11 森と魔獣とレインとスズノ
*文章を少し整えました。内容に変更はありません。
「スズノ。向こうの森の中、魔獣が居るの判るか?」
レインのオッサンに手を引かれる形で街道を進み、おれは今〈仮称・不気味の森〉に近付いてる真っ最中デス。
「……ぅ、わぁ。一つずつ判別は出来ないけど、魔力がムチャクチャにウゴメいてるカンジする」
霧みたいに何かがモヤモヤ拡がって、獣っぽいのがピリピリしてる。
色的には濃い鼠色にトガった黄色とくすんだ緑が入り混じって、時々赤が点滅。
モノスゴくイヤな気分になりそう。近寄りたくないなぁ……。
〈魔力〉と〈魔法〉を少しずつ教えてもらえるコトになったおれは、まずは安全な距離から〈不気味の森の中〉を〈魔力探知〉してるトコなのです。
身体から薄~く魔力を伸ばして、触れた存在を感じ取るレーダーにする――みたいな?
感覚的な説明しかされてないから、合ってるか判んないけど。
オッサンと手を繋いでるのは、少しでも異常を感じたら即回収される予定だから。
リュックも取り上げられて、全身で魔力を感じ取ってます。
「アレが全部、魔獣?」
「動いたらな。ずっと止まってるのは、木に〈高濃度魔力〉が溜まった〈魔樹〉だろうぜ」
「おー。姉ちゃんの話だと〈敵か味方か判んないヤツ〉だ」
「基本は無害だけど、〈敵認定〉した途端に排除に掛かるからなぁ。宿泊所の魔導人形たちの主材料だぞ。アイツら、その性質引き継いでんだよ」
「そうなの!? じゃあ、少しはダイジョブそうかも」
「そこで安心するのはスズノらしいんだが、魔導人形は〈制作者の意思に従ってる〉んだからな? そこらの魔樹は〈ヒトの指示〉なんて聞かねぇぞ」
「……つまり〈野生動物と一緒〉か。気を付けマス」
『ガン見はしない』が注意事項の森は、全体が〈ストレスの塊〉ってカンジ。
オッサンは全然平気そうだけど、おれはピリピリした空気がこっち側向くだけでビクッてなって、繋いでる手にギュッと力が入っちゃう。
「スズノ。この辺から探知掛けて気付かれたら、恐らく〈A級以上の魔獣〉だぜ。即逃げなきゃヤバいけど、そんなのが居たら森はこんなに静かじゃ無ぇ。だから、もう少し近付くまで大丈夫だぞ」
「ん……ダイジョブ。怖いけど、まだダイジョブ」
「慣れると〈個体の識別〉が出来て、憶えりゃ〈種族ごとの特徴〉も判るようになる。魔力感じ取るだけだから、身体強化で見るよりも気付かれねぇよ」
「う~、む~……どうしても、目の方に意識が行っちゃうかも。絶対見ちゃダメ?」
「〈ガン付け〉とか、〈ガン飛ばし〉って状況になるぞ。イイのか?」
「イヤです、ムリです、絶対見ません!」
視界に入る森の中全部で魔力がひしめき合ってんのに、ガン付けしたとか因縁付けられたらヤバ過ぎる。
こーゆーのを〈芋洗坂〉状態って――ん?
ソレは〈キレキレダンスの係長〉?
あれ?
〈坂〉は要るんだっけ、要らないんだっけ。
混乱して来た。
「本来は、この少し先まで乗り合い馬車の予定だったけどな。これだけ居ると、もしかしたら押し出された魔獣が近くの町に向かうかも知れねぇだろ? その警告と対策の為にも、馬車は次の町へ報告に急ぐモンなんだよ」
「あ~。だから今朝、乗らなかったのか。町なら壁とかあるし、少しは安全?」
「あの簡易宿泊所より安全な場所は、この国に無ぇけどな」
「……馬車のみんな、無事だといいなぁ」
「大丈夫だろ。全員、スズノよりも状況に慣れてるぜ。今頃は馬車の中で保存食カジりながら、お前の事を心配してんじゃねぇか?」
「ソウデシタネ……」
街道のすぐ近くまで、森から薄黒い〈根暗な雰囲気〉が漂って来てた。
からかうように笑ってたオッサンが、その雰囲気を避けるように街道を外れて歩き出す。勿論、おれを森から庇う位置取りで。
子供の頃、付き添いの大人たちが車道側を歩いてくれてたコトを不意に思い出した。
**********
「コレ以上は、今はヤメとこうな」
森から大分離れて、オッサンが立ち止まった。
割と開けてて、野営も出来そうな草地だ。
草刈りしなきゃいけないかもだけど。
「おれ、まだダイジョブだよ?」
「今はな。でも頑張り過ぎて、またショック状態になったら困るだろ?」
「ぅおぅ、ソレは困りマス!」
オッサンの指示通りに魔力を収めて探知を解除すると、笑って頭を撫でられた。
褒められて芸を覚える犬の気持ちがちょこっと解るなー……とか思うのは人間として大丈夫なのか、おれ?
……思ったより、精神的に疲れてたのかも。
ふと空を見上げると、もう薄闇に包まれ始めてた。
不気味に暗い森を背景に凛と立つオッサンは、流石ベテラン冒険者ってカンジで様になってる。
太陽のフレアみたいに赤く煌めく髪と犬耳と尻尾が、ソコだけ清涼な風が吹いてるように揺れてるのをぼんやり見てしまう。
母たちはあの森に入らなきゃいけないんだよなー。
姉ちゃんは〈タイマン〉なら、結構な奥まで行っても負けない気がする。もし囲まれても、母がフォローすればダイジョブそう。
魔獣の強さ的には、そんなカンジ。
レインのオッサンも、単独なら絶対無傷で抜けられると思う。
問題は、おれの存在。
血を見ずに抜けるのが不可能なら、おれが我慢するのが一番手っ取り早い。
だけどさ。
我慢するとかしないとかって、まず意識あるのが前提だろ。
見た瞬間記憶が途切れてるコトもあるのに、我慢とかって出来るのかな?
出来るんなら、やんなきゃ。
でも出来なかったら――。
「スズノ、余計な事考えんな。お前が無理してブッ倒れちまう方が、よっぽど困る」
おれが頭の中でグルグルしてたら、ホントに困ったような声が溜め息付きで降って来てしまいました。
ソウデスヨネ。スミマセン。
「大丈夫だ。さっき連絡がついたから、コッチはもうすぐ何とかなるぜ」
片手で強めにワシャワシャおれの頭を撫でて、オッサンは笑ってくれた。
隻眼だけど、優しい光がおれをホッとさせてくれる。
日本に居る〈ジョニーさん〉を思い出しちゃうよ。
ジョニーさん、元気かなぁ?
大分お年だったけど、よく手入れされた真っ白な毛はいっつもフワッフワのモッフモフで……。
って言うか。
連絡ついた? ドコに? いつの間に?
そんな素振りあった?
つか、何とかなるの!?
更にイロイロとグルグルしちゃってアップアップのおれの耳に、何だか判らない低い音と小さな雷鳴みたいな音が聞こえた。
*********
「スズノ、コッチ来い。しっかりオレにつかまっとけ」
「んん?」
遥か遠くから数瞬で近付いてたハズの低い音と雷鳴が、いきなり消えた。
よく解らないままオッサンの指示に従い、筋肉で分厚い胴に腕を回してギュッと服を掴む。
その途端、〈ナニカ〉がモノスゴい砂煙と草を巻き上げながら舞い降りて来た。
オッサンが盾になるように立っておれをしっかり抱えてくれてるから飛ばされてないけど、一人ならあっという間に吹き飛んでドコかで目ぇ回してた気がする。
「ふ、ぇ……ナニ、コレ?」
重力を無視するようにフンワリと地響きも無く着地したソレは、動物園で見たゾウより遥かにデカく、ゲームでしか見たコト無いような姿形をしていた。
いわゆる――〈ドラゴン〉――ってヤツに見えます。
と言うか。
何度見直しても、ソレ以外には見えないワケですが。
オッサンは全然驚いた風じゃ無いんだよ!
ナンデ!?
「え――ドラゴンて、この世界では割と普通に居るカンジなの? 冒険者でもあんま遭遇しないとか、言って無かった?」
「ああ、人前には滅多に姿見せねぇよ。竜は〈S級魔獣扱い〉だからな」
――ちょっと意味が解らないデスヨ!?
人間の前には出ないけど獣人の前には出て来るとか、そーゆートンチ話ってコト?
どう訊けば知りたいコトにたどり着けるんだ、コレ?
カモン、誰か説明出来る人――!
ブックマーク、有難う御座います。m(_ _)m
今後も頑張って続ける所存です。_(._.)_




