32 サイコロは投げられてた
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「あ~、またサクラちゃんが〈イチ抜け〉やわ~」
「え~? この『ふりだしに戻る』地獄、一回も引っ掛からないのスゴ過ぎ――あ!?」
「スズくん〈ふりだし〉行きや。ご愁傷様やね~」
「うわーん、魔導人形さんも上がっちゃった。おれ、二回目のビリほぼほぼ決定じゃん~」
「……何だ、この混沌?」
重低音の呟きにビックリして顔向けたら、小上がりの前にタツさんが居た。
いつ帰って来たんだろ?
今カウンター無人状態だし、ドア開いた音も全然気付かなかったよ。
「タツさん、お帰りなさーい」
「思うてたより、お早いお帰りやったね」
「おう、ただ今……」
メッチャくたびれてるカンジ。
お疲れサマです。
「これ、どういう状況だ?」
「お夕飯まで暇やし、サクラちゃんお気に入りの双六してたわ」
この〈どこでも双六〉、マス目刻んで色塗った木製パネルを組み合わせてるから、長さも内容も自由自在。
サイコロとコマも〈ふりだし〉に収納されてたし、手作り感とコダワリ感満載。
特にコマ置いた時の音が、何か良いんだよな~。
「そしておれは三戦連続〈最下位争い〉で、このサイコロにキラわれてんのかな?って思ってる状況デス」
「はあ?」
あ。『夕飯』って聞いた所為か、魔導人形さんが飛び上がるようにしてキッチン行っちゃった。
よく食べるタツさん居るし、早めに準備しなきゃ間に合わないのかな?
タツさんはと言うと、首捻りながらおれの左肩をチラッチラ見てる。
気になりますか。そうでしょネー。
レインさん、おれを胡座に収めたまま眠り込んで、起きる気配が無いもんなー。
つか何でこうなってるのか、おれの方が聞きたいデス。
ただ、ビクともしないし苦しくないホールドが完璧なんだよ。
ドコに寄っ掛かっても安心設計の、〈安全ベルトとモフモフお耳付きステキ座椅子〉ってカンジ。
「……まるで〈チャイルドシート〉やよね」
え――誰か何か言った?
「実は。いつもサクラちゃんと居る精霊が、スズくん相手にちょこ~っとやらかしたんよ。ほんで、レインくんが魔力吸収結界張ったんやわ」
「ああ、そういう事……。何だ。レイン坊は未だに、自分にしか結界張れねぇのか」
納得したらしいタツさんは、呆れた調子で溜め息ついた。
サイコロ振り掛けてたシノンさんが手を止め、タツさんをジト目で見返す。
「そもそも〈結界〉やよ? 魔導具も魔法陣も無しで、張れる方がおかしぃんよ?」
「そりゃあ〈この世界の連中〉は、そうだろうが――」
「レインくん、〈召喚されてない〉のやけども?」
「あ――そう言や、そうだったなぁ……」
ボリボリ頭かいたタツさんは、バツが悪そうに目を逸らした。
シノンさんも、サイコロ握り直しながらおれの方を見る。
少し心配そうな二人の目は、おれの左肩に向かってる。
「スズくん。結界消えたし、レインくん起きそう?」
「うーん……まだ起きないカンジ」
サクラちゃんは最初の指定時間頃に起きて、大分経つのになー。
「眠りが深過ぎるとか言ってたが、こういう事か?」
「どうだろ? こんなの初めてだし。もしかして、魔力切れの気絶ってコト無い?」
「あ~……眠過ぎて結界に魔力使い過ぎた、とか有りそうやね」
「普段なら『無い』って断言出来るが、スズちゃんが絡むとどうもなぁ?」
二人とも、おれをチラッと見て苦笑する。
レインさんの〈心配性〉が仕事し過ぎなのは、おれの所為じゃ無いと思いマス。
ウチの父親は影響してるかも知れないけど。
「……ん? 魔力は大して減ってねぇぞ。気絶じゃ無ぇな」
もしかして、『魔力と体力と疲労が完全に回復しないと目覚めない』のか?
一瞬『呪いみたい』って思ったのは、誰にも言えない秘密デスヨ……。
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「レインくん、相当お疲れやったんやろか?」
「あ~、目の下に〈小熊〉居たしなぁ」
「え。それタツさんの所為やないの?」
「何でだよ!?」
「ま、お夕飯に間に合えば何でもええかー」
わー。
シノンさんが、メッチャいい笑顔でタツさんからかってる。
釣られてサクラちゃんも嬉しそう。
意味は解って無さげだけど。
「一応余裕は見てるが、あんま遅くなると困るんだよなぁ」
レインさん見て考え込んでたタツさんが何か呟いたけど、ほぼ同時にコンコンコンッてサイコロがいい音立てて、聞き取れなかった。
「はい、上がり。順位確定やね」
「やっぱりぃ~……」
サクラちゃん>魔導人形さん>シノンさん>おれの順で、総合順位も同じ。
感想は「ノーコメント」デス。
「ほんでタツさん、報告は今すぐやろか?」
「いや、飯の時でいい。スズちゃん、先にトイレ行って来い。大分我慢してたろ」
でも動けないから――って言う前に、レインさんのホールドが緩んでた。
起きたのかな?
と思ったら、タツさんのデッカい手に両脇掴まれて持ち上げられて、さっきまで魔導人形さんが居たトコへ流れるように座らされてた。
「よっこらしょっと」
一瞬過ぎて置いてきぼりのおれの頭が再起動したのは、タツさんの大きな背中で赤い髪と三角お耳が揺れるのを目にした時。
「タツさん、レインくん担いでどこ行くん?」
おれはシノンさんの言葉で、タツさんの左肩に俯せのレインさんが担がれてるコトにようやく気付いた次第デス。
タツさんはブーツ履いたまま、膝立ちの中途半端な姿勢でサクッと全部こなしたらしい。何て力持ち。
ウラヤマしいとは思えないけど。
「取り敢えず、ひとっ風呂浴びて来るわ」
「「え――!?」」
おれとシノンさんの二重奏を背に、タツさんは止める間も無く通路に消えてった。
残されたおれたちは何も言えず、生温くなったお茶を飲む。
しばらくして、床のずっと下の方で空気が震えた。
思わず顔を見合わせたおれとシノンさんは、無言のままそっと頷き合い、不思議そうに前足で床をタシタシ叩いてるサクラちゃんをメッチャ撫で回した。
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結論から言うと。
おれの〈完全回復の呪い〉、お風呂で解除出来たようデス。
人工とは言え、流石は〈浸かる系回復の泉〉。
ただ、服のまま放り込むのはどーかと思いマス。
そりゃ全裸も下着一丁も、あの状態だと〈ナシ〉だけどさ。
それにお風呂の中で目ぇ覚めたら、レインさんだってパニクるよねぇ。
あの空気の震えは、起き抜けで割と全力の〈風魔法〉だったそうデス。
先読みしてたタツさんの分厚い結界に阻まれて、実害は無かったらしいけど。
阻まれたのに空気震わせてるんだから、相当な威力だよね?
浴槽とか無事だったのもスゴいけど、平然と頭洗ってたらしいタツさんはマジでどーかと思いマス。
シノンさんが「この〈人外S級〉」って呟いてたの、ちょっと納得。
もしレインさんが溺れたら、どうする気だったんだろ。
扱いが雑過ぎじゃね?
とは言え。
元を糺せば、おれの所為とも言えるワケで。
温和しく取り調べを待つ所存デスヨ……。
小上がりに近いテーブルに座ったおれの前には、タツさんがドッカリと腰を下ろしてる。
右隣のシノンさんがジト目で見つめてるけど、平然と腕組みしてて動じない。
レインさんはおれの左隣で、まだシットリしてる赤い髪の中の三角お耳が厳戒態勢。
ちなみに、サクラちゃんは『迷宮レストランで外食』だそうです。
お気遣いの言い回しアリガトウゴザイマス、シノンさん。
少しピリピリムードの中、タツさんの前には大きなお椀の味噌汁と小鉢に山盛りのお漬け物、ドーンと〈特盛りカツ丼〉が四つ並ぶ。
ん?
おれの前には〈和風ハンバーグ〉のお皿が来た。味噌汁とご飯も付いてる。
レインさんは〈大盛りショウガ焼き定食〉で、シノンさんは〈サラダとお肉の丼〉に目を疑うほどデッカい〈温泉玉子〉と味噌汁付き。
あれ?
おれの取り調べじゃ無いの?
「どした、スズちゃん?」
いただきますと同時に箸を掴んだタツさんが、キョトンとおれ見て首傾げた。
ピリピリムードが消えてる。
もしかして、お腹空いて待ち切れなかっただけか!?
「えー、何と言うか……さっきのお風呂、竜神様の逆鱗に触れてない? ダイジョブかな?って……」
モゴモゴ言うおれに、三人とも「あー……」って顔。
「あの。もし怒られるなら、おれの所為だし、一緒に謝るよ。ちゃんと言ってね?」
ヒトが決死の覚悟で言ったのに。言葉の途中でカツ丼がっつき始めましたよ、このゴリマッチョ。
いくら〈のすけ仲間〉でも、思わずジト目で見ちゃうよ?
左側から伸びて来た温かくて大きい手が、おれの頭をポンポンと叩く。
「スズノが謝る必要は無ぇよ」
「せやせや。全くあらへんわ」
「そもそも詳しく報告しねぇから、大丈夫だろ。風呂も魔導人形たちが喜々として洗ってるし」
トンッて置かれた丼は、普通にフタが閉じれるぐらいには中身が減ってた。
ウソ!? ちゃんと噛んでる!? 早過ぎない!?
「濡れた服も、別の魔導人形が魔導具で乾かしてくれてんだ。問題無ぇぞ」
「魔導具の魔力が足りひんかったら、タツさんがす~ぐ足してくれはるよ。ねえ~?」
「はいはい、仰せのままに。ただし、飯が先な」
次に持ち上げた大きなお椀も、置かれた時には水面が随分下がってた。
なのに、レインさんもシノンさんも気にする様子が全く無い。
メッチャ慣れを感じるし、三人とも平常運転っぽい。
おれが心配しなくてもダイジョブそう。
安心して思わず笑ったら、ショウガ焼きのお肉を口の中に放り込まれマシタ。
だからおれは〈鳥のヒナ〉じゃ無いんだよ、レインさん!
美味しいけど。
食べさせてくれなくてもダイジョブだってば。もぉ~!




