29 卵プリンとスズノとレイン
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「いただきます」
木製スプーンの上に乗るのは、ホントに〈黄金色〉ってカンジのなめらかな物体。
切り出すとよく判る、〈異世界でよく食べる卵〉の濃い匂い。
ほのかに甘い匂いと、少し香ばしい匂いもしてる。
「ん~、美味しい~! トロけないし、卵の味全開~!」
「タツさんに聞いたレシピだ。口に合って良かったぜ」
流石タツさん、〈のすけ仲間〉!
て言うかコレ、ウチの父親が昔作ってくれた〈オヤツ茶碗蒸し〉だと思う。
おれが何かでヘソ曲げた時、『お代官様お納め下さい~』って〈温泉饅頭の箱〉に詰めて渡して来たヤツ。
色はもっと薄かったけど、〈おれへの切り札〉のリアル〈山吹色のお菓子〉。
コレ知ってるなんて、タツさんはホントにウチの父親と仲良しなんだなぁ。
工夫したらもっとプルンプルンになりそうだし、〈プッチンするプリンの味〉に近いのも出来そう。
いつか試してみたいよねー。
一つ問題はあるけどさ。
「カラメルもほろ苦くて美味しい~。コレ作れないんだよねー、おれ」
ナゼか毎回〈目に向かって来る〉砂糖の粒が居るの。
水中ゴーグルして作って透明なトコに当たって以来、母に〈カラメル作り禁止令〉出されてマス。
「食いたいならいつでも作ってやるぞ? 材料さえあれば、すぐ出来るからな」
嬉しそうな声が降って来た隣の席を見上げると、綺麗な碧い目に笑いながら見下ろされた。
イヤな笑いじゃ無いからいいけどさ。
余裕の理由は身長か? 腕の長さなのか?
まさか〈安全マージン〉が〈牛乳案件〉だったとは。
むぐぅ……。
「そんな悔しそうな表情すんなよ。お前、何と戦ってんだ。全部自分でやらなきゃいけない制約でもあんのか?」
苦笑混じりの声が落ちて来て、眉間のシワを指でクイッと伸ばされた。
このゴツくて堅い指は、思った以上に優しく触れてくれるからあんまり怖くない。
「おれは、〈何にも出来ないおれ〉と戦ってんの。ジャマすんの禁止ー」
「おお? ソレは邪魔出来ねぇな」
頭突きの要領で押し返すと、あっさり引いてくれる。
あ――こんなカンジで結界張れたら、イロイロ安全になるんじゃね?
ソレならおれ、魔法使えるように頑張るのが先か?
「スズノは今までずっと役に立ってるし、オレも随分助かってんだぜ。これでもまだ足んねぇなんて、予想以上に〈頑張り屋〉だなぁ」
メッチャ感心されて、頭撫でられた。
何だろ……何かムズムズする。
タツさんの本名知った後みたいに、勝手にほっぺた弛みそう。
「あー、でも頑張り過ぎんなよ? 魔力の扱いは不慣れなんだし、下手に集中するとまた〈魔力漏れ〉でブッ倒れちまうぞ」
「ぅおぅ、そんな罠もありマシタネ……」
苦笑混じりの声で思い出したよ。
自分の魔力はナゼか見えないんだよなぁ。
何かもう二~三回は倒れてるような気分だし、注意しなきゃ。
「魔力関係は多分ナッキーが喜んで教えてくれると思うから、オレが教えるのはもうヤメとくな。その代わりいつでも手足になるから、遠慮無く言えよ?」
先に教わったら、『自分が教えたかった~』ってヘソ曲げかねないワケデスネ。
「んー……」
あ――この〈異世界卵のオヤツ茶碗蒸し〉にも同じ理由が適用されそう。
厄介かつメンドクサイ臭いプンプンじゃん……。
改良するなら、レシピ知ってるレインさんに手伝ってもらわなきゃムリっぽい。
全部丸投げは『口だけで何にもしてない』って言われちゃうから、ダメだけど。
「……言ったら、手伝ってくれる?」
「当然だろ!」
怖ず怖ず尋いたら、満面の笑みで肯いてくれました。
赤いお耳と尻尾も嬉しそうだから、迷惑では無さそうです。
……くすぐったいのとドコかホッとした気分がするのは、ナンデだろね?
**********
「ただ今~」
ちょっと疲れた声がして、シノンさんとサクラちゃんが帰って来た。
良かった。二人とも無事だー。
「お帰りなさい!」
「おう、お疲れ」
「サクラちゃん、ストップ! お風呂が先や!」
あんまり汚れてるようには見えないけど、駆け寄って来ようとしたサクラちゃんをシノンさんが止めてくれた。
でも階段へ向かう時、テーブルの横でピタッと止まったのはシノンさんの方。
「スズノくん」
おれをじーっと見つめて来るシノンさんは、〈狩人の目〉。
「そのフルーツ乗せてるの、プリンやろか?」
正確には、おれの手元を見てた。
カットフルーツで彩りを添えた小鉢の中に、視線が釘付け。
半分以上食べちゃって、断面丸見えだったもんね。
「ん? ほぼ〈卵鳥の卵〉だけだし、〈卵プリン〉が妥当か?」
「おれには〈オヤツ茶碗蒸し〉だけど。〈作った人の言う通り〉でいいと思う」
「何やてっ!」
ふぉっ――!?
「ウチに黙って、そんな〈ええ物〉作るやなんてっ!」
おれ今、一瞬浮いた? つか、座ったままジャンプしてた?
心臓がメッチャバクバク言ってる。
落ち着け~。
「キッチンの棚にまだ入ってる。食ってイイから、スズノを怯えさせんな」
ビクついてたら、背中にレインさんの大きくて温かい手を感じた。
ゆっくりさすってくれるおかげで、ギュッて強張った首と肩が少しだけ緩む。
「あ――大きい声で、脅かしてしまったのやろか?」
「ダイジョブ。一瞬、〈怒った時の姉ちゃん〉、に似てた。シノンさん、悪くない」
「そうか、〈ナッキーの娘〉に似てたのか……」
うん。ノドが詰まって、片言になっちゃうレベルでビックリした。
ちゃんとシノンさんの声だったのにね。
「何やろ。むず痒いような、複雑な気分やね……。とにかく、埃落として来るわー」
サクラちゃんに引っ張られるように、シノンさんは通路へ消えてった。
*********
銅メダル色の三つ編みが嬉しそうに弾む後ろ姿をじーっと見送りながら、おれの脳内は大慌てで緊急対策会議開催。
同年代だから似てる?
それとも雰囲気?
まさか、おれは〈ホームシック〉で〈シスコン〉になるとか!?
「スズノ、ちょっと落ち着け」
不意に目の前にカップが現れて、視線が遮断された。
見上げた先は、苦笑いのレインさん。
飲み頃の温かいお茶を、そっと渡してくれる。
手からじんわり温かい~。
「シノンは、召喚されてからずっとナッキーと一緒に居たからなぁ」
突然何デスカ?
おれ別に、嫉妬とかしてないよ?
今度はビックリしないよう、対策考えてるだけ。
「オレもシノンも、『ナッキーみたいな親が欲しかった』と思った事があるんだよ。スズノが羨ましいぜ?」
そうなの?
当事者的には、多分〈程度問題〉だと思うんだけどなー?
あ~、やっぱり緑茶美味しい。
プリンにも合うし。
何たって、和む~。
……ん。
結論。
単なる〈条件反射〉の可能性が高いんじゃね?
〈女の人の大声〉聞くの、〈姉ちゃんが怒ってる時〉が一番多いもん。
特に〈おれが何かされた時〉の〈復讐の女神化〉が恐いんだよな。
『やり過ぎ注意』って、何度言っても聞いてくれないし。
母も止めないし。
あ――『お姉ちゃんのそういう所、父親にそっくりねぇ』って笑ってた!
うわ、今後はまさか二倍――むしろ二乗!?
考えただけでプルプルしちゃって止まらないヨ!?
「レインさんやシノンさんも〈保護対象〉にして、おれへの〈過保護〉を減らしてくれたらいいのに……!」
思わず呟いたら、おれの方に向いた赤いお耳がピコピコ動いた。
「ソレでも〈スズノは特別心配される〉と思うけどなぁ?」
……否定出来ない。
〈ステータス的〉な話ですか。ソウデスカ。
ソレモソウダネ。
納得シマシタ。
解っちゃいるけどションボリングなんだよ。
慰めで頭撫でられても、嬉しくなんか無いんだからねー!
ナゼかその後、ニッコニコの笑顔になったレインさんの分のプリンを〈鳥のヒナの如く〉食べさせられマシタ。
誰も見てなくて良かったデス。
お揚げさんもプリンも美味しかったよ。
美味しかったケドネ?
レインさん、〈ヒヨコのエサやりがマイブーム〉とかなのかな?
ちょっと謎だよ……。




