33 終わりが始まった日
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
日付が変わりそうな真夜中の空に薄い光の尾を残し、闇を切り裂くように進むサクラちゃん。
遥か下には不気味に暗い森が広がってる。
――らしい。
正直暗過ぎて、木だか陰だか判りません。
一瞬だけ見えた目的地の白い山と、夜空の星ぐらいしか判別不可能。
日本と違って地上に光が無いんだもんなー。
おれとレインさんとシノンさんは今、大きい姿のサクラちゃんに乗って空飛んでます。
馬車より断然揺れないし、多分速い。流石は竜。
薄く光る透明なカプセルみたいなのに包まれてて、コレが〈防風と耐衝撃と目くらまし効果の結界〉らしい。
辛うじて結界の中は見えてるけど、サクラちゃんの翼と尻尾の先は全部黒にしか見えません。
日本だと『UFOだ』って騒がれそう。
でも、〈目くらまし〉効いてたら見えないのか?
そこら辺の仕組み、よく解んないんだよなぁ。
この世界でも竜見たら騒ぎになるっぽいけど、そもそも〈夜の四の鐘〉以降は起きてる人自体が滅多に居ないそうです。
野営中で見張りの人とか刻役とか警備の人ぐらいで、お店も正規なら一番遅くて〈夜三〉までだって。
実に健康的ダネー。
――て言うか。
明らかに初めてなのに、ナニこの既視感?
おれだけ座椅子に後ろ向きで座らされてるとか、ナゼデスカネ?
背中合わせに胡座かいてるレインさんがカプセル型の結界張ってて、目の前には座椅子の手すりに掴まって座ってるシノンさんが居るの。
いつもならレインさんの膝に乗せられてるだろうから、ソレよりはマシなのか?
暇な上に小腹空いて来たのもあって、何か遠い目になっちゃうよ。
あー、ハンバーグ美味しかったなー。
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さっさと食べ終わった大人三人の〈業務連絡〉は、何か〈茶飲み話〉っぽいカンジ。
勇者ご一行がギェントイール城の外で〈実戦訓練〉始めたとか何とか。
ソコに一番近い〈紫の試練〉は王城から日帰り出来る距離で、周辺は強い魔獣も居ないから、単に〈本物の戦闘〉に慣れる為っぽいとか。
通常なら一週間ぐらい掛けるけど、今回のご一行は割とすぐ迷宮へ向かうらしいとか。
おれの意識〈ご飯九割・話一割〉ぐらいだから、細かいトコまで聞いてません。
ウチの姉ちゃんだし、何ならいきなり迷宮デビューする気で居たんじゃね?と思う。
むしろ〈慣らし〉を薦めてくれた人――多分ケイル団長のお手柄だよなー。
母と二人でメッチャ元気そうなのは良かったけど、話の途中で変な間が空いた。
シノンさんとタツさんがコッチ見てから、無言で顔を見合わせてる。
何?
ハンバーグ一口欲しいの?
「何だよ。スズちゃんは一人で他人面する気かぁ?」
んグっ――!?
「もしスズちゃんが夏喜の家族じゃ無くても、召喚された時点で俺らの仲間に決定でーす。未成年に拒否権は認めてませーん」
「タツさん、言い方! 『デリカシー覚えて』、言うたやろ!」
「あ~。スズノ、心配すんな。タツさんはこういう人で、コレが平常運転だ」
つまり、おれも会話に参加しろってコト?
「おれ、まだご飯中だよ?」
「聞こえてんなら、せめて相槌ぐらい打てってーの」
茶褐色の目がメッチャ笑ってるし、わざとだって判るけど。
またジト目になっちゃうよ?
時々尋かれたコトに応えながら最後に味噌汁飲み干して、おれも和風ハンバーグ定食完食です。
大根っぽいオロシ、辛くなくてスッゴい美味しかった~。
食べ終わりに一応楽ーン三兄弟のコトを報告したら、タツさんが「あー、あれか……」って遠い目してた。
レインさんをお風呂へ放り込んだ直後に三人ともカタカタ揺れて、水シャワー掛けられたり、足下に泡出されたりしたそうな。
普段ならあり得ない行動で流石のタツさんもビックリしたらしいけど、『起きないから回復目的で浸からせただけ』って言ったら止んで、更にビックリしたってさ。
「そりゃ怒るよねー。ルール厳守の三人だし、レインさんに褒められて喜んでたし」
お茶啜りつつ頷いてたら、ナゼかレインさんとシノンさんに『解ってないけど仕方ないかー』ってカンジの生温い視線を向けられたよ。
解せぬ。
満腹で幸せ気分なおれを見ながら、タツさんの眉間にグイッとシワが寄ったのはナゼでしょね?
「スズちゃん、もしかして〈普段からスキル使ってる〉のか?」
「え? 使ってない……よね?」
「スズノ? 乗り合い馬車の野営の時に使ったって、言ってたよな?」
「あ……うん。馬車では、一回使った」
何かしっくり来なくて変だ。
ちょっと頭の中が混乱し掛けたし。
レインさんのフォローで思い出せたからいいけどさ。
「でも、さっきシノンさ――シノ姉ちゃんに見てもらうまで、自分でも発動してるか判んなかったし。普段は使ってない、ハズ」
「割と〈軽いお祈り〉で魔力動いとったけどね」
「マジか!」
タツさんが一瞬宙を睨んだ。
「思った以上に猶予が無ぇ。この世界は、本当に身勝手に〈欲しくも無い力〉押し付けて来やがるなぁっ!」
置いてきぼりのおれたち三人、みんなで首を傾げちゃう。
低く唸ったタツさんは、大きく深い呼吸を一つした。
「レイン! 今から夏喜に丸投げ出来るまで、スズちゃんには魔法もスキルも使わせるんじゃねぇぞ」
チラッと見たレインさんの返事も待たず、茶褐色の真剣な目がおれを射抜く。
「スズちゃんは、魔力出す事自体が禁止だ。いいな?」
予想外の迫力に、おれの肩がビクッと跳ねた。
その瞬間、頭の上に大きくて温かい重みを感じる。
「スズノ、『オレが手足になる』って言ったろ。大丈夫だ」
左上を見上げると、レインさんが笑ってた。
ホッとしてヘニャッて力が抜けたら、慌てたカンジでヨシヨシされたよ。
子供じゃ無いって突っ張りたいけど、今はソレやったらヤバい気がする。
「あ~。タツさん、またスズくん泣かしよった~」
「泣かっ――俺は真面目な話をしただけで、完全に不可抗力だぞ!」
焦るタツさんをシノンさんがからかってる。
大丈夫だ。
ココにおれの敵は居ない。
「話の腰折ってゴメンね、タツさん。でも、ナンデ?」
離れようとした手を両手で押さえながら首傾げると、三人ともプッて噴き出した。
『スズちゃんは〈パンドラの箱〉みたいだねぇ』――以前にそう言って笑ってたの、誰だっけ?
「スズちゃんの制御し切れない魔力がダダ漏れて、周りに影響出てるんだよ。レインも含めてな」
タツさんがメッチャ苦笑いしてる。ホントにゴメンなさい。
おれを見下ろすレインさんは、明らかに『そうか?』って表情してるね。
「本当に、オレにも?」
「当然だろ。つうか、真っ先に影響受けてると思え。一番長く傍に居るだろが」
でもまぁ、おれが仲良くなった魔導人形さんたちの行動が特殊なら、魔力が影響及ぼしてる可能性は否定出来ないや。
さっきの〈完全回復の呪い〉とか、ちょっとよく解らないコトだらけだし。
「解った。魔力出さないように努力する。方法は解んないけど」
「参った。そこからか~!」
天を仰いで額を掌で打って『あ痛~』ってやんの、ウチの父親と一緒だね。
結局〈魔力封じの腕輪〉を一つ借りて、着けるコトになりました。
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*********
それから。
行く先が〈万年雪が積もる高い山〉って伝え忘れてたとか、おれが『今夜出発』って聞いてなかったコトとかで、タツさんはシノンさんに大分絞られてた。
主に防寒具とか、準備的な問題でね。
ついでに〈道中での設定〉と〈オッサン呼び〉を続けるのか聞いたら、尻尾が揺れたレインさん以外の二人にスッゲーダメージ与えちゃったっぽい。
『スズくんから見たら、レインくんの歳はもう〈おっさん〉なんやね……』
『あー、そりゃそうだよなぁ……』
ってガラスのような金茶の目と達観したような茶褐色の目が、とても居たたまれなかったデス。
結局、身内だけの時は〈さん付け〉でもいいって、レインさんが折れてくれた。
でも二人だけなら、〈呼び捨て〉か〈オッサン呼び〉にしろって。
頑張るけど、まだ当分呼び捨て出来る気しないんだよなぁ。
そんなやり取りを経て、〈赤の試練の最後の安全地帯〉を後にしたんだったヨ……。
「スズくん、どうかした? 寒いん?」
いつの間にか半眼になってたの、シノンさんに見られてた。
もう山のふもとまで来てるのか、うっすら白い地面が増えてる気がする。
「ううん、寒くない。このコート、中からじんわりポカポカだし。ファーのモフモフが最高!」
とっくに真冬並みの気温らしいけど、シノンさんが貸してくれた〈フード付きのモフモフコート〉着てるから、ホントに全然寒くない。
「せやろ、せやろ。この手触り、〈毛モノ〉とは違う方向で至福なんよね~」
「解る!」
シノンさんの愛鳥がヒナだった頃の羽毛集めて作った一点物で、超貴重品だそう。
鳥の種類聞いたら、メッチャ微笑まれた。
イザとなると炎使う鳥らしくて、モフモフなのに燃えないし凍らないとか。
知らない方が良さげデス。
おれに貸しちゃってダイジョブかとも思ったけど。
今着てる〈クラン支給の服〉は、上下とも〈保温結界が標準装備〉だから寒いのも暑いのも平気なんだってさ。
しかも男女共通のデザインで、色が違ってもカッコイイ。
サイズ展開も多彩だけど、シノンさんの〈Sサイズ〉でも大きめだったおれは、どうやら〈SS〉っぽいデス。
一見して〈L以上確定〉のどっちかに借りとけば、判らなかったのに……。
ちょっと泣きそうになったのは秘密。
ソレはともかく。
「聞いていい? ナンデおれだけ後ろ向きかって」
「あ~……」
苦笑いのシノンさんが、おれの肩越しに前方を見る。
「結界の魔力操作、レインくんにお任せした所為やね。先頭やないと対応出来ひんし、ウチではスピードに付いて行かれへんし。許してな?」
「ソレは理解出来るんだけど。前向いてレインさんに掴まってちゃダメなの?」
「恥ずかしぃから勘弁して欲しぃんやて」
「誰が?」
「レインくんが」
「おれが背中に掴まると、恥ずかしいの?」
純粋に不思議で首傾げると、シノンさんも小首を傾げる。
「ん~。ご飯前、スズくんと密着してた所為やないかな?」
「あー、結界張ってた時のアレ? タツさんに何か言われたとか?」
「多分」
「そっか、そういうコトならしょうが無いね。タツさん、からかいそうだもん」
「タツさんやもんな~」
眉を寄せたシノンさんが、困ったような顔で笑って頷いた。
レインさんは背中がビクって一瞬揺れて、聞こえてないフリっぽい。
絶対聞こえてたハズだけど、まぁいいや。
赤いフサフサ尻尾は、ずっとおれのお腹に巻き付いてるし。
背中に寄り掛かっても、ビクともしないで支えてくれるし。
コート越しだから、ちょっと遠いカンジするけどね。
シノンさんと顔見合わせて、同時にクスッて笑った時だった。
一瞬聞こえたのは『バチンッ!』て大音量。
何かを弾いたような――それとも静電気のデッカいの?
とにかく、拒絶の意思を感じる音。
次の瞬間モノスッゴい風が背中から吹き付けて、座椅子の背もたれに押し付けられたおれの口から「ぐえっ」てカエルみたいな声が出てた。
それだけで済んだのは、とっさにシノンさんがおれの背中の前に〈魔力の壁〉造ってくれたから。
「サクラちゃん、ストーップ!」
シノンさんの叫び声と同時に急ブレーキが掛かって、今度は背中の方に吹っ飛び掛ける。
でも背もたれを掴んでたのと、魔力壁のおかげで本当に飛びはしなかった。
同時に気付く、果てしない違和感。
おれの背中の向こう、魔力壁置けるスペースがあるってコト?
「何でや……どぅしよ……何なん、これ……?」
呆然とした掠れ声が頭上から漏れ聞こえ、おれも我に返った。
お腹に巻き付いてた赤いフサフサ尻尾を手探りで確かめながら、そっと背後を振り返る。
目に入るのは、ドコまでも続く闇の中に広がる白い坂道。
それと、坂の裾を取り囲むように連なる鬱蒼とした黒い木々。
目立つ赤いモフモフは、欠片も見えない。
「…………レィン、さん、ド、コ……?」
耳の中までドコドコ言って、五月蠅くて堪らない。
どんなに探しても触らないフサフサと、サクラちゃんの頭の上に広がる周囲と全く同じ冷たい空気に、おれの喉は勝手にキュウッて締まってた。




