22 カレーのちレイン時々サクラ
*少し文章を整えました。
完熟トマト、ハーブを効かせた鶏モモ肉、各種の緑黄色野菜――たっぷりのソレらをスパイスと共に煮込んだカレーライス。
その名も〈華麗なトマト姫〉!
一般的なカレーよりオレンジ色っぽくて、〈ハッシュドチキン〉+〈カレー粉〉かと思ったけども違ってた。〈唐辛子少な目〉以外は、鶏肉のハーブも混ざってて正確なスパイスの割合が不明なんだよ。
だから、八年間〈再現不能〉だったんだけど。
今おれの目の前にあって、食してますよ!
日本とは違う所為か、〈警戒色レベルの鮮やかな黄色〉で食材の味もちょっと違うけど。
ちゃんとカレーの匂いしてるし、辛くないから問題無し!
むしろ深みと奥行きが加わってて、昔食べたのより美味しいかも。
ん~、テンション上がっちゃうぅ~!
「うん、まぁ……美味そうで良かったよ」
聞き覚えの無い重低音が聞こえて、おれは我に返りました。
そ~っと目を上げて見えたのは――苦笑いするゴリマッチョおじさん。
「そうだった、レインさんじゃありませなんだよ!」
気付いた瞬間、口調がおかしくなってマシタ。変な汗もブワッと出まくって止まりマセン。
「あー、大丈夫大丈夫。怒ってないし、盗らない盗らない。好きに食って良いんだぞ。俺もホラ、自分の食うから。な?」
恥ずかしくて涙目のおれを、おじさんは慌ててなだめてくれました。
「……取り乱して、ゴメンなさい」
ペコッて頭下げて、おれはなるべく落ち着きを保って木のスプーンを口に運ぶ。
……恥ずかし過ぎて味が判んなくなったよ。
ちょっと、マジで落ち着こう。美味しいカレー味わわなきゃ。
深呼吸――『ヒッヒッヒー』じゃ魔女だし、『ヒッヒッフゥ』も違う……アレ?
いいや、もう。ゆっくり呼吸しとこ。
おじさんが、魔導人形さんに渡された大きなスプーンで目の前のお皿の中身を山盛り掬う。
その瞬間、〈ツン抜ける辛さ〉で目がシパシパした。
「ソレ……何ですか?」
「コレ? カレーだぞ。中辛相当だな。試しに食ってみるか?」
「ううん。ヤメときます」
その〈禍々しいぐらい濃い緑〉なのもカレーなのか。
おじさんは平気でかっ込んでるけど、見た目〈不気味の森〉と同じ色だからね?
別名〈魔王様の華麗な夕餉〉、納得デス。
と言うか、〈中辛〉なのに〈激辛レベルで目に来る〉の?
日本人一番人気でも、おれが注文するコトは当分無いナー。
あっという間に食べ終わったおじさんが、もう一つお皿を引き寄せる。
緑カレーと同じぐらいの山盛りだけど、今度のご飯の上は紫色。
「ソレもカレーです?」
「おう、辛口だ。コレは止めといた方が良いな。坊主には色んな意味で向いてねぇよ」
「うん。流石に〈紫のカレー〉は食べれる気がしません」
鮮やかな赤に青いの混ぜたら紫になったってカンジで、スゴく怖い。
名前も怖いよ。〈毒舌魔女王の華麗なる闇鍋〉。
だけど、見た目とはメッチャ合ってる。
魔力感じるから、〈何かしらの効果付き〉なのかも知れないけど。
「激辛で体力削るから治癒薬混ぜたんだと。そしたら薬膳っぽい味になって、それなりに辛くて美味い代わりに〈魔獣寄せ効果〉も付いちまったってさ。意味解んねぇよな」
「ぶフぐっ!?」
口に入ってるの噴き出さないよう、必死で我慢したおれを誰か褒めてください。
「大丈夫か? ホレ、水」
「ぁ、りがと……ござ、ぃます……」
おれは〈魔力無し・効果無し〉の普通の食べ物がいいデス。
安心・安全なトマト姫が美味しいよぅ……。
涙目で続き食べてたら、サクラちゃんがおれの膝に頭乗っけて心配そうに見てた。
「ありがと。このおじさん食べるの異様に早いおかげで、目に染みる前に辛い成分ほぼ消えてたっぽい。もう大丈夫だよ」
ナデナデすると嬉しそうに尻尾がフヨフヨ。
サクラちゃんは癒されるなぁ。
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「あ――やっぱりだ。スズノ、起きてたのか!」
「何でや、タツさん!? お昼前て言うたよね? まだ十時過ぎやよ!」
騒がしい足音が上がって来て、階段マークのある通路から〈赤い髪のお兄さん〉と〈銅メダル色三つ編みお下げのお姉さん〉が飛び出して来た。
おじさんがスンゴい呆れた目で見て、大きな溜め息ついてる。
おれはどっちも気付かないフリで、トマト姫を食べ切るのに専念シマス。
「落ち着け、お前ら。坊主が食事中だ。サクラは『自分が起こしました』って、シノンに説明しろ」
サクラちゃんは多分、ドヤ顔でお姉さんのトコに行ったね。尻尾フリフリしてるよ。
『可愛い過ぎて怒れない~』って、お姉さんの表情が語ってる。
「そうだ、お姉さんは〈シノンさん〉だっけ。昨日の夕方――でいいのかな? 森の前で会ったんだよね?」
「せやよ、スズノくん。目が覚めてほんま良かったわぁ」
夢の中よりも大人になった顔で、シノンさんが綺麗に笑った。
夢って言うか〈サクラちゃんの記憶〉は、やっぱり大分前のコトなんだ。
「……スズノ。本当にもう大丈夫なのか?」
おれが食べ終わるのを待って隣に立ったお兄さんに、心配そうに見下ろされた。
誰だろ?――って、何か既視感?
「えーと……お腹は満たされたからダイジョブ。でも、そうじゃ無くて?」
「目ぇ回ったりフラついたり、どっか調子悪いとか無ぇか?」
え。まさかレインさん?
無精ヒゲ無いだけで、こんな変わる!?
あ――三角お耳、スンゴいペショッてしてた。赤い尻尾も、足の間にメッチャ隠れてる。
もしかして、耳と尻尾が見えない所為で印象違うのか?
でも、ナンデそんなコトになってんだろ。
――んん?
「レインさんこそ眼帯外して大丈夫? また黒いモヤモヤに取り憑かれてない? ちゃんと目ぇ見せて?」
おれが手を伸ばすと、ちょっと強張ったけど片膝ついておれに顔を寄せてくれた。
「……うん、右目はいつもの碧い色だ。左目も……瞼の傷はイヤなカンジだけど、モヤモヤは無いっぽい」
緩いクセのある金髪交じりの赤い前髪をそっとかき上げると、まだ少し湿ってて柑橘系の香りがする。
そっか、お風呂程度の時間なら外してもダイジョブだっけ。
「次に母に会ったら、この傷治してって頼んでみるからね。それまでは一応、なるべく眼帯してて?」
一瞬目を伏せたけど、レインさんはちゃんとおれを見て頷いてくれた。
犬耳も少し浮上したし、ションボリは治ったかな?
「スズノ……ちゃんと護り切れなくて、悪かった」
何ソレ。
ダメじゃん。治ってないじゃん。
ヘニョッて下がった赤い眉毛を、おれは強引に元に戻す。
あ、やっぱり金色の毛も交じってるんだ。ほえ~。
――じゃ無くて。
「おれ、サクラちゃんに乗って爆走した後の記憶が無いんだけどさ?」
「――んっ!?」
「気絶しちゃったおれをココまで連れて来てくれたの、レインさんでしょ? ちゃんと護ってくれて、ありがと。だから謝る必要無いよ」
「だが、スズノ――」
「おれが無事にココに居るの、つかまえてくれてたレインさんのおかげだもん。『ありがとう』しか無いんだけど。足りないなら――」
「いや、足りない訳じゃ無くてな?」
多分その後で〈何かあった〉んだろうな~、とは思いますケドモ。
〈ソコには触れちゃイケナイ気分〉がヒシヒシするので、いわゆる〈封印したい黒歴史〉でお願いしマス。
「良いじゃねぇか。坊主が構わねぇって言ってるんだし。今はソレに甘えるべきだぜ」
「ぴっ――!」
向かいにおじさんが座ってるの完全に忘れてた!
思いっ切り硬直したおれを見て、レインさんがオロオロしてる。
「やっぱり、タツさんが声掛けるとスズノくんは固まるんやねぇ」
違うんだよ、シノンさん。レインさん以外にも人居るの忘れ気味なのが、自分でメッチャ恥ずかしいだけなんだよ。
そんな呆れたような声で、『おじさんが悪い』みたいに言わないでー!
「悪かったなぁ、坊主」
流れ弾喰らったゴリマッチョおじさん、ホントにゴメンなさい!
ブンブン横に振るのを止めるように、レインさんの大きな手がおれの頭上でポンポンと弾む。
「ほらレインくん。せっかく整えて来たんやし、今がチャンスやよ!」
ふえ?
レインさんが、真剣な顔でおれを見てる。
何?
「スズノ。オレの獣耳、モフモフしてもイイぞ?」
……どうしよう。
おれはとうとう、幻聴が聞こえるようになってしまったみたいデス。




