09 探し物は何でした?
レインのオッサンの背中、温か~い。
フサフサ尻尾で、更にヌックヌク~。
おれ、このまま寝ちゃいそう~。
って言うか、もう寝てない?
このぼんやり加減、夢っぽいんだよねー。
「封印の迷宮近くに〈避難所〉か。そんな発想は無かったぜ……」
「そうか。迷宮の場所ならギルド発行の地図見りゃ判るし、街道沿いの宿なら町より許可も出やすいよなぁ」
「絶対採算取れねーッスけど。商会立てるような商売人が、んなコトしますかね?」
お兄さんズは夢の中でも会議続行?
明日も日の出起きなのに、まだ寝ないの?
「いや、大当たりかも知れねぇぞ。他の宿泊所の場所も判るとイイんだが……」
「ギルド経由でエムエー商会に照会してみるか?」
そんなシャレ言う前に、〈支配人さん〉に言えばいいよ?
『困った時は支配人さん!』だよ~。
「シャレはともかく。ロビーの魔導人形に言ったら、何とかなるか?」
だって、〈この宿のコト全部任せられてるヒト〉でしょ?
近くの系列宿なら、きっと場所も行き方も知ってるよ。
満員とか、何かあった時に困るもんね~。
「あ~、そう言えば。宿泊所の魔導人形同士で連絡取ってるって、聞いた事あったな」
「洒落たつもりは無かったんだが……まぁいいか」
「そう言やアイツら、コッチの言葉が解ってるみたいだよなぁ」
「でも、返事は決まってるぽいスよ。やり取り出来るッスか?」
ん~? 『系列の宿の場所が判る地図見せて』って言ってもダメ?
無くても、書いて教えてくれんじゃね?
「つまり、『他の簡易宿泊所の場所が判る地図を見たい』って言えばイイのか?」
「それは――この国全部とは言わんから、街道沿いだけでも判れば助かるな」
「言ってみる!」
「オレも行くッス!」
お~。猫兄さんズ、意外と素早い。
ヒュンって音した。ヒュンって。
マンガみたいー。
「しかし、地図なんてかなり重要な品だろ。おいそれと見せてくれるか?」
「あ~、うん。〈この宿〉は、〈この国の普通が罷り通らねぇ場所〉だから。在れば見せてくれるだろなぁ」
「見せても構わない、と?」
「〈温和しく泊まる〉以外の選択肢が無ぇからな。魔導人形に有害認定されたら外に放り出されるし、その後は結界で弾かれて広場にも入れなくなるんだぞ?」
「ああ、〈対S級魔獣の結界〉か。そりゃあ何も出来んわなぁ……」
ついでに。
ココの商会関連の店全部で、出入り禁止になったりしそう~。
情報共有は基本だって、昔父親が言ってたもんねー。
「そうだな。一度〈有害者の名簿〉に載ったら、エムエー商会が関わる全部の場所で出入り禁止になる。嬉々として管理してるのが居るんだよなぁ」
「……つくづく恐ろしい商会だな。絶対に敵には回したく無いぜ……」
ウチの父親が関わってたら、当然そーなるよねー?
でも、姉ちゃんよりはマシだと思う。
いくら何でも、標準で〈三倍返し〉はしないでしょ?
「スンマセン! 地図はあったけど、ロビーから持ち出し禁止ッス! 暖炉前のテーブルなら大丈夫らしいんで、今兄貴が並べてるッス!」
「一応、無対策では無いのか。解った、すぐ行く」
「スズノ、移動するぞ。担いでもイイか?」
ムリー。
夢でもお腹いっぱいー。
戻る~。
「じゃあ……オレの首に腕回して、しがみ付け。落ちるなよ?」
ふぉ~、おんぶなんて十年ぶり?
夢で良かった。
現実だと、流石に恥ずかしくてムリだもんねー。
あ――テーブルに並んでんの、羊皮紙じゃ無いっぽい。
お~?
アレってパズル――じゃ無いね。〈江戸の切り絵図〉みたい!
……ぉお? 夢の中なのにクラクラして来た。
ナンデ?
「あ――魔力が切れたな。後でベッドに運んでやるから、このまま寝てもイイぞ?」
そっか、ラップが無くなったのか。
夢の中で寝たら、やっぱり目が覚めちゃうのかなぁ?
そう言えば。
おれは目をつぶってるのに、何でテーブルの上が見えてんだろ。
夢だからかな?
あれ、急に真っ暗――……。
「スズノ? あちゃ~、また魔力漏れしちまってるよ。さっきまで安定してたのになぁ? しょうが無ぇ。後で文句言われたら、謝るか……」
**********
目が覚めたら、ベッドでした。
ハッキリ憶えてるのは――羊皮紙の地図見てて、注目浴びちゃったトコまで。
その後で寝落ちしちゃったんだろうけど……。
また岩盤浴してた気がするのはナゼだ?
全体的にぼんやりしてるし、意味不明過ぎる。
……ドコまでが夢だろ。
「起きたのか、スズノ?」
うん……レインのオッサンは通常運転だし、ダイジョブかな。
「……おはよーございます」
「ああ、お早う。調子はどうだ? まだクラクラするか?」
「ん~……大丈夫、もうしてない」
「そっか。支度はゆっくりでもイイけど、馬車を見送りたいなら急げよ?」
「え――今日も馬車じゃ無かった?」
「お前のおかげで、ココが避難所だってハッキリしたんだ。それで馬車のルートが変わって、オレたちの行き先から更に離れた。今日は歩くから、しっかり朝飯食うぞ」
「ふわぁ!?――って。歩くの、一日早まっただけだよね? 落ち着け、おれ。あ、お見送りはしたいです」
「解った。着替えは――コレか?」
「うん、ありがと」
あれ――オッサン、朝風呂入ったの?
髪がちょっとシットリしてるし、何となく柑橘系の香りするし、犬耳と尻尾も心なしかいつもよりフカフカな気がする。
いいなー。おれも大浴場、行きたかったなー。
「――って。おれ昨日、寝間着に着替えたっけ?」
「ああ……ソレは昨夜、魔導人形が大挙して来てなぁ」
「はい?」
「お前を大浴場に連れてって、綺麗に湯浴みさせて返してくれたよ。誰の差し金か判るから、逆らえなくて……スマンな」
「えーと…………はい」
オッサンの遠い目は、訊いちゃいけないコトがあるって意味だ。
ゴーレムさんの足は車輪だから階段上れないし、どうやって行き来したのかは――うん、考えない方がいいよね?
憶えてなくても、大浴場には行けたみたいだからヨシとしよう。そうしよう。
おれは黙ったまま、急いで着替えと洗面を済ませました。
「そろそろ荷物を積み込んでる頃か。玄関前に急ぐぞ、スズノ」
「おー!」
*********
うん、動くとホノカに柑橘が香ったよ。
オッサンとお揃いだけど――犬系は、柑橘系ダイジョブなんだっけ?
猫兄さんズは――普通ならアウトだけど、獣人だから平気かな?
平気だといいなー。
そんなコト考えてたのは、廊下に出てドアにカギ掛けた途端、オッサンの小脇に抱えられたから。
階段はほぼ飛び下りてて諦めの境地だったけど、玄関出る前には降ろしてくれた。
外に出たら、ホントに荷物積み込んでるトコだったよ。
馬も繋いであるし、荷物の後に人が乗り込んだら即出発じゃね?
オッサン、スゲー。
――じゃ無くて!
「えっと……おはようございます! 二日間お世話になりました。お気を付けて!」
みんな馬車の周辺には居るみたいなので、全員に聞こえるといいなーと思いつつ大声で挨拶してみました。
馬小屋の反対側に顔を向けない人が多いのは多分、〈デッカい何か〉が出現してる所為だよねー。
どう見ても〈元・魔獣〉だけど、ゴーレムさんたちが大きなテントっぽいので大事そうに囲んでるから、きっと食材。
夜明けに黒々と浮かぶデッカい姿は恐怖の対象だろうに、宿的には仕入れ……うん、〈現実味が無い〉。
興味津々なのは兎のちびっ子だけで、大人は〈見ないフリ〉だ。脳内処理に困るんだろね。
おじさんが引きつった顔でちびっ子を抱っこしてるけど、ゴーレムさんたちが安全確認してるからダイジョブだよー。
気が付いた二人が手を振ってくれたので、おれも振り返す。
「おう、お早う。で――アレ何してるんだと思う、赤毛の兄さん?」
積み込みを猫兄さんズに丸投げした熊お兄さんが、オッサンの近くに来て言った。
声がメッチャ呆れてるね。
気持ちは解るよ。少しだけ。
「あ~……アレは、肉の補充だ。昨日、大量に消費したからなぁ」
「……そうか。あの人形は、本当に戦力なんだな……」
オッサンはおれを馬小屋側に置いて頭をポンポンしてくれたけど、確実に遠い目だね。
もしかしてアレ狩るの、オッサンも手伝った?
そしたらロビーで支配人さんが敬礼したのも、朝風呂の説明もつくんだけどな。
まぁ、何のお肉でも美味しければいいよ。美味しければ。
「昨夜の焼肉は、本当に旨かったな。二人が居なくなると、飯の時間が寂しくなるぜ。涎垂らして鍋見てくれたの、坊ちゃんだけだもんなあ」
「流石にヨダレは垂らしてないよ!?」
御者のおじさん、いきなり現れて〈トンデモ爆弾〉落とさないで!?
前科あるし、ちゃんと気を付けてるんだからね!
ちょっ――マナーモードで笑うなよ、レインのオッサン!
「まあ、何だ。飯の事だけじゃなくて、色々と助かったよ。おかげで、安全に旅が出来そうだ」
ナイス・フォロー!
熊お兄さん、ありがとう!
「なぁ、もうちょっと乗ってったらどうだよ。あの森の近くなんて、坊主が歩けるのか?」
シマ兄さんは、おれを心配してくれてるの?
でもブチ兄さんが、メッチャイヤそ~な顔してるよ。気付いてる?
「歩けなきゃ、次の宿泊所で森が落ち着くのを待つさ。オレたちは〈辺境伯領〉に行きたいんだ」
「なら仕方無いやね。この馬車の目的地は〈王領北部の街ベイティーリール〉だから、この先はどうしたって辺境伯領からは遠ざかっちまう」
「そうだな。返金手続きも済んでるし、あんまり無理を言うもんじゃ無いぞ」
「そっか……森の近くを通らねぇと着かねぇんじゃ、しょうが無ぇな」
耳と尻尾がスンゴいションボリしちゃったよ、シマ兄さん!
モフモフして慰めたくなっちゃうんだけど!?
「……ウチの兄貴が、面倒掛けたッス」
「あ~、うん。まぁ、人生色々あるだろ。気にしてねぇよ」
ブチ兄さんはオッサンに声を掛けたけど、おれからは距離を取ってる。
ウズウズしてるの見て警戒したっぽい。
猫ってそーゆートコあるよね。スンゲー納得した。
むしろ、シマ兄さんは猫っぽく無いような気がするんだけど。ダイジョブかな?
「もっと詳しい話なら、エムエー商会の店員に『〈適性があれば自力で使える魔導具〉は無いか』って尋く方がイイぞ。何かしら教えてくれんだろ」
何の話だろ?
シマ兄さんの耳と尻尾がピーンと元気になったから、当たりっぽいけど。
「王領にも店は在るが――〈ヴェルブレンド領〉か〈ヴェラクリスト領〉の支店の方が、親身に相談に乗ってくれるだろな。西のと南側の辺境伯領はヤメとけ。王都並みに獣人に厳しいぞ」
「北と東の辺境伯領が良いんだな。解った!」
シマ兄さん、超必死なお返事。
熊お兄さんとブチ兄さんは、生温かい目で見てるけど止めはしないんだね。
兎のおじさんも『獣人に厳しい』って辺りでメッチャ頷いてたよ。
みんな獣人さんだし、何かよっぽどのコトがあったのかな?
え――兎のちびっ子がモコモコになってるよ?
おれに抱っこして欲しいの?
断るなんて滅相もないですとも!
ギューしてモフモフさせてね!
「そろそろ出発するぞ~」
御者さんの声で、商人さんが最初に馬車に乗った。
抱っこしてた兎のちびっ子を、先に乗った兎のおじさんに手渡す。
頭撫でたらニコッて笑って『バイバイ』って手を振ってくれた。
このちびっ子、マジで天使だ! 癒される~!
最後に護衛の三人が、〈おれの頭を撫でてから〉乗り込んだ。
熊お兄さんとシマ兄さんはともかく、ブチ兄さんも!
おれが何かの役に立ったのは、ホントだったらしいよ!
自覚は全然無いんだけどね。おれ、何したんだろ?
「みんな、ご安全に~!」
感動して思いっ切り手を振るおれに、オッサンが苦笑いで頭ポンポンしてくれた。
お待たせしました。
今日の夜、22時に次を投稿します。
元は一つだったんですよ、ええ…。




