21 not弱肉強食 but焼肉定食!
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「お前をここに置いておく訳には行かん。すぐに出て行け」
突然、目の前に居る〈赤茶で細身のトリケラトプス〉が言った。
地から響くような重低音は、疑問も反論も許す気無さげ。
ちょっと待って! いきなり過ぎて、ワケが解らないんだけど!?
そう思ってる間にグルッと視界が回る。
周囲には、〈黒っぽい森〉と〈赤っぽい岩〉と〈干上がった地面〉しか見えない。
森があるから、〈雨期がある乾燥地帯〉ってトコか?
当然だけど、見覚えは無い。
おれ、いつの間にココに来たんだろ?
「目立つお前が居ると、他の子にも危険が及ぶ。さっさと〈縄張り〉から離れろ」
川が流れたような大きな窪みがあって、ソッチへ行けって背中を押される。
抵抗出来ないまま地面が近付いて来て、ペシャッてコケた。
足が上手く動かないと思ったら、隠れてた岩の窪みに爪先が引っ掛かってたらしい。
そりゃ倒れるわ。
せめて、ちゃんと外に出るまで押すのヤメテ。
早くしないと襲われるからって、ヒド過ぎない?
「追い出すんなら、俺たちが連れてっても良いよな?」
聞いたコト無い声が降って来て、フワリと身体が浮いた。
青い空が見え、次に、少し白髪交じりの黒っぽい髪を首の後ろで一つに結わえたおじさんが見える。
黒い眉の間はくっきりシワが寄ってて、青っぽい灰色の瞳は鋭い。ついでに、〈無精ヒゲ絶賛放置中〉みたい。
着物モチーフっぽい服着てる所為か、〈ご浪人様〉って言いたくなる不思議。
ほら〈トシロー・ミフネ〉って、ちゃんと結ってても〈ワケアリの浪人〉に見えるよね。そんなカンジ。
「なぁ、チビ助。ウチに来たら、毎日美味いモン食わせてやれるぞ。来てくれるか?」
その強面が、目が合った瞬間トロケそうに弛んだよ。
ビックリだ。
『あー、ズルい! リューさん、ウチも抱っこしたいー!』
よく聞き取れない高い声が聞こえて、視界が連続的にブレる。
待って、ヤメテ! 脳ミソ揺れる~!
「人間風情が、我が縄張りに何しに来た!」
さっきの重低音が轟いて、視界のブレが止まった。
「前に言ったろ、『勧誘に回る』って。自主的に来るの待ってたって誰も来ねぇし、『本人が同意したら構わん』って〈長老〉も言ったし」
「ふざけるな! 長老が何と言おうと我が縄張りで好き勝手出来ると思うな、人間!」
「お~、流石は〈竜族〉だ。血の気多くて元気だねぇ」
同意も何も、完全に目が回ってておれは動けませんヨ。
ちゃんと責任取ってね?
「――つー事で。シノ、ちょいと〈説教〉して来っからチビ助頼むぞ」
『アイアイサー』
堅くてゴツい腕から細くてしなやかな腕に移ったら、濃い銅メダル色のポニーテールの先で鼻をくすぐられた。
何となく見覚えのあるお姉さんが、おれを覗き込んで笑ってる。
『小そうて真白で、ほんま愛らしぃわ~。ピンクのお目々も澄んでて綺麗やね~。もう絶対〈ウチの子〉に決定や~。リューさんにも譲られへんえ~』
何かブツブツ言いながら、ほっぺたスリスリして来るお姉さん。
何してくれてんの?って気持ちもあるけど、〈絶対安全〉ってカンジが心地良くてどーでもいいかも。
向こうの離れた所からは、ドッカンドッカン爆音が聞こえてる。
こっちはおじさんの仕業か。
二人とも悪い人じゃ無いっぽいけど、想定外過ぎて反応に困るよね。
それにしても温かいなぁ。
爆音無かったら即行で寝てるかも。
「うっし、ご理解頂けて何よりだ。帰るぞー、シノ。チビ助は――」
『ウチの子になってくれるんやて! ええやろ、リューさん?』
「……チビ助、嫌じゃ無ぇんだな? だったら、まぁ良いや」
おじさんが頷いてそう言うと、急に視界がグワッと高くなった。
お姉さんに抱っこされたまま、何かデッカい生き物の上に乗ったらしい。
「俺に付いて来たいって言うから、コイツも連れてくぞ」
後ろに座ったおじさんも、上半身と同じ長さの黒っぽい塊を抱えてた。
『その子は〈黒い〉ん?』
「いや、〈青〉が濃過ぎて黒く見えてんだ」
『リューさんの髪色と同じ! なんて羨ましぃ……』
コッチに顔を向けたから、〈大分細いトリケラトプス〉って判ったよ。
アバラが浮いてて心配になるレベルだけど、山吹色の瞳は爛々として生きるコトを諦めてない。手遅れじゃ無さそう。
良かった良かった。
『そやけど。〈赤・茶・緑〉が多い場所で、〈純白〉と〈青黒〉は珍し過ぎるねぇ』
「やっぱり、魔素が乱れてんのかもな」
お姉さんたちは撫でてくれながら普通に話してるけど、今は上昇中だったりシマス。
さっき乗ったデッカい生き物、鳥だったみたい。しかも猛禽系。
「取り敢えず。ウチは色なんて関係無ぇし、飯と寝床の苦労はさせねぇから。お前ら、ちゃんと成竜になれよ?」
『そやそや、今からウチの子やよ~。名前は何がええやろか』
青い子が『ヒシッ』て音が聞こえそうなぐらい、必死におじさんにしがみ付いてる。
要は〈安全バー無しのジェットコースター〉だもんね。
おれは結界張ってるの知ってるから大丈夫だと思えるけど、知らないとなぁ……。
『〈シロちゃん〉は――流石に〈無し〉やね。スノー、シュガー、ピンク、ピーチ、チェリー……』
「どれでも良いが、〈タマ〉と〈チェリー〉と〈ピンク〉と〈モモ〉と〈バラ〉は却下な」
『え――何で!?』
お姉さんとおじさんは、何となく〈スピード狂〉っぽい。平常運転過ぎる。
「シノとショコラ以外全員〈おっさん〉だぞ。下手に〈ネタ提供〉するんじゃ無ぇ」
『あ、そっか。名前に掛けてギャグ言われても、笑えへんよね。そしたら……紅、梅、紫蘇、柴漬け、桜――あれ?』
……うん。〈モモ〉と〈バラ〉に〈肉〉付けちゃったら、〈ピンク色の食べ物連想ゲーム〉になっちゃうよね。解ります。
「ああ、〈サクラ〉が良いな。そしたら、コイツは〈トラ〉だろ」
『って、何やそれ! 結局〈ネタ〉やないの!?』
「コッチのネタは良いんだよ。俺たちでも忘れない名前だし。決定な」
『その子、色的に〈トラちゃん〉やのうて〈ウシオくん〉か〈ヒョウさん〉やん! ナッキーなら解ってくれるのにー!』
おれも〈ウシオ〉に一票。
それに〈風来坊と苦労性の妹〉の関係性が再現されそうで、そこはかとなく心配。
でもイヤな気持ちは無くて、ゆっくり尻尾が揺れてるカンジだなー。
ん? おれに尻尾あったっけ?
それより、ドコかから〈スッゴい良い匂い〉してる気がする?
スパイシーな香りで、お腹直撃系。
ってゆーか、鳥さんにも直撃したの!?
空中から地面に〈鳥まっしぐら〉って何かの罠!?
急展開過ぎて全く付いて行けませんケドォ!?
すぐ側から聞こえる『キュルルルルー』って音が、効果音じゃ無くて〈お腹の虫〉ならいいのになー……なんて考えてる内に、おれの意識は途切れてた。
**********
目を開けたら見たコト無い天井が見えた。
土? 岩盤? 洞窟?
なのに、壁は板張り?
寝ぼけ眼こすって周りを見たら、ベッドじゃ無くて布団に寝かされてる。
ホントにドコだろ、ココ?
「おはよー……ござぃ、ます?」
取りあえず、ご挨拶してみた。
目の前の〈白いトリケラトプス〉に。
瞳の色は優しいピンク――〈桜色〉?
あ。
「もしかして、サクラちゃん?」
嬉しそうなトリケラトプス――サクラちゃんは、おれに頭をスリスリして来た。
「サイズ違うから、ちょっと判んなかったよ?」
おれをじーっと見て、コテンって首を傾げるサクラちゃん。
赤くても黒くても白くても、ひたすら可愛い!
「心配してくれて、ありがと。もう大丈夫――だと思う。変な夢見てた気はするけど」
サクラちゃんが、コクンと頷いた。
あれ? もしかして――?
「夢じゃなくて、サクラちゃんの記憶? おれに、見せてくれたの?」
ブンブン尻尾振ったサクラちゃんが、おれに飛び付いてほっぺたペロペロ舐め出した。
前と違って〈魔力無し〉だ。『大当たり~!』って副音声も聞こえた気がする。
「おいコラ、サクラ! 起きたばかりの坊主に無茶すんな!」
夢の中とは違うおじさんの声がして、サクラちゃんが引っぺがされた。
その瞬間美味しい匂いがおれを包み、完全敗北したおれのお腹が『キュルルルル~』と情けない鳴き声を上げる。
さっきの夢の最後、コレだ!
あの〈魔獣っぽい鳥〉はこの匂いにまっしぐらで、音はおれの〈腹の虫〉だった!
「……カレーあるけど。食うか?」
戸惑った声に見上げると、〈赤茶の短髪にアゴヒゲを繋げたゴリマッチョ〉が、優しそうな〈茶褐色の瞳〉を心配そうに曇らせておれを見てた。
少し距離があるのは、おれが小上がりみたいなトコに寝てるからだけじゃ無いな。初対面のおれを脅かさないようにって配慮だと思う。
だってサクラちゃんを挟んで、そっと声を掛けてくれてるもん。
ただ、カレーか……。
匂い嗅ぐと、食べたくはなるんだけど。
おれ、家のカレー以外美味しく食べらんないんだよなぁ。
「あ~……〈鼻が利き過ぎる獣人用〉に、香辛料控え目の〈トマトチキンカレー〉もあるぞ。別名、〈カレーなトマト姫〉な?」
ソレ、もしかしなくても〈おれ用〉!
辛くないって有名な某メーカーの〈中辛〉でもアウトだったおれの為に、ウチの父親がスパイス調合して作ってくれた美味しいカレーだよ!
おれ、ソレ以外は〈甘口〉しか食べれないんだ。
姉ちゃんには『いつまでもお子様』ってバカにされるけど、口の中痛いの我慢して食べたって美味しくないもん。
泣かないだけマシって、ご飯が拷問みたいでイヤじゃん?
「カレーなトマト姫、食べたいです!」
久しぶりの美味しいカレーにワクワクして手を挙げたおれに、〈ゴリマッチョおじさん〉は目を丸くした後で全開の笑顔を見せてくれた。
「モモ肉・バラ肉」から「紅ショウガ・梅干し・赤ジソ・漬け物・桜デンブ」って連想した訳です。
リューさんは酒飲みの猥談に繋がる事を心配したのですが、案の定当時のシノちゃんは理解してませんでした。




