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もう誰にも奪わせない  作者: 白羽鳥(扇つくも)
第一章 不遇の伯爵令嬢編
3/99

譲ってあげたんだから

 数日後、私は訪ねて来た元婚約者のルーカスに呼び出され、テラスに出ていた。


「聞いていると思うが、君との婚約を解消したい。

……サラと結婚するために」


 そう言って、同じく呼び出されていたサラを抱き寄せるルーカス。私はそれを、とても冷めた目で見ていた。


「お姉様、ごめんなさい。でも私はお姉様の婚約者と知っていて、それでもルーカスを愛してしまったの……分かって下さるわよね?」

「ええ、分かっているわサラ」


 申し訳なさそうにこちらを(うかが)い見るサラが、実は欠片ほども申し訳ないと思っていない事も。サラがルーカスを愛した理由が「姉の婚約者だから」以外の何物でもない事も。そしてサラが欲しいと言えば私に拒む事を許されない事も、すべて。


「ルーカスがそれに納得しているのなら、何も言わないわ。どうぞお幸せに」


 それだけ言うと(きびす)を返してその場を立ち去ろうとする私を、ルーカスが腕を掴んで止めた。


「待つんだ、アイシャ。何故僕が君を捨ててサラを選んだか聞かないのか?」


 正直、興味がありません。いつもの事なので。


「理由なら先程聞いたわ。手を離して下さらない?」


 わざと仰々しく言って振り払うと、顔を(しか)められた。


「なるほど…サラが言った通り、君はやはり冷たい人間なのだね。幼い頃から虐められていたとは言っても、姉妹喧嘩のレベルならば他人が口出しすべきではないと思っていたが……嫌がるサラを無理矢理メディア子爵の後妻にしようと画策したのはやり過ぎだったな」


 は? と身に覚えのない事を言われ振り返る。そこには心底軽蔑したと言う表情を浮かべたルーカスがいた。サラが私に虐められたと騒ぐのも、これまたいつもの事なので今更突っ込まないが。


「僕はサラから相談を受けていたんだ。姉が自分に嫉妬して、不幸な結婚を押し付けようとしていると。アイシャ、君に一片の家族愛があるのなら、サラに一言詫びを入れるべきじゃないのかい」

「妹の婚約は、私と貴方の時と同じく、家同士が決めた事よ。抗議ならお父様にしてくれるかしら」


 どうやらサラは、何が何でも私が悪い事にしたいらしい。相談と言いつつルーカスの同情を買うには手っ取り早いんだろうけど、私が妹の婚約相手について口を出すなど不可能だ。


「酷いわお姉様! 私、あんな人と結婚なんて嫌だって言ったのに、悪い人じゃないとか言って婚約に賛同してたじゃない。お姉様が力になってくれないから、仕方なくルーカスに相談したのよ」

「サラ……もういいんだ。君が悲しむ事なんてない。これからは僕がそばにいて守ってあげるから。

アイシャ、見損なったよ。君がそんな人だったなんて…。メディア子爵に嫁ぐのがどう言う事か、その身を持って確かめるといいんだ」


 何だこの茶番…婚約者の妹に手を出した人に見損なったとか言われても。

 サラもアレだけど、ルーカスは幼馴染みだけあってよく知っていたつもりだけど、こんな残念な人だったかしら? 私の記憶ではもっと真面目で大人しかった気がするけれど、そう言う人ほど染まりやすいのかもね。


 名実共に婚約も破棄された事だし、私はさっさとこの場から退散する事にした。


「もう、好きにすればいいわ……それじゃ、私は新しい婚約のための準備があるので失礼するわね」


 婚約者を変更するのなら、届け出や打ち合わせ等々しなくてはならない事が山ほどある。サラもルーカスもその辺あまり深く考えてなさそうだから、単に首を挿げ替えるだけで終わりだと思っているだろうけれど。

 とりあえず二人の顔を見なくて済む事にはホッとしていると、まだ言い足りないのかサラが追いかけてきた。


「待って、お姉様! メディア子爵よ、()()子爵と私の代わりに結婚しても、本当にいいの?」

「いいも何も、お父様が決めた事には逆らえないわ。言ったでしょう、ルーカスとの婚約も親が決めたって」


 サラについてきたルーカスは、私の言葉にショックを受けている。


「そんな…君にとって結婚する相手は、僕でも子爵でも同じだって言うのかい?」

「別に同じだとは思っていないけれど、恋愛結婚自体、貴族では珍しいわよ。その結果とても苦労した例が、すぐ側にいたわけだし……

ところで私たちの婚約はもう終わったのだから、私が誰と結婚しようと貴方に関係なくない?」


 そう指摘すると、何故か物凄く悔しそうな顔をするルーカス。普段穏やかな彼がそんな表情をするとは何だか驚きだが、私がメディア子爵の婚約者になると知っていて婚約者の交換を行ったはずじゃないのか。


「そ、それは痛い目を見ると分かれば君の目も覚めるんじゃないかと……ほ、本当に結婚するつもりなのか!?」

「そうよお姉様。『いつものように』素直に謝ってくれれば私だって…」


 私だって、何だ。私が悪役である事を受け入れて謝罪したところで、婚約破棄はなかった事にならないし、サラがメディア子爵との婚約を受け入れるわけでもないだろう。感情で大事な事をほいほい決めるのもいい加減にしてほしい。


「サラ、私は貴女に『子爵との婚姻も悪くない』と言ったわ。それは決して他人事だからではないのよ。確かに歳も離れているし、あまり良くない噂もあるかもしれない。でもね、それでも……ルーカスを上回る利点だってちゃんとあるのよ」

「どっ、どこよそんなの!?」


 何か言いかけたルーカスを押し退け、サラが喚く。ほら、愛してるはずの相手に、もう興味を失いかけてる。所詮、それだけの事だったのよ。


「貴女が、()()()()()()()()()()()()

「……っ!」

「それじゃ貴方たち、勝手にお幸せになりなさい。

サラ、せっかく譲ってあげたんだから、()()()()ちゃんと大切にしてよね」


 最後に爆弾を落とすと、私は二人が絶句して動けない間に素早く部屋に戻った。



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