31 お目覚めですか、アレレのレ!?
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「何してんだ、お前ら。スズノが窒息するぞ」
おれが真空パック状態で必死に助けを呼んでたら、返事するように声がした。
呆れたようなその低音は、おれの背後からシノンさんの方に向かってる。
「それはヤバイ。ナッキーに殲滅されてしまうわ」
「プひゃっ――!?」
ベリッてカンジでおれの顔に引っ付いてた何かが無くなり、同時に背中側へと引っ張られた。
「息出来るか、スズノ? 大丈夫か?」
涙目でよく見えないまま振り向かされて、ボフッてオデコが何かにぶつかる。
何かって言うか、壁?
厚くて堅いのに、ぶつかってもあんま痛くない。右側に張り出してる気配があって、追撃からも護られるカンジ。
全力でしがみ付く。
「はっ、はあっ、ふあぁぁ……死ぬかと、思ったぁ~……」
じんわり温かい空気を感じて、ようやくゆっくり呼吸出来た。
でも、酸欠と急な回転で頭の中がグルグルしてる。
今更ながら手もプルプルしてるし。
「もう大丈夫だから、泣くなよ」
「泣ぃてなぃ~……」
自分でもビックリの〈思った以上に泣き声〉だったけど。
コレ〈生理現象的なヤツ〉だもん。
悲しいとかで泣いてんじゃ無いもん。
――って、あれ?
「レインさん、起きてたの?」
聞き慣れた声だと思って顔上げたら、見慣れた眼帯と碧い隻眼に見下ろされてたよ。
「お前に泣いて呼ばれちゃ、起きるに決まってるだろ」
ぐっと寄った眉間のシワは超不機嫌そうだけど、いつもより掠れた低音の声は心底心配そう。
さっきまで寝てたハズのレインさんが、おれの頭を腕で庇って呼吸出来る空間を作ってくれてた。
「あの……お休みのトコロ、スミマセンデシタ」
つか、しがみ付いてたの、壁じゃ無くてレインさんの胸じゃんよ。
気が付かないとか、おれの脳ミソ半分ぐらい機能停止してたんじゃね?
「全然構わねぇよ」
ゴツくて大きな手がおれの前髪をかき上げて、ついでに優しい手つきで頭を撫でてくれる。
「でも、泣いてないから」
「コレでもか?」
おれの目に溜まってた〈生理的な塩水〉、レインさんの指で拭われてマシタ。
「ソレ、は――違うし」
ビックリしてモゴモゴしちゃったら、フッて緩い吐息が落ちて来たよ。
状況証拠で〈強がり〉に思われた予感。
頭ポンポンされちゃった。
違うのにぃ~!
「やっぱり、おちおち寝てらんねぇなぁ?」
レインさんは苦笑いだけど、何だかホッとしてるようにも見える。
そう言えば、おれがムリに寝かせたんだった。
レインさんは『寝たくない』って言ってたのに。
「……何か、ゴメンなさい」
「イイよ。『何かあったら起こす』は守ってくれたし。ちゃんと『助けて』って呼んでくれたし。上出来だぞ、スズノ」
おれはナンデ〈お留守番出来た小さい子〉みたいに、頭撫でくり回されて褒められてるんデショウネー?
レインさんの中のおれって、いったい……?
「ってゆーか、ホントに泣いてないし! 欠伸と同じ、勝手に出た涙だよっ」
「解った、解った。えーと……あら瓶? 土瓶に、ハゲ茶瓶? 呼ばれて、飛び出て……」
え――〈くしゃみで召喚大魔王〉も通じるの?
「――ダ・ダーン!」
「ふぁっ!?」
ナゼにいきなり〈マッスルポーズ〉!?
「レインくん、そこは『ジャジャジャジャーン』や。『ダ・ダーン』とポーズは、タツさんの〈宴会芸〉やよ」
「ん? そうなのか?」
マジか。
確かに、タツさんならそのポーズ似合うケドネ?
それと。
シノンさん、居るの忘れててゴメンなさい。
「せやけど。〈くしゃみで召喚される大魔王〉は〈欠伸で娘が召喚される〉訳やし……〈蒼黒の魔王の息子〉は〈涙でマッスル召喚される〉のもええかも知れへんね?」
シノンさんが何か呟いてたけど、『欠伸で娘が』までしか聞き取れなかった。
ソッチをチラ見したレインさんが、おれの耳のすぐ横に腕寄せたから。
少し顔しかめてるし、おれが聞いたらマズいのかも?
**********
「スズノ。ちょいと浮かせるから、動くなよ」
「ピョっ――!?」
くるんと後ろ向くように投げ上げられたのは一瞬で。
気が付いたらガッチリキャッチされて、床にお尻が着いてました。
「もう気ぃ抜いてイイぞ」
「ふぇ~……え?」
今おれは、ナゼか〈レインさんの胡座の中〉にスッポリと収まってます。
ちゃぶ台だから膝の上はムリだったのねー。
――って、そーゆーコトじゃ無かろうヨ。
「いやいや、ナンデ!?」
そりゃ窮屈な体勢だとは思ってたケドネ!?
レインさんに抱っこされてるのはマジで『ナゼ?』デスヨ!
ちょ――放してぇ!
「何やの、その警戒っぷり。レインくんて〈彼女サンを束縛するダメ男〉やったん?」
「あ?」
「ぐフっ……」
その〈彼女サン〉の位置に居るの、どう考えても〈おれ〉ダヨネ?
メッチャ呆れたシノンさんの声は、レインさんよりもおれに〈クリティカルヒット〉シマシタヨ。
ナニかがごっそり削られた気がする。
「スズノは男で〈カノジョ〉じゃ無ぇよ。だが、さっきみたいのは二度と御免なんだ」
言いながら、レインさんがおれの左肩にアゴ乗っけて来る。
さり気なくほっぺたスリスリして、「もう泣かせねぇからな」って。
「だから『泣いてない』って何度も……二人して〈スルー〉デスカ!」
無精ヒゲがチクチクしないから、一瞬『ジョニーさんにほっぺた舐められた』と思ってビックリしたのは内緒デス。
ふと見ると、おれの胸の前で交差してる筋肉質な腕の外側が蒼く光ってた。
って言うか。
おれとレインさんの周り、蒼い光が上から螺旋状に降り注いでキラめいてた。
「メッチャ綺麗だけど、コレ何?」
「〈魔力吸収結界〉や。レインくん、本気やねぇ」
え?
どーゆーコト?
「さっきの見たら、まぁそうなってしまうかー。全面的にアンタが悪いんやし、温和しゅうしとき」
困った顔のシノンさんの右手は何か〈見えないモノ〉を掴んでるようで、〈ソレ〉がバタバタ暴れるのを捕まえてるっぽい。
おれの方見て、左手を拝む形にした。
「ごめんねー、スズくん。このコ、悪気は無かったんよ。寧ろ、キミに懐いてしもたんやわ」
「ほぇ?」
うん。全然解んない。
「そいつ〈ハグレ〉か?」
「せや。サクラちゃんと仲良しなんよ。いつもウチの服に引っ付いて、〈魔力障壁〉の代わりになってくれてるんやけど。まさか、スズくんから離れへんなんてねぇ」
「勝手にスズノの魔力喰った上に、接触部分から〈実体〉造って物理的にしがみ付いてやがったぞ。スズノを窒息させ掛けといて、言う事はソレだけか?」
「う~ん……けど〈窒息〉って概念、このコは理解出来るんやろか?」
小首傾げるシノンさんに、盛大な舌打ちするレインさん。
どうやら〈窒息しない子〉らしい。
まぁ〈透明生物〉だし、呼吸してる様子も無かったもんなー。
手触りも〈低反発枕〉みたいな〈ムニュっぷり〉だったし。
「ただウチが知る限り、今までに見た事も聞いた事も無い行動やよ。魔導人形たちと言い、スズくんそういう〈引き〉強いん?」
「オレが知るか」
レインさんがまた舌打ちした。
つーか、いつもよりガラ悪くなってない?
おれのコトはギュッて抱き締めてるから、メッチャ警戒してるだけ?
「ねぇ。おれには何も見えないんだけど、何なの?」
「見えなくて当然だ。ハグレは〈無属性の下位精霊〉で、実体造れる程魔力高くねぇ」
「せやね。〈属性精霊〉なら〈主属性に絞る〉事で多少密度上がるし、感度良ければ見えるコ居るんやけどねー」
はい? 〈精霊〉デスカ?
シノンさんの右手に、ソレが捕まってると?
んんん?
あ。
何か、ボンヤリした〈光の集合体〉が見えるかも。〈魔力の塊〉的な――?
「スズノ、魔力が漏れてる。もうヤメとけ」
「ハイ……」
あれ――さっき〈魔力吸収結界〉って、言ってなかった?
「ねぇ……その〈精霊さん〉、この蒼いキラキラに触ったらどうなるの?」
「オレの魔力に変換される。スズノの魔力、勝手に喰いやがったんだ。譲る気は無ぇぞ」
淡々と言うレインさんは、おれが振り向くのを封じるようにギューッて抱き締めて来てる。
腕は自由だし、気ぃ遣ってくれてるから別に苦しくは無いんだけど。
「多分ナッキーも同じ事言うわー。いや寧ろ、既に消滅させとるかも? せやから、スズくんは気にせんでええよー」
「あ――うん。状況は、解ったと思う」
ソレは下手に庇えないね。
ちゃんと罰しておかないと、ウチの父親が何するか判んないし。
でも何だろう。『セッショウな~。オダイカン様お許しあれ~』『駄目だ。絶対に譲らん』って副音声が聞こえてる気がするんだよ。
おれの頭、どうかしちゃってマスカ?
「そやな~。しばらくサクラちゃんと一緒に居って、レインくんの許可取れたらスズくんの服のポッケにでも入っとき。顔に張り付くんは、絶対に〈無し〉や」
シノンさんの右手がブンブン縦揺れして、パッと開いたら何の気配もしなくなった。
精霊さん、素早いなー。
*********
とっくに冷めちゃったお茶飲んで、ふと気が付いた。
「あれ――そう言えば、サクラちゃんは?」
お茶フーフーしてた時は、おれの右膝に頭乗っけてたハズなのに。
いつから居ないの!?
「心配せんでも、ほら、そこで寝とるよ?」
「ソコって――ちゃぶ台の向こう? あ、ホントだ」
「見える? 完全に仰向けやよ。可愛いわ~」
「見える見える。〈ヘソ天〉メッチャ可愛い! 天使!」
「な~!」
スゴいや、サクラちゃん。
壁の方まで転がってんのに、毛布にくるまって幸せそうな寝顔だよ。
当分起きる気配が無いね。
って言うか。
おれの左肩からもスースー寝息が聞こえてるんデスケド。
「えーと、もしかして……レインさんも、寝ちゃってる?」
「せやね。多分、寝とるわ」
えー!?
抱っこしたおれの左肩に頭乗せるって、結構キツい姿勢じゃ無いの?
何かビクともしないから、どうしようも無いけど。
「さっきガラ悪かったの、まさか寝ぼけてたのかなぁ?」
「寧ろ、眠くてむずかってたんと違う? 設定時間前に、強制的に起こした訳やし」
「え? レインさんは〈幼児扱い〉で、おれは〈タイマー扱い〉なの? ねえ、シノンさん?」
「シノ姉ちゃん、やろ? いや~、スズくんのスキルって本気でとんでも無いねぇ」
「……マジデスカ」
シノンさんは綺麗な笑顔で楽しそうに笑ってる。
でも、おれは引きつっちゃって笑えないよ。
おれのスキルさん、〈気軽いお祈り〉でこの威力って……。
本気で魔力注ぎ込んだら、どうなっちゃうんだろうなぁ?
あははのは……。




