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召喚されたのに非戦闘職は不要と放り出されました。理不尽!  作者: 笠谷 柳斗
第一章 リンドウ家ファミリー牧場計画(仮)
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15 見える敵ありゃ見えぬ敵もあり

 かなり進んだ頃、サクラちゃんに撥ね飛ばされる魔獣は居なくなった。

 聞こえるのは、移動で巻き起こる風に揺らされる葉っぱや草の音ばっかりだ。


「それにしてもサクラちゃん器用だね。こんな木ばっかりのトコ、ぶつからないで走るなんて。割とスピード出てるよね?」

「確かにサクラちゃんは器用やよ~。でも、ここの木ぃは〈自分から()ける〉んよね~。サクラちゃんには敵わへんて、解っとるんやわ~」

「木が避ける?……あ。〈動く木の魔物(トレント)〉だから?」

「憶えてたか。てっきり、忘れてるかと思ったぜ?」


 ちょっと安心したようなレインのオッサンの声。

 そう言や、お昼の後に教えてもらったばっかりだったよ。

 ……その後色々あり過ぎて、今の今まで忘れてたけどネ。


「縄張りへの侵入者は強制排除するんだっけ。ソレが避けるなんて、サクラちゃんは強いんだねー」

「そやね~。そろそろスズノくんは黙ってよか~。舌噛みよったら大変やし~。ねぇ、レインくん~?」

「そうだな」


 オッサンの硬い声と共に、大きな掌で口をふさがれる。


「あんまサクラばっか褒めんな。お前よりガキなんだぞ。解ってんのか?」

「ミ゛っ――!?」


 いつもより低い声に荒っぽく囁かれて、おれは変な声を上げてしまった。

 オッサンの様子がおかしいとシノンさんに訴えたくても、しっかり抱き込まれていて行動不能。

 厚い胸板に押し付けられるまま、スゴい速さで後ろに景色が飛んでくのを黙って見て――……って、え?

 コレ速過ぎじゃね?


「ォッサ、んっ、ぐ――!?」

「動くな、スズノ。吹っ飛びたくなきゃ、じっとしてろ」


 モゴモゴしつつ後ろ振り向こうとしたら、ギュッて締め付けが強くなって思った以上に余裕の無い囁き声が返って来た。

 ……うん。やっぱコレ、オッサンたちでもヤバい速度なんだ。


 え~と――もしかしなくても、〈おれがサクラちゃんを褒め過ぎた所為〉デスヨネ?


 小っちゃい子って、褒められると嬉しくて調子に乗っちゃうよね~。

 おれもまだガキだから、多分ドラゴン見て興奮してたんだよね~。


 ゴメンなさい……。



**********



「サクラちゃん、そろそろ止まる準備しよか~。ゆっくり走るんやよ~。最後は歩きやで~。お~、上手やな~」


 シノンさんの誘導で、サクラちゃんがようやく足を止める。

 周辺に木が無い、ぽっかり開けた場所だけど――。


「降りるから、温和(おとな)しくしてろよ?」

「へ――ぃっ!?」


 止まるとすぐレインのオッサンがおれごと滑り降り、シノンさんは軽やかに飛び降りた。


 おれたちの着地とほぼ同時に、背中の方からバッサバッサってスゴい音が聞こえる。

 振り向くと、尻尾を支えに後ろ足で立ったサクラちゃんが、軽く羽を伸ばしてた。


 オゥ……降りてなきゃ、おれは確実に転げ落ちてたヨ。

 いつも適切な判断で助かっております、レインのオッサン。


 落ち着いたサクラちゃんを撫でながら、シノンさんが周囲を見回してる。


「なぁ、サクラちゃん。迷宮(ダンジョン)はどの辺か、判るやろか?」


 翼をたたみながらキョロキョロしたサクラちゃんは、尻尾ごとシュンとして落ち込んだ。


 そ~っとシノンさんに頭を擦り付けて、『ゴメンナサイ』って言ってるみたい。

 ポンポンと軽く掌を弾ませたシノンさんは、苦笑いでオッサンを振り向いた。


「レインくんは? 今どの辺りか、判ったりせぇへん?」

「いや……スズノが吹っ飛ばねぇよう全力だったから、探知に回す余裕は無かった。魔樹(トレント)に大分誘導されたのは判るけどな」

「そやろね~。ウチも〈防風結界〉の維持で、いっぱいいっぱいやったし」

「今もコソコソ位置変えてやがるから、来た道も判らねぇぞ」

「そっか、レインくんでもか~」


 やっぱり、ココはトレントが避けてるから広場になってるのか。

 おれの所為だ。おれが余計なコト言って、不用意にサクラちゃんアオったから迷子に――。


「だから、少し時間くれるか?」

「――ぶヒュ!?」


 くるんとおれを振り返らせたレインのオッサンは、おれのほっぺたを両手でムニュッと潰した。


「ニョ――ひゃひ!?」


 驚くおれを見て不敵に笑って、今度はグニ~ッて限界までほっぺたを引っ張る。

 おれ、昨日と違って〈変顔〉させられてない!?


「そやね~。どれくらい待てばええの?」


 シノンさん、笑って見てないで助けてよー!


「そんなに掛からねぇ。ただちょっと、スズノ任せてもイイか? どうも責任感じちまってるらしいんだ。スズノの所為じゃ無ぇのになぁ?」

「解るわ~。サクラちゃんも、それや。張り切り過ぎたんやて判るし、誰も怒ってへんのにな~?」


 二人して何でも無いコトのように言うと、オッサンは広場の端に近付いて行き、入れ替わるようにシノンさんがおれの傍に来た。



*********



 オッサンと離れても結界魔法が有効なのは、昨日の焼肉で確認済み。

 だから寒いハズ無いのに、オッサンがおれから少し離れた瞬間、急にゾワッと〈怖気(オゾケ)〉がした。


 〈ドコか〉から〈誰かに見られてる〉カンジ。

 悪意では無いけど、好意でも無い。

 見定められてる――?


「どしたん、スズノくん。寒い?」


 シノンさんは、気付いてない――サクラちゃんも?

 じゃあ〈標的(ターゲット)〉は、〈()()だけ〉?


「誰か見てる――ヤバいかも」

「え?」


 首筋の産毛がヂリヂリ逆立つ。もう〈イヤなカンジ〉しかしない。


 明確に〈攻撃の意志〉を感じて空を見上げると、遥か上空がキラキラしてた。

 一瞬星かと思ったけど、動いてる。つか、落ちて来てる?

 アレ、〈魔力まとってる氷〉か?

 まっすぐ向かって来るスピードとデカさは、この広場一帯が大惨事の予感。


「ダメだ、ヤバい――逃げて、みんな!」


 確か〈人為的な流星(メテオストライク)〉って、RPGでは〈最強魔法の定番〉じゃ無かった?

 おれを逃がす気ゼロっぽいよね。



「スズノ!?」

「上や、サクラちゃんっ――!」


 急に色を無くした世界で、オッサンがおれの方へ走って来る。

 シノンさんも何か叫んでた。

 だけどおれは、不思議と静かな気持ち。おれを殺したい人ホントに居るんだなー……ってソレだけ。


 死ぬ寸前のスローモーションは、〈あの世〉と〈この世〉が繋がって〈時間がどっか行っちゃった〉のかも知れないな~――なんて。

 ドコか懐かしい少し切ない気分と、『お前が居なきゃ、こんな事起きなかったのに』って声が頭の奥から湧き上がる。


 誰の声か判んないけど、おれも同意。

 おれが居なかったら、きっとあんなの飛んで来なかったよ。

 あの氷、もし砕けても結構な威力ありそうだし、出来ればオッサンも逃げて欲しい。

 でも護衛って立場上、流石にムリな相談か?

 狙われてるのはおれだけみたいだし、他の人には被害が出ないといいのになー。


 そう言えば。もし異世界で死んだら、魂はどうなるんだろ。

 日本へ戻れるのかな? それともコッチで転生?

 戻れるんなら、ジョニーさんにお世話になったお礼言えるかもだけど……。



「ずっと護ってくれてありがと……会って言えなくてゴメンね、ジョニーさん」


 モノクロの世界で、ゴツゴツの氷が近付いて来るのをおれはボ~っと見てた。

 頭は動いてても、身体が付いて来ないんだよね。

 目だけは飛んで来る氷から離せないけど。


 せめて気持ちだけでも届くといいなぁって思ってたら、いきなり目の前が真っ黒になった。


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