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01 とあるクランの拠点にて①

*読み難かったので文章を少し整えました。

 その日の正午前、ギェントイール王国に七つ()る〈勇者の試練〉と呼ばれる洞窟型迷宮(ダンジョン)の内の一つの内部を、黒いフード付きマントですっぽり身を包んだ人物がかなりの速度で歩いていた。

 狭い一本道とは言え足音も荒く不機嫌さを隠しもしない様子に、近付く前から虫型の魔獣が天井や壁の窪みへ逃げている。


 道なりに進む事しばらく。

 大きく曲がった先の少しだけ開けた行き止まり、その真ん中に鎮座する大岩の前で立ち止まった。


 鬱陶しそうにフードを下ろして現れたのは、輝きを消すようにベッタリと赤く塗られた〈和洋折衷の甲冑〉で大柄な全身を隙無く覆い隠した人物。

 (かぶと)の目の部分にも〈色付き水晶〉がはめ込まれ、まるで〈特撮〉における〈悪の秘密組織の幹部〉のような姿である。


「……だ~、くそっ。何で俺見てあんな嬉しそうに笑うかなぁ。好奇心いっぱいでキラキラした目とか、幼稚園児かよっ。十八歳男子にゃあ全く見えねぇってのっ」


 溜め息と共にこぼれた声は、機械を通して篭もらせたようなガサガサの超低音(デス・ボイス)

 手荒く脱いだ黒マントを腰の後ろに回した薄いポーチに突っ込み、代わりに襟を立てた真っ赤なマントを取り出して羽織る。


 両手首に着けた〈精緻な紋様が刻まれた腕輪〉を確認するや否や、誰も居ない空間に向けて鋭いパンチとキックを連続で繰り出し始めた。


「あ~~もう! レインと同い年の〈ウチの子〉は、とっくにおっさんになってるよ! 解ってんだよ、んなこたぁ!」


 軽く振ったように見えて物凄い風切り音を伴い、触れもしないのに壁からパラパラ土が落ちる。


「なのに、最後に見た姿がチラつきやがってっ――くそっ!」


 流れるような回し蹴りで止め、足を下ろすと右拳を思いっ切り左掌に打ち付ける。

 金属同士がぶつかる直前、掌の前に白い魔法陣が現れ、拳を柔らかく受け止めて消え去った。


「あ~、クッソ苛つく。けど、言っても仕方無ぇもんなぁ……」


 大きな溜め息を吐き出しながら兜を脱いで現れたのは、不機嫌丸出しの表情のリュノス・タトゥナーだった。


 雑にマントで顔を拭ったリュノスは再び兜を被り、大岩に手を伸ばす。

 掌が触れた途端、岩の表面に走った白い光が複雑な紋様を描き出す。


 一瞬の浮遊感の後、周囲の壁が縦にズレたような感覚と共に左側にぽっかり通路が開いた。


 無言で進むリュノスを飲み込んだ通路は()ぐ元の壁に戻り、白い光も消え、大岩のある行き止まりは何事も無かったように静まり返った。



 広い空間の端に壁のようにそびえる大岩と石筍の隙間から出て来たリュノスは、今度は洞窟の形に沿って歩いていた。あちこちに散らばる石筍の陰や岩の隙間や、地底湖に隠れ潜む魔獣たちには目もくれない。


 鍾乳石と繋がった大きな石筍を三つ過ぎた頃、洞窟には不釣り合いな〈金属製で重厚な両開きの扉〉が見えた。


「……うっし、誰も通ってねぇな」


 開いた形跡が無い事を確認したリュノスは、腰のポーチから〈図形が描かれた和紙のような紙〉を取り出し、扉に押し付けて魔力を通し始める。


「あ~、いっそ〈娘〉の方なら何とか出来たかもなぁ……っと。入れ過ぎたか?」


 扉を中心に魔力で分厚いドームを張り、苦々しさを隠さない呟きをこぼしつつ、紙から離した両手をパンパンとはたく。


「まぁ、多い分には構わんよな。……万が一壊れても面倒だし」


 右肩をぐるぐる回しながらドームを出たリュノスは、大きく息を吸って吐き出した。


「悪いが、俺の〈八つ当たり〉兼〈ストレス発散〉に協力して貰うぜ。嫌だっつっても拒否権無ぇし。温和しくボコられろよなー」


 顔を上げ、首と拳をバキバキ鳴らし、目の前に集まった魔獣の群れへ超低音で朗らかに声を掛ける。兜の向こうでは獰猛な笑みを浮かべているに違いない。


「〈魔将軍レッド・コメット〉、行っきまーす!」


 誰にともなく宣言すると、リュノスは大きく足を踏み出した。



**********



 日本から遠く離れた〈とある国〉の〈とある建物〉の〈とある地下室〉。

 普段は殆ど人の出入りが無いその部屋に、その日は朝から掌サイズの木片を一心不乱に加工する中年男性の姿が在った。



 岩盤を長方形にくり()いたような空間には窓の一つも無く、しかし篭もった空気の臭いも無い。

 壁や天井に埋め込まれた魔導具からの間接照明で、存外明るい部屋である。


 あちこちに積み重ねられた木箱が雑然とした印象を与えるが、僅かに覗く中身は仕切りや布の袋で小分けされ、きちんと整頓されている。

 床の上だけでなく、積み重なった木箱の隙間にも埃の一片すら見当たらない。


 部屋の中央に鎮座する大きな石造りの机、出入り口のスライド式扉、右壁の中央部に下がるカラフルな〈縄暖簾(のれん)〉、奥の壁一面に造り付けられた〈コインロッカー〉に似た戸棚、左の壁と一体化している棚付き作業机――それらの周囲もしっかり床が見えていて、それぞれの導線も人間一人分程の幅でちゃんと確保されていた。


 この部屋を管理しているのは、作業机の端にひっそり佇む魔導人形(ゴーレム)なのだろう。

 今も削り出される木屑をじっと見つめ、落ちたら即回収に行きそうな雰囲気だ。


 そんな気配も気に留めず、通常の二台分はある横長の机の真ん中に陣取ってひたすら作業に没頭する男性の様子は、まさに〈無〉と言えた。

 ただし外見は職人では無く、『引退した』と頭に付きそうな冒険者の姿である。



 現役にしては不健康そうな肌色の男性は、丁寧にヒゲを剃った細面(ほそおもて)に〈青白く輝く細い金属フレーム〉の眼鏡が妙に似合っていた。

 魔力を通すと〈偏光グラス〉のように色を変えるレンズだが、アウトドア感は全く無い。寧ろ、〈悪の秘密組織の研究者〉感が〈増し増しサービス〉されている。


 レンズの向こうに隠れた瞳は、葡萄の汁のような赤紫色。

 赤いリボンの蝶々結びが可愛らしい三つ編みの髪は、黒に見紛う濃い青紫色。

 どちらも『〈人族(ヒトぞく)〉には珍しい』と言われる色合いで、『〈森妖精(エルフ)〉にしては耳が短く〈大地妖精(ドワーフ)〉にしては背が高過ぎる』と首を傾げられるのも〈お約束〉だ。


 レインより細身の身体を包むのは、膝下まで届く〈中華服〉に似た黒い上下と、鉄板で補強したミドルブーツ。

 ベルト辺りから裾まで深いスリットが入った上着は赤い革で縁取られ、胴に絡み付くような蔦の刺繍は裾の赤紫から胸元の青へと、綺麗なグラデーションになっている。


 襟元と大きく折り返した袖口にあしらわれているボタンは高純度の〈魔鉱石〉。

 刺繍に使われているのは〈魔鉱物〉を練り込んだ糸。

 両手にはめた〈魔力が織り込まれた〉薄手の黒い手袋も、左手に握る〈青白く鋭い輝き〉の片刃ナイフも、一般的な職人がおいそれと手に入れられる代物では無い。


 立てた襟の左側に目立たない光で煌めくのは、レインたちと同じ〈(いぶ)し銀色の星〉のマーク。


 全体に赤と青と黒で構成されているように見えるこの人物、〈王国暦〉で約二十五年前、召喚された直後に誰の助けも無く〈デューゼス・マキーナ〉と名乗った日本人である。



*********



「……うむ。後は(まと)めて接続だな」


 左手のナイフを置き、加工が済んだ三個の木片を満足そうに見回したデューゼスが呟いた。

 その瞬間を待っていたように魔導人形がツンツンとデューゼスの右腕をつつき、奥の方――机の左端の壁際に置かれた四角い箱を指し示す。


「ん?」


 箱の表面の細かい透かし彫りから鮮やかな赤い光が溢れ、(せわ)しなく点滅していた。


「……昼時に連絡? 珍しいな」


 出入口側の壁に掛かる〈切り株型のアナログ時計〉をチラリと見たデューゼスは、木片を手に取って木屑を払う。

 流れるように右腰の蔦の刺繍の上に持って行き、大きな葉の裏へ無造作に落とす。どうやらポケットになっているらしい。


 席を立ち、箱の装飾の〈ON〉と読める部分に手袋のまま指を当てて魔力を流した。



「はい。何かありましたか、タツさん?」

『――あったから連絡してんだろうが』


 間髪容れず箱から響いたのは、聞き馴染みのある男性の重低音。


『もっと早く出ろよ、マキ』


 いつもは明るいリュノスの声が、今は妙に苛ついている。


「済みません。作業中でしたので」


 片眉を僅かに上げただけで淡々と返したデューゼスは、机の奥の〈メモ用紙〉と蓋に書かれた箱を手元に寄せた。


「それで、用件は?」


 蓋をずらした箱から〈和紙に似た紙片〉を一枚取り、左胸の葉の裏から出した〈飾り羽が付いた太い胴のペン〉を右手に構えて先を促すデューゼス。

 苛つくリュノスにも慣れた様子で、一切動じる気配が無い。


『昨日、日が沈んだ後にレインが来た。夏喜(ナツキ)の息子の〈スズノ〉も一緒だ』

「はい――?」


 静かに目を(みは)る赤紫の瞳の先、ゆっくり点滅する通信機から微かに聞こえたのは似合わない溜め息。


『たまたま近くを通ってたシノンが拾って、サクラに乗せて連れて来たんだと。全員、怪我は無かったぜ』

「待って――タツさん今〈赤の試練〉ですよね? レインが直接? 何故?」

『どうも幹部と連絡取れなくて、最悪〈M&A(エムエー)商会〉頼るつもりで辺境伯領に向かってたらしいぞ』

「そう言えば――ケイルから速やかに王城を出たと聞いた後、続報は無かったですね。旅慣れない所為で移動に時間が掛かるのかと思ってましたが――()()と連絡が取れない? 〈王都の外〉でも?」


 大凡(おおよそ)の日時の横に『赤 L・S』と記したデューゼスが眉を(ひそ)め、左腰の葉の裏から〈文字が書かれた紙片の束〉と〈小さな木片〉を取り出す。


『俺は〈封印の扉の中〉に居たからだろうけど、ジンとクーは絶対〈扉の外〉だろ。〈クラン内連絡〉来たら、お前にも回すよなぁ?』

「そもそも〈レインからのクラン連絡〉は、最優先でオレの所へ来る筈です。次点でナッキー、タツさんですね。ウチのは〈一般的な通信魔法〉とは違うシステムだから、魔素さえ有れば通じる筈なんですが……オレへの通知は無いな。後で全体の通信記録も見てみます」


 ざっと確認して首を傾げたデューゼスは、『タツさんやらかしの可能性、赤の周辺要チェック』と走り書きした下部に『通信及び通信機チェック、全員分 緊急!』と書いて丸で囲んだ。


お待たせしました。

この章から、なるべく月曜日に更新出来るよう頑張りたいと思います。「サ〇エさん症候群」とか「笑〇症候群」とかの対策に少しでもなると良いんだけどなぁ…。

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