06 森沿いリバーサイ
*変換ミスの修正です。内容自体の変更はありません。
レインのオッサンに迷惑掛けてる気がして、ちょっぴり自己嫌悪のワナにハマり掛けたトコロへ救世主登場。
「今日の夕飯は焼肉だよ~!――だと」
「〈夕の五の鐘〉が鳴る頃に食堂に集合してくれー!――だそッス」
猫兄さんズが通路から出て来て、ロビーに居る全員に向かって宣言してくれた。
今夜は、熊お兄さんのリクエストで焼肉なんだって!
今、御者さんと二人で大量にお肉捌いてるって!
野菜担当の二人はもう下処理が終わったから、使わない道具や他の荷物を部屋に片しに行くらしい。すぐに階段を上がって行った。
ハシャいで跳ねるちびっ子に腕を引っ張られる兎のおじさんが困った顔で笑ってて、商人さんは微笑ましそうに見ながら階段へ向かってる。
ふとレインのオッサンを見ると、兎のおじさんと似た表情でおれを見てた。
「――待って!? おれ、あんなにハシャいでないよ!?」
「似たようなモンだろ? スズノが獣人だったら、きっと耳パタパタして尻尾ブンブン振ってるぞ」
……ぅうぉ~、頑張っても否定出来ないぃ~!
おれの想像でも、獣耳と尻尾生やした途端にそうなってた。
「思った以上におれの感情ダダ漏れっ!?」
アワアワして獣耳と尻尾押さえようとしたけど、想像の産物なので存在シマセン。
色んな意味でメッチャ恥ずかしい~っ!
「元気が出たんなら、それでイイぜ。お前を安心させるのも、護衛の仕事の内だ。気にせずにハシャいでろ」
今度は優しくおれの頭を撫でて柔らかく微笑ったオッサンは、荷物を持って二階へ向かう。
顔の熱が全然冷めないおれも、急いで自分のリュックを肩に掛けて後を追った。
**********
部屋に向かうレインのオッサンの、大きい背中を見ながら考える。
おれが不安だと、余計な仕事が増えてオッサンに迷惑掛けちゃうんだ。
なら、なるべく不安の種を取り除くか、表に出さないか……。
どっちにしろ、おれも周囲の状況をちゃんと理解しなきゃダメだ。
怖いからってオッサンの背中に隠れてたら、今までと全然変わんない。
オッサンの横に一歩ズレて、前を見ようとしたらドアが開いた。
「スズノ、何してんだ? 早く入れ」
「あ――うん」
部屋の中は、〈冒険者の宿〉の〈一人用〉に近かった。
ベッドと机とイスと物入れ用のクローゼットがあって、バスルームはユニットバス。
違うのは窓側のローテーブルと、オッサンでもムリ無く横になれそうなデッカいソファが二つあるぐらい。
ちなみに〈個室〉って言うと、貴族や金持ちが泊まる〈従者の部屋付きスイートルーム〉になるのがこの世界の常識で、異世界の不思議発見。
「お~……割と普通だ」
「オレたちみたいのが使う事を、想定してるんだろうなぁ」
オッサンが苦笑しながら荷物を手前のソファに置く。
つまり、異世界の冒険者仕様ってコトかな?
ソファの先の窓を見たら、赤い夕陽に照らされてるのに鬱蒼と暗い、不気味な森の一部が見えた。
こっちには向いてないけど、攻撃的な意思を幾つも感じる。
思ってた以上にいっぱい居るっぽい。
首筋がザワザワして、足が震える。
不意に視界が揺らいだと思ったら、目の前に真っ黒な壁が迫っていた。
「スズノ、ロビーで寝るか?」
「……ふぇ?」
頭の上から降って来た心配そうな声に、目の前の壁はレインのオッサンだとおれも認識した。光が遮られて、焦げ茶の服が黒く見えてるらしい。
見上げると、メッチャ心配そうに見下ろしてる碧い隻眼。
肩も妙に温かいと思ったら、オッサンの大きな手に掴まれてる。
ナゼに? つか、いつの間に?
「ううん、この部屋でダイジョブだよ?」
「外が見えるから、怖くて意識が飛び掛けたんじゃ無ぇのか?」
あ。おれが傾いたからキャッチしてくれたのか。
「心配させてゴメン。怖いけど、その所為じゃ無いと思う。何か判んないけど、抜け掛かっただけ」
「抜け掛かった?」
「うん。目と言うか、頭と言うか……集中し過ぎた所為かも?」
「集中? 何にだ?」
「外の――森の中の〈怖い何か〉? どのぐらい居るんだろって気になったから」
「森の中だと? ココから――!?」
集中し過ぎて身体中の何かが無くなって、頭のテッペンからス~って抜けてくカンジで……。
あれ、ヤバくね?
今おれ、昇天し掛かってたとか?
窓の外見てたオッサンは、スンゴい大きな溜め息ついてからベルトポーチをゴソゴソし出した。
足がプルプルしてるおれを片腕に寄り掛からせてくれたけど、担ぐ時と一緒でビクともしないんだよなー。ウラヤマシい。
「コレ、飲んどけ。少しは楽になるだろ。……多分」
また試験管だ。
今度は、イチゴ味を連想させる色。
「むぅ……甘いけど、イチゴ味じゃ無かった」
「何だ、子供用の薬の味がイイのか。じゃあ、次はソレで作って貰うか?」
「違うよ、色にダマされた気分なだけっ。次も今のでいいよ」
次があるのかは知らないけど。
って言うか、子供用の薬があるんだ。
そして、イチゴ味なのか。へ~。
*********
試験管の中身が効いたのか、足の震えは止まってた。
でもレインのオッサンに寄っ掛かってると、温かくて離れたくないぐらい気持ちいいんだよなぁ。
今日は何だか疲れたし、このまま寝ちゃいたいかも……。
――いやダメだ。これから焼肉だ!
しっかりしろ、おれ!
「ありがと、オッサン。もう一人で立てるよ」
「……そうか?」
オッサン、若干名残惜しそう?
いや、単に心配してるだけか。いつでもキャッチ出来るよう待機してるよ。
多分、もうダイジョブだって。
「おー、この世界も自転してるんだね。初めて気付いたかもー」
「……こりゃ駄目だな。飯の時間まで、とにかくじっとしてろ」
結局担がれて、ソファに座らされた。
寄り掛かる物が要るっぽい。
だけどオッサンの膝の上ってのは、ちょっと意味が解んなくね?
まぁ。触ってるトコが温かくて、妙に気持ち良くて、思いっ切り寄っ掛かってるワケですケドモ。
今は恥ずかしいって思うより、頭と身体が気持ちいい方を優先シマス。
ん? もしかしておれ、結構ヤバい状況?
〈生死の境〉的な意味で。
「オッサン……この格好、何か意味ある?」
「ヤメた方がイイか?」
「そうじゃ無くて……」
イヤとかじゃ無くて。一応、念の為に確認しようと思っただけ。
身体の中がフワフワしてるカンジで、どっか行きそうなのを留めてもらってる気もする。
レインのオッサンは何か考え込んでるのか、時々小さく唸ってる。
話しづらいコトなら、尋かない方が良かったかな?
「スズノは……鑑定系のスキル、持ってねぇんだよな?」
「ん? うん、〈清々しい目覚め〉だけ」
「さっき、ソレを使ったりしたか?」
「使ってない、と思う。昨日寝る時、今朝の日の出頃にちゃんと目が覚めますようにって、念じただけ。そもそもホントに発動してるのか、おれは判んないんだけど……」
小さく溜め息ついたオッサンは「そうか」って呟いて、お姫様抱っこから、おれがしがみ付ける格好に変えてくれた。
数字の四みたいに足組んで、膝に乗っけられると抜群の安定感。流石です。
オッサンの話によると、おれは〈スキル〉か〈魔法〉を使った所為で魔力が枯渇したらしい。
どっちも使った覚えは無いけど、無意識の魔力放出はしてないとも言い切れない。
なので一応飲まされたのが、イチゴ味っぽい見た目の〈魔力回復薬〉。
案の定効果があったから、〈魔力の使い過ぎ〉は確定デス。
でも無意識の放出が止まらない限り、回復しても追い付かない。
そこでオッサンが膝に乗せて、〈結界の応用〉でおれから漏れる魔力を留めてくれた。
応用だから、接触面が多い方が全体の制御をし易かったんだとさ。
まぁ。現在進行形で制御してもらってる状態なワケですが、何か?
ふお~……さっきより温かい部分がメッチャ増えて、癒されるぅ~。
たとえるなら、姉ちゃんに一度だけ連れてかれた〈岩盤浴〉ってヤツみたい。
熱源と直に接触してるお腹と胸とほっぺたからジワジワ温かくなって、ポカポカ温かいのが全身に染み渡ってく。
……メッチャ眠くなって来た。
けど寝ませんよ。
この後は焼肉!
意地でも起きてますともさ。




