39 リンドウ家ファミリー牧場計画 (仮)が取れました
*読み難かったので文章を整えました。内容自体の変更はありません。
「こんな格好で悪いな。俺は〈クラン・中年の星〉のリーダーで〈リュージン・ウェモリー〉だ。宜しくな」
小上がりで布団に腹這いになってる半白髪のおじさん――夢の中よりちょっと白髪が増えた〈リューさん〉が、おれに向かって右手を差し出してくれてた。
ヤバっ――レインさんの胸元に目が行ってて気付くの遅れたかも。
「ぉ――おれは〈スズノ・リンドール〉ですっ。ヨロシクお願いしますっ」
慌てて両手で握り返したけど。
ちょっと冷静になったら首傾げちゃったよ。間違えたにしても、豪快過ぎじゃね?
「リューさんてばもう。今は〈クラン・SOMA〉やろ?」
「あー、そうだった。ソレだった。悪い、悪い」
テーブルの方に座ったシノンさんが的確なツッコミ入れてくれた。ありがとう。
そっか。レインさんが古い名前言っちゃうって、このコトか。
……あ。
「もしかして――〈SOMA〉って〈スター・オブ・ミドル・エイジ〉の頭文字?」
「ああ。ショコラが『もうちょいお洒落っぽくしたい』って、変更したんだよ。それは構わねぇが、どうも憶え難いんだよなぁ」
おぅ、〈世代間の溝〉……お疲れサマデスヨ。
**********
おれたちは現在〈緑の試練の最後の安全地帯〉に居ます。
中の造りはドコの試練も同じだそうで、小上がりの前のテーブルに陣取った大人たちはこれから〈お話し合い〉予定。
って、シノンさんと〈暫定ウチの父親〉の〈差し〉になってるんだけどな。リューさんは小上がりで腹這いだし、レインさんも小上がりに腰掛けてるから。
サクラちゃんは後でまた飛ぶらしく、ご飯食べてお風呂入って仮眠準備。魔導人形さんが連れてった。
おれも寝ていいって言われたけど、レインさんの服の〈破れ方〉が気になってムリ。
何があったのか、直接尋こうかと思ってます。
今は素敵モフモフズ――〈青白っぽい大きな犬〉と〈水色の野兎〉が、レインさんに鼻先近付けてずっとフンフン言ってるからその後で。
だけどその前に――。
「あの。腰が痛いんですか?」
「ん? まぁ、冷えるとちょっとな。歳は取りたく無ぇモンだ」
「長いコト頑張って来た証拠ですよね? 古傷と同じ、勲章みたいなモンです」
「そうか?」
そうだよ。
元鳶職や現役農家の、ウチのお祖父ちゃんたちと同じだよ。
お医者さんだった〈安斎先生〉だけは、自分でメンテナンスしてたから別だけど。
「でも、痛いのは困りますね。マッサージしてみても、いいですか?」
「……嫌じゃないなら、頼む」
任せて!
冷えってコトは〈温め〉と〈筋肉をほぐす〉が基本だね。
わぁ~……思った以上にしっかり筋肉の背中。ピッタリ系着てもカッコ良さそ~。
肩と太もも冷たいけど、力入るクセあるのかな?
腰回りキツそうなの、脂肪じゃ無いね。
力入れ過ぎて固まっちゃったカンジ。
日常的にストレッチしたら、この腰痛無くなりそうだよな~?
「おぉ~……痛みが溶けてく気がする。巧いモンだなぁ……」
「ウチのお祖父ちゃんたちも痛そうで、しょっちゅう揉んでたから。おれも手慣れたモンでしょ~?」
〈安斎先生直伝〉だもんね。〈安斎の若先生〉にも褒められたし、ちょっとした自慢だよ。えっへん!
ん?
何か「オジイチャン……」って小さい声聞こえた気がするけど。
気の所為?
『ウエ様はイジョウブでぃ! よっ、イナセで無敵で素敵なテッカマン!』
「……おう。有り難うな、チビ。……最後のは意味解んねぇけど」
気が付くと、あの〈ハグレ精霊さん〉がリューさんの腰に乗って温めてくれてた。
おれにも見えるぐらい魔力濃くなってたけど、同じヒトデ?――だよね、多分。
だって『偉丈夫でぃ』とか『鯔背』とか言ってるし。
つか〈テッカマン〉て何だろ?
〈鉄火男〉ってコト? 〈鉄火の姉御〉の、男バージョンのつもり?
それとも、アニメ混ぜて変な風に教えた人でも居るのか?
……後者のがありそう。特に〈暫定ウチの父親〉がやりそう。
あ――その場合は〈イジョウブ〉も〈胃丈夫〉の方?
タツさんなら、物理的にも精神的にもコッチの字っぽいんだけどな。
いやそれよりも。
おれ的にはもっと気になるコトがあったんだよ!
「あの――〈ウエサマ〉って、〈ウェモリーさんの本名から〉です? それとも、〈新さんと同じ〉です?」
多分〈ウエモリ・リュウジさん〉なんだよね? 言ったりしないけど。
でも時代劇の〈上様呼び〉なら、おれも呼んでいいかな?
憧れの〈お庭番〉位置!――だと『成敗!』がムリか。
と言って〈爺〉や〈お奉行〉には、イロイロ遠いし。
じゃあ、じゃあ……えっと、ちょっと待って?
「〈ウェモリーさん〉って何だよ。他人行儀だなぁ?」
ワクワク無限ループしてたら、リューさんが上半身をグイッて傾けておれを見た。
ソレ、腰に来ない?
ダイジョブかな?と思ってたら、起き上がって胡座かいたよ。
もう痛くないみたい。
良かった良かった。
「レインも夏喜も俺の身内で、お前も当然そのつもりだぞ。もっと砕けろ。〈リューさん〉で良い」
「え――でも――」
「返事は〈はい〉か〈OK〉だ。文句は受け付けねぇ」
「ぅ――はい」
頷いたら青っぽい灰色の瞳がニヤッて笑って、「マッサージ有り難うな」って頭撫でられた。
くしゃくしゃってやる手つきが、レインさんに似てる。
ナゼだかメッチャ嬉しくなった。
「俺も〈スズ〉って呼ぶが、嫌か?」
いきなり〈スズ〉は初めてだけど、リューさんだと全然イヤなカンジしないのが不思議だよ。
「〈ちゃん付け〉より断然いいです! タツさんにも変えてもらったトコだし!」
思わず大声になっちゃったら、プッて噴き出された。ガッツポーズしたのも見られたけど、スルーしてくれるっぽい。
ガタイが良くて強面の人は、おれと正反対の苦労してそうだね。
「リューノは何て呼ぶって?」
「〈スズ坊〉です」
「何だ? 〈ちゃん〉は嫌で〈坊〉は良いのか」
「ううん。〈レインさんとお揃い〉だから」
「ぶはっ――そうか、そうか! レインとお揃いか!」
「頑張ってたら〈坊〉も取ってくれる約束です。ね、レインさん?」
「ああ。言ってた。……聞き間違いじゃ無ぇんだよなぁ。この歳で〈レイン坊〉……」
遠い目したレインさんは、半透明のヒトデさんに腕をポンポンって叩かれて、撫で返しながら溜め息ついてた。
リューさんはおれの頭撫で回しつつ、むせるぐらい笑ってる。
テーブルの方でも、そっぽ向いたシノンさんがマナーモード中。
さっきからチラチラコッチ見てる〈暫定父親〉も聞こえたよね?
もう〈ちゃん付け〉するなよ?
*********
結局『ウエ様』は、追放された時の〈元部下のヒトたち〉が自然発生的に呼び出したらしい。
日本人は誰も呼んでないし、リューさんにも理由は判らないんだって。
おれも〈リューさん呼び〉確定みたいだから、まぁいいや。
それより……。
「――だからね。僕は、従業員との触れ合いを邪魔されたくなかっただけなんだよ~。だって、いつまでも彷徨かれたら鬱陶しいじゃない。結界に触ったら、僕にも伝わるんだよ?」
「それ、〈警報〉で魔獣呼んで相手させたらアカンかったんやろか? 〈ノックバック〉は〈反撃物理〉て、知ってたんよね?」
おれがリューさんをマッサージしてる間に、〈事情聴取〉とか〈審問会〉みたいなコトになってたらしいデス。
更に、マナーモードで水差されてもこの状況。
シノンさん、スゲー……。
「でもさ~。さっきだって、いきなり凄い衝撃来たから見に行ったぐらいだし。その後しばらく、出たり入ったりされてたしさ~」
「なぁ。レインくんの上着、見て? ウチらと同じ材質やよ?」
おれもじっと見ちゃう。
焦げ茶の服は〈おかしな性能付き〉って聞いてたのに。右の鎖骨下辺りの布が爆発でもしたように消えてて、黒いアンダーシャツがバッチリ見えてる。
サクラちゃんに乗る時は、そこにも布あったからね?
「まさか、高速で突っ込んで来るなんて思わないよ~。歩きなら、飛んでもせいぜい立ち幅跳びぐらいの筈だったし~」
あのゴムみたいな結界、やっぱりレインさんを吹っ飛ばしてたんだ!
そう思ったら、おれのほっぺたはプクーッて膨らんでた。
「だから『威嚇で良い』って言ったろうに」
隣から、〈無免許の某外科医先生〉を思い出す渋い低音ボイスが呆れ混じりにこぼれてた。
腰が痛くない時のリューさんの声、レインさんと同じぐらいカッコイイかも。
あ。ほっぺたの空気ちょっと抜けた。
「僕だって、レイくん弾くなんて想像もしてなかったよ~! ギルドが勝手に登録札替えるとか、普通なら有り得ないでしょ!? 未必の故意でも無く〈普通に犯罪やらかすギルド〉が存在するなんて、幾ら〈クズがトップの国〉でも流石に想定してなかったんだよ~!」
ワーッと顔を覆ってテーブルに伏せる、赤褐色の髪の中年おじさん。
コレが〈暫定おれの父親〉デスカ……。
正直言って見てられマセン。
演技とかじゃ無いんだヨ、アレ。本気なの。
母と同い年だから、四十代も半分以上過ぎてるハズなのに。
おれのほっぺた、風船みたいになってる気がする。
「ああ、それは俺も同じだ。流石にコレは想定外で、評価を見直さなきゃならんよな」
「リューさん? どないする気?」
いきなり『ブプゥッ』て音がして、おれのほっぺたの空気全部押し出されてた。
「夏喜、計画実行して良いぞ」
ニヤニヤしたリューさんの大きな手が、おれのアゴをしっかりホールドしてる。剣士特有の堅い指で、左右のほっぺた押し潰されたっぽい。
ナニするの!?っておれがジタバタしても、全く〈影響ゼロ〉デスヨ。
「へ? 牧場計画の事? 実行しちゃっても、良いの?」
「動物好きの家族の為に〈モフモフ家族牧場〉作るんだろ? 水面下でやってたのを表でやれって言ってるだけだ。従業員集めも進んでるだろうが」
「それはそうだけど。場合によると、この国直ぐ潰れちゃうよ?」
「向こうが筋を通す気無ぇって解った以上、遠慮するだけ無駄だろ」
ちょっ――クチバシみたいにピヨピヨさせんのヤメテ~!
「一応、人的被害は最小限でな。それと、出国の誘いと方法も任せる。ショコラたちとジンに連絡して、全面的にサポートしてくれ」
「アイアイサー!」
おれはオモチャじゃ無いよ!
ほら、みんなコッチ見ちゃってるじゃん~!
「本気なのか、師匠?」
「ああ。堪忍袋の緒が切れた。レイン、お前も腹括っとけよ。妹に説明するのはお前の仕事だ」
「……解った」
「シノン、後でリューノに会うだろ? 伝えといてくれ。マキには俺から言っとく」
「解ったけども。勇者の試練はどないするん?」
「それもあったな。折角だし、有効に使うか」
「了解やわ。でも、そろそろスズくん解放したげてな?」
「あ~、うん……スズの手触り、良い感じなんだよなぁ」
もうヤメテー! おれで遊ばないでー!
********
しばらくピヨピヨされて、おれが涙目になったトコでレインさんに渡された。
堅い腕と胸で包まれて頭ヨシヨシされながら、『何だよ、もう~!?』ってカンジ。
それ以降、おれのほっぺたが少しでも膨れるとリューさんがツンツンして来るの。
レインさんは師匠に遠慮して強く止められないし、他の人も連絡したり地図見たりで止めてくれないし。
もう仕方無いから、おれはレインさんの胸元に顔押し付けて、服の破れ観察に没頭してマシタヨ。




