5話
その光はこの世界においては神聖なもので、そして魂そのものの輝きとされていた。死に直面したとき、感情の高ぶりが限界を超えたとき、戦うとき。
『覚悟を……刻め……その…魂に……!!』
魂の輝きが周囲一帯を包み込む。荒々しく獰猛で、全てを破壊せんとする強烈な意思。
(でも……これは七ヶ瀬君……!)
徐々に光は収束し、深の手へとその姿を現した。形は日本刀と酷似、腰元には鞘も収まっている。刀身は想像通りの日本刀で、光を反射し淡い水色に輝いている。
いける。この刀ならこの場を突破することができる!
変哲もない刀を手にしただけだが深はなぜだか、骨の化け物が小さく見えていた。それは魂の密度の違いら大きさの違いだ。魂の具現化ともいえるこの刀は見た目では分からない力を秘めている。
「二人とも伏せてろ!」
化け物が怯んでいるうちに結衣と陽夏の体勢を低くさせる。そして刀を横に振り払った。
ズパッ……!!!と、
「「「GUGUAAAAAA!!!」」」
三体の化け物は一閃されて、死体が散らばるわけでもなく粒子のような光となって消えてしまった。
「やった……」
刀を持つ手がダラリと下がる。全身に倦怠感が襲い、ついには目の前まで真っ暗になっていく。
「あ……」
逃げ……ないと、まだ他にも化け物はいるに違い……ない……
「七ヶ瀬君!」「深!」
しかし、二人に逃げろと言うこともできず、深は全てを出し切ったかのように地面へと倒れ込んでしまうのだった。
ーーー
【魔王城】
そこは黒を基調とした荘厳な造りの広間。奥の玉座で男は声を発した。
「……この魂圧は……あやつの」
「いかがいたしましょう、魔王様」
「ふむ、ついにあの予言が実現するということだ。部隊の待機状態を解除し追跡を開始の命を与えよ。また、お主には一つ特命を与える」
「はっ」
「世界転移の為、魂力をあの装置に収めておけ」
「……承知致しました。ですが、そうなると私は実働部隊としての働きは……」
「構わん。魂力が三分の一になろうが、お主『黒の英雄』に勝てる者など早々現れんわ」
「……はっ」
命を受けた男は黒い鞘に手を当て、独特な一礼をする。
部下が出て行ったのを確認し、壁にかけられていた一つの真っ白な刀に近づいていく。
「くくく……ついにあの時の決着をつけることができるな。今度こそ、お前達を滅ぼしつくしてやるぞ、人間よ」
ーーー
【帝国城】
「ついにこの日が来てしまった、と言うべきか」
「ええ、この世界はもう一度引っくり返るでしょうね」
「だが我々はこの日のために全てを費やしてきたのだ。全勢力を集結させろ!予言の時の到来をもって世界を手中に収めるのだ!」
「「御意!!」
ーーー
……夢を見た。
『ごめんね、深。本当はもっとあなたの成長する姿を見たかった……でも私には時間がないの』
『ーーーーー!』
俺の声は母さんに届くことはない。だってこれは夢だから。遠い昔の、しかし忘れる事のない大切な思い出。
『母さんはいつもあなたの側にいるわ。だってそうでしょ、魂はここにあるのだものーーー』
そう、母さんの魂は俺の、俺たちと共にあるのだ。だから俺は前に進み続ける。母さんの大切にした世界と一緒に。