14 ドラゴン・サクラ
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
トットットッと軽快なリズムと振動で、サクラちゃんが走ってる。
そこにおれの背中の方から「ギャウッ」とか「ヂチチッ」とかの音が一瞬聞こえ、その度に『ヒュゥッ――ガツッ』って風切り音と何かがぶつかったような音がする。
それからすぐ、おれの上や横を「ギャォォ」とか「ヂヂヂィィッ」って音が通り過ぎて、遠ざかる。
「あの――オッサン?」
「どした?」
「音だけ聞こえるって――予想以上に、怖いんデスケド?」
「心配すんな。お前に怪我はさせねぇよ」
「そーゆー心配、違う――って、今何か飛んでったよねっ!? 何かデカいのっ!」
「そうか? そんなにデカくも無ぇだろ」
「否定するのソッチ!? 〈何かが飛んでくコト〉はスルー!?」
一度や二度ならおれも我慢出来たけど、割と頻繁に飛んでってるのは流石にムリ。
〈サウンド型ホラー〉って、不意打ち過ぎて思った以上にビビっちゃうんだよ。
主に自分の想像力が敵なんだけどね……。
「大丈夫だよ。お前には当たらねぇから」
「当たらなくても、怖いんだってば! せめて、魔力探知していい?」
「いや、魔力は使うな。標的にされたら困る」
「ソレは、メッチャ困るけど――モォっ!?」
ギチギチ鳴いてたの何っ?
ココ、あんなデッカい虫居るのっ!?
完全に日が暮れた森の中は、サクラちゃんが張った〈白い魔力壁〉だけが遠くでぼんやり輝き、後は〈暗くて薄黒い空間〉と化してる。
おれの目じゃ、木も魔獣もとっさに見分けがつかない。
だけど、サクラちゃんやレインのオッサンには問題無く見えてるっぽい。
シノンさんも同じか判んないけど、気にしてる風には思えない。
つまり、音がする度におれだけゴリッと精神力が削られてるカンジ。
おれってホントに目に頼って状況把握してるんだなぁ、と思う。
まぁそもそも、おれだけ〈後ろ向き〉なんですケドネ。
性格はともかく、物理的な話。
今おれはレインのオッサンの膝に乗せられて、〈絶対に好意的じゃ無い音〉が聞こえる方向へ背中から突き進んでいる最中デス。
正確には。
サクラちゃんの首輪の後ろに付けられた座椅子みたいのにシノンさんが座ってて、その後ろで胡座かいてるオッサンの膝の上に、おれが向かい合わせで座らされてる状態。
おれの正面はオッサンの前面で、横から背中まで筋肉質な腕で捕獲されてマス。
背中側には座椅子の手すりがあって、その先にはシノンさんの背中。
荷物はシノンさんが預かってくれたから、遮る何物も無いデスヨ。あははー。
――今、横から白い糸みたいのが飛んで来た瞬間〈微塵切り〉にされてたよ!?
誰が何すると、そうなるの?
暗くて周りの状況が判んない中、〈何かが起きてる気配だけ拾える〉ってフツーに怖くね?
思わず小さくなってオッサンの胸元にしがみ付いちゃってるけど、恥ずかしいとか言ってらんない。
二人に挟まれてて安全なのはよく解ってるんだけど。
せめて前は向かせて欲しかった。切実に!
おれ、何でこんな状況になってんだろ……?
**********
**********
「結界張れたし、さっさと行こか。頼むわ、サクラちゃん?」
シノンさんが声を掛けると、時々地面を叩いてた尻尾が横方向ブンブンだけになり、すぐにピンと立ってフルフルに変わった。
下手に動くと大惨事って、ちゃんと憶えたんだね。
うずくまるようにしてシノンさんが乗るのを待つサクラちゃんは、ホント賢いなー。
およ? サクラちゃん、おれ見て何か言いたげ?
「オレたちも乗せて貰うぞ、スズノ。〈竜の咆哮〉で辺りが騒がしくなったの判るだろ。サクラと一緒の方が安全だからな?」
レインのオッサンの言葉に、サクラちゃんの方から『合点承知!』って声が聞こえた気がする。
ナゼにいきなり〈江戸っ子〉降臨?
おれの気の所為?
捕獲されたままの身体捻って何とか見上げると、おれを見下ろしてたオッサンが「何だ?」って小首傾げる。
「サクラは人に慣れちゃいるが、騎乗用じゃ無ぇ。結界魔法の都合もあるし、お前はオレが抱えたまま乗るぞ。厭か?」
「……一人で乗れる気はしません。お手数ですが、お願いします」
「おう、任せろ」
シノンさんに続いて、おれたちもサクラちゃんの背中に乗った。
乗ったはいいけど――。
ナンデおれは〈レインのオッサンの膝の上〉デスカ?
確かに『抱えたまま乗る』とは言ってたけどさぁ。
いくら魔法の都合があっても、ココで〈岩盤浴〉は必要なのか?
「スズノ、しばらく温和しくしててくれな?」
「……ふぇぃ」
鞍無しの胡座でサクラちゃんの背中に座ってるオッサンの安定感は、『流石!』の一言だけども。
解せぬ。
多分、魔力を操作してどうにかしてるんだと思うけども。
やっぱり解せぬ。
更に、おれがオッサンの胡座にスッポリ収まってるトコロ。
解せぬの最上級。
「スズノくん、先に宿には送れへんのよ。ごめんね~?」
「いえいえ、充分です!」
遠い目をしてたら、振り返ったシノンさんに同情的なカンジで声掛けられた。
オマケのおれが足引っ張っちゃダメだし!
「おれのコトは気にせず、任務遂行しちゃって下さい!」
「有り難う。ほんじゃサクラちゃん、邪魔する輩はぶっ飛ばしてこかー」
「程々になぁ……」
諦めたようなオッサンの声を合図に、サクラちゃんは立ち上がって勢いよく走り出した。
*********
*********
そのまま〈不気味の森〉に突入して、今に至るワケですが。
そう言えば。
吹っ飛び掛けたのを捕獲されてから、ずっとオッサンに確保されたまんまだよ。結界で暖かいから離れる気無かったけど。
もしかしてコレ、『万がイチ意識飛んでも大丈夫』ってコト?
おれが〈何も言わないでやらかす〉所為で、護衛であるレインのオッサンを〈メッチャ心配させてる〉のか?
確かに……〈昨日の今日〉で、〈さっきの今〉だもんなぁ。ムリ無いかも。
ある意味、〈自業自得〉デシタヨ……。
「気にしなくても大丈夫だぞ。血の臭いなんてしねぇだろ?」
「そうだけど――」
「両手で耳塞いでてもイイぞ。落としたりしねぇから」
「そーじゃ無くて――ピひゃっ!?――今スゴい重そうなの飛んでったよ!?」
「サクラより軽いぜ」
「そーだけど、そーじゃ無いぃ~っ」
気にしないようにしても、やっぱムリ!
見えないトコロで何かが起きてるのも、対応の仕方が判らなくて怖いんだよぅ。
半泣きのおれ見て、オッサンは犬耳ごとコテンって首傾げてる。
本気で解ってないのは、よ~く判ったけども!
「レインく~ん? スズノくんは多分、〈他人の悪意〉以外は感知出来ひんよ~?」
「あ? 〈魔力使わねぇ気配探知〉、出来ねぇのか?」
「野生の獣に出遭わへん〈都会っ子〉に、〈人以外の気配〉を探知する機会はそうそう〈無い〉んやよ~。そやし、いきなり現れる感覚やね~。少しでも見えよったら、心の準備出来るかも知れへんけど~?」
「へぇ、そういうモンか……」
シノンさんの〈お言葉〉にオッサンが耳を傾けた!
おれが言っても通じなかったのに、流石シノンさん!
喋り方が何かちょっと――さっきと違って、伸び気味な気がするけど。
サクラちゃんに乗って揺れてるから、舌噛まないようにかな?
でもおかげで、レインのオッサンはおれだけをくるりと反転させてくれました。
メッチャ器用。つか、サーカス?
とにかく。
ようやく前向けたおれは、シノンさんの背中越しでもさっきよりマシでホッとしてるトコです。
********
暗闇に目が慣れたら、何かが飛んで来てサクラちゃんに撥ね飛ばされるのが判ったよ。
さっきから飛んでってたの、こーゆーコトか……。
皮膜の翼でバランス取りつつ尻尾で舵を取ってるカンジのサクラちゃんは、何がぶつかっても安定した高速走行。
オッサンの腕は相変わらず安心なシートベルトだし、かすかに衝撃来てもシノンさんの座椅子の手すり掴めるし。
サイズ的にも〈アメリカのデッカいトラック〉みたいだな~、なんて余裕も出て来たよ。
おれも案外〈現金なヤツ〉だよなー。
「あ、そうだ。一つ尋いていい?」
「ん? どした?」
「〈舐めて治す〉って、状態異常も治せるの? それとも、ドラゴンのサクラちゃんが特別?」
「何の話だ?」
「さっきのご挨拶前のおれ、〈混乱かなんかの状態異常〉になってたっぽいから」
「は――!?」
「以前に魔力でほっぺたのケガ治してくれたでしょ? アレの〈範囲デッカい版〉だったから、サクラちゃんが舐めてくれたんだと思うけど。それで頭の中がスッキリさっぱりクリアになったから、『状態異常だったんじゃね?』って思って」
「……もっと早く言ってくれよ」
どーしてオッサンが盛大に溜め息つくのデショウ?
そして。
ナンデおれの体、ギュ~ッて圧迫するのデショウ?
ちょっ――前傾姿勢やめて~!
ギブギブ! 降参するから~!
「『舐めて状態異常が治った』って話は聞かねぇよ。だけど〈サクラなら〉有り得るかもな」
「そやね~。サクラちゃんは、〈白い鱗の聖竜〉やからね~」
「ふぉ――もしかして〈幸運の白いドラゴン〉!?」
「〈見た目が白わんこ〉のあの子らなら、別種やよ~。モフモフやし~」
あの〈ステキな白いモフモフ〉が出て来る〈幸運だか運命だかなクエストを書いた本〉が頭の中を過ぎったけど、シノンさんも知ってたらしい。
「そうだ、サクラちゃんは赤くて綺麗な鱗だった――って、今は黒っぽいし。暗い所為?」
「ああ、周囲の色を反射してんだよ。サクラ本来の色は、竜には珍しい白だぞ」
なるほど。目も赤系だし、サクラちゃんは〈アルビノさん〉かな?
そして、さっき赤かったのは〈夕陽〉か。今は〈夜の森〉で黒なのか。
そう言えばあの本、〈カッコイイ黒竜〉も居たよなー。メッチャ〈ゲーム好キー〉のヒト。
「黒い鱗もカッコイイよねー。〈J・B三世〉ってこんなカンジだったのかなぁ?」
「サクラちゃんは、〈TRPG〉より〈双六〉が好きやよ~。魔導人形たちに、よぅ遊んでもろてるわ~」
え――双六出来るゴーレムさん?
高性能過ぎじゃね?
「ふふっ。〈モフモフの竜〉も、異世界の何処かに居るとええよね~」
「ホントそう思う。でも〈果てしない〉の方だと、ちょっと怖いかも……」
思わず呟くと、シノンさんが噴き出した音が聞こえた。
オッサンも、おれの背後で苦笑してる気配がする。
このネタも解るのか。
……父子共々、ご迷惑をお掛けしてマス。
この時のおれは、〈とあるスイッチ〉を連打してたコトに全く気が付いて無かったんだよな……。




