24 モフとフサのあいだに
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
あ――さっきの声、空耳とか幻聴の一種かも?
起きてるのに頭の中が寝てるって言うか、モヤモヤして通行止めの部分があるカンジなんだよね。
気付かない内に漏れた魔力で〈幻惑魔法〉みたいな作用が起きてる――って言われても納得する。
まぁ、〈幻惑系の魔法が在るかどうか〉は知りませんケドモ?
そんなコト考えてたら、赤い三角お耳がピッとおれの方を向いた。
「スズノ――?」
ゆっくり起き上がったレインさんがおれを見てる。
顔はもう赤くない。むしろ、少し蒼白くて強張ってる。
〈何か言いたげ〉なのは判るけど、〈何が言いたいのか〉はサッパリです。
と言うか。
このお兄さん、〈おれの護衛のレインさん〉だよね?
さっき目ぇ見て確認したし、〈金髪交じりの赤い髪〉は地毛だったし。
そもそも〈獣耳〉と〈尻尾〉と〈人間の耳〉持ってる人なんて、滅多に居ないハズ。
人違いなワケ無いよね?
なのに、顔見ると〈初対面〉みたいで落ち着かないのはナンデだろ。
〈無精ヒゲが無い〉だけで、そんなに違うか?
挙動不審のおれを、レインさんが呆然と見つめてる気配がする。
「坊主もデザート食うか?」
「デザート!」
〈天の助け〉みたいなステキな言葉に、おれは一瞬で困惑を投げ捨てた。
パッとゴリマッチョおじさんに顔を向けたけど、胃が『満腹デス』と主張してる。
「……むー。お腹いっぱいで、入りそうに無いデス」
この世界は基本的に〈欧米サイズ〉っぽくて、普通に〈量が多い〉んだよなぁ。
「何だ、『甘い物は別腹』だろ? 〈夏喜の子〉だし」
「姉ちゃんはそうです。でもおれは、甘いとすぐ〈満腹中枢〉が作動します。たとえ空きっ腹でも」
見せてくれたメニューの中の、いわゆる〈甘味〉はゼリーかシャーベットかアイス。
ジュース含めて〈柑橘系サッパリ縛り〉っぽい。
柑橘系自体は好きなんだけどなー。
「食べ切れそうに無いから、緑茶だけにしときます」
今は〈ハーフサイズ〉にしてもらっても〈お残し確実〉だもん。
「ああ……だからスズノは、甘い物をデザートに取っとくのか」
レインさんの呟きに大きく肯く。
声だけならダイジョブか。
突っ伏してる時も平気だったし。
え――じゃあ、落ち着かないのは顔見た時だけ?
ホントにナンデだ?
**********
「そうか、甘い物に食い付くのは〈スークンの方〉かぁ」
正面見上げると、ゴリマッチョおじさんが妙にガッカリした表情でお茶啜ってた。
一瞬エスプレッソに見えたけど、アレも緑茶。サイズ感マジック。
って今の、〈ウチの父親に関係する謎ワード〉じゃね?
「おじさん、〈スークン〉って?」
何気なく尋いたら、メッチャ驚いた顔になったよ。
そんなにビックリするコトなの?
「夏喜が〈娘の愛称〉って言ってたぞ。坊主は聞いた事、無いのか?」
ムスメ――〈娘〉?
って〈おれの姉ちゃん〉?
あー、うん。姉ちゃんなら『スークン』で喜ぶかも。〈くん付け〉っぽいから。
でも、おれが聞いたコトあるのは『お姉ちゃん』と『リンカちゃん』、マジメな時でも『スズナちゃん』だよなー?
「おれの記憶だと聞き覚え無いけど、おれが居ない時に呼んでたら判んないです。フザケて何かに〈変な呼び名〉付けたの、母に怒られてた気がするし」
「……成る程、そういう事かい」
おじさんが納得顔でお茶を啜った。
マネじゃないけど、おれもレインさんもお茶を啜る。
メッチャ飲み頃でした。
「ほふぅ~……」
思わず気の抜けた声が出ちゃうぐらい、ホッとする。
〈お湯呑み〉じゃ無くても緑茶は効果があるらしい。
何か和むよね~。
「……つーか、〈おじさん呼び〉かぁ」
ボソッと呟いたゴリマッチョおじさんは、何か戸惑ってるカンジ?
「あ――〈大きいお兄さん〉でしたか?」
「何だそりゃ? いや、〈おじさん〉で良いんだけど。昨日俺と会ってる事、本当に坊主は憶えてないんだなぁって思ってさ」
「え、と……〈馬車とお別れした〉のが〈昨日の朝〉だよね? 〈お昼ご飯〉は森の近くで、その後サクラちゃんたちと森に入って――」
「俺と会ったのは、〈爆走した後の森の中〉だぜ」
「……ゴメンなさい。〈森に入った辺り〉までしか憶えてません」
後ろ向きに進む上や横を、デッカい虫が飛んでったような気がする。
スッゴい昔みたいに感じてるけど、焼肉食べたのは〈一昨日の夜〉なんだよね?
何か〈昨日〉はイロイロあり過ぎた所為か、時間の感覚がグチャグチャっぽい。
片付け苦手な人の部屋みたいで、触りたくないんだよなぁ……。
「やっぱり、俺がビビらせた所為で記憶が飛んじまったんだなぁ。本当に悪かった」
おじさんが膝に手を置いて頭を下げた。
武士みたいでカッコイイなー――じゃ無くて!
「ううん。多分、おれが勝手にビビったんだと思います。森の中暗くて、サウンドホラーっぽかったし。だから、気にしないでください」
横にブンブン手と首振ったら、おじさんはホッとした様子で顔を上げた。
もしかして、割と気にしてたのかな?
*********
「改めて。俺はリュノス・タトゥナー。他の連中は『タツさん』って呼ぶ奴が多いが、ウチのボスには『リューノ』って呼ばれてる。〈スズちゃん〉も好きに呼んで良いぞ」
「あ――おれは、スズノ・リンドールです。ヨロシクお願いします」
ぺこりと頭を下げると、ゴリマッチョおじさんこと〈タツさん〉は嬉しそうに笑った。
「って、〈スズちゃん〉――!?」
ビックリしたぁ。
今は母以外には呼ばれないから、聞き間違いと思ってスルーし掛けてたよ。
「俺は夏喜の〈パパ友〉なんだ。他に妻子の話が出来る奴居ないから、夏喜とは二人だけでよく自慢合戦してたんだよ。スズちゃんの話も、結構聞いてるぜ?」
タツさんが茶目っ気たっぷりにウインク飛ばした。
様になってるのがスゲーなぁ。
おれは〈引き付け〉か〈脳梗塞の前兆〉かって母に心配されて、姉ちゃんたちに爆笑された思い出しかアリマセン。
そしてウチの父親の話に付き合ってたら、コレ多分〈耳タコ案件〉デスヨネー。
……ん?
「え――〈パパ友〉なの!?」
じゃあ、〈輪堂家〉見てたら複雑な気分なんじゃ――?
思わず顔を伏せた瞬間、赤茶色の眉毛が片方だけ跳ね上がった気がする。
「〈察し〉が良過ぎて、逆に心配になっちまうなぁ。流石は夏喜の子、だけどさ?」
困ってるみたいだけど含みとかは特に感じない重低音は、さっきまでと同じ調子。
そーっと顔を上げたら、苦笑いしたタツさんと目が合った。
全員分の新しいお茶を注いでくれる。
「俺は遠征とかで家族の傍に居られない事が多かったし、興行中の万一の事故やなんかにも備えて覚悟と準備はしてたんだよ。召喚されたのは予想外だったけど、妻子の元に帰れない事態も想定してた。だから、俺が居なくとも皆で上手くやってる筈だぜ」
『気にするな』って言葉が向いてるのは、多分レインさん。
召喚に関わってないのに、〈やらかした国の国民だから〉って責任感じる人だから。
やっぱりね。
おれの視界の左端にあるゴツゴツした右手が、またグーになって強張ってる。
「だけど夏喜は、家族と離れるなんて想像もして無かったろ? 早く帰してやりたかったけど出来なかったから、『家族の方が来てくれて良かった』と思わんでも無いんだ。そういう意味じゃ複雑だなぁ」
「うん。おれたち家族も、その意味ではメッチャ複雑です」
おれの目の端で、グーの手にギューッて力が入ってた。
既にツメの跡付いてんのに、コレ以上なんて血が出ちゃわない?
おれは右手パーで大きな手の甲を掴みつつ、反対側に特攻させた左手チョキをゴツい指と掌の間にグリグリ突っ込む。
「……この指、ちょっと頑固過ぎ。開けゴマー。食材以外のスプラッタ反対ー」
なかなか弛まないから、意地になって隙間出来るまでグリグリしちゃったよ。
ん? 何か一瞬フワっと〈美味しそうな匂い〉した? まさか〈摩擦熱〉で――?
って、非力なおれにはムリですヨネー。知ってた。
血の臭いじゃ無きゃ何でもいいや。
ツメ跡撫でてたらくすぐったそうに拳が揺れて、やっと力が弛んで指が解けた。
――と思ったら、おれの左手はレインさんの右手にガッチリ捕獲されてマシタ。
一瞬過ぎて何が起きたか解らないけど、左手で優しく頭撫でられてるから怒ってるワケじゃ無さそう。
反応に困ってたら、プッて噴き出す音が左右から聞こえたし。
「何をやってんだ、お前らは?」
ぅおぅ……頬杖ついたタツさんにじっと見られてた。
声がメッチャ呆れてる。
おれ、またもやタツさんの存在を忘れてマシタヨ。ゴメンナサイ……。
つかレインさん、笑ってないで手ぇ放してー!
早く事態を収拾してー!
********
空気を変えてくれたのは魔導人形さんでした。
デッカい丼二杯、タツさんの前に置いてる。
さっきの匂い、多分コレだ。
「鰹節っぽい匂い……だけど、ちょっと違う?」
「異世界に鰹は居ないんだよなー。似た味だけど、別物だぜ」
箸置きも小っちゃい魔導人形さんだ。
流石にコレは動かないよね? ね?
あ、レインさんの前にも一杯置いた。
「って、全部〈キツネうどん〉!? ナンデ!?」
「シノンやジンが居ると『出汁が違う』だの『塩辛い』だの、煩くて〈うどん〉食えねぇからなぁ」
そう言えば。
関東風の濃いおツユ、関西出身の人は受け付けないらしいよね。
ウチでも〈関西派〉と〈関東派〉が面倒クサくて、大体〈味噌煮込み〉になってたよ。
母とおれは〈どれでも美味しい派〉です。
「――じゃ無くて!」
「ぁん?」
お箸持った瞬間、タツさんは豪快に食べ始めてた。
〈某掃除機〉みたいに吸い込まれて、あっという間にうどんが消えてく様子はマジック再び。
ホントにタネも仕掛けも無いんだよなぁ。
「さっき、〈デザート〉とか言って無かった?」
「コレ〈甘い〉だろ?」
え――何ソレ。
小首傾げてるけど、タツさんの中でキツネうどんは〈デザート枠〉なの?
〈お揚げさんが甘い〉から?
え――マジで?
「スズノ、こっち向いてみな?」
呆然としたままのおれは、左から聞こえた声の言う通りに動いてた。
口が開けっ放しだったのに気付いたのは、舌に何か柔らかい物が触れて、反射的に閉じた唇に固い物が当たった時。
「あヒュっ――んんっ!?」
一瞬ジュワッて熱かったけど、甘じょっぱくて美味しい~っ!
思わず手で口押さえたのは、出汁の香りと一緒にブワッとおツユがこぼれちゃいそうな気がしたから。
この〈お揚げさん〉、おツユが染み込んでて〈激ウマ〉だよ!
「もっと食うか?」
微笑んでるような声が聞こえて、首を縦にブンブン振る。
ちゃんと噛んで飲み込んでから、今度は積極的に口を開けて待つ。
すると。
レインさんが〈小さく切ってもおツユ染み染みのお揚げさん〉を、お箸で器用に入れてくれる。
気分は鳥のヒナ。
「気を付けろよ。コレ、〈耐久〉が低いと火傷する熱さだぞ?」
『ムグ!』って止まったおれは、首傾げてタツさんを見る。
丼一杯平然と空にして、二杯目突入してる人に言われても説得力アリマセンが?
「解ってる。スズノに火傷なんかさせたら、ナッキーに殺されちまうよ」
苦笑してるレインさんは、無詠唱で魔法を使ってたっぽい。
右手から左手のお箸の先に魔力が集まって、何か働いてる。
猫舌気味のおれでも平気で食べれたのは、レインさんが小さく切って冷ましてくれるおかげだった。
うん。〈ヒゲ無しのお兄さん〉でもレインさんだ。
メッチャ優しい。
そして美味しい。
お揚げさん、結局おれが半分以上食べちゃったけど、いいのかな?
そーっと見上げたのに、すぐに気付かれて「まだ残ってるぞ?」って見下ろされる。
「あの、んと――ありがとう。ゴチソウサマでシュ」
……噛んじゃったよ。
もうヤだぁー!
向かいで笑いを堪えてる気配がする。
思わずテーブルに突っ伏すと、大きな手が左側から頭に乗って撫で回された。
モフ(耳)とフサ(尻尾)の間にはジョリ(ヒゲ)があったのに、知らない内に無くなってて混乱するスズノ君です。
似合ってる無精ヒゲはカッコイイと思うのに、殆どの女子は「剃れ」って言う気がする…。




