08 Oh……リバーサイ
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
ご飯の後、約束通りシマ兄さん――と言うか、冒険者さんたちとお話する為に移動しました。
場所は、もう一つのシングルの部屋。
ココは御者さんがベッドで、猫兄さんズがソファで寝るらしい。
馬車の護衛は御者さんごと護るんだって。レインのオッサンもだけど、護衛の人はホント大変だ。
ちなみに、熊お兄さんがダブルの部屋だった。
手足伸ばして一人でゆったり寝転がれるって、じんわり喜んでた。オッサンより二回りぐらいデカいもんなー。
それと異世界では、自分のベッドがあるのって〈一国一城の主〉みたいな気分らしい。
部屋決めた時の、オッサンの反応にも納得した。
おれは城より、モフモフの方が断然嬉しいけどね。自前は不可能だし。
ソレはさておき。
今はローテーブルを挟んで、ドア側のソファにおれたち二人、窓側に冒険者三人が座ってます。
大人三人は窮屈なんじゃね?と思ったけど、意外と余裕だったのでビックリ。
御者さんは、ゴーレムさんと食堂の後片付け中なので居ません。
おれとのやり取り見てた所為か、みんなも割とゴーレムさんに馴染めたみたい。
今後もこの宿使うだろうし、慣れといた方が絶対にいいよねー。
便利過ぎるから、慣れ過ぎには注意だけどさ。
「で、オレに話って?」
「ああ、昼間の件に関わるんだが……大丈夫か?」
熊お兄さんが何やら複雑そうな顔でおれを見て、レインのオッサンに確認してた。
ん? 昼間の件って、おれが馬車でやらかしたコト?――じゃ無いな。
「スズノ、これからする話は馬車の安全に関わる。他言無用だ。他の同乗者にもだぜ。イイか?」
「うん。そもそも護衛とか戦闘の話でしょ? おれ、多分理解出来ないし」
一番身近な危険は交通事故ぐらいの、平和な日本育ちだもん。正直、魔獣や盗賊に襲われるのが通常運転ってのも受け入れ切れてない。
そこら辺が危機意識ゼロに見えるんだろね。ブチ兄さんの視線が痛い。
でも、フサフサの赤い尻尾が護るように包んでくれてる。
しかも、大きな背中に隠すようにしてて、寄っ掛かってもいいらしい。
レインのオッサンは、おれの事情全部解ってくれてるから安心なんだよなぁ。
壁際の荷物からシマ兄さんが地図を出して、テーブルに広げた。
「オッサン。分厚いけど、コレも紙?」
「羊皮紙だ。見た事あるだろ?」
「触れるほど近くで、ちゃんと見たの初めて」
ちょ――触ってないでしょ。睨まないでよ、ブチ兄さん。
しばらく置物化してよっと。
「コレはこの辺の地図か?」
「そうだ。この広場が現在地で、恐らくこの辺りから森林魔犬が現れた」
「旦那の見立てだと、こっちの森の中にもっと強いのが居るって話だったよな?」
「もしかして――〈魔獣大暴走〉の予兆?」
ブチ兄さんが真っ青な顔で熊お兄さんを見た。
熊お兄さんもシマ兄さんも、険しい表情してる。
魔獣が大暴走だし、大変なコトっぽいな。
レインのオッサンは――地図の森の違うトコ見てた。
何のマークだろ、アレ?
「なぁ、コレ迷宮だろ。名前付いてるか?」
「え? ああ、確か勇者の何だかって付いてたな。オレには〈封印の迷宮〉の方が、馴染み深いが」
「いや、依頼書に書いてあった名前は〈試練の迷宮〉だぜ?」
「そッス。ギルドの昇格試験に使われてるッス。迷宮に着けたらC級、中に入って無事出て来れたらB級ッス。オレと兄貴は外の森林魔犬の群れで死に掛けたッス」
オッサンもココ入ってB級になったのかな?って見上げたら、スッゲー驚いた表情してた。
あ、熊お兄さんもだ。
「何だソレ!? いつからそんな事になってんだ!?」
「オレも知らんぞ! そんな無謀な昇格試験、受かる奴が居るのか!?」
「えっ? 五年前には、もうコレだったよな?」
「ッス。確かに、コレで昇格したって話は聞かないッスけど……」
多分コレ、世代間ギャップってヤツだね。
**********
「何と言うか……原因は解ったが、どうすりゃイイんだコレ。ギルド? それより、師匠の方が先か?」
オッサン、頭抱えてる場合じゃ無いよ。
三人の視線に気付いて!
獣人さんは耳がいいんだよ!
上着をクイクイ引っ張ると、オッサンはやっと気付いてくれた。
視線をテーブルの向かい側に投げる。
「ああ、うん。説明は必要だよな。当事者になっちまったし」
「どういう事だ?」
「え~、端的に言うとアレだ。昼間犬が現れたのは、この迷宮が解放された所為だ」
「「はぁ!?」」
もしかして、レインのオッサンって説明苦手?
尋いたら的確――割と的確に答えてくれるけど。
単純に、ウソつけないだけかな?
取りあえず、置物化は解除だね。
「オッサン。おれは予備知識無いし、順番に尋くから説明して?」
「あ~、そうだな。尋いてくれ」
クチバシ挟もうとする猫兄さんズは、熊お兄さんが口塞いでくれた。ありがとう!
頷いたレインのオッサンに、地図の謎のマークを指差す。
「このダンジョンは、何なの?」
「ソレは〈勇者の試練〉って言って、召喚された勇者が向かう迷宮だ。奥への封印はウチのクランが管理してるが、上層階は誰でも入れる。ずっと封印されたままだから、今の冒険者ギルドには詳細が伝わって無ぇのかもな」
「解放されると、魔獣が増えるの?」
「いや、迷宮の中に――多分、強い魔力が出現したんだと思う。ソレに怯えて、連鎖的に逃げ出したんだろ」
「中の魔獣が、外に出たってコト?」
「封印区域からは出られねぇだろが、流石に外のは管理出来ねぇからなぁ。上層階に棲んでたのが外へ逃げて、ソコに居たのが更に外へ――ってトコだな」
「対処方法は?」
「中の魔力を抑えれば、元の棲み家に戻るんじゃねぇか? ソレにはとにかく、〈クラン・SOMA〉の最高幹部に連絡するのが一番だろな。多分、他のトコも似た状況だぜ」
「え、一つじゃ無いの?」
「全部で七つだ。それぞれ、色の名前で呼ばれて管理されてるぞ」
「色違いで七つ……」
うん……何だろう、このビミョ~な気分。
〈勇者〉の試練ってコトは、姉ちゃんたちも関わるんだよね?
コレ以上、突っつかない方がいい?
「迷宮自体については、オレも詳しく聞かされてねぇんだ。最高幹部の機密扱いだよ」
オッサンを窺うと、頷いてからおれの頭をグリグリ撫でた。
どうやら正しかったようです。
「何だよその話――七つの迷宮が一つのクランの管理下なんて、本当かよ!?」
「初耳ッス! 信じられないッス!」
猫兄さんズ、五月蠅いよ?
レインのオッサンが、おれにウソつくワケ無いの。
黙ってるコトは多いけどね。
「お前ら、知らんのか? A級以上の魔獣が出て来る危険層を〈クラン・中年の星〉の幹部たちが封印したんだ。そこを〈封印の迷宮〉って呼んで、滅多に寄り付かんようにしてたんだぞ」
「「えっ!?」」
おお、猫兄さんズが耳と尻尾の毛を逆立てて温和しくなった。
「成る程、若手には詳細が伝わってないようだ。ギルドにはオレから報告しておこう。そっちのクランには――」
「オレからもするが、ギルドの方からも頼む。最近、連絡がつきにくいんだ」
「ああ、本拠地はこの国に無かったな。それならギルド本部経由が確実か。解った」
頼りになるなぁ、熊お兄さん。
オッサンに近いレベルで知ってるっぽいし。昔は常識だったのかな、この話?
って言うか『中年の星』って言ったよね?
センス?
わざと?
――まんまの意味か!?
レインさんの師匠たちは、〈遅咲きのチート覚醒日本人集団〉ってコト!?
思わずレインさんの服を握って、眼帯凝視しちゃったよ。
姉ちゃんが言ってた〈技術チート〉って、つまりこーゆーコトか。
うぉわぁ~……。
*********
「でも……ダンジョン周辺が落ち着くまで、どうするの? 移動とか、大丈夫なの?」
イロイロな意味でプルプルしちゃってるおれを見て、みんな冷静になったっぽい。
そりゃあね、おれはただの庶民ですから。戦闘能力も皆無ですし。
「移動は充分に気を付けて――まぁ、明日以降は森から離れるルートだしな」
「そうか。近付かなきゃ、森林魔犬も出て来ねーか」
「油断大敵ッスが、他の迷宮がこの近くに無ければイケるかもッス」
「無ぇよ。それぞれ一定以上の距離が空いてる。でなきゃ、魔獣が大暴走してるよ」
メッチャ仕組まれてるっぽい?
誰が? 何の目的で?
おれがグルグルし掛かってたら、オッサンの腕に引き寄せられてギュッと包まれた。
「スズノ、この宿泊所に居る限り大丈夫だ。見張りの必要すら無ぇ。魔導人形居るし、結界も在るし。多分、この国で一番安全な場所だぜ」
「へ? あの人形も数に入るのか?」
「それに、いっても結界だろ?」
「どれぐらいの強度か判らねッスよ?」
熊お兄さんはビックリ顔で、猫兄さんズは揃って不審そうに首を傾げてる。
おれも内心首傾げて、オッサンを見上げた。見張り要らないならツインでも良かったんじゃね?って。
「さっきロビーで結界強度のレベルを確認したら、〈対S級魔獣〉になってたんだよ」
「ソレって――部屋決めた時、最後に支配人さんに言ってた〈全体結界〉ってヤツ?」
オッサンの大きな手が、おれの頭にポンと乗ってグリグリ撫でる。
『正解、良く出来ました』?
「そう、ソレ。まさかソコまで強力なの用意してるとは思って無くて、最高レベルにって言っちまったんだけど。まぁ、しばらくこのままでイイよな?」
ニヤッて笑われても、おれにはその強力さが全然判らないんだよ。
冒険者三人が唖然としたり、むせたり、噴き出したりしてるから、何だかスゴいコトみたいってのは辛うじて解ったけどさ?
「〈S級魔獣〉ってどんなの? おれも知ってるヤツ?」
「知ってるだろ。一番有名なのは〈竜〉だぜ」
「ウソ! マジ!? S級ってドラゴンのコト!? ふおぉ~っ!?」
やっと驚いたおれ見て、冒険者三人が『常識だろ』って顔してる。
まぁ、おれの驚きは『ドラゴンが実在してる!』の方なんだけどね。言えないし。
「落ち着け、スズノ。魔獣のS級は国が連携して対処するレベルだよ。冒険者でも滅多に遭わねぇ。コレは竜が来ても大丈夫な結界だから、安心してイイって話だぜ」
苦笑いで頭をポンポンしてくれてるオッサンは、多分〈おれの驚いた部分〉が正確に解ってるね。
きっと師匠さんたちの中にも同じ反応の人が居たんだろな。
案外、ウチの父親とか? サブカル好きだったし。
「そうか、そんなに頑丈な結界なのか……」
「今の聞いたら、何があっても大丈夫そうな気がして来たぜ……」
「いやまぁそうッスけど……オレたちだけ無事って訳にもねー?」
「多分、ココと同じのが幾つか出来てるだろ。何かあったら、遠慮無く使えばイイと思うぜ」
「近くに〈勇者用のダンジョン〉があるから、ご近所さんの避難所ってコト?」
何気なく言ったら、全員がスゴい勢いでおれを見た。
……オッサンの膝に伏せても、ローテーブルじゃ隠れないね。
余計なコト言ってスミマセン。
また置物化しときマス……。
おれはそっと、オッサンの背中に隠れるようにしがみ付く。
小さくなって丸くなってたら、赤いフサフサ尻尾がまたクルンって包んでオッサンの背中に引き寄せてくれた。
ヌクヌクしてたら、いつの間にかウトウトしてて。
そう言えば満腹だったなーって思い出した頃には、おれは完全にオッサンに寄っ掛かって、起きてダベってる夢を見てた。




