10 見つけにくいモノでした?
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
手ぇ振って馬車見送ってたら、いつの間にかゴーレムさんが集まってた。
大人が見ないフリしてた〈元・魔獣〉の本格的な〈解体〉作業が始まるらしい。
「スズノ。役に立ったご褒美、何がイイ?」
「〈甘い卵焼き〉! ココなら材料あるし!」
おれをロビーに誘導しながら、さり気な~く目隠しになってくれてるレインのオッサン。
いつもながら、紳士。
食材なら多少の血はダイジョブなんだけど、コレはデッカ過ぎるからねー。
お気遣い、誠にありがとうゴザイマス!
「自分で作るか? それとも、オレが作ろうか?」
「自分で――あ。切るのと火加減は、オッサンにお任せの方が出来がいいんだった」
「じゃあ、焼くのはオレでイイか?」
「うん! 甘~くするから、ふわっふわに焼いて!」
「解ったよ」
オッサンは笑ってたけど、キッチンに入ったら二人して固まった。
だって、ゴーレムさんがトコロ狭しと走り回ってる状態なんだよ。
お肉にした〈元・魔獣〉をしまうとかで忙しいんなら、まだ解るんだけどね?
「オッサン……コレは、どーゆー状況なのデショウカ?」
「うん……多分、『特別な存在だ』と認識されたんだな。〈スズノ〉が」
「〈おれ〉が?」
「そう。……確かに、〈ナッキーの息子〉だもんなぁ」
やるせない溜め息ついちゃったのは、許して欲しいデス。
おれの目の前には、キッチンゴーレムさん渾身の作であろう和食がどんどん並べられて行くノデス。
「コレ全部はムリだよ。食べ切れないよ?」
「心配すんな。好きなだけ食べて、後は残せ。多分、オレが食べる分も入ってんだよ」
「ナニそのビミョー過ぎな合理精神!? オッサンに失礼じゃね!?」
「お前に好きなだけ食べさせてやりたいんだろ。オレも同じだから、気にすんな」
ゴーレムさんとオッサンの〈愛〉――でいいのかな?
……愛って言うより、〈過保護〉か?
まぁいいや。
ソコまで言われたら、おれはアリガタ~く食べるだけですよ。
**********
「いただきます!」
久しぶりの〈ホカホカご飯〉に〈キャベツの味噌汁〉、〈大根とキュウリの甘酢漬け〉。
それだけでも美味しいのに〈すき焼き〉、〈ナス味噌炒め〉、〈出汁巻き卵〉、〈鳥の甘辛煮〉に〈野菜の煮浸し〉って!
この国では作れない味の料理ばっかりで、しかも昨日見たメニューにも載ってない。
きっと〈日本人にしか出さない〉んだ。
ソレが〈特別〉ってコトなんだ。
どんな仕組みか解んないけど、ココのゴーレムさんには〈そういう命令がされてる〉と思う。
だってココは、〈日本人にはとても居心地の良い宿〉だから。
「……美味しい」
「いつも思うが、〈異世界の客人〉ってのは美味い物を本当によく知ってるよなぁ」
「日本人は、特にそうかもね。……美味しい物に情熱傾ける人、多いし」
「プロの料理人とかでも無ぇんだろ? スゲェよなぁ……」
そう。料理下手な主婦は〈存在否定〉される時代があったほどに、味にウルサイ国民だと思う。
でも今おれが美味しくてホッとしてるのは、家で出て来るような料理だからだよ。
久しぶりに『日本だ』って言うか――〈友達の家に泊まったカンジ〉って言うか。
レインのオッサンがモノスゴく気を遣ってくれてて、おれは異世界なのに結構快適な生活を送らせてもらってる。
水準的には、日本に居る時と変わんないくらい。
でも、やっぱり心細くなるんだよ。
この〈ホテル?〉がスゴいのは、『他にも日本人が居る』って感覚的に理解させてくれるコトだ。
異世界だけど、『独りじゃない』って教えてくれてる。
オッサンは〈避難所〉って言ったけど。ココを造った人たちが本当に避難させたいのは、多分〈召喚された日本人〉なんだと思う。
「姉ちゃんと母も、この系列の宿に泊まってくれたらいいけどなぁ」
「相当のアホでも無い限り、近くの簡易宿泊所を拠点にするハズだ。それに、お前の家族なら絶対に泊まるぜ。何なら、魔導人形の方が迎えに行くからな?」
オッサンの目はマジだった。
そう言えば、ゴーレムさんは結構な範囲を動き回れるんだよね。
外の〈元・魔獣〉に登頂してるゴーレムさんも居たし。
何だか、『歓迎、勇者様ご一行!』って旗持って玄関前にワクワク並んでるゴーレムさんたち想像しちゃったよ。
『承りました』
「ぅフェっ――承っちゃったの!? 何を!?」
「落ち着け、スズノ! 声を掛けただけだろ!――多分?」
オッサンも自信無いんじゃん!
まぁ、母と姉ちゃんを宿に泊めるコトを承ってくれたんなら、全然構わないんだけどさ。
「あれ――コレって〈お弁当箱〉?」
「ランチボックスか? オレが知ってるのとは違うなぁ」
「うん。〈ご飯とおかず〉じゃ無いと、この箱は使わないかも」
「ああ、そっか。コレじゃパンは入らねぇよな」
「デッカいけど、一人一個?――じゃない。一種類一個で三段重ねか!」
「あ~……この量だと、オレと二人分って意味かねぇ?」
ゴーレムさんが頷いたよ。
それぞれの箱に、〈ピーマンの肉詰め〉と〈野菜オムレツ〉と〈葉物野菜のお浸し〉がミッチリ。
更に、〈五目混ぜご飯〉の大きめお握りが四つ、植物の葉っぱっぽいのに包まれてる。
デザートは〈果物を茶巾寿司みたいに包んだクレープ〉で、飲み物は竹みたいな筒に〈麦茶〉が入ってるらしい。
きっちりお箸とフォークが付いてるから、おれとオッサン用ってコトだ。
ん? コレ全部、〈洗って使える容器〉なの?
洗ってまた使ってもいいし、系列宿で回収頼んでもいいの?
至れり尽くせりで、涙出そう。
「次に簡易宿泊所が在ったら、初めから二人だけで泊まるか」
途中で馬車降りて泊まるタイミング変えたり、歩いて近くの系列宿に向かえばいいって、オッサンは言ってくれた。
「……うん」
最後に出された焼き立ての〈ふわっふわ卵焼き〉はとっても甘くて――少ししょっぱい味がして。
レインのオッサンは一口食べただけで、後は全部おれにくれた。
*********
街道沿いにずっと歩いて、真新しい馬車の轍が無い方の道をお昼過ぎまで進むと、林の向こうに鬱蒼とし過ぎて根暗なカンジの不気味な森が見えて来た。
何だろう。見てるだけで、疲れる気がする。
そこに近付く前に、街道からちょっと離れたトコの手頃な岩に座って、遅いお昼休憩になった。
少し急ぎ足だったオッサンが、おれに合わせたペースに戻ってる気がする。
おれには判らない、何かの理由があるのかもなー。
「う~ん。やっぱり、このお握り二つは多い気がする。オッサン、三つ食べれる?」
「ああ、大丈夫だ。スズノはその分、しっかりおかずを食っとけよ?」
言われなくても、そのつもりだもんね!
五目混ぜご飯のお握りはちょっと薄味だと思ったけど、ピーマンの肉詰めが濃い味だから丁度いいんだね。
オムレツの野菜は人参とジャガ芋と玉ネギとコーン。味はチキンベースにケチャップで、オムライス風。
お握りとも肉詰めとも合うんだよ。
葉物野菜のお浸しはピリ辛のアッサリ系で、完全に箸休めの扱いだ。
クレープも美味しそうだけど、麦茶にはお浸しの方が合うな。少し取っとこ~。
「朝と言い、このお弁当と言い、ゴーレムさんて料理上手だよね~」
「……あの手で、どうやって作ったんだかな?」
うん、そこら辺は謎だけどね。
全部ゴーレムさんがしなくても、電子レンジ的なのとか方法はイロイロあるから。
結局、美味しけりゃいいんだよ?
********
あ~、人心地ついた。
朝の〈緑茶〉も美味しかったけど、麦茶も癒されるなぁ……。
「それにしてもなぁ。スズノは魔法が使えそうだとは思ってたが。この辺まで届く〈魔力探知〉が出来るなんて、流石に思わなかったぞ?」
お弁当片付けたオッサンがしみじみ言った。
そう言えば、あの不気味な森の中の気配を追いかけたんだっけ。
確かに、歩くと結構な距離だったよなー。
「誰かに魔法の使い方、教わったのか?」
「へ~、アレ、魔法だったの? どうやるの?」
正しい使い方が解れば、昨日みたいに我流でテキトーやらずに済むんじゃね?って思ったのに。
オッサンの様子がおかしいよ。
メッチャ驚いてるの、ナンデ?
「はあ!? お前、魔力探知してたんじゃ無ぇのか?」
「判んない。おれ、単に周りにある気配みたいのを感じてただけだよ。集中すると、少し遠いトコのも感じ取れたり、攻撃的な意思がハッキリ判ったりしたから」
「マジか。魔法じゃ無くて〈身体強化〉だったのか。ソレで、あの森の中まで?」
「他のやり方、知らない」
「んなの、ブッ倒れるに決まってんだろ! 無茶も大概にしろよ、スズノ!?」
オッサンに、呆れた顔で怒られた。
理不尽――でも無いな。
メッチャ心配されてるの、解るもん。
「ゴメン。少しでも情報があれば、おれも不安にならないで済むかもって思って……」
もしかして、おれ――余計なコトして、オッサンの足引っ張った!?
「あぁもう、そんな顔すんな! お前に悪気が無ぇのも、魔法や魔力に馴染みが無ぇのも、オレはちゃんと解ってるから。だから、『この世の終わり』みたいな表情するんじゃ無ぇよ!?」
……そんな顔、したつもり無いんだけど。
「ゴメンなさい……」
「悪かった。怒ったんじゃ無ぇから。そんな表情しないでくれよ。参ったなぁ……」
オッサンが、モノスゴく困ってるような声を出した。
でも、おれも困ってる。多分、オッサン以上に。
だって、ココは異世界で。
科学の代わりに〈魔力と魔法〉があって、みんな当たり前みたいに使いこなしてて。
魔獣っていう〈魔力を持つ動物〉が居て、時々村や町を襲って来たりして。
犬や猫みたいな動物は、〈獣人のヒト〉しか居ないっぽくて。
魔獣や悪人と戦う〈冒険者〉って職業があって、警察は無くて〈衛兵隊〉や〈騎士団〉が居て。
通信と移動は大分遅くて、庶民でも〈最低限の身の安全〉は〈自分で守る〉のが当たり前で。
〈医療スキル持ち〉が少ないから医者も少なくて、ほとんど〈薬師〉や〈呪術師〉に頼ってて。
ケガは〈治癒の飲み薬〉で治るけど、重傷や病気にはあんま効かなくて。
〈死がすぐ傍にある〉のが〈当たり前〉――そういう〈世界〉だから。
「オッサン、おれ――この世界、怖くて……」
「そうだよなぁ。お前より強い大人たちでも怖い思いしてるってのに。か弱い未成年で、しかも戦い自体が駄目ったら――そりゃ怖いだけだよなぁ……」
オッサンは、止めようと頑張って余計に震えちゃうおれの身体を、ギュ~って抱き締めてくれた。
「スズノ、もうちょい気楽でイイぞ。怖けりゃ、怖いって泣いてイイんだ」
「……レイン、の、オッサン?」
「恥ずかしいならオレが隠してやる。だから、一人で思い詰めんなよ。お前の事は、身体も心も全部オレに護らせろ。その為の護衛だぞ?」
「ソ、レ……仕事、だ、から?」
「……そうだなぁ。今は――『そういう仕事を請けたから』でイイよ。考え過ぎと気ぃ遣い過ぎより、遥かにマシだぜ」
「そういう仕事、だから――『怖い』って言っても、迷惑じゃ、無い……?」
「ああ。むしろ――我慢して大丈夫なフリされると、オレの手間が増えるな」
「そ、か……。うん、解った」
背中をポンポンと優しく叩かれて、おれの震えはようやく止まった。
茶色い料理率の高さが、家庭の味の醍醐味ですかね。
ここのゴーレムは、砂糖と卵が決め手の料理を出してます。
そういう指示を受けてますので。




