13 威圧の森のS級美女
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
「もうすぐ夜やし、詳しい話は後やね。ほんで、レインくんの〈緊急の用〉って何?」
スッと視線を上げたシノンさんにつられて空を見たら、もう陽が落ちる寸前だった。
森で見えない辺りだけまだ赤くて、後は紺色に小さな白い点が少しってカンジ。
思った以上に時間経ってたんだなー。
レインのオッサンも空見上げて、『参ったな』って表情で頭かいてる。
「確かにソレが先か。ナッキーの居所を知りたかっただけなのになぁ?」
「ナッキーの居所? 聞いてないん?」
「幹部と連絡つかねぇんだ。仕方無ぇから辺境伯領回ろうと思って、乗り合い馬車でソコまで来たら街道の近くで〈森林魔犬〉に襲われた。この辺に〈勇者の試練〉があるって聞いて、〈緊急通信〉したんだよ」
「え――うわ、ごめん。多分それ、ここに〈タツさん〉連れて来た所為やわ。行き帰りは気を付けてたんやけど、久し振りの手加減無しやてタツさんハシャいでたし……」
「やっぱり、そういう事か。それじゃココ、タツさんが担当なのか?」
「そう。今回ここは〈赤の試練〉やよ」
オッサンとシノンさんが話してるのは見えてるし声も聞こえてるんだけど、おれの頭の中は洗濯機レベルでグルグルしてて言葉が意味を成さない。
ぷしゅぅ~って音立てて、煙出せそう。
「そう言うたらこの魔力、迷宮から漏れてんの? まさか、まだハシャギ中やろか?」
「コレ、マズいだろ。周辺被害が増える前に止めてくれるか?」
「うん、管理者の義務的にも早う止めんとやわ。そやけど、もっと迷宮の近くやないと〈通信魔法〉が繋がらへんかも」
「つまり、森の中を竜が突っ切るって? 魔物の動きが読めなくなるぞ。オレはともかく、スズノには傷一つ付けたくねぇんだよ」
「結界張るし、森の外には逃がさへんけど……外もかなり騒がしぃなるやろね」
「それじゃ、野営する場所も無ぇのか?」
「この状況で野営は無茶やね。幹部に〈お目玉バイキング振る舞われるルート〉一直線やわ」
「どちらにしても、無傷で抜けられる気はしねぇな……。仕方無ぇ、戻るしか無ぇか」
「それならいっそ、ウチらと行かへん? 迷宮の近くに〈最後の安全地帯〉、在る筈やし」
「そうか、むしろ竜と一緒の方が安全だな。じゃあ後は、スズノ次第か?」
「あ、〈スークン〉の目の前で戦うんはアウトやったっけ? う~ん、〈ぶっ飛ばす系女子〉との移動は大丈夫やろか?」
ふと、二人がコッチを見た。
あっという間にオッサンは心配顔、シノンさんはビックリ顔だよ。
ナンデ?
「スズノ――ソレは、大丈夫なのか?」
意味を認識する前に流れて行く声は音楽みたいで、ちょっと楽しくなって来たトコ。
ただの〈オーバーフロー状態〉なので、命に別状はありませんヨ。あはは~。
「ダイジョビュっ――!?」
反射的に返事したら、分厚くてザラザラでじっとり濡れた温かい塊に顔面を拭われマシタ。
**********
生温かくてハーブっぽい匂いがする。
レインのオッサンにほっぺた舐められた時と似たカンジだけど、顔全体って範囲デカ過ぎ!
慌てて頭を振って目をパチパチさせると、グルグルしてた渦が消えて頭の中がクリアになってた。
普通に目と耳と思考が繋がってるカンジ――いやむしろ、今までに無いぐらいスッキリしてるかも。
……おれ、もしかして〈状態異常〉になってた?
イロイロな意味でビックリだよ!
「えーと……今のは、ドラゴンさん?」
「そやそや、ご挨拶が遅れてごめんね~。この子は〈サクラちゃん〉言うて、ウチの最っ高の相棒なんよ!」
自慢げなシノンさんが、紫がかった赤い鱗の大きなほっぺたに自分のほっぺたをスリスリする。
嬉しそうに『むふ~』と鼻息を掛けて来たツブラな瞳は、スゴく綺麗な〈桜の花びらの色〉だった。
名前、メッチャ納得。
取りあえず。
「おれはスズノ・リンドールです。治してくれてありがとう。ヨロシクお願いします」
ぺこりと頭を下げるとドラゴンさん――サクラちゃんもぺこりと頭を下げて、ブワッと風が起きた。
吹っ飛び掛けたおれは、オッサンにキャッチされて無事だったケドモ。
サイズの違いって、デッカいんだな~。
「ごめん、ごめん。サクラちゃんまだ幼竜やし、魔力の制御苦手なんよ。動くだけでも〈風の精霊〉が付いて来てしまうん」
サイズとかじゃ無かった。
これで幼竜かよ、とも思う。
でもおれが吹っ飛び掛けたの見てアワアワしてる雰囲気は、小っちゃい子供っぽくて納得した。
取りあえず、〈サクラちゃんが動くと自動的に風魔法が発動する〉ってコトでいいのかな?
「そっかー、流石ドラゴン。じゃあ、ご挨拶の時は……撫でさせてもらってもいい?」
「ええよ~。ね、サクラちゃん?」
怒られると思ってたのか、シュンとしてたサクラちゃんがパッと瞳を輝かせて、そ~っと頷いた。
太い骨に皮を張ったような翼とトカゲみたいな尻尾の先が、プルプルしてる。
動かすと大惨事になるから、パタパタしたいの我慢してくれてるんだ。
メッチャ賢くてメッチャ可愛い~!
「――スズノ、『治した』って何だ。怪我でもしてたのか?」
ほんわか温かい気分になってたおれの頭上に、スッゴい低い声が落とされた。
怖い怖い! 怖過ぎる!
一瞬で背スジがゾッとしたよ!?
レインのオッサン、声が冷凍庫のアイス並みに冷たくて固いんだけど!
ちょっと待って――腕もコレ、〈身体強化〉で拘束してない!?
ナンデ心配通り越して過保護になっちゃってるの!?
「レインくん、レインくん。幾ら心配やて、そんなに締め付けたら潰れてまうよ。スズノくん、青ぅなっとるし」
「あ――スマン。また我慢させてたかと思ったら、魔力制御が甘くなったんだ。スズノに腹立てた訳じゃ無ぇからな?」
シノンさんの指摘に、バツが悪そうな声で謝ってくれたオッサン。
見上げたら、ぼんやり光る赤い犬耳がシュンとしてた。
「ダイジョブ。ちょっと声がヒンヤリし過ぎてて、寒くなっただけだよ」
「悪かった……」
プルプル震えるおれを抱き込むようにして、オッサンは昨日の結界を張ってくれた。
昨日より暖かく感じるのは、物理的におれの体温が下がってた所為っぽい。
春先とは言え、暗くなったら真冬みたいに冷えるんだって。
今まで、夕方以降は建物の外に出なかったから知らなかったよ。野営の時でも、テントを囲むようにオッサンが結界張ってくれてたし。
やっぱり、レインのオッサンはちゃんとおれを護ってくれてると思うんだけど。
これ以上って、過保護なんじゃないのかなぁ?
「サクラちゃんもそうやけど、精霊に好かれとると力加減が大変やね~」
「他人事みたいに言ってんなよ。お前だって好かれてんだろ?」
「ウチは〈霊獣の庇護者〉やよ。精霊獣や幻獣には懐かれても、精霊が〈張り切って自分からお手伝い〉はしてくれへんわ~」
サクラちゃんに何か指示してたシノンさんが、ひょいとおれを見て軽くウインクした。
様になっててカッコイイ!――じゃなくて。
さっきのオッサンの〈身体強化〉は精霊が増幅した所為ってコトらしい。お気遣い痛み入りマス。
「あ~、そう言やそうか。じゃあ、今集まってるのも?」
「森の周りに結界張るし、サクラちゃんが呼んでくれたんや。レインくん、巻き込まれたらアカンよ?」
「ああ、解ってる。スズノ、少し離れとくぞ」
オッサンが、ちょっとだけ気を張ったカンジがした。
そう言えば――町の中と違って、乗り合い馬車では割とこんなカンジだったかも。
他に人が居るからじゃ無くて、〈精霊さんの自主的お手伝い防止〉の為だった?
もしかして――オッサンは精霊さんに過保護にされ過ぎてて、ソレが基準値とか?
「ほんじゃ、サクラちゃん。宜しくね」
シノンさんの合図で、キュピンと音がしそうに瞳を光らせたサクラちゃんが、空に向かって音も無く魔力の咆哮を轟かせた。
それに応じて、白く輝く魔力が高い壁のようにせり上がって左右に展開して行く。
うおースゲー!
――と思ってる間に壁は見えないほど遠くまで延びて、不意に止まった。
「……そっか、一周出来ひんかったか~。取り敢えずこっちの街道側は全部塞げたし、大丈夫やよ~。頑張ってくれて有り難うなぁ、サクラちゃん」
申し訳なさそうに下げたサクラちゃんの頭を抱えるようにして、シノンさんがメッチャ頬ずりしてる。
「言うてもサクラちゃんは女の子やし、縄張り争いばっかしてたオッサン竜と比べたらアカンよ~。まだ成竜にもなってへんのやで? これからやよ~」
「え。まだ幼竜でこの威力なの? サクラちゃんが成竜になったら、どんなコトになっちゃうの? ドラゴンて、スゴ過ぎる……」
「本当だな。竜の魔力は凄まじいぜ……」
オッサンが、おれを抱えたまま大きく一歩移動した。
ソレを待ってたようにサクラちゃんが〈尻尾ブンブン丸〉になったけど、普通に草地を叩き均しただけだった。
オッサンも緩んでるし、精霊さんは今の結界張りのお手伝いで満足したらしい。
サクラちゃんのご機嫌も直ったらしく、シノンさんがおれたちに親指を上げた。
お待たせしております。
エセ関西弁にならないよう頑張ってますが、ほぼ記憶頼みですのでどうかお許しあれ。
ついでに、〈お目玉バイキング振る舞われる〉=〈ガッツリ叱られる〉の意味です。
「幹部の誰か若しくは複数に、途切れる事無くお目玉食わされるぞ」と言ってます。




