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もう誰にも奪わせない  作者: 白羽鳥(扇つくも)
第三章 港町の新米作家編
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真珠のネックレス

「いやー『妖精王子』シリーズ、今回も好評だなっ!」


 その日、ホイールケーキ屋台前のテーブル席で、私はガッツ先輩とお茶していた。ありがたい事に続編にも書籍化のお声がかかり、順調に行けば今度のお祭りが終わった直後にでも出版できそうだ。


「先輩のおかげです。色々教えてくださった事が参考になりました」

「お役に立てたんなら光栄だね……ただ、ちょくちょく挟まれるホイールケーキの宣伝は唐突だと思うけど」

「アハハ……まあ、社長にもお世話になっていますから」


 ガラン叔父様から新商品の売り上げのため、広報に協力しろと言われた事を思い出して苦笑いする。

 そこへ――


「こんにちは、こちら相席してもよろしいですか?」

「! お前は……」


 頭上から呼びかけられて振り向くと、フーさんがお持ち帰り用の箱を抱えてにっこり微笑んでいた。ここで食べていくつもりはなさそうなのだが、知っている顔を見かけたので声をかけたのだろう。ガッツ先輩は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「いやぁ、ようやく開店時に来られました。初めて食べましたがおいしいですよね。自国の菓子とも似ているので私は餡子が好きですが、貴女たちはどうです?」

「……席なら他にも空いてるだろ。何か用なのか?」

「そう警戒しないでくださいよ。いえね、大人気小説を連載している新聞社の方にはぜひ、ご挨拶をと思いまして。贅沢を言うのなら、作者にお会いしたかったのですが……ね」


 含みのある言い方に、ぎくりとして首を縮こませる。私がアイシャ=ゾーンである事は絶対に秘密だけれど、近頃は小説人気でK=ホイールに面倒なファンが付き始めたのもあり、こちらもバレる訳にはいかなくなってきた。


「あんたもあの小説の読者なのか? どちらかと言えば、女性向けだと思うんだけどな」

「いえいえ、なかなかに興味深い内容でしたよ。あの……『パルシー帝国』でしたっけ? 故郷によく似ているので、読んでいて既視感を何度も覚えました。

特に『ギーマントンネル』のくだりね……自国(うち)にもあのような看板は存在しますが、着眼点と解釈が面白い。確かにああした手段でしか上への不満は許されませんからね。


ただ……もちろん違うところもあります。センタフレア帝国ならば、単に地続きの国への侵攻だけでは終わらせませんよ。一環には含みますがリスクも大きいですし」


 それは、どういう……

 つい引き込まれてしまったのだろう。フーさんを凝視してしまっていたらしい私は、ガッツ先輩の咳払いで我に返る。


「あの、似ていたとしてもフィクションですから。もし貴方に不快な思いをさせてしまったのでしたら」

「ああ、いえそうではありませんよ。参ったな、喋り過ぎましたね……どうか気を悪くしないでください。

用と言うのは、K=ホイール先生にこれを受け取ってもらいたかったのです。一ファンの気持ちですので、よろしければお渡ししておいてもらえませんか」


 そう言ってテーブルに置かれた小箱に、私は目を見張った。


(ジュエリーケース……!)


「こ、困ります。こんな高価な物を……」

「心配しなくても、そこの露店で買った安物ですよ。手に取って要らなければ、捨てても構いませんから」


 反射的に断ろうとして、本人じゃないのならこんな断り方は変かと思い直す。それにしても、いくら安くても自分で買ったプレゼントを捨てていいとはどういう行動原理なのか。

 戸惑う私に、フーさんはニヤッと笑って席を立つ。


「小説にも書いてあったでしょう? 『ギーマントンネル』と同じですよ。

ではK=ホイール先生、執筆頑張って……と、是非お伝えください」

「あ……」


 呆然としている間に、フーさんはあっと言う間に屋台から遠ざかってしまった。相席させろと言いつつも、ジュエリーケースを渡す事だけが目的だったのだろう。私がK=ホイールだと既に知っているみたいだったし。


 箱を開けると、中に入っていたのは真珠のネックレスだった。小ぶりでもデザインは悪くなく、とても捨てるなんてできそうにない。と、横からガッツ先輩が手を伸ばして、ケースをパタンと閉じてしまう。


「先輩?」

「これは預かっておく」

「え、あ、あの」


 いつになく怖い顔にドキリとした。思えばフーさんに対し、常に警戒していた様子だったし、彼に疑念を持っているようだ。彼は大丈夫……なんてのは、甘い考えなのかしら。


(少なくとも、私の正体を他言する気はないようだったけれど)


 いくら自国をモデルにしていると言っても、フィクションで貶されたから目を付けているとは思えない。むしろあれは楽しんですらいたようにも見える。とりあえず今の段階では彼の考えは窺い知れないが。

 私が眉間に皺を寄せているのを見て、先輩の方は逆に安心させるように表情を和らげた。


「ごめん、一応ファンからのプレゼントは編集部を通す決まりなんだ。ああいうのでよければ代わりに俺が買ってやるよ」

「えっ!? そんな、いいですよ。私なんてどうせ似合いませんし……貰ってもテッドが飲み込んじゃうかもしれないから、着けられないですし」


 アクセサリーの露店を指差す先輩に、ぎょっとして手を振る。不意打ちでさらっとこういう事しないで欲しいわ、学生だった頃なら絶対舞い上がってるところだった、危ない危ない。


「別に着けなくていいんだよ。宝石ってのは時々取り出して眺めるだけでも元気になれるもんだ。もちろん、チビの手の届かない場所に仕舞っておく必要はあるけど……たまには自分のご褒美くらい、いいんじゃないのかママさん?」

「ガッツ先輩……」

「それに、出版祝いもまだだったしな」


 する必要のない気遣いではあるけれど、不思議と先輩の言葉には素直に頷きたくなる。まあフーさんも安物だって言ってたし、いい機会だから後輩として甘えておこうか。


 バシャッ!


「きゃっ!?」


 その時、突然眩しい光が視界を焼き、私は咄嗟に顔を覆った。



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