2話
その『ナニカ』は人間だろうか。目を凝らしてもその素顔は見えない。ただ存在そのものがこの世から拒絶されているのか、その周辺の空気は揺らめき震えている。
「な、なんだこいつ……」
「知り合い?顔が見えないけど、何かの企画かなー?」
目を見開く深に、不思議そうな結衣。『ナニカ』は体を揺らしながら歩いてくる。陽夏は何やらケータイで電話をかけようとしている。
「ちょっと!どっからどう見ても不審者でしょ!警察呼ぶわよこのやろー!」
「七ヶ瀬……やっとたどり着いた……お前もここで……」
(こいつの纏っている空気……まさかあの夢の……!)
「逃げろ2人とも!!!」
「え?」
「ど、どうしたのよ凄い顔に……深っ!」
さくっ
深の背中から黒い剣先が飛び出していた。
「なっ、ぐ……あぁぁぁあっ!!」
『ナニカ』の持つ黒い剣は霧のようになって消滅し、深は地面へと倒れ込む。その突然の出来事に結衣と陽夏は動く事ができない。
「七ヶ瀬君!血が……」
我に帰り深へと駆け寄る結衣。彼を抱え込んだ結衣だが……
「出てない?」
「魂を消滅させるためだ。さあ、貴様らもここで消え去るが良い!」
『ナニカ』は黒い剣を作り出し結衣へと斬りかかる。
「させ……るがぁっ!!」
無理やり体を動かし結衣を庇う。黒い斬撃は深を斜めに切り裂いた。
(ちくしょう……こんなとこで死ぬのか、俺は……)
消えゆく意識の端で彼が見たのは、『ナニカ』の作り出した剣の鮮やかな刀身が、結衣を切り裂こうとする姿だった。
ーピシッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
世界が止まった。