28 猫に「マタタビ」、犬に「スズノ」?
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「……スズノ? 大丈夫か?」
微妙にションボリングな気分を〈ぽかぽかお風呂〉で回復してたら、曇った引き戸の向こうから聞き慣れた低音が聞こえました。
そこはかとなく心配そうな声デス。
「ダイジョブ、もう出るよー」
思ったよりも時間経ってたみたい。
〈魔力がじわじわ浸透して来る感触〉が面白くて、つい長湯しちゃったもんなー。
あ、ココ温泉じゃ無かったね。
ブラシさんとバブルさん、エスコートありがとう。
シャワーさんは、ナイスタイミング。
お礼を言うと三人ともぺこりとお辞儀して、壁際の定位置に――……戻らないの?
シャワーさんはおれの足元確保だけど、バブルさんとブラシさんはゆっくり室内を見回してる。
何してんだろ?
絞ったタオルで軽く身体を拭きながら思うのは、『三人とも水弾き良くていいなー』です。
体に水滴付かなきゃ〈拭く手間要らず〉だよね。
撥水コーティングかな? ソレも超高性能なヤツ。
「ウラヤマシイ……」
おれもせめて、犬猫みたいにブルブルって身体振って乾かせれば楽なのになー。
そんなコト考えながら引き戸開けてお風呂場出たら、目の前にレインさんが居た。
ちょっと待って。
居るのは判ってたけど、目の前?
待ち構えてるとか初めてじゃね?
つか、おれ〈全裸〉デスヨ。
身体拭いたの。
タオル巻いてないの。
だって、魔導人形さんがバスタオル持って来てくれるって。
だから、だから――。
ぁあああ、今だけ〈土竜〉になりたいぃぃ~……。
思わずしゃがみ込んだおれを見て、レインさんが何を思ったかは判りマセン。
「いつもより長湯だったし、逆上せちまったか?」
さっきと違わず心配そうな声がして、思った以上にフワフワ肌触りの大きなバスタオルを頭の上から掛けられマシタ。
温か気持ちいいデス。
うん……。
隠したい最優先は頭じゃ無かったケドモ。
大丈夫、許容範囲デスヨ。
タオルの端を持って顔の前で閉じたら、フッて柔らかい吐息が聞こえた気がする。
「お前に風邪引かせたら、ナッキーが怒り狂っちまう。温和しく拭かせてくれな?」
穏やかな中に悪戯っぽい響きを含んだ声が思ったより近くで聞こえて、脇に圧を感じた瞬間、視界がブレた。
流れるようにバスタオルをズラされた目の前は、開けっ放しの引き戸とお風呂場。
おれはくるんと後ろ向かされて、背中側から手が届く範囲の水滴を拭われてマシタ。
あ、デリケートなトコはちゃんと遠慮してくださいましたヨ。
安定の紳士デス。
「頭は後でちゃんと乾かしてやるから、服着て待ってろよ?」
最後はご機嫌な声が降って来て、別のタオルで頭を軽くワシャワシャされて終了。
離れ際の〈タオル越しに頭ポンポン〉は、合図なのかオマケなのか。
……両方か?
レインさんの手つきは雑に見えてメッチャ優しかったし、バカにされて笑われたワケでも無い。
なのに、心が痛いのはナンデだろなぁ……?
**********
落ち着いて考えた結果、「レインさんに裸見られても問題無くね?」にたどり着きました。
身近な男は〈同級生たち〉ぐらいしか知らないから、つい同じ反応しちゃってたヨ。盲点、盲点。
レインさんは、『男同士だから強制的に裸にしても〈性に関する嫌がらせ〉には当たらない』とか寝言ほざくタイプじゃ無いもんねー。
むしろ、おれが知ってる中では一番紳士的。
ただなー。『子供体形過ぎ』って笑われたら、地味にダメージ来そう。
……や、想像だけで『ぐふ!』ってキたわ。
さっきの心の痛みはソレデスカー。
遠い目しつつ身体拭いてたら、お風呂場のブラシさんとバブルさんが動き出してた。
思わず目で追っちゃったけど、何してるんだろね?
ん?
ブラシさんの左手が、背中に突き出た二本の棒の一本を持った?
ああ、背中に〈デッキブラシ〉が収納されてたのか。
お?
右手が背中に回ったら、残ってた棒の反対隣に一本増えた。
短くなった右手の先に、左手のデッキブラシを合体装着――と。
もしかして、用途ごとにブラシ付け替えて対応するの?
ナルホド。確かに〈ブラシ魔導人形〉だ。
で。
バブルさんは奥に向かいつつ、左手から泡を出してるワケか。
多分〈右手は人用〉で〈左手は掃除用〉だね。
だって、あの泡〈第四の匂い〉だもん。〈水の匂い〉かな?
ブラシさんが洗った後を、シャワーさんが流して回るとアラ不思議。あっという間にピカピカお風呂~。
おれが入った痕跡も、すぐに消えちゃうね。
うん。
みんなお仕事頑張ってんだから、おれも足引っ張らないようにしないとな。
まずはロッカーの鍵受け取って、着替えよっと。
*********
「スズノ、頭乾かすからココ座れ」
「魔導具あるし、自分で――いえ、オネガイシマス」
……赤いお耳、わざとシュンとさせるのはズルいと思う。
今の絶対、解っててやったよね?
目がしっかり笑ってんじゃん。鏡に映ってるよ!
「そんな可愛い顔すんなって。からかいたくなるだろ?」
おれ、一応抗議してるつもりなんデスケド!?
「冷たっ――!?」
無意識に膨らんでたほっぺたに、〈冷えっ冷えの木のコップ〉くっ付けられマシタ。
中身は――〈フルーツ牛乳〉?
地球で言う〈牛〉は居ないらしいから、〈魔獣乳〉なのかもだけど。
「座ってソレ飲んでな。すぐ乾かすから」
そんなご機嫌に尻尾パタパタさせてたら、何も言えないじゃん!
ズ~ル~イ~!
でも。
さっき一瞬居なくなったの、コレ取りに行ってくれたんでしょ?
メッチャ急いでさ。
今だって、おれが逆上せたかも知れないから『座ってろ』なんでしょ?
そんなの。
「ありがと」
しか言えないじゃん。
三角お耳まで嬉しそうにピコピコすんの、本気でズル過ぎる~!
イロイロ恥ずかしくなって、鏡から目を逸らしちゃっても仕方ないよね?
冷え冷え過ぎるコップの中身見つめながらストローで混ぜてたら、レインさんがポツリと呟いた。
「急にヒゲ剃って、ビックリさせてゴメンな?」
後悔で苦過ぎる声。
「ずっと単独だったから、〈見た目〉はあんまり気にして無かったんだよ。『冒険者らしけりゃイイかな』ってぐらいでさ」
おれが被ってたタオルを取って、しんなりしてる頑固な直毛をそっと整えてくれる。
髪全体が温風に包まれて、〈ドライヤー魔法〉が発動した。
「スズノに厭な思いさせたく無かったけど、困らせるつもりも無かった。ゴメンな」
今鏡に映ってるのはせいぜい肩までで、どんな表情してるか全然見えない。
おれの目は、鏡の中で思った以上に丸くなってるのにネ。
だけど、このお兄さんはやっぱり〈本物のレインさん〉だったよ。
〈のすけ仲間〉のタツさんは正しかったね。くふふっ。
「あのね、〈いつものヒゲ〉の方が『ワイルドっぽくてカッコイイな』っておれは思う。無いと一瞬〈知らないお兄さん〉に見えたし。でも〈ヒゲが無くてもレインさん〉だったから、ダイジョブだよ。気にしないで?」
おれも多分、もう間違え無い。
ヒゲがあっても無くても、レインさんはレインさん。
偽者にはなりません。
「そっか……『ヒゲの方がイイ』か」
ん?
今の呟きは何でしょか?
後ろからもバタバタ、何の音ですかね?
「スズノ、もう勝手に剃らねぇからな」
「え――うん?」
メッチャ弾んだ声が降って参りました。
レインさんの好きにしてくれてダイジョブだけど、〈仙人みたいなヒゲ〉だとあんま似合わなくね?と思ったのは内緒デス。
つか、ご機嫌な鼻歌が聞こえて来たよ。
おれの所為?
何かやらかした?
えー……?
……無だ。無になってフルーツ牛乳を堪能しよう。
……うん。
冷たくてほのかに甘くて、美味しいデス。
********
へ~……〈異世界のストロー〉は〈植物の茎〉なの?
薄くて軽いのに〈ワラ〉より太くて頑丈。まるで〈プラスチック〉みたいな植物だね。
進化の過程が読めなくて不思議ー。
って言うか、本物のフルーツの細切れが入ってた。
コレ〈フルーツ入り牛乳〉じゃん。
え。メニューに無いよね。あの短時間で作ったの?
あ。〈竜巻の魔法〉が〈ジューサー〉代わり?
だとしても手際良過ぎでしょ!
牛乳とストローに気を取られてたら、髪はほぼほぼ乾いてたらしい。
相変わらず、レインさんの魔力制御は芸術的です。
「ん? 動くなよ、スズノ」
急にレインさんの手が止まった。
おれの後ろ頭、髪の毛分けてる?
何してんの?
「ひゅいっ――!?」
首スジ、首スジにナニか!
スンスン言ってる!?
ナニ!?
「甘い匂いがする。何だ?」
声近過ぎ!
首の後ろで喋んないでっ!
ぞわぞわするぅーっ!
って。おれの匂い嗅いでたの!?
ナンデ!?
犬デスカっ!?
「シャボンの匂いに紛れても、鼻が利きゃ気付くぞコレ」
……そうだ。この方〈犬系〉デシタ。
前にもあった? こんな展開。
おれ、学習能力疑われるレベル?
「スズノ」
「ひぇぃっ――!?」
レインさんの声が静かに低くて怖っ!
「オレが居ない間、何があった?」
え?
思い当たるようなコトは特に――あ。
「お菓子みたいな匂いなら、心当たりあるかも。……えへ?」
鏡に映る碧い隻眼が、『早く言え』って訴えてマス。
でもおれ、この件に関しては〈責任ゼロ〉だと思うんデスケド?
*******
泡チェンジされたコトを言ったら、レインさんはお風呂場に直行しました。
「……確かに、この匂いだな」
バブルさんの泡を手に乗っけたレインさんが呟く。
確認したのを見計らって、シャワーさんがそーっと流す。ナイス連係。
「わざわざ流して、泡を変えたのか? 魔導人形たちが〈自主的〉に?」
おれの言葉じゃ信用出来ないのかと思ったら、別のコトに引っ掛かってたらしい。
「おれ、変えなくていいって言ったよ。お菓子みたいな匂いだったし」
「じゃあ、やっぱり魔導人形の〈自主判断〉か」
腕を組んで首を捻るレインさん。
その足元に整列して、うなだれてるようにも見える水場三人衆。
おれは鏡の前に座ったまま、牛乳飲みつつ傍観者デス。
何かこういう雰囲気、〈母の仕事場〉で見たコトある気がするなー。
〈主任さん〉に細かい注意される〈ベテラン看護師さん〉、こんなカンジだったんじゃね?
「判断自体は悪くない。スズノが全身からこんな甘い匂いさせてちゃ、ヤバ過ぎる」
ん――?
ヤバいって、ナンデ?
「むしろ、この程度で済んで助かったぜ。お前たち、よくやった」
お褒めの言葉に万歳する三人と、おれの方見て苦笑するレインさん。
あるぇー?
何か〈おれ自体にダメ出しされた〉気がするー?
水場三人衆、お湯抜いて浴槽の中まで掃除し始めちゃったよ。
レインさんもあちこち指差して、指示してるっぽい。
何なの、いったい?
それにしても。
流れるように〈泡掛けて〉〈ブラシで擦って〉〈水で流す〉を繰り返す三人は、息ピッタリ。
しかも〈職人気質〉っぽい動きで、見てて飽きない。
他のスタッフさんはこんな〈職人感〉無いのに、不思議だなー?
違いは〈完全防水仕様かどうか〉、ぐらいだと思うんだけど。
使う魔樹によって性格変わったりとか、するんだろか?
「ん~? そう言えば、こーゆー〈三人で一行動〉って、何かあったなー? 〈下準備〉・〈本命〉・〈後始末〉ってカンジのヤツ」
姉ちゃんが〈情報元〉だから〈モフモフ〉は確定で、漫画かゲームだと思うけど。
確か〈ケイル団長ん家の兄弟構成〉聞いた時、『似てたから思い出した』って言ってた気がする。
何かの刃物持ってて――〈転ばす兄〉・〈斬り付ける弟〉・〈薬塗る妹〉で、〈風属性の妖怪〉だったっけ?
連想したのが〈草刈り〉とか〈鎖〉とか……そう、〈カマイタチさん兄弟〉だ!
ん? 何か違う。
団子と同じ〈三兄弟〉だった?
「取りあえず。この三人は〈水場担当〉だし、属性的には〈水〉かなー?」
少なくとも、〈風属性では無い〉よね。
〈水〉で〈洗う〉ったら、やっぱ〈洗い熊〉でしょ。
英語だと〈ラクーン〉だっけか。
魔樹だし、色的には〈普通の熊〉だけどねー。
「なら……一部漢字で、〈楽ーン三兄弟〉とか?」
字面は可愛くね?
〈食洗機〉か〈洗濯機〉っぽいケドさ。ププッ。
『承りました!』
え――今の綺麗な三重奏ナニ?
水場三人衆、どうしてコッチ見て万歳?
はれ――?
レインさんが困った顔でおデコ押さえてんの、ナンデ?
おれ……今、完全に〈やらかし〉マシタ?




