12 美女と魔獣
*言い回しを一部変更しました。内容自体は変わってません。
ナゼかドラゴンが微動だにシマセン。
レインのオッサン越しに、じーっとおれを見下ろしてる気がする。
物問いたげな視線に思えるのはナンデだ?
耳の代わりにツノが付いたカンガルーっぽい形だな――って思ったの、バレた?
それとも、毛が無くて綺麗な鱗でトリケラトプス顔――って思った方?
……どっちも口に出してないよ。バレるハズ無いよ。落ち着け、おれ!
あ――野生動物って確か、目を合わせると敵対行動になるんだっけ?
この世界でも同じかは知らないけど……。
グルグルしてるおれは、オッサンの背中に押し付けたままの顔が上げられマセン。
右手に二人分の荷物担いでて左手だけでおれを庇う形になってるオッサンに、このまま緊急離脱を頼んでいいのかどうかも判りマセン。
なので、下手に動けない状況デス。
「そんなに怯えなくてイイぜ、スズノ。コイツは話が通じるヤツだ」
「ぇ――そぅ、なの?」
頑張ったけど、言い訳不可能なぐらいおれの声は震えてた。
「ああ。会話は難しいが、コッチの言う事はちゃんと理解するぞ?」
でも、オッサンにはとっくにバレてたらしい。顔を見なくても、苦笑してんのが判る声だ。
まぁ、しがみ付いてるもんな。当然っちゃ当然か。
そーっと見返したら、ドラゴンさんの瞳は理知的に輝いてた。
ホントだ、言葉が通じてそう。
でも、ピンク色の瞳ってアリなの?
流石は異世界なのか、赤い鱗の反射なのか……どっちだろ?
「おー、ほんまにレインくんや! 久し振りやね~」
グルグルの連続に溺れ掛かってたトコへ、全然知らない声が降って来た。
ドラゴンさん――では無さそう?
「……シノンか? 確かに、久し振りだな」
少しホッとしたカンジのレインのオッサンの前に、細身の人影がヒラリと着地する。
薄闇にまぎれてよく見えなかったけど、人が乗ってたらしい。
その人が分厚い胴を軽く叩くと、ドラゴンさんは大きな体を丸めるように地面にうずくまって、斜め下にある小さい頭にデッカい頭をスリスリこすり付けた。
……飼い主に懐いてる大型犬みたいに見えるから、急に攻撃されたりはしないかも。
ちょっとしがみ付く手の力が抜けた途端、おれの腕にもポンポンって軽い刺激。
オッサンの手によるコレは、『大丈夫か?』ですかね。
おれは『大丈夫だよ、落ち着いてるよ』って言う代わりに、目の前のオッサンの肩甲骨に頭をグリグリ押し付けた。
ん? オッサンが小さく噴き出した?
あ――おれ、ドラゴンさんと行動が同じ!?
「急に通信入ったから驚いたよ? 〈G王国のお城〉に呼び出されたって聞いてたし」
「ああ……騎士団長に呼び出されて依頼請けて、それでココまで来たんだ。王都付近じゃどうにも連絡し辛いんでな」
「て言うか、通信の届く範囲が前より短うなってない?」
「やっぱりか。オレの魔導具が旧式な所為かとも思ったんだが」
「ウチのは〈マキさん謹製の最新式〉で、消費魔力も今までの半分の筈なんよ。でも、あんまり変わった気ぃもしないし。魔力の流れ、おかしぃ事になってるのかなー?」
「あ~、そうかもなぁ」
オッサンはマナーモードを一瞬で抑えて、普通に答えてた。
流石に声は少し笑ってたけど、相手の人は気にしてないみたい。
うぅ……おれの無意識の黒歴史が増えてしまった……。
ソレはともかく。
イニシャル呼びの言い方が、あの〈台所の悪魔〉とか〈茶の間の面汚し〉とかの二つ名を持つ、〈Gから始まるアレ〉を示す言い方にソックリなんですけど。
ええ。茶色や黒の、〈想像もしちゃいけないヤツラ〉です。特に触角の動きがキモイんだよねー。
今居るこの国をそーゆー言い方するってコトは――この人も〈おれと同じ〉なのか?
いやでも。
ドラゴン乗りこなすような人ってメッチャ戦力だよね?
放り出すか、フツー?
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「あれ……レインくん、尻尾に何か付いてるん?」
「ん? 付いて? ああ――いや、違う。さっきの風で吹っ飛ばないよう、尻尾でつかまえてたんだ」
うおお!?
気が付いたら、オッサンの赤い尻尾がおれのお腹にグルリと巻き付いてたよ!
寝る寸前以外に、フサフサでモフモフがこんな近くに出現してたなんてっ!
あ――もう行っちゃうのっ!?
ちょっとだけ触らせてっ――!
「わー、ウチと気が合いそー!」
名残惜しさ満点でフサフサ尻尾に手が伸びたら、明るく朗らかに笑われた。
イヤなカンジじゃ無く、『仲間発見!』って副音声が聞こえそうな楽しそうな声。
多分、ウチの姉ちゃんよりちょっと年上ぐらい。
優しいお姉さんみたい。動物に懐かれそうなタイプで、澄んだカンジの声質だ。
オッサンにそっと背中押されて前に出たら、想像以上に優しいカンジのお姉さんが笑ってた。
「初めまして。ウチは〈シノン・ファルコナー〉言います。宜しくね?」
黒っぽいけど赤く輝いてる銅メダルみたいな色の長い三つ編みに、金色っぽい茶色の目。
色は異世界風だけど、顔立ちがやっぱり日本人ぽい。
お化粧は全然濃くなくて、純粋に綺麗なお姉さんだと思う。
ちょっと関西系っぽいイントネーションで、先に自己紹介してくれた。
おれは慌てて、ぺこりと頭を下げる。
「は、初めまして! 輪堂――じゃない。〈スズノ・リンドール〉です! ヨロシクお願いします!」
「え――〈リンドウ〉?」
「〈ナッキーの息子〉だ」
「ナッキーのって――じゃあ〈スークン〉!?」
レインのオッサンの補足に、ビックリ顔でおれを見るお姉さん――〈シノンさん〉。
取りあえず。
〈スークン〉て、何?
夢の中で、オッサンも言ってたよね。
唯一理解出来たのは、ウチの父親に関係するらしいってコトだけデス。
つまり、〈ロクなモンじゃねー〉可能性のが大きいワケなんだよなぁ……。
ビックリし過ぎたのか黙っちゃったシノンさんをよく見たら、オッサンと似たデザインの色違いの服着てた。
左胸のマークも一緒。チームのお揃いかな?
――それとも二人でお揃いだったら、どうしよう!?
馬に蹴られる前に姉ちゃんにぶっ飛ばされる!
「あの――おれ、オジャマ虫だったらゴメンなさい! でも、今は許して下さい!」
「は? 何言ってんだ、スズノ? 護衛対象を邪魔に思う訳無ぇだろ?」
「うん、〈何か〉を勘違いしたんは解るんよねー。でも何やろ。勘違いするような事したっけかなー?」
「その……服、お揃いじゃ無いの?」
「コレが?」
「服――あ、このマークの所為? これは〈クランのマーク〉やから、一応メンバー全員でお揃いやね。服自体はパターン少ないし、冒険者の殆どがお揃いになるよ?」
「……ゴメンなさい!」
潔く謝りましたよ、ええ。
メッチャ失礼だったかも知れないし。
本当~にスミマセン!
「あ~、何だか判らんが勘違いしただけだろ? 謝る必要無ぇよ、スズノ」
「大丈夫、大丈夫。日本人なら一度は思うんよ。『みんなお揃いかー』て」
オッサンはよく解ってないみたいだけど、シノンさんはよ~く解ったって顔してる。
手招きされて近付くと、おれの耳元にシノンさんが顔を寄せた。
キリッとしてるのに甘い香りがフワッと漂う。
「ウチにとってレインくんは『十年早いんだよ!』やから、大丈夫よ」
「ふわっ、『AK○RAはココに居た』――!?」
姉ちゃんと父親が昔ハマってた格ゲーで聞いたセリフ言われても!
大丈夫って、何が!?
どーゆー意味なの、シノンさん!?
「さっすが〈ナッキーの息子〉! 昔の映画ネタで返すなんて、面白いわー」
「……何だ、〈映画ネタ〉か。スズノが会っちゃマズい奴でも居るのかと思って、焦り掛けたぜ?」
「ゴメン。ウチでの〈お約束〉だったから出て来ただけで、わざとじゃ無いデス」
「ナッキー、〈サブカル系〉好きやもんねー。観た事無いレインくんも、〈ネタとしてなら〉通じるレベルで憶えてしもたし。そりゃ『ご家族は如何許りか』やわー」
「オレは実際にはよく解らねぇから、言葉遊び的なやり取りって意味だけどな」
肩をすくめるオッサン。
〈映画ネタ〉って言葉が通じる辺り、ご迷惑をお掛けしてます。
ケラケラ笑ってたシノンさんは、オッサンに軽く頭を下げたおれの肩をポンポンと叩いた。
顔を上げたおれに目を合わせて、にっこり微笑む。
「今までナッキーを貸してくれて、有り難うね。おかげでウチ、酷い目に遭わずに済んだんよ。そのまま召喚されてしもて、二人して別の非道い目には遭うたけども。〈リューさんたち〉に保護してもろたし、今はそれなりに楽しい生活になってるんやわ~」
すぐに返事が出来ないおれを、シノンさんは優しい目で見て頭を撫でてくれマシタ。
オッサンを見たらちょっと困ったような顔してたから、オッサンも知ってたんだネ。
おれの今日最大のグルグルは、この爆弾発言によるものデシタヨ……。




