26 浸かる系回復の泉・竜神の隠し湯
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
注:この話はフィクションです。実際の名前や人物を貶める意図は全くありませんので、悪しからず。
……ドアを開けたら壁だった。
端的に言うとそんなカンジ。
だけど、スライド式のドアの先が通路だっただけ。
ちょっとビックリしたのは内緒。
よく見ると壁の上に空間が空いてる。大きな棚の背中側が並んでたらしい。
ソコに張り紙。
『この部屋に入る時は、必ず両足で橙色の床と青色の床を踏み、靴底を綺麗にする事』――だって。
「スズちゃんは〈銭湯〉行った事無いよな。脱衣所の使い方判るか?」
いつもより上から、いつもより低い重低音が降って来た。
音量デカめで普段ならビクついちゃうけど、今は〈別件〉のおかげで大丈夫。
むしろルンルン♪
「銭湯は無いけど、〈温泉〉と同じでいいなら多分」
「じゃ、違う点な。この〈色違いの床〉踏んだら、靴のまま中に入って良いぞ」
「みんなブーツだし、入り口で脱いでたら詰まっちゃうから?」
「そういう事」
恐る恐る橙エリアに乗ると、『モニュン』って靴が少し沈んだよ。変なカンジ。
少しベトついたけど、次の青エリアで『ブジュッ』て液体が滲むような音したらソレは消えた。
その先は灰色のタイルっぽい床で、棚が途切れたトコから室内が見える。
「気の回し方が〈日本人ココに在り〉だねー」
「確かになぁ」
**********
今おれは、タツさんの案内で地下一階の〈男湯〉に来てるのです。
いつもなら案内してくれるレインさんは、〈おれの好きなプリン〉を作る為にキッチンで絶賛作業中。
ナゼか『湯上がりに間に合わせる』って必死だったのが、ちょっと不思議。
タツさんは笑ってたし、特に問題無さそうだからいいけどね?
明るい室内は左の壁に〈鏡とイスとドライヤーっぽい物〉のセットが並んでて、その並びに見えるドアは多分トイレ。
今通った棚の表は〈真っ白フカフカタオル大と小〉が適当に詰まってる。
真ん中に〈ロッカーの群れ〉があって、棚の正面側の引き戸の先がお風呂場かな。
「タオルはその棚の好きなだけ使って、濡れたままこのカゴに入れとけな。魔導人形の〈暇潰し〉になるから」
「はぇっ――ヒマ潰し!?」
人もそんなに来なさそうだし、『他にするコト無い』とかデスカ?
「ロッカーの下段は〈装備とブーツ用〉だ。〈トリモチ〉みたいなのが出るから、入れとけば大概の汚れが取れる。残っても水で流せるし、害も無い。服や貴重品は、上の段な」
「おれの場合、マントとブーツが下?」
「引っ張って開かなきゃ鞄も良いぜ。ロッカーの鍵は防水だから風呂に持ち込めるが、そこの魔導人形に預けた方が間違い無い。それから今日は、洗う前に湯船に浸かる事。憶えてるか?」
「指先から肩まで、ちゃんとお湯に入れます」
「この程度なら五分もあれば治るから、三百数えとけ」
「うん、ゆっくり数える」
頷いたタツさんが、おれを見て苦笑いになる。
「スズちゃん、〈のすけ仲間〉がそんなに嬉しかったのか?」
「だって、都市伝説レベルだったもん。〈おれ史上〉で一番嬉しい!」
実はタツさんの本名は〈りゅうのすけ〉で、〈のすけ仲間〉だったのです。
ソレを思い出すと、無意識におれのほっぺた弛みまくって困っちゃう。
G王国にバラす気無いから、絶対に本名は呼ばないけどネ。えへへ~。
「嫌われるよりゃあ良いけどさ。夏喜がその顔見たら狂乱すんぞ?」
「うっ……気を付けマス」
弛むほっぺたを押さえながらタツさんに付いてく。
お風呂場の方へ行くと、割とすぐ目に付く壁に〈大きな額〉が掛かってた。
『公衆浴場での五つのルール。
「湯船に浸かる前には全身を流す」
「タオルはなるべく湯船に入れない」
「泳がない」
「シャボン玉で遊ばない」
「他に人が居る時にはあまり騒がしくしない」
守らないと竜神様の逆鱗に触れるから、死ぬ気で守れ!』。
え――〈竜神様〉!?
足が止まったおれに気付いたのか、タツさんが戻って来た。
おれの目線から〈壁の額〉を見、細めた目をおれに戻して真面目そうに頷く。
「竜神様には俺たちが逆立ちしたって勝てないぞ。逆鱗に触れるなよ?」
マジデスカ!
「そんなにビビるなって。ウチのボス、〈リュージン・ウェモリーの事〉だよ」
あ――〈リュージン〉を、それっぽく漢字変換したのか。
異世界の言葉で〈竜の神様〉って書いてあるから、ビックリしたよ。発音判んないけど。
「冒険者はヤンチャなのが多いから、ああやって書いて脅かしてんだ。公共施設として普通に使えば大丈夫だからさ」
「ふぇい……」
タツさんは笑いながらおれの頭をクシャッと撫でて、曇りガラスみたいな引き戸をガラッと開けた。
一瞬モワッとした湯気に包まれたけど、すぐに〈空色のタイル〉が壁と床に綺麗に敷き詰められてるのが目に入る。
地下とは思えないほど明るい空間で、ドーンと鎮座するのは縦も横も大きな〈木製の浴槽〉。
ただし、半分ほど床に埋まってるっぽい。
「シャンプーの類は、そこの〈バブル魔導人形〉に言えば出してくれるぞ。〈ミルク〉・〈シャボン玉〉・〈柑橘〉の三種の香りで、強さも〈普通〉と〈弱め〉がある。〈ブラシ魔導人形〉は背中とかの手が届かない所を洗ってくれるし、〈シャワー魔導人形〉は水温と量を自由自在に出してくれるからな」
「お~、スゴい性能! ヨロシクね!」
引き戸の先に並んでた三人の魔導人形さんは、紹介される時にそれぞれの〈特徴的な手〉を挙げてくれた。
みんな右手で、〈通常タイプの真ん中穴あき〉、〈丸型ヘッド長柄ブラシ〉、〈シャワーヘッド〉になってたよ。
「水場の事ならコイツらに〈全部お任せ〉だ。頼むぞ、お前たち」
『承りました』
魔導人形さんの目の点滅を確認したタツさんが頷く。
「じゃ、俺は仕事行って来っから」
「うん。行ってらっしゃーい!」
おれが手を振ると、タツさんも笑いながら手を振り返して脱衣所から出て行った。
*********
魔導人形さんたち、ホントに〈超有能〉でした。
おれがタツさんに言われてたのも、全部聞いてたっぽい。
洗い場でシャワー掛けられたら、流れるように浴槽へご案内されたもん。
「ほふぅ~……」
肩まで湯船に浸かったら、どうしても声が出ちゃうよね~。
温泉旅館みたいな大きなお風呂なんて、基本がユニットバスのこの国で入れると思って無かったし。
それにこの浴槽、嗅いだコト無い〈良い香り〉してる。
日本だと〈檜風呂〉が有名だけど、異世界だと何だろね?
そして。
浸かっただけでホントに手首の痛みが消えてました。
スゲー。
何か〈信玄の隠し湯〉っぽくて楽しいね。うふふ~。
そうだ、三百数えなきゃ。
……んふ。
「センセが言ってた『この世に一人だけじゃ無い』って、ホントだったな~」
むふふ。
――っと、いけない。
また顔が弛んでたよ。修正、修正。
……ふふっ。
「日本でも〈おれと同じ人〉、いつか会えたかなぁ? もっと〈近い人〉、世界のドコカに居るといいな~?」
くふふ、むふふっ。
――って、ダメだ。
気ぃ抜くと口元がニヤケて、どうしても「むふふー」とか「んふふ~」って声が出ちゃうよ。
ナゼなら、おれは今メッチャ浮かれてるのデス。
何と言っても『おれの他に〈のすけ付く人〉が実在した』からね!
テンション爆上げだよ!
んふ、ふふ。
むふふ。うふふ~。
********
……あ~、ちょっと落ち着いたかも。
おれも〈芸名〉とか〈ペンネーム〉なら我慢出来たのにねー。
でも本名なんだよ、〈すずのすけ〉。
『古クサい』とか『ダサい』とか『時代遅れでカワイソー』とか言われても、おれにもどーしよーも無いコトなんだよなー。
せめて〈別のすけ〉が居たら、この気持ち解ってもらえるかも――って淡い期待持ってたの。
ソレがやっと叶ったんだから、浮かれても当然だよね?
タツさんの世代はまだ身近に数人居た所為か、そんなに言われなかったっぽいけど。
流石に〈芥川龍之介と同じ〉はイジられたみたい。子供の頃から〈頭より体派〉だったって。
おれとは違っても、やっぱ〈のすけ〉はツライよなー。
……気が付いたら、アゴまで浸かってた。
過去の〈イジリ〉思い出したらテンション下がってたっぽい。
ヤバい、ヤバい。
今のおれには、ちゃんと〈仲間〉が居るのですから!
よし、再浮上ー!
気配を感じて振り向いたら、壁際に戻ってたハズの水場三人衆が近くに来てたよ。
無表情なのに『大丈夫?』『どうしたの?』って覗き込まれてる気がする。
そこはかとなく心配そうに見えマス。
「ねー。魔導人形さんたち、聞いてくれるー?」
声を掛けると、三人揃って同じ方向に頭を傾げた。
言葉は無いけど、『なぁに?』ってカンジ。
首が短いから体もちょっと傾いてて、メッチャ可愛いかも。
「実は。おれに〈初めて仲間が出来た〉のです! イエーイ、ドンドンパフパフー!」
ってワケで。
「魔導人形さんも一緒に喜んでー?」
『承りました』
四人で万歳三唱。
「おれに仲間ー! イエー! バンザーイ!」
魔導人形さんたちは、それぞれの腕を上下させて付き合ってくれました。
いいヒトたちです。
*******
「んふんふ~、ふふん~ふん~、んふふ~んふ~、ふふふ~んふ~」
洗い場に移動してからバブルさんが出してくれたシャンプー用の〈もっちり泡〉は、ほんのり柑橘系のいい香りでした。
ツメは立てずに指の腹で、頭皮を隙間無くマッサージ~っと。
「シャワーお願いしまーす」
『承りました』
声を掛けると、待機してたシャワーさんがおれの頭に適温のお湯を掛けてくれる。
左手の接続ホースを壁の蛇口に繋ぐだけで、右手からお湯でも水でも自由自在に出せるらしい。
どうやって判断してるのか判らないけど、泡が残ってるトコを重点的に流してくれてる。ほんの少しも見逃さない。
頭が終わるとバブルさんが今度はおれの全身を泡だらけにして、ブラシさんが背中や足の裏側を絶妙の力加減で洗ってくれる。
「ありがと。およ、今度はクリーミーでミルキーな匂い。何かお菓子みたいな気分~」
ブラシさんは〈全身丸洗い〉も出来そうだけど、基本〈背中側だけ〉にしてくれてるみたい。
なかなかのご配慮、痛み入ります。
「――って流石に泡は食べないよ? 食べないから! わざわざ流して〈シャボン玉の匂い〉に変えなくてもダイジョブだってば~!」
強制的に〈泡チェンジ〉されマシタ。
〈お菓子な気分〉から〈おかしな気分〉に急転直下。
あははのは~。
……おれ、そんなに食い意地張ってるように見えマスカ?
小学生男子がヤッカミやヒガミで悪口言ってる設定なので、現実とは重ねないで下さいね。
ヤンチャしないし頭も運動神経も普通のスズノ君は、名前ぐらいでしか足を引っ張れなかったって話ですので。




