05 ホテルはリバーサイ
*読み難かったので文章を少し整えました。内容自体の変更はありません。
レインのオッサンが、何か――多分、魔獣――をぶっ飛ばしてくれた後は、馬車は止まらず襲撃もされず、無事に今夜の野営地に着きました。
おれはてっきり、昨日と同じように草地の中のちょっとした広場に馬車止めて、それぞれテントや馬車の中で寝ると思ってたんだけど。
今日の広場は日本の公園みたいなカンジに整備されてて、端っこに大きな二階建ての建物があってビックリです。
丸太が整然と組まれてて芸術的で、大きなログハウスっぽいヤツ。
この世界の文字で、壁にオシャレっぽく〈ホテル・リバーサイ〉って書いてあった。
でも隣に馬小屋が付いてるし、丸太の壁だからホテル感はゼロ。
むしろコテージじゃね?
「こんな建物、今まで在りましたっけ?」
「先週だったかなあ。いきなり、何とかって商会が建てたんだよ」
「何でも〈簡易宿泊所〉とか言うらしいぞ」
「ロビーに雑魚寝なら無料で、部屋使うなら有料だったよな」
「あの厩は無料で使っていいんスよね。餌は別だけど」
「ああ〈エムエー商会〉で言われたのはコレか。街道沿いに幾つか造ったのでご利用下さいって。広場に結界を張ってるから、魔獣は入って来れないんだってね」
「しゅごーい。カッコイイおうちー。パパ、早くー!」
商人さんに御者さんが答えて、熊お兄さんと猫兄さんズ、兎さん親子が続いた。
オッサンは……生温い目で、どっか遠くを見てる。
商会名聞いてビクッてしてたし、何か心当たりがあるらしい。
でも何も言わないのは、きっと理由があるんだろなー。
教えてくれるまで、訊かないでおこっと。
それはともかく。
「何で〈ホテル・リバーサイ〉……?」
呟いても、答えてくれる人は居るワケ無いって解ってる。
解ってるんだけどねー。呟いちゃうんだよねー。
最後の『ド』が無いのは、発音的にかな?
それとも別の理由があるとか?
って言うか。
この建物、確実に〈召喚されて追放された日本人〉が関わってるよね!?
コーヒー淹れる時とか捜し物してる時とか、いつも同じ歌手の鼻歌してた伯母さんの持ち歌の一つがスッゴい早さで頭の中過ぎってったからね!?
今までに泊まった宿で〈ホテル〉が付いてるトコは無かったし、お金持ち用のゴージャスな宿でも基本的に〈亭〉が付いてたし。
こんなあからさまに異世界風味で、大丈夫なんだろうか。
もしかしてエムエー商会って、オッサンの師匠さんたちが作った商会なのかな?
召喚されて追放された人たちなら、異世界臭プンプンでも当然だよね。
いくらあの王サマでも、追い出しといて更に搾取はしないだろうし――。
……しないよな?
しないといいな……。
そうだ。
この商会の人に会えたら、父親の詳しい情報もらえたりしないかな?
おれホント、どんな顔して会えばいいのか判んないんだよなぁ……。
「スズノ、中に入るぞ」
荷物と一緒に気も持ち直したらしいレインのオッサンが、おれの背中をポンと叩いた。
他のみんなは、もうログハウスに入って行ってる。御者さんだけは馬小屋に馬を繋いでるけど。
「あ――うん、今行く」
あれ? 馬小屋の横の溝って、細~い川?
あ~、だから〈川沿い〉なのか。
うん、納得した。
**********
中に入ったら、広いロビーの真ん中奥にカウンターがあって、右側には暖炉、左側には二階への階段と奥への通路と、多分トイレ。
通路の壁には、旅館とかで見慣れた矢印と『大浴場はこちら』の文字もあった。
焦げ茶色の丸太に白い字だからか、結構目立つんだよ。冒険者三人も、通路の方を興味津々で覗き込んでる。
この国の宿ってユニットバス的な物が各部屋に付いてて、自前の〈魔導具〉や魔法で水を温めるか、別料金で宿の人にお湯を頼む方式なんだよね。
おれの場合、レインのオッサンが魔導具で出してくれるから苦労知らずだけど。
大浴場だと手間要らずで楽だから、嬉しいよね。
暖炉の方を見たら、芝生色のカーペットが敷いてあって、ソファとローテーブルの応接セットが囲うように配置されてた。
色とか距離とか絶妙に計算されてるカンジで、圧迫感が少ない。
スゲー。ココなら確かに雑魚寝出来そう。
と思ったら、既に兎のちびっ子が寝転んでたよ。コロコロして遊んでるっぽい。
ちゃんと靴は脱いでた。エラいぞー。
兎のおじさんと商人さんは立って何か話してたけど、御者さん待ちだった。
三人揃ってカウンターに向かうと、冒険者さんたちも寄って来る。
カウンターに置かれた板を指して何か言ってると思ったら、手渡された小さい物を持ってそれぞれ荷物の所へ戻った。
「あっちは部屋が決まったらしいな」
「ほぇ?」
「おーい、後は旦那と坊ちゃんだけだよ。料金はこっちで出すんだから、早いとこ部屋を決めておくれー」
御者さんに呼ばれてオッサンと近付くと、カウンターに置いてあった板を渡された。
全体が部屋の配置図になってて、番号札が残ってたら空室みたい。
「取りあえず、空いてる部屋はこっち側だけだよ。ロビーで寝ても構わないけど、宿泊料の返金はしないからね。食事代も込みだからさ」
「ああ、解ってる。部屋も一つでイイ」
部屋は〈シングル〉二つ、〈ダブル〉二つ、〈ツイン〉四つの計八部屋。
ベッド数に関係無く、全部同じ料金。
つまり、部屋の専有料ってコトみたい。
二階の片側一列は、赤地に白い〈満〉の字が表示されてた。
反対側は全室空いてる。森側っぽい。
商人さんはシングルでしょ。兎さんがダブルで、御者さんと冒険者三人がツイン二つかな?
まさか、兎さんがツインは無いよなー。
……無いよな?
だってその場合は誰と誰がダブルに――?
「俺は夕飯の支度に行くけど、構わんかい?」
「ういっ」
「……行ってくれて構わねぇよ。スズノ、飯は部屋が決まった後の話だからな」
「ふぁい……」
ビクッてなったおれにオッサンはちょっと眉をひそめたけど、ちゃんとフォローしてくれた。
くれたけど――腹ぺこキャラにされたのは、フォローなのか?
御者さんは一部屋分の銀貨一枚を置くと、全然気にしてないカンジで冒険者三人の方へ行ったよ。
食材持って、通路の奥のキッチンに向かうんだって。
おれは、目の前の板に思考を固定。
「コレ、決めたらどうするの?」
「アイツに伝えればイイ」
オッサンが親指で示したカウンターの中に、人の姿は無かった。
代わりに、木箱を重ねて金属で組み合わせたような、不思議な物体がポツン。
真ん中は頭と体っぽい。
下の方は見えないけど、横のホースっぽいのは手?
それなら、頭のトコで光ってる二つの点は目?
「アイツって――アレ? ゴーレムか何か?」
ポロッとこぼれた言葉に、オッサンがビックリした顔でおれを見る。
「初見でよく判ったな。アイツは、ココの管理者代わりの〈魔導人形〉だ。この簡易宿泊所の事なら、全部対応してくれるぜ。建物内の事も、厩や広場の事もな」
「おー! つまり、〈ロボ支配人〉か。ヨロシクね、支配人さん!」
魔力で動くロボットだと思ったら、テンション上がっちゃいました。
思わず日本に居る時の感覚で挨拶しちゃったら、『承りました』って合成っぽい音声で返されて、メッチャ驚いた。
「オッサン……ゴーレムって、喋れるの?」
「普通は喋れねぇだろうが、ココのは普通じゃ無ぇだろうなぁ」
苦笑いのオッサンが、おれの頭をポンポンってする。『落ち着け』ですね、はい。
「とにかく選べ。雑魚寝よりベッドがイイだろ?」
「おれはね。けど、オッサンは?」
「オレ?」
オッサンがベッド使うかで、おれは悩んでるの。
ベッドが大丈夫ならツイン、ダメならシングルって。
「何なら、ダブルにして一緒に寝るか?」
オッサンがニヤッと笑っておれを見下ろした。
からかい半分、本気半分かな。
前回の宿では、おれと一緒のベッドでぐっすり眠れたらしいもんね。
でもシングルは窮屈だから、流石に無しってコトか?
「レインのオッサンが安心するなら、おれはソレでいいけど」
オッサン、からかいが不発で困り顔です。
「冗談だよ。子供らしく『ヤダ』って言っとけよ。護衛に気ぃ遣ってんじゃねぇよ」
「だって。おれはホントにヤじゃ無いもん」
更に溜め息ついて、頭ガシガシかいてる。
「スズノ、お前なぁ。オレは獣人だし、オッサンなんだぞ? 王都から大分離れたとは言え、もう少し周りの目を考えろよ」
犬耳も尻尾もヘタっちゃった。
つーかモフモフと一緒なんて、むしろ子供の方が大喜びでしょ。
異世界だと違うのかな?
――って、おれは子供じゃ無いデスヨ!?
モフモフは大好きだけど、レインのオッサンだと安心して眠れるだけ!
他のモフモフの時は途中で起きちゃったからね!?
「だって。オッサンにくっ付いてるのが一番安心で、安全なんだもん」
強制スキンシップの逃亡劇で身に染みてる。
おれは、強い攻撃の意思を感じると立ち竦んじゃうんだ。
でも、レインのオッサンは的確に判断して、追い払ったり逃げたりしてくれる。
すぐ見えるようなトコには居ないけど、この〈ホテル?〉を夜中に襲えるぐらいの場所には攻撃的な意思がいっぱい居る。
何かあったら真っ先に気付いて指示してくれるオッサンは、現状でおれの生命線。
言う通りにしてれば、怖いコトにはならない。オッサンが、そうならないように考えて動いてくれる。
だから、おれも怖くない。
あ――でも、足手まといになったらダメだったっ!
今のはアウト? ギリ、セーフ?
そっと見上げたレインのオッサンは、イロイロ諦めたような顔でおれを見つめてた。
ちょっと……いや、結構な罪悪感。
「……この部屋で頼む」
「待ってソレ、シングル! オッサンは!?」
「お前にそんな表情させてんのに、グースカ寝てられると思うか?」
溜め息ついてそう言われちゃうと、返す言葉が無いんだけど――でも、おれが勝手に不安がってるだけだしっ!
「寝ない訳じゃ無ぇから、心配すんな。それと、〈全体結界〉の強度を最高レベルにしといてくれ」
『承りました』
おれの頭をワシャワシャ撫でたのと反対のオッサンの手には、結局、シングルルームの緑色の鍵が渡された。
コーヒー淹れながら軽くステップ踏んだり、お掃除ロボットを目で追ったりするのも、夏休みのお約束としてスズノ姉弟に認識されてます。
捜し物は一緒に歌って捜すのがデフォ。
従兄弟たちは素早く逃げてる。




