30 『お嬢さん、お逃げなさい。ほら全力ダッシュ!』
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「……レインくんの寝顔、初めて見たわ」
ボソッと呟くシノンさん。
おれも見たい――じゃ無くて、確認したい。
「ちゃんと寝てる? 起きてない?」
振り向いても、見えるのは肩と髪と眼帯のベルトぐらい。
あ、〈人の耳〉もちょこっと見えた。
「うん――大丈夫。完全に眠っとる」
「そっか。良かったー」
「サクラちゃんも、ぐっすりやね」
「うん。おれが動いちゃっても全然起きないの」
「ほんま、珍しぃわー」
二人に毛布掛けてくれたシノンさんが、おれの左手側に座る。
現在おれたちは小上がりのちゃぶ台で、〈卵プリンとクッキーと緑茶のお茶会〉をしてるトコロです。
参加者はおれと、絶賛〈湯上がりほこほこ〉状態で〈湯冷め注意報〉出てるシノンさん。
もう一人の〈ほこほこ〉サクラちゃんは、おれの右膝を枕にしてます。
レインさんは、おれの背中側でゴロ寝してるっぽい。
二人とも移動で魔法使うから、魔力を回復しとかなきゃいけないんだってさ。
寝る前にレインさんが『心配だからやっぱり寝ない。回復薬飲む』って言い出して、一悶着あったけど。
シノンさんも居るし、何かあったらおれのスキルで起こすって言って押し切ったよ。
不安そうだった赤い尻尾も、おれのお腹に巻き付けたら安心したみたいだし。
布団はおれがお風呂行ってる間に片付いてたから、毛布だけ掛けて仮眠中。
「スズノくんの〈清々しい目覚め〉、凄いスキルやねぇ。こんな深く眠っとるのに、時間が来たら起きられるんやろ?」
「んー、多分? おれ的には、発動してるのかよく判らないけど」
「そうなん? 魔力動いてたし、発動しとる筈やよ」
「そっかー」
姉ちゃんに『歩く目覚まし時計』って言われた時はイヤだったけど。
心配性っぽいレインさんが安心して寝てくれるなら、悪くないスキルだよなー。
「あ、じゃあ『目覚めた時に魔力と体力と疲労、完全回復してますように』――って。コレは?」
シノンさんも『敬語無しでいい』って言ってくれたので、もう普通に喋ってます。
「うん、動いた。そんな〈お祈り〉みたいなんで発動するんやねぇ」
「おぉ~。シノンさん、ありがと! おれ、初めて『スキル使った』ってカンジした。手応えは無いけど」
「手応えかー。ウチも無いっちゃ無いよ? サクラちゃんたちが懐いてくれとるだけやもん」
「あー、ソレも大変だねぇ」
「ねー」
何か〈従兄姉たち〉と一緒に居る雰囲気で落ち着くんだよね。
レインさんとはちょっと違う、安心なカンジ。
「……シノンさん、メッチャいい匂いするね」
シノンさんの腕が目の前通ると、幸せな気持ちになる〈お菓子の匂い〉がフワッと漂うんだよ。
今食べてるクッキーとは違う、美味しそうな匂い。
「今は〈いつものボディソープ〉だけやよ。メイクは出掛ける前で充分やわー」
おれはスッピンの方が好きかも。
お化粧の匂い、ちょっと苦手。
「バブルさんの〈ミルク〉の匂い、甘くて美味しそうだよねー。絶対食べないけど」
「あー、せやね。寧ろ〈バニラ〉っぽい気ぃするわー。って、普通食べへんよ」
何でおれは『ダメ』で、シノンさんは『OK』なのか。
水場三人衆改め、〈楽ーン三兄弟〉を問い詰めたい気持ちでいっぱいデス。
サクラちゃんとお揃いの〈シャボン玉〉だから、まぁいいんだけどさ。
「……おれの時は〈問答無用で泡チェンジ〉だったのに」
「スズノくん、今何て言うたの?」
ぶー垂れたおれは、〈強制泡チェンジされたコト〉と〈レインさんが三人を褒めたコト〉をシノンさんに愚痴りマシタヨ。
「え――魔導人形が、勝手に泡を変えたん?」
シノンさんも、驚くのは〈魔導人形さんの自主判断〉ってトコなのか。
「あ~、そう言うたら何やいつもと違うたな。あの三体、妙に張り切っとる言うか……」
どうやら〈水場三人衆〉は〈楽ーン三兄弟〉って呼び名が気に入っちゃった上に、名前もらったって張り切ってるらしいのデス。
レインさんの説得にも応じなかったヨ。
ソレは、マジでゴメンなさい……。
「取り敢えず、事の次第をタツさんに報告するしか無いねぇ。後の対処も、任せるしか無いんと違う?」
「コレ、〈幹部への報告案件〉ナノデスカ?」
「う~ん、どちらかと言うと〈ナッキー対策〉やろか。スズノくんたちの事は、小さな事でも報告せぇって話やね」
「誠に誠に、お手数をお掛けしておりますぅ~!」
ちゃぶ台に頭を押し付けようとしたら、シノンさんの掌で止められた。
フワッと甘い香りがする。
「今ここでウチが先に会うたのも、きっと〈縁〉なんやろうね」
シノンさんは綺麗な笑顔でおれを見た。
ちょっと悪戯っぽい目に見えるけど。
「少しだけ、昔話に付き合うてな?」
一瞬レインさんとサクラちゃんに目をやったシノンさんを見て、おれも頷いた。
**********
召喚当時のシノンさんは大学生で、動物好きが高じて保護団体に所属してたそうな。
時期は、〈何百年かに一度の大災害〉が起きたすぐ後。おれが住んでた地域は割と無事だったけど、〈ヒドい状態〉の町や村がまだいっぱいあった頃。
すぐ戻るつもりで避難した住民たちが帰れなくなって、ペットとかが〈置き去り〉の形になってるのがテレビでよく流れてたんだって。
要約すると。
そのペット保護の為に〈ある被災地〉へ出向いて、仲間と手分けして無人の町を回ってたら〈おかしな挙動をしてる三人組〉に遭遇。
どうやら〈火事場泥棒〉だったらしく、必死に逃げたけど追い詰められて絶体絶命。
そこへ被災地の支社に出張してた〈ウチの父親〉が偶然車で通り掛かり、車を盾にシノンさんを助けようとした途端、周辺一帯の地面に〈大きな魔法陣〉出現。
気が付いたら〈ウチの父親と二人きり〉で遺跡に居て、翌日には騎士たちが来て〈あのお城〉に連れてかれて、あれよあれよと言う間に〈役立たず認定〉で放逐決定。
その時に〈例の三人組〉を見掛けてケイル団長に経緯を伝えつつ、レインさんの師匠の〈リューさん〉に連絡取って保護してもらい、今に至る――と。
その頃のリューさんたちは『魔王を倒して日本に帰ろう』と色々準備してたそうで、合流した後になかなかハードなスケジュールを組まれたらしい。
ソレが、〈異世界の時間で十年前〉の出来事。
今はもう帰るのを諦めたのかな?って一瞬思ったけど。〈魔王を倒しても帰れない確率が高い〉って判ったから、方針転換したんだって。
おかげでおれは、レインさんに護衛をしてもらえてるそうな。
その辺はよく解んないけど。〈ウチの父親が暴れないように〉っていう配慮だけは、モノスゴク伝わったヨ……。
*********
姉ちゃんと一緒に〈ラノベ読んでた〉ウチの父親が付いてたおかげで、シノンさんはイロイロと助かったんだって。
特に〈異世界ネーム〉の重要性を〈合流後に〉聞いて、蒼白になったって。
おれと一緒だね。
本名も教えてもらっちゃった。苗字は結局思い付かなくて、英訳にしたそうです。
それで、輪堂家全員に感謝してるって言われたけど。
輪堂家的には、『ウチの父親が役に立って良かったです』に尽きるんだよねー。
多分、母と姉ちゃんも同じコト言うよって言ったら、シノンさんはちょっと泣きそうになってた。
でも父親本人には内緒デス。
母以外から聞いたら、多分泣き暮らしちゃうからね。
「ほんで、ウチは〈シノお姉さん〉でええからね。こっちも〈スズくん〉て呼ぶし」
今泣いたカラスがニッコリ笑ったヨ。
ナンデそうなるの?
しかし、反論出来る雰囲気じゃ無いってのはヒシヒシ伝わってマス。
まぁね。
実質八年間ウチの父親に面倒見られたら、もう親戚っぽいカンジになっちゃうよね。
おれもイヤなワケじゃ無いんだよ。
従兄姉が結婚して、親戚が増えたコトならあるし。
ただ、〈お姉さん〉って呼び方が慣れなくて……ちょっと恥ずかしいんだよなぁ。
「う~……〈シノ姉ちゃん〉、じゃダメ?」
「ええな、それ! 良く出来ました、スズくん!」
「わ、にゃぶっ――!?」
目の前が真っ暗で何かで塞がって息が出来ないんだけどナニっ!?
何なの、待って。
ナニコレ。
苦しいし、取れない!
――取れないっ!?
レインさん、助けてぇ――!
序章からだと一年経ってましたねぇ。
続きを待っていて下さる方々に、限りない感謝と小さな幸運を。




