3話
時が止まった。
これは比喩ではない。実際、深の目の前で全ての動きが止まったのだ。振り下ろされようとしていた鬼剣も、空を飛んでいた鳥も、雲の動きも。そして彼自身の動きさえも。瞬きさえできないなか、彼の意識だけが覚醒していくのを感じていた。
そして世界が白く染まっていく。
(なんだ……これは。一体どうなってーーーー
『こんにちは、七ヶ瀬 深。貴方の運命は今日ここで終わるはずでした』
(これは……頭に直接響いてくるのか)
微動だにできない中、柔らかな声音が頭の中に響いてくる。この何故か安心感のある声に、無意識に深の動揺はおさまっていった。
『時間がありません、手短にお伝えします。本来の運命では貴方はこの場所であの通り魔に切り裂かれ、そして一緒にいた榛名結衣と扇陽夏も殺されることになっていました』
やはりそうか。深は『ナニカ』は自身でなく他の2人にも殺気を放っていることに気が付いていた。
『しかし、その運命は変えられます。2人を守りたければ、今から貴方達を送り込む世界【エンドワールド】、そこで先程の通り魔を見つけ出して倒すのです。さらにエンドワールドにおいて通り魔が転移してくる時間より前に送り込みます。』
つまり、転移先で通り魔がこちらの世界へ移動するのを防げばいいということ。
しかし問題も存在する。
『この世界の時間を止めておくのにも限界があります。エンドワールドとこちらの世界の時間の流れの違いと、私が世界を止めておける時間、それらを考慮しても貴方達がエンドワールドで行動できる時間は3ヶ月。それまでに通り魔を探し出すのです』
そして世界が白に染まり切る。
『さあ、大切な人を守りなさい。七ヶ瀬 深、貴方にならできます。……難しいことではありません、魂にかけて違うならば運命は貴方に力を貸してくれます。では、ご武運を』
ーー3人の姿が世界から消えた。
『私にできる手助けはこれが限界よ、深。後は貴方が帰ってくるのを待っているとするわ』