25 Every child has a ビューティホー・ネーム
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「スズちゃんの別腹は、甘い物じゃ無さそうだなぁ?」
いつのまにか全部食べ終わったらしいタツさんが、の~んびり言った。
お茶をフーフーしつつ、返事を待ってるっぽい。
おれの左隣からも、ソワソワしてる気配がほんのり。
どうやら〈恥ずかしい空気〉を〈換気〉してくれるらしい。
痛み入りマス。
「そう言えば。おれ、〈茶碗蒸し〉はお腹いっぱいでも食べれたかも」
法事とか正月に親戚が集まると、〈自分の分の茶碗蒸し〉をナゼかおれの前に置く大人が多かったんだよ。
みんな『お供え物』って笑うだけで意味不明。
美味しいから構わず食べてたけどさ。
「あと、〈おでん〉とかの〈出汁が染みた大根〉も、つい食べちゃう」
「どっちも消化が良さそうだ。しっかし〈昆布〉はまだ見つかって無いんだよなー。他の出汁じゃ駄目だろ?」
「んー……〈昆布出汁の〉が好きかも。具無しで〈小鉢蒸し〉作って、オヤツ代わりにしてたぐらい」
「小鉢蒸し? 茶碗蒸しは〈小鉢〉使うと名前変わるのか?」
「いや? 今のは単に〈サイズの違い〉を伝える為の方便だな」
「ああ、成る程」
その通りデス。混乱させてゴメンなさい。
でもそっか。〈異世界じゃ食べれない〉のか。
……あれ?
おれ、思った以上に〈ションボリング〉? 現在進行形でションボリしてる?
「そう言やレイン、一時期〈夏喜の専属コック〉みたいに料理作らされてたよな?」
「ああ。〈調合手伝い〉の依頼で、〈異世界料理を再現〉してた。材料が揃わない分、〈魔力や魔法での工夫〉が必要だったらしい」
〈調合の手伝いで料理〉って言うから、てっきり〈おさんどん〉かと思ったのに。
むしろ〈食品メーカーの開発部〉みたいな状況じゃね?
「あー、〈それなりに料理が出来る〉上に〈魔法も使える〉となると、リューさんか俺かレインになるのか」
「マキさんとジンさんは〈酒の肴〉、〈クー〉とシノンは〈菓子〉が専門だからな」
「ショコラは〈味見係〉が文字通り〈無難〉で、戦力外だし。実質〈レイン一択〉かぁ……」
二人とも遠い目をした気配がして、同時にお茶を啜ってた。
ウチの父親だし、ナチュラルに〈ブラックな働き方〉させてたんじゃ無かろうか?
どうしても懸念が拭えません。
「ウチの父親が、ご迷惑とお手数をお掛けして申し訳アリマセン」
頭下げても、テーブルにオデコ付いただけだった。プルプルしちゃうのが止めらんない。
「おかげで細かい魔力制御に慣れたし、〈依頼達成数〉が増えて〈冒険者ランク〉も上がった。美味い物も食えてるし、利害が一致したんだよ。だから心配すんな、スズノ」
クシャクシャって髪をかき回されると同時に、苦笑気味の声が降って来た。
別に気を遣ってるワケでも無さそうで、ちょっとだけ安心したかも。
「それはともかく。現状で作れる〈似た物〉はあるのか、レイン?」
「そうだな……今手に入る材料で作れるのは、〈プリン〉か〈カブのスープ〉辺りだ」
そっかプリンもあったなー。
日本ではずっと〈クリーミーで甘いトロけるプリン〉が流行ってたから、存在自体忘れてたよ。
「昔ながらの〈トロけないプリン〉なら、おれも好きなのになぁ」
「材料あるか見て来る!」
何気なく呟いたら、『ガタンッ』て音立ててレインさんが立ち上がってマシタ。
**********
「……レインって、あんな奴だったか?」
パタパタ揺れる赤い尻尾を呆然と見送ってたら、同じく呆然とした重低音が耳に届いた。
パッと顔を向けると、視線に気付いた太い眉毛が困ったように〈八の字〉になる。
「いや、〈別人〉って意味じゃ無くてな。今まではもっと無気力って言うか、あんな必死な姿は俺も見た事無いし、妙にガキっぽいな――って。俺にそう見えりゃあ不安にもなるかぁ」
澄んだ茶褐色の瞳が、苦笑混じりに優しく笑った。
「大丈夫だ。アレは正真正銘、レインだよ」
「……ホント?」
「本当。だけど〈独り立ち直前の頃〉に近いから、俺にとっちゃ〈レイン坊〉だ。要するに〈駆け出し冒険者に見える〉訳だな」
レインさんが消えたキッチン脇の通路に目を向け、赤茶のアゴをショリショリ撫でて呟くタツさん。
「そう言やあ……〈仲間内以外の護衛〉は初めてなのか。その所為か?」
そう言われたら『そうなのかも』って思えて来た。
「不安を煽って悪かった。お詫びに〈俺の本名〉教えてやるから、機嫌直せよ。特別だぞ?」
タツさんが、まだテーブルに懐いてるおれの頭をガシガシ撫でる。
おれの髪、多分グチャグチャになってる予感。
「その前に。『異世界で〈本名〉使うのはヤバい』って、理解してるか?」
「姉ちゃんが言ってた。『召喚された魔法陣に、隷属魔法が入ってるかも』って」
「いや、〈かも〉じゃ無くて〈入ってる〉から。絶対に〈日本名のフルネーム〉は使うなよ?」
「マジデスカ!?」
思わず頭上げたら、タツさんはメッチャ真剣な表情でハッキリ頷いた。
「〈隷属魔法〉は、この国の連中が〈召喚魔法と一緒に〉掛けてる。〈対象〉は〈召喚された人間〉だ」
「ソレ、逃げようが無くね?」
「大丈夫だよ。〈登録された情報と違う〉と〈別人認定される〉から。本名がバレない限り、〈隷属魔法の発動は無い〉んだ。そんなにビビらなくて良いぜ?」
ニヤッて笑われても、怖いものは怖いのデス。ハイ。
この世界は、基本的に〈初期スキルと名前〉で〈人物を特定する〉らしい。
おれたちは〈召喚魔法陣〉に〈召喚された時点の本名〉で登録されてるけど、〈その情報を見れる〉のは〈管理者のみ〉なんだって。
その〈管理者〉は〈魔法陣を構築した術者〉のコトで、G王国に滅ぼされた〈この地の先住民族〉らしい。
G王国は単なる〈使用者〉として使えるだけ。〈構築・管理〉は一切出来ないし、〈情報も見れない〉そうな。
「でも、〈登録〉なんてした憶え無いのに?」
「G王国が勝手にやってるよ。〈城で最初に名乗った名前〉と〈鑑定したスキル〉を〈名簿みたいな物〉にこっそり登録して、言う事聞かなきゃ隷属魔法だ。召喚されてすぐ〈偽名〉名乗れる〈マキみたいな猛者〉は、滅多に居ないからな」
当時は〈地下室に刻まれた魔法陣の上〉に、〈召喚した術者たちに囲まれた状況〉で現れてたんだって。
メッチャ怖っ!
「俺の時は、居合わせたリューさんが『ローマ字で名前書いて一部変えろ』って言うから従ったけど。忠告聞かずに本名教えちまった二人は、『今も良いように使われてる』って話だぜ」
「うおぅ。何ソレ、マジ恐い……」
おれ、半泣きになってるかも。
リューさんはたまたま居たワケじゃ無く、召喚された人に『本名を言うな』って伝える為に警備に加わってたらしい。
でも、声に出さない〈テレパシーみたいの〉で言われたら――ちょっと怖いよね?
「万全を期して、もう大分前にマキが〈魔法陣への管理者登録〉を済ませてるよ。『パソコンと同じ要領』とか言ってたが、よく解らん。取り敢えず、〈唯一の管理者であるマキ〉以外は〈アクセス全拒否〉にしたとさ」
つまり〈召喚魔法陣から情報を取るコト〉は不可能に近い、と。
更に〈魔法陣自体〉もこっそりイジって、〈付近で最も魔力が強い場所〉に現れるようにしたらしい。
おれたちの時みたいに、〈王サマたちより先〉に〈召喚された人たちと接触する〉為に。
スゲーなぁ。
マキさんって、メッチャ頭いいんだね。
おれは姉ちゃんに言われなきゃ〈異世界ネーム〉なんて考えなかったし、普通に本名名乗っちゃってたかも……。
*********
「そんな顔するなって。〈G王国の人間〉にバレなきゃ大丈夫だから」
「G王国の、って――ケイル団長も?」
おれが恐る恐る口にすると、タツさんの片眉がグンッて跳ねた。
「ケイルに教えたのか? 三人とも?」
「姉ちゃんが『隠ぺいの相談に乗ってもらう』って。スキルも全部、言ってた」
「そうか……」
しばらく泳ぎまくってた目が、おれの顔に戻って来た。
「ケイルなら、多分〈召喚に関わった連中〉には伝わらんだろう。だが、〈記憶を読める人間〉や〈同意無く鑑定を使う人間〉も存在する。〈拷問紛いに情報抜かれる事態〉も考えると、知ってる人間は少ない方が良いと思うぞ?」
「……気を付けマス」
アゴを撫でながら心配そうに見下ろしてたタツさんは、おれの返事に頷いた。
と思ったら、急にイタズラっ子みたいな顔になったよ。
何ですか?
「で、俺は〈最後の平仮名一文字〉を抜いた訳だ。〈ウチのボスの呼び方〉は、スズちゃんと同じ法則なんだぜ」
何ソレ。
今のシリアスっぽい展開は何だったの?
『おれには教えてもいい』って判断なら、そりゃヤブサカではありませんケドモ?
「スズちゃん、解るか?」
……えっと。〈リュノス・タトゥナー〉だから、〈たとぅなぁン・りゅのすン〉ってコト?
呼び名の法則って、『最後に〈ノ〉が付くと〈イタリア男〉っぽい』じゃ無いヨネ?
じゃあ〈りゅーのすン〉で――え?
「もしかして、〈りゅうのすけ〉?」
「だ~い正~解~!」
お――ぉおおおお~~!?
「おれ、おれ以外の〈のすけ〉って付く人、会ったの初めて! どーしよ、メッチャ嬉しいっ! おじさん、握手していいっ!?」
「握手ぐらいしてやるから、少し落ち着け。それに〈おじさん〉より、〈名前呼び〉のが良いんだけどなー?」
名前呼び? していいの?
〈リューさん〉が居るから〈リューノさん〉は聞き間違いしそう。〈リューノスケさん〉は多分アウト?
そしたら――。
「じゃあ、おれも〈タツさん〉って呼んでいいですか?」
「勿論良いぞ。敬語も無くて良いぜ。俺たちは〈のすけ仲間〉だからな」
「っしゃあーーっ! 初めて〈のすけ仲間〉出来たぁーーっ!」
メッチャテンション上がっちゃったおれは、両拳突き上げながら立ち上がってた。
近付くとよく解る〈レインさんよりゴッツい右手〉を、両手でしっかり握って上下にブンブン振り回す。
でもタツさんはビクともしないし、余裕で笑ってる。
つか、微笑ましそう。
何かスゲ~!
********
「スズノ、落ち着け。タツさんは平気でも、お前の方が平気じゃ無ぇぞ」
不意に後ろから声がして、腕が押さえ付けられて。
そのまま堅い腕にギュッて抱き締められたら、ヒョイって宙に浮いた。
流れるような動きで一歩後ろにストンと降ろされると、手首が急にズキッて痛む。
「……手首痛い。ナンデ?」
「急に激しく動かしたから、〈筋肉〉と〈スジ〉が傷んだな。要は〈運動不足〉だ」
一瞬〈保健室〉に居るような錯覚したけど、ココは〈リバーサイ系列の宿〉。
おれの目の前に居るのはタツさんで、保健室の先生じゃ無い。
「丁度良いや。スズちゃんは今の内に風呂入っちまえ。今夜移動だし、夕方入って湯冷めでもされたら〈夏喜が〉面倒だ」
あー、ソウデショウネー……。
ココへ来て、ようやく〈別れ際の母と姉の態度〉が理解出来て参りました。
むしろ、〈今までのおれの無頓着さ〉が〈自分でも怖過ぎ〉なんデスケド?
「ご心配とご迷惑をお掛けしております。……でも、丁度いいって?」
「ココは〈最後の安全地帯〉だから、風呂に〈治癒と回復の魔法陣〉が仕込まれてるんだ。人工的な〈回復の泉〉って奴だよ」
わー、ゲームっぽ……。
思っただけで〈お口チャック中〉のおれの両手首を、レインさんが気遣わしげに確認してくれる。
タツさんは、そんなおれたちを見て呆れたように笑ってた。




