい前に城に来た異世界人にもらった、夫人の宝物だそうだ。

 この城の中には、似たような刺繍入りの小物を持ってる人たちが他にも何人か居た。

 非戦闘員で役立たず認定されたおれは、その人たちのおかげであんまりイヤな思いをせずに済んだんだ。

 だから、夢で会うのもヤブサカでは無いですよ。無いんですけどもっ。


 おれが何の為にわざわざこの夢に付き合ってるのかって、ある場面シーンを待っていたからに他ならないのデスヨ。

 だって現実ではセーブポイントなんか無いし、心残りがあってもやり直せないんだもん。

 とにかく、朝が来る前に出て来いや!


「そう言えば、坊やは魔王討伐には行かないで城の外に出るんだってね。身体に気を付けるんだよ?」


 どうやら、お別れの挨拶の時らしい。

 夫人は、おれにキノコでいっぱいのカゴを一つ手渡してくれた。


 うん。またもやあの(スーパー)っぽいキノコだよ。

 どーしたら正解なの?

 コレだけは意味解らん……。


 その後は、城の居心地が年々悪くなってるってグチがしばらく続いてた。

 昔はお子さんが学校に通ってたから離れられなかったけど、今なら田舎へ引っ込んでも構わないとか。

 ふ~ん、そうなんだ。

 あくまでもおれの夢だけど、印象だけなら割と当たるんだよね。


 現実では昼の仕込み中で、朝ほどじゃ無いけど忙しい中でお弁当作ってくれて、こんなにしっかり話せなかったよ。

 ソレも心残りだったのかも知れないなぁ。


 おれは夫人に深々と頭を下げてから、背後の扉を振り返った。


長いから切ったのに、まだ長いんですってさ。

書きたいシーンまで遠いなぁ…。

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